ARDSガイドライン2021(日本)要点 (original) (raw)
ARDSガイドライン2021(日本呼吸療法医学会、日本呼吸器学会、日本集中治療医学会)
jsicm.org/publication/pdf/ARDSGL2021.pdf
<NPPV>
初期の呼吸管理として、非侵襲的補助換気の禁忌や呼吸不全以外の臓器不全がなければ
酸素療法と比較してNPPV・HFNC 条件付き推奨 2B
気管挿管と比較してNPPV・HFNC 条件付き推奨 2B
NPPV・HFNCは ARDS患者の呼吸管理において確立した治療ではない
HFNCとMVを直接比較したRCTはなかったので間接比較
気管挿管の遅れは死亡リスクを増加させる
非侵襲的呼吸補助の禁忌には、気道の保護ができない、嘔吐のリスクが高い、意識障害、非協力的、不安定な循環動態などがある
日本版敗血症診療ガイドラインでは成人敗血症患者の初期の呼吸不全に大してHFNC、NPPVを弱く推奨している(酸素療法との比較)
欧米の敗血症ガイドラインには推奨がない?
欧州の集中治療医学会によるHFNCガイドラインには酸素両方と比較してHFNCを推奨している
欧米の呼吸器学会による急性呼吸不全に対するNPPV診療ガイドラインでは急性呼吸不全患者を対象とするCQがあるが ARDSに対する推奨は困難とされている
<1回換気量>
1回換気量を4〜8mL/kg予測体重に制限することを強く推奨 1B
日本版敗血症診療ガイドラインで肺保護換気戦略を弱く推奨
SSCG2021では全てのARDS患者において6ml/kg以下に制限し、プラトー圧を30cm H2O以下で管理することを強く推奨
<PEEP>
高いPEEPを用いることを条件付きで推奨 2D
サブグループ解析で、重症例(P/F <200)でより有用の可能性あり
一方で対照群で低PEEP・高TVが用いられている研究があり、高TVの害に影響された可能性がある。
<プラトー圧>
プラトー圧制限を行うことを条件付きで推奨 2D
高 TVの害が影響した可能性がある
<PCV vs VCV>
推奨を決定できない(in our practice statement)
PCVにより人工呼吸器日数の短縮、死亡の減少
ただCOPD急性増悪患者を対象としたものが含まれていた
しかしVCVを用いている施設に対してPCVを推奨できるほどではない
<APRV>
APRVは推奨を決定できない(in our practice statement)
VFD延長、死亡減少、圧損傷の減少
しかしこの中には一般的に認知されているAPRVとは言い難いものが含まれていた(低圧相が長い)
典型的APRVに限定しても同様の結果ではあった
筋弛緩薬との併用が困難であることから同時に推奨はできないという議論
特定の機種でしか典型的APRVの実施が困難、習熟したスタッフが必要
Habashiの総説(PMID: 15753733)で推奨されている設定を利用したRCTは1つのみ
採用された研究の多くはP/F 100-150なので、APRVを使用する場合は中等度以上の症例が望ましい
<SIMV vs A/C>
推奨を決定できない(in our practice statement)
唯一のRCTは単施設n=40。一次アウトカムの酸素化は改善した。死亡やVFDは有意差ないが、二次アウトカムとなっていた。A/C群でミダゾラムの使用量が多い傾向があり影響した可能性がある。
人工呼吸器非同調が多く生じた患者群は有意にSIMVが高い頻度で使用されていた(
- PMID: 23513248
観察研究)
ARDS患者に限定しない複数の研究(PMID: 7823995、PMID: 27235318)ではSIMVが他のモードと比較して人工呼吸器離脱に時間がかかった
<PSV vs A/C>
自発呼吸のある患者でPSVとA/Cは推奨を決定できない(in our practice statement)
良質なエビデンスがない
状況に応じて選択
<RM>
日常的に使用しないことを条件付きで推奨 2D
P/F比の改善とレスキュー治療の回避を目的に、十分な教育と訓練が行われ、循環をモニタリングし、心停止など危機的状況に対応できる場合に考慮しても良い。
ARTstudy(PMID: 28973363)では死亡が増加。これが発表される以前のATS/ESICM/SCCM2017ガイドラインではRMを推奨していた。
RMの方法が研究間で大きく異なる
多くが中等度〜重度 ARDSを対象としていた
<人工呼吸器離脱>
プロトコル化された人工呼吸器離脱法を行うことを条件付きで推奨 2D
24時間以上人工呼吸器管理を要する成人患者を対象としたRCT
SBT、段階的なウィーニング、ASVなどのプロトコルがアウトカムを改善した
