三鷹の税理士 平林 達夫 の日記 (original) (raw)

高齢化社会に日本が突入しつつある現状において、大きな注目を集めることになる税目である、相続税

ただし、その計算過程はなかなか難しくて、一般の人が「ちょっと自分で申告書を作成してみようか」と簡単に手を出せるものではないかもしれません。

それでも、基本的な知識として、相続税がどういう税金で、どういう財産が課税対象になり、どのような計算で税額が算出されるのか、その概要を知っておくのは、意味があることでしょう。

そのような趣旨で、相続税の税額控除について書いている今回の一連の記事。
最終回となる第4回目の今回は、これまで説明していなかった残る2つの控除項目、「相似相続控除」「外国税額控除」について、説明をさせていただきます。

<1> 相似相続控除

これまで説明してきた4つの税額控除、贈与税額控除」「配偶者控除」「未成年者控除」「障害者控除」は、その名前からどういった内容のものなのかが分かりやすかったと思います。
その一方、この「相似相続控除」は、名前を言われてもイメージが湧きにくいのではないでしょうか。
そこで、まずは用語解説的に制度の概要を説明させていただきます。

1)概要

「相似相続控除」という言葉は、「相似」した「相続」に関する「控除」、と分解することができます。

「相似」と言われて、そういえば義務教育の時に数学の授業と「相似と合同」というのを習ったな、と思い出された方もいらっしゃるかもしれません。
数学用語的には、2つの図形が形もサイズも全く同じものであれば、それは「合同」と、形は同じだけれども縮尺が違うような時は、「相似」と呼びましたよね。

つまり、(敢えてざっくりとした表現をするならば)そっくりな似たものどうしのこととも言えましょう。

言葉の成り立ちとしても、「あい(相)に(似)ている」つまり、「互いに似ているもの」ということになり、そこから、同じような相続に関して控除を行う規定なのかな、と推察することができます。

それを踏まえて、条文を確認してみましょう。

<相次相続控除>
相続(被相続人からの相続人に対する遺贈を含む。以下この条において同じ。)により財産を取得した場合において、当該相続(以下この条において「第二次相続」という。)に係る被相続人が第二次相続の開始前十年以内に開始した相続(以下この条において「第一次相続」という。)により財産(中略)を取得したことがあるときは、当該被相続人から相続により財産を取得した者については、第十五条から前条までの規定により算出した金額から、当該被相続人が第一次相続により取得した財産(中略)につき課せられた相続税額(中略)に相当する金額に次の各号に掲げる割合を順次乗じて算出した金額を控除した金額をもつて、その納付すべき相続税額とする。

相続税法第20条第1項)

要するに、相続が発生した時、その相続財産の中に、亡くなった被相続人が死亡前10年以内に相続・遺贈によって取得した財産があった時には、その財産に課せられていた相続税のうち、一定のものを今回の相続に係わる相続税から控除することができる、という規定です。

これでもまだ分かりにくいでしょうから、簡便化した事例を使って考えてみます。

例えば都内一等地の一戸建にそろそろ金婚式を迎えようかというご夫婦と息子さんが同居されていたケースです。

このうち、残念なことに、お母様がご病気で亡くなられてしまい、それから2年もせずに気落ちされたお父様が後を追うように亡くなってしまう、というようなことがあったとしましょう。

ところで、この戸建住宅はお母様の名義のものであり、お母様が亡くなられた一次相続の時はお父様が、お父様が亡くなられた二次相続の時は息子さんが、それぞれ相続することになりました。

建物は最近立て直しをしていたのでまだ新しく、土地の評価額も高額で、現金や有価証券など、その他の財産はほとんど無かったものの、それなりの相続税額が発生してしまうケースだったと仮定します。

この場合、最初にお母様が亡くなられた一次相続のところで相続税が課税された財産について、その財産の取得者がすぐに亡くなって再び二次相続の課税が行われることになります。

