ぐらっぱ亭の遊々素敵 (original) (raw)

241009 CIVIL WAR 米 2024 1h49m 脚本・監督:**アレックス・ガーランド**(英 1970生、『私を離さないで』2010、『エクス・マキナ』2015)

久しぶりに映画館へ。本作は映画館で見るのがおすすめ。迫真性、臨場感が半端ない作品で、とくに音響の凄まじさは配信では伝わらないでしょう。ハラハラ・ドキドキに終始し、見終わってぐったり!

近未来、アメリカの分断が進み、19州からなる西部同盟がホワイトハウスへと進軍することに。ジャーナリスト、カメラマンがPRESSを大書した車でなんとか軍より先にワシントン入りして大統領へのインタビューを試みようとするのですが、叶わず惜しいところでそのチャンスを逃します。

ま、戦争映画でもあり、ロードムービーでもあります。道中、戦慄するような恐ろしい事件に出逢い、もうだめかと思わせるシーンは恐ろしくて手に汗握ります。

最後、ホワイトハウスへ突入、大統領を守ろうとする側近たちとの撃ち合いもすごかったし、大統領を仕留めて死体を囲んで笑い合う兵士たち、それが静止画になるところは悪趣味が過ぎます。

大統領インタビューを目指す戦場カメラマン、リーにクリステン・ダンスト。いやあ、久しぶりに見ましたが、一気に老けましたねぇ。まだ42歳ですがねぇ。メイクのせいもあるんですが、まさかここまでとは!

途中、超恐ろしい場面に登場する兵士役に、ダンストとは「ファーゴ」(人気TVドラマ)で夫役を演じ、実生活でも夫である**ジェシー・プレモンス**、なぜかクレジットされていません。割に重要な役なのに!

今のアメリカにトランプみたいな変わり者が登場していなければ、本作は生まれていなかったでしょう。

ちなみに原題、Civil Warにはtheが付いていません。付けると南北戦争を指すようです。

240930 BONNARD、PIERRE ET MARTH 仏 2023 2h05m 脚本・監督:**マルタン・プロヴォ**

ピエール・ボナールは好きな画家の1人です。色使いと画面構成に魅了されます。ポスト印象派ナビ派ヘブライ語預言者)でアンティミスト(親密派)にも分類されます。

映画は、パリの屋根裏部屋と思しき一室で壁に向かって絵画制作に夢中のピエール、そしてモデルとなっているマルトが映し出されるところから始まります。ピエールは単なるモデルとしかマルトを見てませんし、マルトの方もへっぽこ絵描きがえらそうにあれこれ指図しやがって、とやや見下し気味。でも、しばらくするとトンデモな方向へと2人の関係は発展していきます。

こうして、深い関係となった2人はその後、セーヌ川沿いの古民家を手に入れ、自由奔放な生活を享受、また画家仲間(モネも含まれています)との交流があたかも印象派絵画のような美しい風景の中にくりひろげられます。

このままであれば、めでたし、めでたしですが、途中からアメリカ出身の若い娘、ルネがモデルとして登場、2人の関係に暗雲が。ピエールは完全にルネのとりこになって、彼女を追いかけてローマまで行ってしまいます。

当然深く傷ついたマルト、自暴自棄になりながらも、ピエールのアトリエで絵を描き始めます。稚拙ながらも、どこか味わいのある絵はやがて評判になり、個展開催にまで至るのですが、このへんは創作のようです。

出会った時にマルト・ド・メリニーと、なんだか貴族風な名前でイタリア系と名乗って、ピエールも無頓着ですから、気にもかけなかったようですが、これは完全なる偽名で、本名はマリア・ブールサンという下層階級の娘でした。

それでも健気にピエールを待ち続けたおかげで、ピエールが戻ります。でも、その裏ではルネがローマで自殺するわけで、罪作りなピエールです。マルトとは実に知り合って30年も経って結婚、これを機に南仏のル・カネ(カンヌ近郊)に新居を構え、一層制作活動に熱中します。

南仏の雰囲気を目一杯取り入れた作品を次々に生み出します。同時にマルトを描いた作品も増えていきます。(生涯制作数2,000、うち1/3はマルトが登場!!)マルトは病気療養のこともあり、大の入浴好きで、そのシーンも絵画に何度も登場します。

