【シリーズまとめ感想part70】氷結鏡界のエデン/不完全神性機関イリス (original) (raw)

今回感想を書いていく作品は「**氷結鏡界のエデン」「不完全神性機関イリス**」です。

エデンは**ファンタジア文庫より2009年~2014年に刊行されていた全13巻のシリーズ。作者は細音啓。イラストはカスカベアキラ。**

そしてイリスは同じくファンタジア文庫から2011年~2013年に刊行されていた全5巻のシリーズ。

氷結鏡界のエデン 楽園幻想 (富士見ファンタジア文庫)不完全神性機関イリス 154cmの最終兵器 (富士見ファンタジア文庫)

※画像はAmazonリンク(エデン1巻およびイリス1巻)

1:氷結鏡界のエデン

作品概要

まずはいつものように作品のあらすじからご紹介。

””幽幻種と呼ばれる異形の存在に脅かされる世界。

人々は幽幻種によって汚された大地「穢歌の庭(エデン)」から離れた浮遊大陸オービエ・クレアで暮らし、皇姫と五人の巫女の祈りによってなる「氷結鏡界」という結界によって平和を維持していた。

とある喫茶店に居候する青年シェルティス。

彼はかつて巫女を護るための護士であった。巫女候補となった幼馴染の少女ユミィと、お互いに巫女とその専属護士である千年獅になろうと約束をしていた。

しかしとある事故によって、シェルティスは浮遊大陸からエデンへと堕ちてしまう。ユミィとの約束を胸に浮遊大陸へと奇跡の生還を遂げたシェルティスだったが、その身に幽幻種のみが持つ力の源である”魔笛”を宿してしまっていたために、除名処分を受け護士ではなくなり現在へと至る。

幽幻種との戦いは終わらず。平穏な日々も長続きせず。やがてシェルティスは再び戦いの中へと身を投じ、ユミィとの約束を果たすために歩き始めるのだった。””

といった感じですね。

ジャンルは「ハイファンタジー」、物語の軸としてシェルティスとユミィ二人の幼馴染が交わした約束のためにそれぞれの立場で戦うといった一種の「幼馴染モノ」要素もあるでしょうか。

それから本作「氷結鏡界のエデン」における、氷結鏡界とそれに守られる浮遊大陸へと繋がる1000年前の戦いを描いた物語が「不完全神性機関イリス」という作品になっています。

ですので、今回はこの2つの作品に関してまとめて感想を述べていきますね。

※今回はネタバレ要素があるかもしれません。できるだけぼかすようにはしますが。

シェルティスとユミィの約束(ユミィの愛がとにかく好き)

エデンの見所はやはりシェルティスとユミィが交わした約束とそれぞれの想い。

これが最高に良かったですよね!

本作の舞台は幽幻種という脅威に脅かされる世界。

やがてはシェルティスもユミィも世界の根幹へと踏み込んでいくことになるのですが。

本質的な二人の想いとしては世界を救いたいではなく、「大好きで大切な人とその人がいる世界を守りたい」になっているんですよね。そうであるからこそわたしとしては二人の幸せな未来を願いながら、がんばってくれって素直な気持ちで応援しながらドキドキハラハラすることができたのです。

もちろん、これはわたしがカップルを見守るのが大好きだからと言うのはあるでしょうけどね💦

また、それぞれの感情にフォーカスしていくなら。

やはりユミィのメインヒロインとしての格が違うなと、思わされました。

彼女は基本的に、シェルティスを待つ側です。シェルティスが護士を除名されてから、正式な巫女の一人となったために、既に浮遊大陸での立場は替えの効かない特別なものになってしまっている。

そのためシェルティスに気軽に会うこともできず。どうにかこうにか(ときに巫女としての立場も使って)シェルティスに会えたとしても、幽幻種の力の源である魔笛を宿してしまったシェルティスと物理的に触れ合うこともできない。

シェルティスは必ず君の隣にいられるようにする、と言ってくれて戦ってくれるけど。自分は彼の身を案じて祈ることしか出来ない。ただでさえ一度はシェルティスがエデンに堕ちて死んでしまったかもしれないという恐怖を知ってしまっている彼女だからこそ、信じて待つということへの不安は人一倍強いはずなんですよ。落差という意味では、元々は幼馴染でいつでも気軽に触れあえたのに、立場も存在も変わってしまった現在に思うことはいっぱいあるでしょう。