ARDSを対象としたRCTはない
患者の異質性、介入の異質性がある
3学会合同人工呼吸器離脱プロトコルkokyuki_ridatsu1503b.pdfが参考になる
<HFOV>
中等症以上の ARDS患者にHFOVを実施しないことを条件付きで推奨 2A
OSCAR 2013(PMID: 23339638)
OSCILLATE 2013 (PMID: 23339639)
従来の肺保護換気に比べて生命予後の改善が認められなかった
全てのアウトカムの点推定値で望ましくない方向性が一致していた
ATS・ESICM・SCCM2017でもルーチンの使用をしないことを強く推奨
対象や介入の違いなどから除外したRCTで効果を示唆するものはあり、有効となり得る条件がある可能性はある。
軽症 ARDSを対象とした研究はない 平均気道内圧が高いモードであり推奨されないと思われる
<駆動圧>
駆動圧を指標とした人工呼吸器管理を行うべきかは推奨できない。標準的な肺保護換気を確実におこなった上で、CO2上昇や酸塩基平衡異常に注意しながら可能であれば駆動圧を制限する(in our practice statement)
組入基準を満たすRCTなし
観察研究もバイアスリスクが高かった
いくつかの観察研究で低い駆動圧が死亡割合の低下と関連していることが示唆されている
<SpO2目標>
過度な低SpO2を目標とした管理を行わないことを条件付きで推奨 2D
至適SpO2は不明 過度な低・高SpO2を避ける
人工呼吸器を必要とする成人患者を対象とした研究
必ずしも ARDS患者全般に当てはまらない可能性がある
ARDS患者のみを対象としたBarrot 2020(LOCO2、PMID: 32160661)
では死亡率上昇を認めている
他、代表研究:HYPERS2S 2017、Oxygen-ICU 2016:n=434、単施設オープンラベルRCT、保守的酸素療法でICU死亡率が低かった。患者登録困難のため早期中止された。、ICU-ROX 2020)
いくつかの研究ではCOPD患者など高濃度酸素が害となり得る患者は除外されているので、それらの患者に関してこの推奨に含むべきではない。
今回くみいれられたZhaoらのネットワークメタ解析では至適SpO2に関して、moderate(PaO2 90-150)が予後が良い傾向があった
少なくとも、通常のSpO2管理 90−98%の範囲内で予後に明確な差が生じる可能性は高いとは言えない
2021にNEJMから同様のRCTが発表された(HOT-ICU, n=2910、
- PMID: 33471452)
が、これを含んでも効果の方向性に変化はなかった。
<筋弛緩薬>
中等症もしくは重症の成人ARDS患者において、早期に筋弛緩薬を投与することを条件付きで推奨 2D
投与期間を48時間以内に限定するべき
海外のRCTで主に使用されたシスアトラクリウムは本邦では発売されていないこと、本法で使用されるロクロニウムなどのアミノステロイド系筋弛緩薬」では代謝が遷延したり筋萎縮作用があることに注意が必要
ACURASYS 2010(PMID:20843245,n=340、他施設二重盲検RCT、死亡・VFD改善)、ROSE 2019(PMID: 31112383, 最大規模のn=1006の中等症以上のARDS患者が登録され、筋弛緩薬は転帰を改善しなかった)
いずれもP/F150以下の ARDS患者を対象に筋弛緩薬投与を48時間に限定して使用している。
この2つの結果の相違はコントロール群における鎮静レベルの相違に影響された可能性が考察されている。
これらのRCTでは筋弛緩モニターを使用せず投与量が固定されて筋弛緩薬が持続投与されていることに注意が必要である。
SRで、圧損傷が有意に減少。他は有意差なし。
<経肺圧>
ARDS患者のPEEP設定に経肺圧をルーティンに用いないことを条件付きで推奨 2B
従来のARDSnetの表に沿ったPEEP決定法と比較したRCTが2件
EPVent1 PMID: 19001507、n=61パイロット研究、単施設RCT。酸素化とコンプライアンスを有意に改善した
EPVent2 PMID: 30776290、n=200、多施設RCT。死亡やVFDに有意差なし
SRでは死亡を減少させる方向性が認められたが有意ではなかった。
また食道内圧バルーンキットや特定の人工呼吸器が必要であることが考慮された。
なお食道内圧バルーンキットを使用できる状況下ではその使用を妨げるものではない。
肥満患者など胸腔内圧が高い患者での比較検討が必要である。
<EIT>
ARDS患者のPEEP設定に EITを日常的に使用することができない(in our practice statement)