そして素晴らしいエンディングでした。2時間を超える長尺ですが、まったく気にならないほど画面に没入しました。ずーっとバロック風の弦の調べと通奏低音が鳴っていました。

マルトを演じた**セシール・ドゥ・フランス、**大層なお名前ですが、実はベルギー人。31歳の時の主演映画「モンテーニュ通りのカフェ」(2006)では、初々しく可愛らしかったのですがねぇ、4年後の「ヒヤアフター」では、大津波から逃げおおせる一家の主婦役でしたが、えらくたくましい姿に変身。さらに本作では、まだ49ですが、うーん、かなりお年を召したって感じでした。

予想外の力作でした。

以下に有名な作品を何点か。

若い頃の自画像

奥はLe Canetから見える地中海、手前はりんごを持つマルト

湯浴みをした後のマルト

猫とマルト

セーヌ川下流沿いにある田舎家 マチスのような色彩が印象的

マルトをとらえた珍しい写真

240928 今回は応援している**鈴木麻里子**さんがトゥーランドット姫で出演するというので、調布へやってまりました。

指定席なので、悠々と開演ちょっと前にホールに着いたら、大変な人混み。そうなんです、これは市民オペラなんで、合唱団員のご家族、親戚、友人など多数が詰め掛けるのが常なので、確かに毎回この有様です。

さて、幕が開いてびっくりです。舞台美術・セットのなんと素晴らしいこと。しかもこんな大仕掛けの舞台を作ることが市民オペラでできてしまうのですもの。

さらに開幕と同時に合唱団員が勢揃いで歌い出しますが、これがまた大変なレベル!指導されたバリトン谷 茂樹さん、私も一度「第九」で指導を受けたことありますが、よくぞこの水準まで高められたと敬意を表したいところです。

ところで、タイトルロールの姫、なかなか登場しません。1時間以上も過ぎたあたりでやっとお出ましとなります。散々待たされていますから、聴衆の期待も一身に集中。愚亭もかなりドキドキしていましたが、まあ、立派なお声で、一安心。

今回は油断してチケット確保に出遅れたので、図らずも2階席(それでも@¥9,000!)となりました。でも、正面の前から2列目ですから、悪くないどころか、こんなグランドオペラは1階の前方よりこの辺りの方が隈なく楽しめると思いました。もちろんオペラグラスは大活躍しました。

麻里子さん、期待に違わず、2階席までびんびんと響くリリコ・ドランマーティコであることを見事に証明されていました。姫の歌唱はほとんどがffみたいですから、喉の消耗はハンパないと思われます。すっごいエネルギーが求めらる役どころだけに、これを演じられる人は限られると言えます。

その点、超有名なアリア、Nessun Dormaを歌うカラフや、1幕の「お聞きください、王子様」、終幕部分で歌われる「氷のような姫君の心も」、この抒情的な2曲でばっちり聴衆を虜にできるリューは実においしい役柄でしょう。姫様のアリアはコンサートやリサイタルであまり単独で歌われる機会が少ないだけに、ちょっと気の毒かも。

カラフ役の小野弘晴さん、リュー役の小川栞奈さん、お二人とも持てる力量を最大限発揮してBraviでした。終演後の喝采やブラヴォーも姫様に負けずに大きかったです。

また宮廷の3大臣、ピン・ポン・パンも存在感たっぷりでした。しかし、彼らの登場場面、あんなに長かったんだと、今回、改めて思った次第。少し長過ぎかもというのが、正直な感想です。

オケも素晴らしくよく鳴ってたし、衣装、照明に至るまで全てが一流で、二期会や藤原の公演並みでした。@¥9,000はむしろ安かったのかも。

240926 ヴェルディの最も代表的なグランド・オペラですが、実は初見!

そもそも上演される機会が少ないからです。それは、愚亭が最も好きな「イル・トロヴァトーレ」よりも、さらにキャストを揃えることが至難であることだと思われます。主役のレオノーラが演じられる歌手、滅多にいません。トゥーランドット姫並みかそれ以上にソプラノ・ドランマティコである必要があります。

それになんたって正味3時間にせまる長大さですからねぇ。歌唱力、演技力、体力、舞台映えとなると、なまじの歌手には務まりません。日本で、この人なら、というこの役のはまり役は・・・?

