【小説】「三千円の使いかた」人は三千円の使かたで人生が決まるー誰にも起こるお金の不安”なるほど”が詰まった一冊 (original) (raw)

【小説】「三千円の使いかた」

著者 原田ひ香

2021年8月25日 初版発行

発行所 中央公論新社

三千円の使いかた -原田ひ香 著|中公文庫|中央公論新社

あらすじ

東京で憧れの一人暮らしを満喫していた御厨美帆(みくりや みほ)24歳。IT系の会社でそれなりに勤めていたが、お世話になった先輩が”リストラ”されたことをきっかけに先の人生について考え始めます。学生時代から付き合っている彼氏との結婚も見えない、貯金も夢もない自分には何があるのかと考えているところに保護犬の展示に目が止ま理りました。運命的に感じ、保護犬と暮らせる一軒家を買うことを目標にし、貯金をスタートさせようと元証券ウーマンの姉に相談。そして、FPの講演にも出かけた美帆は早速将来に向けて歩き始めるのでした。

感想

ドラマが始まった頃には原作があることを知らず、このタイトルが気になり手に取った作品でありました。

「人は三千円の使い方で人生が決まるよ」という祖母の言葉を子供だった美帆はピンとこないまま大人になり、好きなものに囲まれながら一人暮らしを謳歌していました。

イマドキの若い女性を絵に描いたような”普通”とも言える生活ぶりなのだと思います。東京で家賃九万八千円のマンションに住みIT会社でOLをし、学生時代から付き合う高スペックの彼氏がいて…自分とは程遠い環境で暮らす主人公に思い入れこそできないものの、これが”普通の女の子”で”リアル”なのだと感じました。

今を楽しみ、おしゃれなことにステータスを見出し、充実した暮らしが女の子の憧れで、いつかは結婚も、と漠然と考えているくらいがリアルなのかなと。

確かに若く独身で職についていてそれなりのお給料をもらえていたら将来を不安に思うこともないのだと思います。この主人公のように思っていた頃もあったと思うのですが、私は完全に美帆の姉・真帆への共感で溢れました。

真帆は幼い子供を抱え、多くはない夫の給料でやりくりする専業主婦です。節約やポイ活に励み貯金を頑張る真帆は幸せそうで、それでもこの結婚に対しての周りの目にモヤモヤさせられたりと、リアルな感情だと感じました。

真帆は生活に対して不満を持っていません。夫の給料は決して多くはないものの工夫して美味しい料理を振る舞い、夫への感謝を忘れないところがとても素敵だと思いました。

そんな幸せそうな真帆も、同級生の友人から結婚して仕事辞めたのはすごい、私ならできないという言葉を聞きモヤモヤしてしまいます。そんなふうに思ってたの?と。

23歳で高校から付き合っていた彼と結婚した真帆は、それまで証券会社で働いていました。仕事を辞め専業主婦となった真帆は、友人たちに「よくあの安月給の旦那でよく仕事辞められたね」と言われているような気がしてしまったのです。真帆の環境や考え方、生活について共感や納得が多くあり、この作品の中で最も感情移入する人物の1人でした。

「三千円の使い方」というタイトルからも想像できる通り、お金の使い方についての考え方などがところどころに描かれています。

例えば、「生活費を抑えたいなら固定費を見直せ」だとか、銀行の金利についてや老後について。勉強になる面もあり、この本を読んでから少なからず意識が向上したように思います。

それまでも固定費の見直しはしていましたが、見落としていた削減ができました。

祖母の琴子さんが勧める家庭菜園(百円ガーデニング)もマネしてみました。

菜園というほどではありませんが 笑。

何度でも読み返し勉強し共感したい一冊で、これからお金の使い方についてももっと勉強していきたいなと思わせてくれる作品でした。

登場人物

御厨美帆

東京のIT企業で働く24歳。一人暮らしを満喫しているが、先輩の退職を機に人生を考え直している。

御厨琴子

美帆たちの祖母で堅実なおばあちゃん。73歳で今後の人生について考え働き始める。

井戸真帆

美帆の姉。29歳。消防士の夫と3歳の娘と暮らしている専業主婦。元証券会社の社員で、賢く節約しポイ活に励んでいる。

井戸太陽

真帆の夫。爽やかイケメンの消防士。高校生の頃から付き合っている真帆と結婚。

井戸佐帆

真帆の3歳の娘。

御厨智子

美帆と真帆の母。55歳。子宮体ガンの手術をした。少なからず夫に不満を抱いている。

御厨和彦

智子の夫。言葉少ないものの優しく真面目な父。少し頼りない。

小森安生

39歳。定職に付かず日雇や住み込みの仕事などをして暮らしている。琴子と仲良くなり恋人との今後について考える。

きなり

安生の恋人。フリーライターとしてフリーランスで働いているしっかり者の女性。

沼田翔平

美帆の恋人。美大を卒業しデザイン会社で働いている。お金に無頓着な家族を切り離せずにいる。

小田街絵

44歳。美帆の会社の先輩でお嬢様。会社をリストラされるも前向きに人生設計を考え始める、美帆の憧れの人。

黒船スーコ

節約アドバイザー・ファイナンシャルプランナー。『8×12は魔法の数字』著者。FP個人相談や講座を行っている。

実写ドラマ

三千円の使いかた | 東海テレビ

フジテレビ系で2023年1月期に放送されたドラマ『三千円の使いかた』

美帆を葵わかなさん、祖母の琴子を中尾ミエさんが演じ、三世代4人の女性たちがお金と人生について考え乗り越えていくホームドラマとなっています。

ドラマで見ることでより細やかな描写に気付かされることもあるので本を読んだあとに実写版が見られるようなら見てみることが多いのですが、今回もドラマを拝見しました。やはり細かな表情や”間”楽しそうな雰囲気などドラマならではの楽しみを頂きました。文章で感じた感想も感情として大事にしつつ、実写化された映像でもしっかり考え楽しませていただいています。

ドラマ版での「美帆」は思っていたよりもオーバーリアクションというか、感情の起伏が大きいように感じたので、ドラマの主人公という感じでした。祖母の琴子さんももう少し柔らかな印象でしたが、中尾ミエさんのしっかりとした人物像もなるほどという感じで、惹きつけられます。お話の展開としては小説を凝縮して展開されていてとても良かったと感じました。お金について考えるきっかけであったり、それぞれの世代での悩みをリアルに表現され、ポップに描かれているものの誰にでも悩めるテーマが親近感を持たせて入り込める内容になっています。

おわりに

お金のことって大ぴらに相談できない面もあったり、またお金のことばかり考えてるなんて思われたくないなどデリケートな話題だったりもしますよね。そんな内に秘めた悩みも主人公たちの言葉や思いに共感したり腑に落ちたりして、この作品を素直に受け入れられると世界が変わるような気がします。意識が向上し、何かを始めたくなるかもしれません。4人の女性たちのそれぞれの環境での悩みや考え方が詰まっていて、当てはまる悩みがあるかもしれません。登場人物たちがどのように乗り越えていくのかも参考になりますし、晴々とした気持ちになれる一冊でした。

新生活や、これからの生活に悩んでいる人にもおすすめです!