更に言えば、シンプルに自分が側にいられない時間が長ければ長いほど、当然シェルティスは他の女の子と関わりを持つようになるわけで。シェルティスが自分を想ってくれているのを理解したって、感情ではやっぱりモヤモヤしてしまう。

そんなロミジュリさながらの大きな隔たりを抱えた状態。

それでもユミィは一途にシェルティスを想う。

その気持ちがどれだけ尊くて強いことか。

もちろんただ彼から救われるのを待つだけではなく幽幻種との大きな戦いや、暗躍する謎の敵組織を前にしての戦いとなれば、巫女として自分にできることを精一杯にやるし。その中で直接的ではなくとも、シェルティスを自分から助けることだってできるけど。

だとしても、彼女の一途さは本当に素敵でしたよ。

そして、個人的に最も彼女の好きなところ。

それが終盤のかなり重要なところに関わってくるのですが。

できるだけ、ぼかして言いますと。

この作品は敵組織が暗躍すればするほどに、このユミィの愛の重さというのが深まってしまう構図になっちゃってるのですよ。

ただでさえ物語がクライマックスになっていけば、シェルティスとユミィは世界の命運を背負わされて、その中でもお互いを守りたいと必死になって戦うわけですから、それを見て「どうにか二人とも幸せになってくれ~!!」って気持ちになっているのに。そこにどういうわけか敵が動けば動くほどユミィの想いに込められたものが更にあふれ出すとか、読者に尊さの過剰摂取をする気かと。

最終巻におけるユミィが感情を吐き出すシーンと、シェルティスのために選んだ決断、あれはもうわたしの中では「氷結鏡界のエデン」だからこそ生み出せたものとして記憶に刻み込まれました。

サブカプも充実している!

カプ厨なわたしとしましては。

シェルティスとユミィ以外にも、カップルが充実していた点も良かったですね。

元々シェルティスと同期の護士として切磋琢磨していたレオンと、彼が千年獅として仕える巫女の春蕾。人見知りな春蕾と、そんな彼女を守る盾であり剣となるレオン。春蕾が彼にだけ見せる安らぎの表情と、それを見守るレオンの温かな目がとても良かったですよね。

また明確に恋愛感情のようなものがあるわけではないですけど、シェルティスが護士として再スタートをしてから部隊として仲間になった少女・華宮と、やるときはやる(普段はだらしない)男のヴァイエルの仲間として飾らない言葉で向き合っている感じも個人的にはかなりすこでした。

敵側の組織でも愛する人や大切な人のために戦う人が結構いましたし。物語が進む中では意外なところで片想いが発生したりしていましたし。特に、とある少女の淡い恋心とそれを抱えたままの最終決戦は個人的には、本作でいちばんグッときてしまったところがあったりもします。

そういうわけでやはり愛だの恋だの、そういう大切な誰か一人のためにというのは良いですよね、と。そしてそういうそれぞれのキャラの譲れない何かがあって、過酷な世界の中でその自分の大切を守るためにぶつかるこういうファンタジー作品って最高だと思いました。

個人的にエリエが結構好きという話

また、個人的に読んでいて面白かったのはエリエの動向ですね。

護士を追放されたシェルティスが居候していた喫茶店でアルバイトをしていた子で、機械工学に関する類い希ない知識と技術を持ち、暇さえあれば変な発明品を作るような子、それがエリエという少女です。

そしてシェルティスが護士としてリスタートしてからは、シェルティスと関わる時間は減っている(物語の本筋からは離れる)のですが、どういうわけか別角度からどんどん話の核になる場所に近づいていってしまうんですよね。

そして彼女としては基本的には普通に知り合った人と仲良くなって遊んでいるだけという感覚でいるのが、読者の「え、これってもしかして……」と思いながら読んでしまう感覚とのギャップを生んでて面白いところですし、エリエの誰とでもすぐに仲良くなれる快活な性格を上手く見せてくれるなって思うところでした。