相続税の税額控除に関する記事の**第1回でも書いたように、相続税には「富の再分配」「格差の固定化防止」**の機能があるとされています。

このケースでは財産の移転が一次相続と二次相続の計2回あったのですから、そこにそれぞれ課税されることは、あくまで原則的には適切であるとも言えるでしょう。

しかし、同一の(相続発生の時期が非常に近いので評価額もほぼ同額であろうと思われる)財産に対して立て続けに課税するというのは、「過剰な再分配」になってしまうのではないか。

遺族のこれからの生活に必要な財産をむやみに削ることになってしまいはしないか。

というような懸念が、ここに生じます。

相続発生の時期やその時点での所有者が異なる以上は、それとこれとは別の話、別の財産だ、と切り捨てることもできますが、両者が非常に似ている(相似した)財産だということは、間違いないことです。
ここから、このような事例での二次相続時の当該財産に対する課税は、既に相続税を課税済みである財産に対して再び相続税を課す、いわば二重課税のようなものではないか、と見ることもできるわけです。

この問題の解消の為に相続税法では、一次相続から10年以内に発生した二次相続において、二次相続の被相続人(上記の例で言えばお父様)から相続財産の中に、一次相続の被相続人(同 お母様)から相続又は遺贈で取得した財産がある場合には、当該財産に課せられた一次相続時の相続税額のうち一定の額を、二次相続に係わる相続税額から控除する、という規定が設けられました。

これが、「相似相続控除」です。

2)控除額の計算

では、「相似相続控除」の具体的な計算方法はどのようなものになっているのでしょうか。
この規定で控除されることになる税額の計算式は、以下の通りです。

A×C/(B-A)【 >100/100 ∴ 100/100】×D/C×(10-E)/10

A:二次相続の被相続人が一次相続の際に課せられた相続税
B:二次相続の被相続人が一次相続の際に取得した純資産価額
C:二次相続の相続等により財産を取得した全ての人の純資産価額の合計額
D:二次相続のその相続人の純資産価額
E:一次相続から二次相続までの期間(1年未満切り捨て)

なお、この式のB、C、Dにおける「純資産価額」とは、債務控除後の金額のことを指します。

算式を眺めても分かりにくいかもしれませんが、実際に数値を入れて試算してみると理解の助けにはなるでしょうし、可能であれば、税務署もしくは税理士などの専門家にご相談いただければと思います。

最後に注意していただきたいこととして、条文の冒頭が「相続(被相続人からの相続人に対する遺贈を含む。以下この条において同じ。)により財産を取得した場合」となっていることをあげさせていただきます。
つまり、この規定の対象には二次相続の被相続人が一次相続において相続だけでなく遺贈で取得した財産が該当するのですが、それはあくまで、**被相続人が「相続人として」取得したものに限られ**るのです。

言い換えるならば、一次相続の時に相続放棄をして(相続人では無くなって)いた場合には、「相続人として」取得したことには該当しませんから、仮に一次相続時に遺贈により財産を取得していたとしても、それは「相似相続控除」の対象にはならないのです。

文字で読んでも分かりにくいかもしれないのですが、「掃除相続控除」を考える時に外してはいけない大事なポイントですので、書かせていただきました。
相続と遺贈の違い、相続人の範囲などについては、それだけで何回分かの記事になる話なので、申し訳ありませんがここでは触れないこととさせていただきます。

<2> 外国税額控除

遺産相続の対象となる被相続人の財産に日本国外に存在するものがあった場合に、相続の発生に関し、その財産の所在国による資産課税が行われることがあります。

ここで、一度海外で課税されている在外財産に対して、国内でも相続税が課せられるのは、国際間の2重課税に該当するので、そこに税額の調整が必要になるだろうと考えられます。

