サラブレッド1歳と2歳せりにおける大腿骨内側顆のボーンシスト:所見率、進行及びパフォーマンスとの関連(Peatら2024年) (original) (raw)

競走馬のせりではレポジトリ検査として喉頭内視鏡検査とX線検査の結果が公開されています。様々なX線所見が得られ、それが将来的な競走成績にどう影響するのかは関心の高い領域ですが、まだわかっていないことも多いのが現状です。

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軽種馬におけるレポジトリーのためのX線検査ガイド

今回紹介する文献はアメリカの大規模せりで提出された多数のレポジトリ所見を解析し、そのうち大腿骨内側顆のボーンシストが1歳から2歳の間で変化するのか、所見率は違うのか、競走成績にどう影響するのかを明らかにすることを目的に行われました。

北米の大規模なせりである、キーンランドセプテンバー1歳せりと、その同世代のファシグティプトンガルフストリームとメリーランド、OBSマーチ、スプリング、ジューンの5つの2歳せりを対象に2016−2017年にかけて調査が行われました。

膝関節のX線検査は3方向で撮影されており、側方、頭尾側撮り下ろし(10−20度)、尾外-頭内30度斜位像であり、日本のせりでお馴染みの屈曲位はありませんでした。

グレード分類は1−3で行われており、これも日本で普及している分類とは異なります。ここではグレード2が小さなドーム型、グレード3が釣鐘型で関節面と連続するという分類でした。

1歳せりと2歳せりのどちらにも上場された馬は少なかったものの、2歳せりはトレーニングセールであり調教展示を伴うものがほとんどですので、ここで症状を示した馬はほとんどいなかったと推測されます。

1歳せりでグレード3のボーンシストと診断された馬の、最終的な出走率は76.9%(20頭/26頭)でした。出走しなかった馬の原因や、出走した馬が跛行を発症したか、どのような治療を受けたかは明らかになっていません。跛行せずに競走馬としてのキャリアを全うした可能性も高いと思われます。

日本のせりにおける調査でも同様なことが言えますが、全てのサラブレッド1歳馬がせりに上場されるわけではなく、せりに上場する時点で選別された馬の集団であることが解析の限界となってしまいます。したがって、全体的なボーンシストの所見率や、そのうちどの程度の割合が跛行を発症しパフォーマンスに影響するのか、競走成績と関連するのかはなかなか明らかにはなりません。

しかしながら発症した馬に対する治療方法も改善されてきた近年では、以前に比べると成績も良化してきています。

equine-reports.work

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

背景

若齢サラブレッド馬の大腿骨内側顆(MFC)遠位面にある軟骨下透亮(SCL)は、せり前のX線写真で論争の的となっている。進行のリスクや将来の競走成績への影響に関する科学的根拠は限られている。

目的

(1)1歳および2歳のサラブレッドせりのレポジトリ検査におけるMFCのSCL有所見率を明らかにすること

(2)MFCのSCLのグレードと将来の競走成績との関連性を明らかにすること

(3)1歳と2歳せり時のMFCのSCLのグレードの変化をモニターすること

研究デザイン

前向きコホート研究。

方法

2016年の1歳せりと2017年の2歳せり5件から、コンサイナーの許可を得てX線写真を得た。MFCのSCLを0~3でグレード分類した。軸側に形成されたMFC透過像は区別して記録した。その馬の最も悪いMFCのグレードは、馬の4歳競走年度末までの競走成績との関連について分析され、性別で調整された。解析はロジスティック回帰、負の二項回帰、線形回帰を適宜用い、有意性の閾値はα=0.05とした。

成績

1歳馬2508頭(5016の膝関節)、2歳馬436頭(872の膝関節)のX線写真を組み入れた。グレード1~3のMFC SCLは1歳馬242頭(9.65%)、2歳馬49頭(11.2%)に認められた。グレード1~3の両側性MFC SCLは1歳馬54頭(2.2%)および2歳馬12頭(2.8%)に認められた。1歳せりで見られたグレード1のMFC SCLは、2歳せりまでに変化なし(14/31例)、グレード2に進行(6/31例)、または消失(11/31例)した。1歳せり時のグレード2のMFC SCLは変化なし(6/10)、グレード3に進行(2/10)、またはグレード1に改善(2/10)。グレード3のMFC SCLを持つ1歳馬がレースに出走する確率は78%(95%信頼区間[CI]58.2-89.6%)であったのに対し、グレード0の1歳馬がレースに出走する確率は84%(95%信頼区間82.7-85.8%)であった。MFC軸側の透過像を有する1歳馬7頭のうち6頭がレースに出走した。

主な限界

この研究は、米国サラブレッドの一般的な1歳馬集団における重度の病変の有病率を過小評価する可能性がある。しかし、使用した簡便標本はせり時の対象集団を代表するものである。研究デザインから、せりに上場されなかった馬については言及できない。

結論

グレード1のMFC SCLは1歳馬および2歳馬のせり馬に最もよく見られるタイプである。1 歳馬のグレード 1 MFC SCL の大部分は、2歳せりまでに消失するか、あるい変化なかった。また、グレード 2 および 3 の MFC SCL は、セールの間に 1 グレード改善することもあった。グレード 3 の MFC SCL を有する 1 歳馬の競走馬は少なかったが、所見のない同世代の競走馬と比較してパフォーマンスが悪いという証拠はなかった。軸側のMFC透過像は競走成績に影響を与えなかった。