そんな彼女も近づいていく本作の物語や設定に関してなのですが。

ここはやはり1000年前から続く物語として、イリスの内容が重要になってきますのでそちらの方で述べようかと思います。

2:不完全神性機関イリス

作品概要

それではイリスの感想です。

まずはこちらのあらすじを。

””舞台は浮遊大陸と氷結鏡界が完成する前の、幽幻種に脅かされていた地上。

軍学校に通う機械マニアな青年・凪が、廃材の山を物色していて見つけたアンドロイドの少女イリス。メイドロボと思って修理して再起動させた彼女は、しかし家事が何もできないポンコツ娘で……、それもそのはず彼女は軍用のアンドロイドだったのだから。

そしてとある事態をきっかけにイリスは幽幻種に対抗する最後の切り札、不完全神性機関として覚醒して――””

とそんな感じのお話になっています。

ポンコツ最強不完全家政婦機関イリス

まず本作最大の魅力。

それは何と言ってもイリスのポンコツ具合でしょう!

家事全般が壊滅的で、軍用であることも災いしてちょっとした力加減のミスですぐに物を破壊してしまう。けれど自分を救ってくれた凪に尽くしたいという気持ちは一人前なもので、とにかく行動あるのみ、そしてすぐにポカする。

そんな凪とイリスの日常のドタバタが常に作品を彩っていました。

それに何よりも、アンドロイドヒロインでポンコツ娘とかいうのは、どっちも個人的な性癖としても非常にすこなんですよ!

そしてこの2つって相性抜群なんですよね。なにせアンドロイドという性質もあって基本的に主のために行動するというものは、いきすぎて何かしら問題を起こしてしまうことっていうことと表裏一体なところがありますから。ポンコツ故にすぐにやらかす、というものとは行動としての方向性が同じなんですね。

だからこそどっちの要素からも、そのコメディ具合が楽しく見えるし、イリスというキャラを好きになれるのです。特にイリスみたいな自我がある子ならなおさら、凪のために何かしたいのに上手くいかないっていうのが、アンドロイドとしての悩みとしても、ちょっと間の抜けた普通の女の子の悩みとしても良い味出してくるので。

本当にもう最高ですよね^^

また戦闘面においても、イリスは基本的に凪を守るために圧倒的な力で幽幻種を殲滅していくのですけど、やっぱり詰めが甘いところがあって何かしらをやらかすので、どうにも締まらないところがクスッと笑えて良かったですね。

凪はそんなイリスのポンコツ具合には当然お怒りを見せるわけですが、それでもイリスを大切にする気持ちと、ポンコツな彼女を支える気概、不完全神性機関なんてものに目覚めて戦わざるを得ないのだとしても絶対に一人にはせず彼女が望まないことはさせないという覚悟には何度も胸を打たれました。

すっごい安心できる学園ラブコメ

また、そんなイリスのポンコツによるコメディが強い本作はラブコメとしての色もかなり強かったですね。

言ってしまえば凪くんは、天然ジゴロ鈍感系主人公。

そのためクラスメイトで誰の目から見ても凪を好きな少女シィの健気なアピールはちゃんと伝わらず、しょんぼりしているシィの姿を見るのは日常茶飯事ですし。なにかと凪につっかかってくるツンデレ娘な元軍用アンドロイドのミカエルも普段は厳しく叱責することが多いけれど、凪によって助けられたりときめいたりすることが多くオーバーヒートしちゃう姿が非常に可愛い。そこにイリスのポンコツが加わってくるとなれば、なんともまぁ楽しくも騒がしい学園ラブコメが広がっているわけですとも。

そして、個人的にこのクラスメイトであるミカエルがかなり好きでして。

(異種族好きなわたしですから、アンドロイドという人外ヒロインは当然好きになるよね? というツッコミはさておき)

彼女が凪につっかかってはあーだこーだと説教する言葉が、全然嫌味にならないんですよ。

それどころかむしろ、幽幻種というものに脅かされる過酷な世界で元軍用アンドロイドとして同型の姉妹機たちが壊される姿を何度も見てきた彼女だからこそ言葉にできる、切実な気持ちが詰まっていたくらいなんですよ。

