【🌹10分で聴く源氏物語 第2帖 帚木1】葵上の兄君の頭中将殿とすっかり仲良しの源氏の君。雨の夜、男同士集まって好き放題言いまくる 雨夜の品定め☔️オイオイ(^◇^;) by🐈 (original) (raw)

🌷源氏物語 第2帖 箒木1〈ははきぎ〉

光源氏《ひかるげんじ》、

すばらしい名で、

青春を盛り上げてできたような人が思われる。

自然奔放な好色生活が想像される。

しかし実際はそれよりずっと質素《じみ》な心持ちの青年であった。

その上恋愛という一つのことで

後世へ自分が誤って伝えられるようになってはと、

異性との交渉をずいぶん内輪にしていたのであるが、

ここに書く話のような事が伝わっているのは

世間がおしゃべりであるからなのだ。

自重してまじめなふうの源氏は恋愛風流などには遠かった。

好色小説の中の交野《かたの》の少将などには

笑われていたであろうと思われる。

中将時代には

おもに宮中の宿直所《とのいどころ》に暮らして、

時たまにしか舅《しゅうと》の左大臣家へ行かないので、

別に恋人を持っているかのような疑いを受けていたが、

この人は世間にざらにあるような好色男の生活はきらいであった。

まれには風変わりな恋をして、

たやすい相手でない人に心を打ち込んだりする欠点はあった。

梅雨《つゆ》のころ、

帝《みかど》の御謹慎日が幾日かあって、

近臣は家へも帰らずに皆|宿直《とのい》する、

こんな日が続いて、

例のとおりに源氏の御所住まいが長くなった。

大臣家ではこうして途絶えの多い婿君を

恨めしくは思っていたが、

やはり衣服その他|贅沢《ぜいたく》を尽くした新調品を

御所の桐壺《きりつぼ》へ運ぶのに倦《う》むことを知らなんだ。

左大臣の子息たちは宮中の御用をするよりも、

源氏の宿直所への勤めのほうが大事なふうだった。

そのうちでも宮様腹の中将は最も源氏と親しくなっていて、

遊戯をするにも何をするにも他の者の及ばない親交ぶりを見せた。

大事がる舅の右大臣家へ行くことはこの人もきらいで、

恋の遊びのほうが好きだった。

結婚した男はだれも妻の家で生活するが、

この人はまだ親の家のほうに

りっぱに飾った居間や書斎を持っていて、

源氏が行く時には必ずついて行って、

夜も、昼も、学問をするのも、遊ぶのもいっしょにしていた。

謙遜もせず、敬意を表することも忘れるほどぴったりと仲よしになっていた。

五月雨《さみだれ》がその日も朝から降っていた夕方、

殿上役人の詰め所もあまり人影がなく、

源氏の桐壺も平生より静かな気のする時に、

灯《ひ》を近くともしていろいろな書物を見ていると、

その本を取り出した置き棚《だな》にあった、

それぞれ違った色の紙に書かれた手紙の殻《から》の内容を

頭中将《とうのちゅうじょう》は見たがった。

「無難なのを少しは見せてもいい。見苦しいのがありますから」

と源氏は言っていた。

「見苦しくないかと気になさるのを見せていただきたいのですよ。

平凡な女の手紙なら、

私には私相当に書いてよこされるのがありますからいいんです。

特色のある手紙ですね、

怨みを言っているとか、

ある夕方に来てほしそうに書いて来る手紙、

そんなのを拝見できたらおもしろいだろうと思うのです」

と恨まれて、

初めからほんとうに秘密な大事の手紙などは、

だれが盗んで行くか知れない棚などに置くわけもない、

これはそれほどの物でないのであるから、

源氏は見てもよいと許した。

中将は少しずつ読んで見て言う。

「いろんなのがありますね」

自身の想像だけで、

だれとか彼とか筆者を当てようとするのであった。

上手《じょうず》に言い当てるのもある、

全然見当違いのことを、

それであろうと深く追究したりするのもある。

そんな時に源氏はおかしく思いながら

あまり相手にならぬようにして、

そして上手に皆を中将から取り返してしまった。

源氏物語 13 第2帖 箒木2】

「あなたこそ女の手紙はたくさん持っているでしょう。

少し見せてほしいものだ。

そのあとなら棚のを全部見せてもいい」

「あなたの御覧になる価値のある物はないでしょうよ」

