元経済ヤクザも驚愕「ゴーン事件、カネの流れから見えて来るもの」 (original) (raw)

元経済ヤクザも驚愕「ゴーン事件、カネの流れから見えて来るもの」

私が違和感を抱いたのはここだった

私には、その「異常性」が理解できる

昨年末、東京地検特捜部は特別背任罪の容疑で日産前会長、カルロス・ゴーン氏(64)を再逮捕したが、その容疑内容は私を驚かせた。一部の論調が「ゴーン氏擁護」に傾くのは、この犯罪が正確に理解できないためではないか、と私は考えている。

国際金融の世界に住む元経済ヤクザの私は、この事件の本質は「特別背任罪」という経済事件ではなく、もしや「マネーロンダリング」という金融犯罪にあり、特捜部はその線を狙っているのではないか、と考えている。

これが巨大企業の名前と資金をフルに利用し、中東の「大物フィクサー」が差し入れた「信用状」を介した錬金術だとすれば、私自身経験したことのないスケールの大きな話だ。

時系列を追えば見えてくること

昨年11月に東京地検特捜部により逮捕されたゴーン氏。刑事事件における逮捕の有効期限は72時間で、最初の拘留期限は10日間。認められればさらに10日間拘留が延長され、起訴できなければ釈放となる。逮捕からの流れを時系列に従って整理すると、年をまたいだ特捜部とゴーン氏側の「72時間+10日間+10日間」を巡る攻防が見えてくるだろう。(11月、12月については2018年)

11月19日 特捜部が、10~14年まで役員報酬を有価証券報告書に虚偽記載したことによる金融証券取引法違反容疑で、ゴーン氏を逮捕
11月21日 東京地裁が11月30日までの勾留を決定(最初の逮捕から72時間以内)
11月30日 特捜部が申請した拘留延長を東京地裁が認め、12月10日まで勾留延長決定
12月10日 特捜部が金証法違反容疑で起訴(20日以内の起訴成功)。さらに特捜部は15~17年の役員報酬虚偽記載による金証法違反容疑で再逮捕(72時間と20日の拘留を狙う)
12月11日 東京地裁は12月20日まで再逮捕容疑での勾留を決定
12月20日 特捜部が申請した拘留延長を東京地裁が却下(10日間の拘留に失敗)
12月21日 特捜部が特別背任罪の容疑で再逮捕
12月23日 東京地裁は1月1日まで拘留を決定(再逮捕から72時間以内)
12月31日 特捜部が申請した拘留延長を認め、1月11日まで拘留延長決定(10日間の拘留延長に成功)
1月8日 ゴーン氏が東京地裁に出廷し、勾留理由の開示を請求。弁護士は東京地裁に拘留取り消しを請求
1月9日 弁護士の拘留取り消し請求を東京地裁が却下
1月11日 ゴーン氏が特別背任容疑で追起訴
1月15日 ゴーン氏側の保釈申請を東京地裁が却下 1月22日 ゴーン氏側の保釈申請を東京地裁が2回目の却下

一連の流れの中で私が注目しているのは、12月21日の再逮捕と、1月15日の保釈申請却下だ。もっとも金証法違反から特別背任への展開は、12月13日公開の『元経済ヤクザが読み解く「日産事件と欧州覇権争いの深い関係」』https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58929)で予想した通り。

一方で、この構造を理解できる人間はほとんどいないだろう。ゴーン氏ほどのスケールではないものの、同じ世界に生きた私は適任の解説者であると自負している。

個人負債を日産に付け替えた異常性

まずは特捜部の発表とその後の報道をもとに、特別背任容疑の内容を整理しよう。

ゴーン氏は新生銀行との間で金融派生商品(通貨取引のスワップ)で個人資産を運用していた。しかし08年9月15日のリーマンショックの影響で約18億5000万円の評価損の損失を出してしまう。これが土台だ。その後の動きを確認しよう。

・同年10月、評価損を抱えた金融派生商品を日産に移転
・09年2月、ゴーン氏が自身に資産を再移転する際に、取引関係先の新生銀行が追加担保を求めた。そこで、ゴーン氏の知人で、サウジアラビアの実業家ハリド・ジュファリ氏が約30億円の「信用状」を外資系銀行から新生銀行へ送り、これをゴーン氏の追加担保にした
・この時、ジュファリ氏側に日産から30億円の融資が計画される(NHKは1月9日のニュースで、これが「ゴーン氏の指示」によるものだったと報じている)が、日産の社内承認が得られず中止になった
・しかし09年6月~12年3月の間に、ゴーン氏は自ら使うことのできる「CEO予備費」から「販売促進費」の名目で、ジュファリ氏が経営する会社に1470万ドル(現在のレートで16億円)を振り込んだ
・ジュファリ氏の会社で「販売促進」が行われたかは確認されておらず、追加担保への謝礼と目されている

私にとって最初の疑義は、「評価損を抱えた金融派生商品」が、ゴーン氏→日産→ゴーン氏、と所有者(ポジション)がくるくる変わったことだ。追加担保を求められながら(マージンコール)所有者を移転することは、この金融派生商品では通常不可能とされている。にもかかわらず、日産からゴーン氏に再移転が行われた。

なにより、そもそもマージンコールがなされるならリーマン・ショック後の評価損発生時であるはずなのに、なぜその時にはなされなかったのかも理解できない。

一連の「ウルトラC」が成立するには、新生銀行側がゴーン氏側の説明を承認したとしか考えられない。後述するが、この時、ゴーン氏は「日産」に自己負債を付け替えなければならなかった理由があると、私は考えている。

その上で注目しなければならないのが「信用状」と「ジュファリ氏」の存在だ。ゴーン氏を擁護する一部メディアの論調も見聞するが、それは、この2つの存在の意味を正確に理解していないことが根底にあると私は考えている。