父の句・秋(6) (original) (raw)

水いよよ済みし鵜の瀬は護摩を焚く*
水澄むも隠岐いま松食虫の枯れ*
水澄める水路(キャナル)へ逆立つ騎士の像*
硫黄華(はな)咲きては水の澄みにけり*
水澄むや漢字ばかりの治水の碑*
定期便休止の渡し水澄めり*
水澄んで鵜の瀬静かに渦を巻く

「水澄む」も秋の季語です。「鵜の瀬」は「水温む」でも触れた「お水取り」のための「お水送り」をする場所。

迷路めくホテルの廊下夜の長し*
楸邨も公司も卓に夜の長き*
病室の消灯は九時夜の長き*
出張の寄り道の子と夜長の灯*
電話機に繋がれてゐる妻夜長*
晩学のパソコン叩く夜長かな*
みちのくへB寝台の夜長かな*
読経終へ善根宿の夜長かな*
病床の夜長溲瓶に頼るなり*
同じ字を二度引く辞書や夜の長
夜長てふに子ら何してるまた留守電
投句日の迫り夜長を縮めをり
妻よりも眼だけは若し夜長の灯
反常識講座の虜夜長の灯
老の夜長宇治十帖に進みけり*

秋の夜が長いことを夜長(よなが)といいます。
二番目の句の楸邨は、前にも触れた俳人加藤楸邨公司は、かたばみ俳句会主宰の森田公司
最後の句の宇治十帖は、源氏物語の最後の十帖のこと。

夜業終ふ矍鑠といふ地酒あり*
相寄りて準備の夜なべ芸能祭*
芸能祭衣装つくりの夜なべかな*
灯火親し辞書に挟みし虫眼鏡*
灯下親し楸邨の句を書き写す*
灯火親し明日は早起会なれど

夜業(やぎょう)、夜なべ、いずれも夜間に仕事をすること。秋の夜長の関連ですが、「灯火親し」になると読書などのイメージが強くなります。ここでも、「楸邨の句」という言葉が登場します。

秋霖や折れて曲がりて城下町
台風に澄んではをれず渓の水
台風来月見どころでなくなりし
台風の近づく枝葉句座の窓
参道の倒木くぐる野分あと*
野分近し田の面を走る雲の影
野分して屋根藁立ちし武家屋敷

最初の句の秋霖(しゅうりん)は秋の初めの頃の長雨。
野分(のわき)は台風の古称。
念のため、三番目の句は「台風来(たいふうき)」で切れます(台風来月ではない)。