第1182話 共食い (original) (raw)

序文・自然の摂理

堀口尚次

共食いは、動物においてある個体が同種の他個体を食べることである。この現象になぞらえて、同業者同士で利益を得ようとして共倒れすることも共食いと呼ばれる。なお、ヒトがヒトを食う共食いカニバリズムという。英語では同業者同士で利益を得ようとして争うことをdog eat dogと言う。

動物学における共食いは広く見られる現象であり、1500種を超える動物種で記録されている。一般に異常な現象と考えられがちであるが、必ずしもそうではない。逆に動物なら個体間で殺し合うのが当たり前と言う見方もあるが、これも正しくない。一般に食う食われるの関係は異種間で成立するものであり、同種個体間で無制限に共食いが行なわれる状況があれば個体群が成立しなくなるなど進化的に安定とは言えず、そのような行動は避けるように進化が進むと考えるべきである。したがって、それでもみられる共食い行動はそれなりに独特の意味を持っているものと考えられる。

以前は共食いは単なる極限の食料不足や人工的な状況の結果で起こると信じられていたが、自然な状況でもさまざまな種において起こり得る。実際に科学者達はこれが自然界に遍在していることを認めており、水中の生態系では特に共食いは一般的であるとみられている。最大9割もの生物がライフサイクルのどこかで共食いに関与しているとみられる。共食いは肉食動物に限らず、草食やデトリタス〈微生物〉食であっても普通にみられる。共食いには偶発的なものと、ある程度習性として固定されたものがある。

他の共食いの形に子殺しがある。よく知られた例としてチンパンジーでは雄の成獣グループが同種の幼獣を攻撃して食べてしまう。また、ライオンでは雄の成獣が新しくプライド〈群れ〉を支配するときに、以前の群れの支配者の子供を殺すのが普通である。ただしこれらの行動では雌に子育てを中断させ発情させ、交尾して自分の子孫を残す事が目的であり、このとき殺した子を食べる例もあるが、必ずしもそうでなく、まったく食べない例もあるという点で共食いとは別に扱われる。共食いとは言えないが、類人猿のチンパンジーは小型のサルを捕食するのは珍しくない。ヒトから見れば一見共食いにも見えるが、雑食性のチンパンジーで肉食も行う彼らからすればサルも単なる他の肉と変わらない認識でしかない。