おおよその筋書きは、以下、公式HPから抜粋します。

18世紀半ば(本演出では戦時下の現代)。ヴァルガス家の令嬢レオノーラは敵方のドン・アルヴァーロと恋に落ち、駆け落ちを計画するが、父に見つかってしまう。揉み合ううちにアルヴァーロの鉄砲が暴発し、父は絶命。

恋人たちは逃避行の途中で離れ離れになり、レオノーラは修道院の奥の洞窟に身を隠し、アルヴァーロは軍隊に入る。レオノーラの兄ドン・カルロは、父の仇として二人を追う。カルロとの決闘を逃れたアルヴァーロは修道院に入るが、そこはなんとレオノーラが隠れ住む場所でもあった。カルロに追い詰められた恋人たちはついに再会を果たすが…。text by 加藤浩子

ということで、それほど難解でもありませんし、むしろ単純明快。それでこの長さですから、何度かスピンアウト的展開が含まれています。それで暗すぎないようにしているのかも知れません。グランド・オペラには相関図が込み入っているものが多い中では、この長さでこの筋書きというのは例外的かも知れません。

今回の上演では現代に置き換えられていますが、違和感はほぼありませんでした。

さて、主要キャストですが、まずはリーゼ・ダヴィッドソンの圧倒的な演唱がすべてと言ってよいでしょう。テノールアメリカ人、ブライアン・ジェイドバリトンのロシア人、イーゴル・ゴロヴァテンコも好演していましたが。

ノールウェイ出身のオペラ歌手というのは、ほぼ知りません。お隣のスェーデンは、ビルギット・ニルセンとか、大昔のテノール、ユッシ・ビョルリンクなどが知られていますが・・・。大柄(多分、180cmほど)で、気品のある顔立ちですから、これほど舞台映えするプリマも滅多にいないでしょう。

有名な序曲が始まると、すぐにこんな風に登場し、一気に持っていかれる感じです。これは豪華ホテルの正面玄関という設定。中は、彼女の誕生日の祝いの席、父親のスピーチがあるのですが、上の空。無理もありません、これから恋人であるアルヴァーロと駆け落ちしようとしているわけですから。

アルヴァーロと離れ離れになり、しかも高速道路での事故でどんどん運から見放されていくレオノーラ。

やっとたどり着いた僧院で神父に必死の思いで頼み込んで裏の洞山に住まいを得ます。↑は、修道士全員が儀式として彼女をシュロの小枝で鞭打つ場面。この男声合唱の素晴らしいこと!

例によって、合間合間にインタビューや稽古(今回は合唱)の様子などが紹介されます。インタビュアーは、なんとあのネイディーン・シエラ!最近、ジュリエットで見たばかりで、まだ余韻が残っています。

240921 目下、愚亭は来年年明け本番のヘンデルメサイアに挑戦中なのですが、その主宰者が川崎周辺で展開していた合唱際が↓にあるように「夏祭クラシックス」で、今回そのスピンアウト企画で、急遽募集があったので、参加しました。

募集期間が短いせいか、第九を歌うには少数でしたが、独唱者も合唱に参加してくれたりで、まあまあそれなりの演奏ができたと思います。

↑第九のソリスト陣、みなさんお上手でした。これからが大いに期待されます。

全体に内輪の演奏会という雰囲気でしたが、我々第3部のみの出演者はありがたいことに、1部2部を会場で聴くことができました。特に2部に出演されたテノール新津耕平さんとバリトンの**田中雅史**さんは楽しみでした。

新津さんはラ・ボエームからChe gelida maninaを歌われ、ハイCも見事に決められました。とてもやわらかな高音が持ち味のリリコ・レッジェーロというタイプでしょう。

一方、田中さんは、昨年7月、大田区の合唱団、オペラ・フェスティーバ公演「メリー・ウィドウ」で共演(?)させていただき、出番の少ない助演でしたが、お上手だなという印象を受けました。

このお二人、合唱にもジョインしていただき、特に田中さんは私の真後ろで歌われたので、その響きに圧倒されました。

聴衆は・・・おどろくほど少なめでしたが、大いに楽しめた演奏会でした。

こうして見ると、合唱団少ないかと思ってましたが、それなりの人数でした。

ソプラノさんの衣装の裾が長く入退場時に苦労されてました。(笑)

愚亭の真後ろはバリトンの**田中雅史さん、真ん前がソロの片倉 旭**さんという恵まれた(?)立ち位置でした。