映画『罪深き少年たち』 (original) (raw)

映画『罪深き少年たち』を鑑賞しての備忘録
2022年製作の韓国映画
124分。
監督は、チョン・ジヨン(정지영)。
企画は、キム・ジュサン(김주상)。
脚本は、チョン・サンヒョプ(정상협)。
撮影は、キム・ヒョンソク(김형석)。
照明は、キム・ウク(김욱)。
美術は、イ・ミナ(이민아)。
衣装は、イ・ジヨン(유지연)。
編集は、キム・サンボム(김상범)。
音楽は、シン・ミン(신민)。
原題は、"소년들"。

1999年。激しい雷雨の夜、3人の少年たちが食料雑貨店から駆け出す。1人が転ぶ。早く来い! 転んだ1人が落とした品を拾うと慌てて仲間の後を追う。室内では幼い娘が拘束された母親に泣き付いている。離れた蒲団では縛られた老女が息絶えていた。
ニュース映像。ワンジュ警察の特別捜査本部は今月2日に発生したサムレのウリ・スーパーマーケット強盗殺人事件で、地元在住の少年3名を補導し、検察庁に送致したと発表しました。ナレーションに合わせて、スーパーマーケットの外観、警察署の記者会見、拘引されたクォン・チャンホ(김시운)、チョン・スンウ(조현도)、ソ・ビョンウォン(김도엽)が映し出される。
2016年。ファン・ジュンチョル(설경구)がフェリーに乗船中、クンサン港到着直前にパク・ジョンギュ(허성태)から電話が入る。今朝引き継ぎを終えて船に乗った。心残りはあるけどどうしようもない。今日は誰が来ることになってるんだ? 分かった。だいたい2時間で。また後ほど。
ジュンチョルが酒場の個室に顔を出すと、かつて部下だった7名の警官が飲んでいた。ジョンギュは敬礼で出迎える。ようこそ先輩。立ち上がった皆に坐るように言う。階級じゃ警衛の俺が一番低いんだ。何言ってるんですか、永遠に先輩ですよ。そんなこと言うな。上司の面々に取り入ろうとこんなもの持って来たんだぞ。ジョンチョルが高麗人参酒の瓶を取り出す。皆の酔いがまわる。辺鄙な島ばかり廻ってきてあと2年で退官だ。妻は陸地に戻れたことを喜んでくれたよ。どんな手段を使ったのか聞かれた。狂犬ファン・ジュンチョル。退職を控えてようやく運が廻ってきたんですよ。先輩の下で無茶したのが昨日のことのようです。時が経つのは本当に早い。狂犬だった16年前の目つきとは大違いだ。長年潮風に吹かれて可愛い仔犬になったんですね。何を言ってんだ、酔いを醒ませ。パク・ジョンギュ警監であります! 酔っ払ったジョンギュが大声で敬礼する。久しくご無沙汰してたんですから。ジョンギュは泣きながら歌い出し、吐き気を催して部屋を出て行く。あいつは何も変わらないな。今日のジョンギュはかなりご機嫌のようですよ。方々に頭を下げて廻って良い結果が得られたんだから。あいつは誰に頭を下げたんだ? ご存じないんですか? チョンブク地方警察庁次長チェ・ウソン警務官(유준상)ですよ。ジョンギュはあなたが1人で責任を負っているとせめて古巣で引退させてやってくれとチェ次長に訴えたんです。いけない、妻の店に行かなきゃならないんだった。忘れてた。ジョンギュにお先に失礼したと伝えておいてくれ。ジュンチョルが慌ただしく席を立ち、部屋を出て行った。何でチェ次長の話を持ち出すんだ。聞かれたら答えるしかないだろう。
妻のキム・ギョンミ(염혜란)が切り盛りする食堂。ジュンチョルが妻と娘のファン・ヘミ(정예진)とテーブルを囲んでいる。。父さんが苦労してるのを見てきたのに、なんで刑事になりたいの? 大丈夫なの、ヨンジュは犯罪率が高いんじゃない? 仕事には慣れた? ギョンミは料理をテーブルに追加しながら娘に尋ねる。面倒な上司はいるけど。何で面倒なの? 一日中飲んでるから。勤務が終了しても飲むし。父さんと一緒。ファン・ジュンチョルはもう牙を剝いたりなんかしないわ。あんたが小さいときにはチョンジュ中の悪党が父さんの名前を聞いただけで震え上がったもんよ。覚えてないでしょ。知ってるわよ、狂犬ファン・ジュンチョル。ギョンミが席を立つと娘が父親に隠し持っている酒を自分にも注ぐように促す。突然店を開いて、借金は返済したの? 悪いけどお金では助けてあげられないわよ。余分なことは考えないで、職務に精励しろ。少しはお酒を減らせないの? そう言いながらもヘミは父に酒を注いでやる。ギョンミがジュンチョルがコップを取り上げて匂いを嗅ぐ。父さんに飲ませないように言ったでしょ。飲んでも平気よ。厳しすぎ。もう行くわ。泊まっていきなさいよ。ヘミは仕事があるからと慌ただしく出て行くので、折角出したんだからとギョンミはナムルを娘の口に運んで食べさせる。気を付けてね。ギョンミが娘を見送る間にジュンチョルは冷蔵庫から酒を取り出す。初日から遅刻するつもり? 少しにしなさいよ。2000年5月。ファン・ジュンチョルはワンジュ警察署に異動となり、署長(정원중)に着任の挨拶をした。