その調整内容を定めた規定が、「外国税額控除」になります。

条文を、確認してみましょう。

<在外財産に対する相続税額の控除>
相続又は遺贈(中略)によりこの法律の施行地外にある財産を取得した場合において、当該財産についてその地の法令により相続税に相当する税が課せられたときは、当該財産を取得した者については、第15条から前条までの規定により算出した金額からその課せられた税額に相当する金額を控除した金額をもって、その納付すべき相続税額とする。ただし、その控除すべき金額が、その者についてこれらの規定により算出した金額に当該財産の価額が当該相続又は遺贈により取得した財産の価額のうち課税価格計算の基礎に算入された部分のうちに占める割合を乗じて算出した金額を超える場合においては、その超える部分の金額については、当該控除をしない。

相続税法第20条の2)

これを少々大胆に要約すると、相続等によって取得した国外にある財産に対して課せられた海外の資産税は、日本の相続税の税額から差し引いてよいということが書かれています。

ただし、無制限に控除が出来る訳ではなく、一定の上限は設定されています。

まず当然ですが、払ってもいない税金を差し引くことは出来ないので、ここで控除が出来るのは、在外財産の所在地国に対して払った資産税の税額を超えることはできません。
また控除の対象となるのは、日本国に対して納付しなければならない相続税額のうち、その在外財産に対して課されている部分だけになります(国内に所在する財産に対しては、外国が資産税を課してはいないですよね)。

後者は、その者の納付すべき相続税額に、「その者の取得した全財産の課税価格」のうちに「外国の資産税が課せられた在外財産の課税価格」が占める割合を乗じて算出されます。

実際にはこんな計算になることはほぼありませんが、分かりやすく切りのいい数字で説明するさせていただけば、例えば、1億円の財産を相続等により取得したAさん(うち、4,000万円がアメリカに所在する資産)に対し、アメリカで課せられた資産税が100万円、「相似相続控除」の規定まで適用させた日本の相続税は200万円と算出されたとしましょう。

この時に、アメリカの資産税100万円と比較する日本の相続税額は、200万円ではありません。国内・在外の財産評価額の比率で案分した、「200万円×4,000万円/1億円 = 80万円」が、正しい金額です。
そして、アメリカ税額100万円と日本税額80万円とを比べると後者の金額が低い為、「外国税額控除」として控除することが出来る金額は、80万円ということになります(払っていない税額が控除されたり還付されたりすることはありません)。
つまり、納付すべき日本の相続税額は200万円から80万円を差し引いた120万円になるのです。
200万円から100万円を差し引いて100万円になったり、120万円を納付すると同時に(控除できなかったアメリカ税額の)20万円が還付されたりすることは、ありません。

以上、4回にわたって、相続税法上に規定されている6つの税額控除について説明してきました。

計算規定の話ですし、専門的で分かりにくい部分もあったかもしれません。

ひとまずは、どういうような場合にどういった税額控除があるのか、おおまかなところを認識していただいて、実際に相続が発生した段階では、「確かこういう控除があったのではなかっただろうか」ということを、おぼろげにでも思い出せれば、それでいいかと思います。
実際の適用有無や控除額は、そこから、税務署や税理士等の専門家に、お問合せいただければ、それで大丈夫です。

全4回の今回の記事は、概要としてイメージをつかむ為のもの。
そのように、ご認識ください。

高齢化社会に日本が突入しつつある現状において、大きな注目を集めることになる税目である、相続税

ただし、その計算過程はなかなか難しくて、一般の人が「ちょっと自分で申告書を作成してみようか」と簡単に手を出せるものではないかもしれません。
それでも、基本的な知識として、相続税がどういう税金で、どういう財産が課税対象になり、どのような計算で税額が算出されるのか、その概要を知っておくのは、意味があることでしょう。