こんな事から頭中将は女についての感想を言い出した。

「これならば完全だ、

欠点がないという女は少ないものであると

私は今やっと気がつきました。

ただ上っつらな感情で達者な手紙を書いたり、

こちらの言うことに理解を持っているような利巧《りこう》らしい人は

ずいぶんあるでしょうが、

しかもそこを長所として取ろうとすれば、

きっと合格点にはいるという者はなかなかありません。

自分が少し知っていることで得意になって、

ほかの人を軽蔑《けいべつ》することのできる

厭味《いやみ》な女が多いんですよ。

親がついていて、大事にして、

深窓に育っているうちは、

その人の片端だけを知って男は自分の想像で十分補って

恋をすることになるというようなこともあるのですね。

顔がきれいで、

娘らしくおおようで、

そしてほかに用がないのですから、

そんな娘には一つくらいの芸の上達が望めないこともありませんからね。

それができると、

仲に立った人間がいいことだけを話して、

欠点は隠して言わないものですから、

そんな時にそれはうそだなどと、

こちらも空で断定することは不可能でしょう、

真実だろうと思って結婚したあとで、

だんだんあらが出てこないわけはありません」

中将がこう言って歎息《たんそく》した時に、

そんなありきたりの結婚失敗者ではない源氏も、

何か心にうなずかれることがあるか微笑をしていた。

「あなたが今言った、

一つくらいの芸ができるというほどのとりえね、

それもできない人があるだろうか」

「そんな所へは初めからだれもだまされて行きませんよ、

何もとりえのないのと、

すべて完全であるのとは同じほどに少ないものでしょう。

上流に生まれた人は大事にされて、

欠点も目だたないで済みますから、

その階級は別ですよ。

中の階級の女によってはじめてわれわれはあざやかな、

個性を見せてもらうことができるのだと思います。

またそれから一段下の階級にはどんな女がいるのだか、

まあ私にはあまり興味が持てない」

こう言って、通《つう》を振りまく中将に、

源氏はもう少しその観察を語らせたく思った。

「その階級の別はどんなふうにつけるのですか。

上、中、下を何で決めるのですか。

よい家柄でもその娘の父は不遇で、

みじめな役人で貧しいのと、

並み並みの身分から高官に成り上がっていて、

それが得意で贅沢《ぜいたく》な生活をして、

初めからの貴族に負けないふうでいる家の娘と、

そんなのはどちらへ属させたらいいのだろう」

こんな質問をしている所へ、

左馬頭《さまのかみ》と藤式部丞《とうしきぶのじょう》とが、

源氏の謹慎日を共にしようとして出て来た。

風流男という名が通っているような人であったから、

中将は喜んで左馬頭を問題の中へ引き入れた。

不謹慎な言葉もそれから多く出た。

「いくら出世しても、

もとの家柄が家柄だから世間の思わくだってやはり違う。

またもとはいい家《うち》でも逆境に落ちて、

何の昔の面影もないことになってみれば、

貴族的な品のいいやり方で押し通せるものではなし、

見苦しいことも人から見られるわけだから、

それはどちらも中の品ですよ。

受領《ずりょう》といって

地方の政治にばかり関係している連中の中にも

またいろいろ階級がありましてね、

いわゆる中の品として恥ずかしくないのがありますよ。

また高官の部類へやっとはいれたくらいの家よりも、

参議にならない四位の役人で、

世間からも認められていて、

もとの家柄もよく、

富んでのんきな生活のできている所などはかえって朗らかなものですよ。

不足のない暮らしができるのですから、

倹約もせず、

そんな空気の家に育った娘に

軽蔑《けいべつ》のできないものがたくさんあるでしょう。

宮仕えをして思いがけない幸福のもとを作ったりする例も多いのですよ」

左馬頭がこう言う。

「それではまあ何でも金持ちでなければならないんだね」

と源氏は笑っていた。

少納言のホームページ 源氏物語&古典 少納言の部屋🪷も ぜひご覧ください🌟https://syounagon.jimdosite.com

【ふるさと納税】袋帯(立涌花菱文)1本