1999年7月2日。チョルラ北道ワンジュ郡サムレのウリ・スーパーマーケットで強盗殺人事件が発生。チェ・ウソン(유준상)が実質的な指揮を執ったワンジュ警察署の特別捜査本部はわずか5日で地元の少年クォン・チャンホ(김시운)、チョン・スンウ(조현도)、ソ・ビョンウォン(김도엽)を補導、検察庁に送致した。母親(한미자)を殺され自らも娘とともに拘束されたユン・ミスク(진경)の目撃証言もあって、少年たちは少年院に収容された。2000年5月。チェ・ウソンがチョンブク地方警察庁刑事課長に栄転。ワンジュ警察署刑事課の班長にファン・ジュンチョル(설경구)が着任した。手荒な手段を厭わず「狂犬」の異名をとるファン・ジュンチョルは、パク・ジョンギュ(허성태)らを従えて捜査に奔走する。ファン・ジュンチョルにイ・スイル(이정현)からウリ・スーパーマーケット強殺事件の真犯人を知っているとの垂れ込みがあった。友人のチョ・ヒョンス(배유람)が事件を常に悔やんでいるので通報したが、前任のチェ・ウソンは聴く耳を持たなかったという。ファン・ジュンチョルが捜査資料を読み関係者を聴取するうち、犯行の経緯を始め辻褄が合わない点が次々と明らかになる。ファン・ジュンチョルは、チョ・ヒョンスの他、イ・ジェソク(서인국)、ハ・ジュヒョク(박희진)を真犯人だと訴えるが、署長(정원중)は取り合わない。ファン・ジュンチョルが再捜査を諦めないため、オ・ジェヒョン検事(조진웅)が対質尋問を行い、イ・スイルが薬物に手を染めていること、イ・ジェソクとハ・ジュヒョクとが事件の当時漁船に乗っていたことを証明して、再捜査を打ち切らせる。ファン・ジュンチョルは捜査結果を覆そうとしたことから、以降、昇進もなく、島々を転々とする羽目になった。2016年、かつての部下パク・ジョンギュの計らいで、ファン・ジュンチョルは16年ぶりにワンジュ警察署に異動となった。ファン・ジュンチョルは、ウリ・スーパーマーケット強殺事件の被害者ユン・ミスクとシン・ウンヒ弁護士(한수연)からクォン・チャンホ(김동영)、チョン・スンウ(유수빈)、ソ・ビョンウォン(김경호)の再審請求への協力を求められるが、16年前に再捜査を断られたファン・ジュンチョルは、終わったことと相手にしない。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

1999年2月にチョルラ北道ワンジュ郡サムレのスーパーマーケットで起きた強盗殺人事件で有罪判決を受けた人物が、後に再審無罪となった出来事に基づくフィクション。
ファン・ジュンチョルは手荒な捜査手法から狂犬の異名を取るが、情報は足で稼ぐ努力家でもある。ウリ・スーパーマーケット強殺事件の真犯人を知っているとイ・スイルから垂れ込みがあると、真犯人と名指しされたチョ・ヒョンスの聴取に向かうとともに、有罪審判を受けたクォン・チャンホ、チョン・スンウ、ソ・ビョンウォンらの「犯行」の後付けを行っていく。その過程でドライバーでこじ開けられたドアは事件当時壊れていたとか、自白調書を自書したチョン・スンウが文字を書けないことなどが明らかになっていく。少年たちが自白したのは二度と取り調べは受けたくないと震え上がるほど残虐な自白強要が警察官により行われたからだった。
ファン・ジュンチョルはチョ・ヒョンス、イ・ジェソク、ハ・ジュヒョクの真犯人に辿り着くが、オ・ジェヒョン検事はイ・スイルを薬物に手を出していることで脅し、イ・ジェソクとハ・ジュヒョクのアリバイ工作を偽装した。だが何よりの痛手は、被害者ユン・ミスクの目撃証言(実は武道で痛めた指を見ただけ)が覆らなかったことであった(事件の恐怖と実母を見殺しにしてしまった良心の呵責から事件を思い出したくなかったため)。再捜査は失敗に終わり、ファン・ジュンチョルは島々の警察署を転々とする羽目になる。
捜査に情熱を持って取り組んで来た刑事ファン・ジュンチョルは16年間もの長きに亘り閑職に追いやられた。その長さは直接には描かれず、もはや狂犬ではないという家族やかつての部下の評価により示される。それでもファン・ジュンチョルには妻キム・ギョンミの支えがあり、娘ファン・ヘミは父の背中を見て刑事を目指すことで報われている。ファン・ジュンチョルを先輩と呼んで敬愛し続けるパク・ジョンギュも頼もしい。だが、犯人とされた少年たちは、少年院を出た後も強盗殺人犯の前科を抱え、生きている限り後ろ指を指されることになるのだ。

(以下では、結末についても言及する。)

再審請求のため証人になるよう求められた真犯人の1人イ・ジェソク(서인국)は妻ヨンヒ(윤설)とベーカリーを開き、娘と3人(4人目の家族もヨンヒのお腹の中にいる)で幸せな生活を送っていた。彼は強盗殺人事件について公訴時効が完成しているため同事件について処罰を受けることはないが、家族に過去の事実を知られることを恐れて初回期日に裁判所に出頭しなかった。イ・ジェソクは罪を犯しながらそれを免れたのみならず、身代わりとなった無辜の「少年たち」の名誉回復に協力しようとしない。卑怯かもしれないが、自らの体面を守ろうとする気持ちは理解できないものはない。
だが、イ・ジェソクはヨンヒの説得に応じて法廷に姿を現わす。このとき、鮮明になるのが、過去の過ちを決して認めようとしないチェ・ウソンやオ・ジェヒョンらの往生際の悪さである。警察・検察組織の歪みを明らかにすることが作品の狙いであろう。
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