「ジャッカ・ドフニ 大切なものを収める家」展とウイルタ刺繍体験 (original) (raw)

6月に、高島屋史料館TOKYO「ジャッカ・ドフニ 大切なものを収める家」展関連イベントのウイルタの刺繍のワークショップに参加した。
「ジャッカ・ドフニ」というのは、北海道の網走にかつてあった資料館の名前で、サハリンの少数民族ウイルタの言葉で「大切なものを収める家」という意味。
会場内は撮影禁止だけれども外に夏と冬のウイルタ住居模型が置いてあった。作者は世界の台所の模型の宮崎玲子さんだった。

会場外に置かれていたウイルタ住居模型

ワークショップの講師は網走からいらっしゃったウィルタ刺繍サークル「フレップ会」の方々。戦後網走に「引き揚げ」てきたサハリン出身のウイルタである北川アイ子さんから学んだウイルタの刺繍を伝えているサークルとのことです。

自分は刺繍は初めてで何もかも心許なかったのだけど、わからなくなるたびに丁寧に教えていただき、真似ながら進めることができた。時間内には終わらないため残りは家で…と思ったら細かいところの処理がわからなくて難しかった。教えてくれる人がいるってありがたい。
本当に素人でそもそも刺繍の基礎知識がなく、メインになる特徴的な縫い方がどれだけ特徴的なのかも全然わかっていなかった。チェーンステッチとかブランケットステッチとかは、家で調べながら初めて刺繍した。

ウイルタ刺繍の財布とチャーム

2か月も経って完成にこぎつけた。細かく見ると色々しくじってるけど…仕上がってうれしい。(チャームはおみやげとしていただいたフレップ会の方々の作品です。出来が違う!)

ウイルタ刺繍の財布の蓋をめくった内側とチャームの反対側

展示にも同じ形の財布が出ていた。ふたの部分は2枚の布が重なっており、内側の布に穴がくりぬかれていて、ここから硬貨を入れると教えてもらった。
元々は革などに縫っていたそうで、厚い生地だから、裏地に糸を出さずにきれいに縫うことができるらしい。私はところどころ裏地に糸が出てしまった。

久しぶりに針を使って、自由にやると自分は針を左で持つなあ、ということを再認識した。その場合、進行は左から右のほうが理にかなっている筈なんだけど、刺繍は一針ずつ慎重にやりがちなのであまり意識しなかった。糸がかかってるかかかってないか、なかなか理解できずに考え込んでいたため。途中でやりづらいな…と感じたとき実はベストポジションではなかったのだと思う。(今更ブランケットステッチ左利き用の動画を見てこうすればよかったんだ!と感激している)
ウイルタの人は針を自分の方に向けて縫っていくという話を聞いたので、完全まっさらな初心者なら逆にそれで始められるのでは…と一瞬考えたけれども、全然余裕がなかった。

展示にも、革などで作られた伝統的な衣服や楽器、樹皮で作った日用品などが並んでいて、生活道具の美しさみたいなものを感じた。往年のジャッカ・ドフニでは触ることができる形で展示してあったとのこと。
一方で、展示を見たり図録を読んでいてとても感じたのは、ジャッカ・ドフニが政治的な場所でもあったんだなということだった。サハリンに生まれ育ったウイルタの人たちは、日本とロシアの間の国境の問題に人生を左右されてしまった。「引揚」と書いたけれども、北川アイ子さんは元々サハリンのウイルタだ。でも、彼女が生まれたころには日本の教育を受けるようになっていて、名前もアイ子さんという日本語の名前を付けられている(お兄さんはゲンダーヌさんという名前)。そうして日本人として生きることを求められてきたのに、敗戦の際には日本人ではないという理由で、サハリンを脱出する日本人に置いて行かれる。兄のゲンダーヌさんは日本軍に招集されて戦い、シベリアに抑留されるが、少数民族日本国籍がなく兵役義務もなかったため恩給の対象にならない。そういう状況に対する抗議や運動を行っていたということが分かった。
ゲンダーヌさんとアイ子さんはウイルタであるということを公表して生きたけれども、日本に引き揚げてきた他の方(アイ子さん達のご家族を含めて)は出自をあまり明らかにしなかったようで、今の私が実感できない困難があったのだと思う。
そういう状況の中で、アイ子さんがご家族から教わった(樺太にいたころアイ子さん自身は刺繍をできず、北海道に来てからお姉さんに教わったそうだ)刺繍を地元の人たちに伝えて、その刺繍を私がほんの少しでも教えていただくことができたというのは、細い細い繋がりではあるけれど大切にしたい。
講師として教えてくださったフレップ会の皆様、企画をしてくださった学芸員さん、一緒のテーブルにいた参加者の方々、ありがとございました。

この後も何か刺繍してみたいなと思うのだけれども、何を作ったらいいのかな。お財布にもう1回チャレンジしてもいいけど、何か別のもの、できれば自分の生活にあるとよいものを作ってみたい気もする。フェルトで作れて使えるものってなんだろう…ブックカバーとか…?
ワークショップでいただいた桃のような形のイルガと、リーフレットに付いていた仕上がりが四角くなるイルガとがある。後者は複雑そうだしもうちょっと練習してからかなあ。切り紙で形を切るだけでも楽しそう。