そのような趣旨で、相続税の税額控除について書いている今回の記事。
第3回目の今回は、「未成年者控除」「障害者控除」について、説明をさせていただきます。

<1> 未成年者控除

相続または遺贈により財産を取得した法定相続人が未成年であり、一定の要件を満たす場合に適用がある規定です。

敢えて説明をする必要も無いとは思いますが、念のため、ここでいう「未成年」は、**民法第4条の規定**(「年齢十八歳をもって、成年とする。」)に従ったものであり、いわゆる「借用概念」になります。

未成年者である法定相続人が相続または遺贈により財産を取得するケースとなると、(もちろん一概に断定はできませんが)被相続人である父母が、事故や病気などで早くに亡くなってしまったという状況が考えられます。

未成年といっても既に社会に出て働いているということも考えられなくはないので、これも一概には言えないことではありますけれども、一般に、未成年がそういった形で親を亡くした場合、遺された未成年には、これからまだまだ教育費や養育費がかかることが想定されます。
そのような未成年に対し、経済的な負担を少しでも軽減できるようにして、生活を安定化させよう、サポートしようという趣旨で、未成年者控除の規定は設けられました。

条文を確認してみましょう。

<未成年者控除>
相続又は遺贈により財産を取得した者(中略)が当該相続又は遺贈に係る被相続人民法第五編第二章(相続人)の規定による相続人(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人)に該当し、かつ、十八歳未満の者である場合においては、その者については、第十五条から前条までの規定により算出した金額から十万円にその者が十八歳に達するまでの年数(当該年数が一年未満であるとき、又はこれに一年未満の端数があるときは、これを一年とする。)を乗じて算出した金額を控除した金額をもつて、その納付すべき相続税額とする。

相続税法第19条の3第1項)

この条文の解釈は、難しくないでしょう。

相続が発生した日、つまり被相続人が亡くなった日において18歳未満だった法定相続人(民法第五編第二章(相続人)の規定による相続人)については、その相続開始の日からその者が18歳に達するまでの年数×10万円を、その者が納めなければならない相続税から差し引くことができるのです。

ただ、冒頭に「一定の要件を満たす場合」と書いたように、この特例は未成年者である法定相続人である無制限であれば、受けられるわけではありません。

具体的には、その者が次のいずれかに該当する必要があります。

① 財産を取得した時に日本国内に住所があること(一時居住者で、

かつ、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人である場合を除きます。)

② 財産を取得した時に日本国内に住所が無い場合は、次のいずれかに該当すること
日本国籍を持ち、相続開始前10年内に日本国内に住所があった者

ロ 上記以外の日本国籍を持つ者で、被相続人が外国人被相続人

または非居住被相続人以外の場合

日本国籍の無い者で、相続人が外国人被相続人

または非居住被相続人以外の場合

つまり、相続税の納税義務者の区分のうち、「無制限納税義務者」に該当することが求められていると思っていただいていいのですが、ここは細かく正確に理解するというよりは、「日本との関係性が深くない者に対しては、未成年者控除の適用は認められていない」という認識をしていただければいいでしょう。

個別のケースについて、適用の可否を知りたい場合は、各税務署や税理士等にお問い合わせください。

なお、(この規定の適用がある)未成年者である法定相続人の税額から控除額を差し引いて、なお引ききれない金額があった場合は、その金額を、その者の扶養義務者の税額から差し引くことができます。

また、過去に他の被相続人からの相続等に関して未成年者控除の適用を受けたことがある場合は、本人及び扶養義務者の税額から既に差し引かれた部分について、税額控除の制限を受けることになります(前回の相続の時点で控除しきれなかった残高があった場合に、その残高が控除されます)。

以下に、その場合の計算方法を示しておきます。

(1) 10万円×(20歳-今回の年齢)
(2) 10万円×(20歳-前回の年齢)-既控除額
(3) 控除可能額:(1)と(2)のうち、小さい方の金額

<2> 障害者控除

基本的な考え方は、「未成年者控除」と同じです。

相続・遺贈により財産を取得した者が障害者であった場合、そうではない健常者と比べ、就業収入面の不利や、生活費が余計にかかるなどの不利を負うことになります。
この不利に対し、相続税の計算過程において特別な税額控除を設定する事で手元に残る財産の額を増やし、以って政策上の配慮をしようというのが、「障害者控除」です。

