最近見た映画(2024年8月) (original) (raw)

ユメノ銀河(1997年、日本、監督:石井聰亙、90分)

夢野久作「少女地獄」より「殺人リレー」の映画化ということで視聴。全編モノクロで撮られていて、詳しくないから断言はできないけど時代考証もちゃんとしているし落ち着いた雰囲気がとても良い。ただ、ゆっくりと流れる時間は心地よくもあるけれど、全体的に間延びしていているのは否めなくて娯楽性はあまり高いとは言えない。あと、タイトルはお洒落で印象深いけれど内容と合っているかというと……。

原作は夢野久作が得意とした一人称書簡形式で作られているけれど、映像化するにあたって視点は固定されている。この時代の田舎都会両方の閉鎖的な雰囲気が友成と新高の妙に緊張感のある関係性を際立たせてくれている。原作と違って新高の素性をぼやかすことで友成と智恵子の運命を変更させ、それによって安堵の感情とちょっとした虚無感を余韻として味わえる。

映画の感想からはちょっと離れるけど夢野久作「少女地獄」の三作品のうち「殺人リレー」と「火星の女」は映画化されているけれど、「何でもない」だけが映像化の対象になっていない。個人的に「何んでも無い」が一番好きなのにまったく触れられていないのが非常に不満だ。正直、三作品のなかでも頭一つ抜けて良く出来ている作品なのだし、いまからでも遅くないから誰か映像化してくれないかな。

《印象的なシーン》二杯のワインを飲み干す新高。

ユメノ銀河/小嶺麗奈,浅野忠信,京野ことみ,真野きりな,黒谷友香,夢野久作,石井聰亙(脚本),小野川浩幸

ビデオドローム(1983年、カナダ、監督:デヴィッド・クローネンバーグ、89分)

気持ちが悪い。ジットリとしたアングラな雰囲気にしみこんでいくような暗い展開、そして順調だった人生が破綻したにも関わらずほとんどなにも解決せずに収束する物語、とカルト映画と呼ばれるにふさわしい出来になっている。

夢と現実の区別がつかなくなるというモチーフは大好物で、これが陰謀論的な妄執と組み合わさって頭がぐらぐらさせられる。描写の整合性がとれていないのも良い。マックスはどこから見当識を失い、どこからが現実ではないのか、またはどの描写までがマックスの妄想であるのか、判然とせず最後まではっきりとは明かされない。ビデオドロームを観て精神に変調をきたしたのは本当なのか、だとしたら中盤で装置を被ったあたりから先は単なる記録された幻覚に過ぎないのか、それとも直後にベッドで跳ね起きてから先は現実なのか。わからないのが良い。

生と死に関する過激なビデオ、教会のような外観のビデオ視聴所(?)、眼鏡≒見えないものを見る、幻覚を記録する装置≒ビデオを作るカメラ、機械(拳銃やビデオ)との一体化、と意味深なモチーフはたくさんあるし、丁寧に読み解いていけばグッと深く理解できそうな気もする。

《印象的なシーン》バリーの体内からうねうねと蠢き這い出てくる臓器。

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ハッピー・デス・デイ(2017年、アメリカ、監督:クリストファー・ランドン、96分)

死去日おめでとう!

古典的な死に戻り系タイムループSFにB級ホラーを組み合わせているのだけど、意外とオチ(真犯人)が読めずに最後まで楽しめる。おっ、なるほどねえ……けどちょっと反則気味かなあ……と思ったら、おお! なるほど! そこが絡んでくるのね、と意表を突かれる。

細かい所でいうと、ループ中のダメージが蓄積しているかのような描写があったけど、ラストにそれほど重大な影響を及ばさなかったのはちょっと残念。まあ、それがわかっていてループすることを決めるのがトリーの成長なわけで、そのためのギミックだったのかな。実際、ループミステリ的なところはけっこう良く出来ている。特に病院で意味深に警備員を映して、そのあとにグレゴリーが「病院で色々あってね」と言うのは二周目でなるほどと感心させられる。

主人公のトリーは男女両方から嫌われるタイプのびっくりするほど嫌なやつで、正直「おお、こいつがこれから死ぬんだあ」とちょっとワクワクしていた。で、一回目のループで思っていたより性格の悪い取り乱し方しないなあ、と思っていたらやっぱり悪いのは悪いのかと納得(?)させられ、事態の進展とともに徐々に改善していく。いや、父親と疎遠になって荒れる原因となったできごとや元々の父親との関係性を考えると素はそんなに悪くなくてループを体験することで徐々に元に戻っていたということなのかもしれない。

《印象的なシーン》「殺したのに! 止めたはずなのに!」

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ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男(2019年、アメリカ、監督:ロバート・D・クロサイコウスキー、98分)

タイトルがあまりに印象的だったので視聴。思っていたよりも静かな映画だった。あまりにタイトルが印象的だったから、てっきり外連味のある派手なストーリーのB級寄り映画なのだと……まさか本当にタイトルそのままのストーリーでこんなに静謐な空気の映画が見れるとは思わなかった。しかも人格者の強い爺が主人公とは。

酒、髭剃り、ショウウィンドウ、ナイフとフォーク……日常に散りばめられた思い出の縁は老人の孤独感を強調している。シームレスな回想への入り方が印象的で、この映画のある種のリアリティに寄与している……ような気がしている。ビッグフット退治はあまり良い思い出ではないから額縁の絵を外したのかな。靴を気にすることが心の突っかかりの比喩で彼女との最後の記憶が心の澱みたいになってるのだろう。そして、それが最後にすんなりと解決するのがなんだか感動的だった。

タイトルにもなっているビッグフットのくだりになった途端に国家規模の壮大さとミクロな個人の事情がSF風に絡み合って奇妙な味わいになっている。弟との関係性や愛していた人との離別、そしてビッグフットとの戦い。時系列が細かく入れ替わったそのドラマは派手さはないけれど目が離せない。

《印象的なシーン》「もしまた会ったときは、ずっと靴を直すふりでもしていて」

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蠱毒」(poison)(2024年、日本、監督:澁谷桂一、17分)

時系列も行動も会話もおかしい。灰皿と煙草は火事? 意味が分かるようでわからない、そういうモヤモヤを含めて気持ちが悪い。一室で会話しているだけなのに何度も切り替わる画面が緊張感と異物感を増幅させる。ヒトなのか、部屋なのか、もっと違うなにかなのか。

《印象的なシーン》土下座のような姿で泣いているような嗤っているような。

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ブルーホール(2023年、日本、監督:吉呑太雄、19分)

生命の源、母なる海。部屋に入り込むまで異変をきたさない人と、部屋の手前で変貌してしまう人の違いは一体なんなんだろう。意味深なモチーフが登場しているだけに考えてしまい、考えてしまうから怖い。

《印象的なシーン》浜辺で踊る女。

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