該当するRCTなし
Zhaoらの前向き観察研究では重症ARDS患者24名に EITによるPEEP決定を行い、圧外傷は生じなかった。
本邦で未発売
<肺エコー>
ARDS患者のPEEP設定に肺エコーを使用するのは一般的ではない(in our practice statement)
前向き観察研究で、肺エコーでPEEP上昇によるリクルートメントの効果が定量可能であったことなどが報告されているが、重大なアウトカムについて比較する研究はない
<腹臥位>
中等症および重症の成人ARDS患者において長時間の腹臥位を行うことを条件付きで推奨 2D
習熟した医療機関で、12時間以上を考慮するべき
死亡を減少、VFDを増加させる可能性がある。気道や皮膚トラブルを増加させる可能性がある。
PROSEVA trial(PMID: 23688302、他施設RCT、n=466、早期から長時間の腹臥位を行うことで死亡率の減少)では腹臥位群・対照群の両群で筋弛緩薬が併用されていたことに注意が必要
SSCG2016では敗血症ARDSでP/F150未満の患者に腹臥位を推奨されている
<ECMO>
重症の成人ARDS患者においてECMOを実施することを条件付きで推奨 2B
ARDS患者へECMOと人工呼吸器管理のみの比較をしたRCTは2つ
CESAR(PMID: 19762075、適応をMurray score <3またはpH <7.2の非代償性高二酸化炭素血症とした。死亡率が有意に減少)
EOLIA(PMID: 29791822、国際的RCT、n=249、適応をP/F 50未満が3時間以上続いた場合、P/F 80未満が6時間以上、または6時間以上持続する動脈血pH7.25未満かつ動脈二酸化炭素分圧60mmHg以上とした。60日死亡率に有意差なし)
MAで優位に死亡率減少。
<早期気管切開>
成人ARDS患者において早期気管切開を行うことを条件付きで推奨 2D
多くの研究では人工呼吸開始後48時間〜10日以内と定義されている
本来気管切開が不要な患者に対する施行してしまう懸念がある
2016ガイドラインでは行わないことを提案していた
2015CochraneデータベースのSRと同様のエビデンスの確実性が非常に低く推奨の方向性の決定に苦慮した
他の疾患にくらべてARDS患者は重症度が高いことに留意が必要
<VAP予防>
ルーチンのVAP予防バンドルを推奨(in our practice statement)
ARDSにおけるRCTはない 観察研究がいくつかVAP発生率の低下を報告している
各国や施設でバンドルの内容が異なる
<トロンボモジュリン>
推奨を決定できない
良質なRCTなし
マウスARDSモデルにおいて生存期間や進行抑制が報告されている
保険適応外である
<NO>
ARDS患者にNOを使用しないことを条件付きで推奨 2D
レスキューセラピーを妨げるものではない
死亡や腎障害が増えた、人工呼吸器装着日数やICU滞在日数には効果ありとなり
アウトカムの方向性一致せず
エビデンスの確実性が低いので、2016の1C→2Dになった
保険適応外である
COVIDー19のARDSにおけるNOのRCTが進行中
<シベレスタット>
ARDS患者にシベレスタットを使用しないことを条件付きで推奨 2D
4つのRCTのうち3つは小規模なものであり大きな1つも2004年のものである
2016と変更なし
<ステロイド>
成人ARDSに高用量ステロイドを使用しないことを条件付きで推奨 2C
低用量ステロイドを強く推奨 1B
ステロイドの用量は研究によって様々
高用量はmPSL 30mg/kg、低用量にはmPSL 1−2mg/kg程度の研究が含まれている。サブグループ解析から、早期にステロイドを開始し、7日以上継続する投与方法の有用性が示唆されている。
ARDSに対する保険適応はないが重症感染症や感染性ショックに適応があるので実質的にはほとんどの患者で使用できると思われる
高要領では害が大きい可能性がある
低容量では死亡、感染、VFD、入院日数などに良い効果がある可能性がある
<鎮静>
成人ARDS患者の補助療法として無鎮静または浅鎮静管理を行うことを条件付きで推奨
2D
深鎮静を必要とする患者を除外して検討された結果だったり、ARDS患者に限った研究はないので注意が必要
中等症以上のARDSでは深鎮静や腹臥位、筋弛緩薬が使用されるので適応できないことがある
<水分制限>
成人ARDS患者の補助療法として水分を制限した体液管理を行うことを条件付きで推奨 2B
水分制限の方法の差異がある。輸液制限や利尿薬の投与、2件のRCTでは制限的な体液管理の方法として腎代替療法を選択している
RCT3件は浅い鎮静、1件は無鎮静