本作はこのイリスやミカエルを含めて他にも何人かのアンドロイドが登場し、その中では自我を持った機械の子たちの抱える想いっていうのが1つの重要な要素としてあります。そんな中で凪に向けるミカエルの言葉は、まさしくこの要素を魅力的に見せる大きなものになっています。凪への好意故の厳しい発言と、デレたときの赤面の二面性はツンデレヒロインとしての魅力でも溢れていた子だと思います。

エデンへと繋がる物語

さて、ここからはエデンとの繋がりについてです。

本作はエデンの1000年前の出来事を描いている、言ってしまえば前日譚です。

氷結鏡界に守られた浮遊大陸がどのように作られたのか。エデン本編にはイリスを含めたこちらのシリーズで登場したキャラと同名のキャラがチラホラ見えていて、これがどういう風に繋がってくるのか。

そういう部分が明かされる物語となっており、これはエデン終盤でシェルティスたちが知る世界の真実という部分に密接に関わってくることとなります。

そのため、エデンとイリス。この二つのシリーズはセットで1つの大きな物語という形になっていたように感じます。エデン最終巻は、イリスのトゥルーエンドとしての側面も大きかったくらいです。

また、本作の世界観の核となる部分。

幽幻種の持つ魔笛という力。それに対抗する巫女の結界の源となる沁力という力。それを行使するための第七天音律(ソフィア・コード)という歌。更にシェルティスが持つ魔笛にある第七真音律(エデン・コード)という対になるような歌。

これらの要素に関しては、同作者の前作「黄昏色の詠使い」と密接な関係を持っています。そのためこれらの真相が明かされるパートには前作を読んでいると、ピンとくる名前やワードが大量に出てきます。

黄昏色とは直接的な同一世界というわけではないようですが、黄昏色も読んでいるとより楽しめますよという部分ですね。

さて、そうなってきますとこの作品の世界観設定の重要な部分は、3シリーズに渡っての大きなものとなるためここで詳しく語ることはしません。

気になったら是非自分で読んでみよう! ということでこの話はここで終わりです。

エデンとイリス、どっちを先に読むべき?

最後にイリスとエデンを読む順番はどっちが先?

というのを簡単にまとめておこうかと思います。

わたしは基本的に刊行順に合わせて読みました。

刊行順だと「エデン1~8」「イリス1」「エデン9」「イリス2」「エデン10」「イリス3」「エデン11」「イリス4、5」「エデン12、13」という順番になっています。

エデンは1~7巻を第1章8~11巻を第2章12~13巻が最終章として区切られた構成になっていますので。まさしくイリスはエデン第2章にあたる8~11巻と並行して刊行されながら、どんどん世界の真相へと踏み込んでいくというような形になっているわけです。

そのため基本的に、イリスはエデンの第2章と一緒に読むのがベストだと思っています。

そうなったとき刊行順に読むのはもちろん面白く読めましたが。

「エデン1~7巻の第1章まで → イリス全5巻 → エデン8~13巻」という順番で、イリスのバックボーンを知ってからエデンの真相に踏み込むも良しですし、

「エデン1~11巻の第2章まで → イリス全5巻 → エデン12~13巻」という順番で、エデンの内容を補強する形でイリスを読み、その上でイリスを読んでから間髪入れずにイリスのトゥルーエンドともいえるエデン最終章へ読むのも良いのではないかと思います。

もしもこれを見て気になった人がいたら参考にしてもらえると幸いです。

巻別満足度と総合評価

最後に本作の巻別満足度と総合評価です。

まずは巻別満足度。

本シリーズはやはりエデン8巻以降、イリスを含めて世界の謎へとどんどん踏み込んでいくようになってからグッと面白さが増してきました。そしてエデンにおけるシェルティスとユミィ、イリスにおける凪とイリス。そのどちらも幸せな結末がほしいと思いながら読んでいたので、エデン最終巻における大団円は本当に最高でした!

ですので総合評価はエデン最終巻の満足度をそのままに

★9.5/10

とします!

おわりに

今回はエデンとイリスをまとめて感想書きました。

2つ合わせて本当に最高のハッピーエンドでしたよ。

また感想内でも言及したところですが、本作は作者の前作である「黄昏色の詠使い」を読んでいると楽しめる要素が結構たくさんありました。

黄昏色の感想も以前(つい最近)書いていますので、気になったらこちらも見てみてください。

ginchu.hatenablog.com