1)既定の背景

なお、「未成年者控除」が、その相続人等が成人に達するまでの間の適用だったのに対し、「障害者控除」は85歳に達するまでとなっています。

基本的には、その障害者である相続人等の亡くなるまでの生活費等を税額控除で補助することができれば、制度の目的は満たせます。しかし、相続が発生した時点で、相続人等の余命がどれだけなのかを正確に把握するのは不可能です。

そこで、相続税では日本人男女の平均寿命に近いところで切りの良い数字ということで、85歳という基準を設定しています。

ちなみに、現時点における日本の平均寿命は、昨年末に厚生労働省が発表した「令和2年都道府県別生命表の概況」によれば、男性で81.49歳、女性が87.60歳となっています(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/tdfk20/dl/tdfk20-10.pdf)。

もちろん、男女の人口比もあるので、全体的な平均寿命について、これ等を足して2で割るという単純な計算をするわけにはいきません。
しかし、概ねこの2つの中間よりちょっと上くらいが全体の平均寿命になるだろうとみなすことにすると、「障害者控除」の控除額計算が85歳という年齢を1つの区切りとしていることは、(今後の平均寿命の変動によっては、見直しの必要性も生じるとは思われるものの)現状では、まず妥当なところだと思われます。

2)控除額

実際の控除額の計算をするにあたっては、その相続人等の負っている障害の程度によって、控除可能な金額が変わってきます。
具体的には、該当する者が85歳に達するまでの年数に対し、(普通)障害者であれば1年につき10万円、特別障害者であれば20万円が控除可能となるのです。

条文を確認してみましょう。

<障害者控除>
1 相続又は遺贈により財産を取得した者(中略)が当該相続又は遺贈に係る被相続人の前条第一項に規定する相続人に該当し、かつ、障害者である場合には、その者については、第十五条から前条までの規定により算出した金額から十万円(その者が特別障害者である場合には、二十万円)にその者が八十五歳に達するまでの年数(当該年数が一年未満であるとき、又はこれに一年未満の端数があるときは、これを一年とする。)を乗じて算出した金額を控除した金額をもつて、その納付すべき相続税額とする。
2 前項に規定する障害者とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者、失明者その他の精神又は身体に障害がある者で政令で定めるものをいい、同項に規定する特別障害者とは、同項の障害者のうち精神又は身体に重度の障害がある者で政令で定めるものをいう。

相続税法第19条の4第1項、第2項)

第1項が控除額を、第2項が(普通)障害者と特別障害者の定義を定めています。

とはいえ、この文章だけでは、一般障害者と特別障害者の境界をどのように判断すればいいのか、線引きの部分に曖昧さが残りそうです。

そのような状態で、納税者がそれぞれ行った個別の判断で一般障害者か特別障害者かの判別基準が異なってしまっては、課税の平等が損なわれてしまいます。

では、そこの定義はどのようになっているのでしょうか。

3)一般障害者・特別障害者の範囲

相続税法基本通達第19条の4-1及び4-2では、一般障害者と区別障碍者の範囲が、それぞれ定められています。

ここでその通達をそのまま引用してもいいのですが、さすがに長いので若干の要約させていただくと、まず、一般障害者については、次のように定義されています。

<一般障害者の範囲>
児童相談所知的障害者更生施設などで重度であるとされた人以外の知的障害者
精神障害者保健福祉手帳で障害等級が2級又は3級とされている者
身体障害者手帳で身体上の障害等級が3級から6級までであるとされている者
④ 戦傷病者手帳に記載されている精神上又は身体上の障害の程度が一定の者(特別障害者に該当する者を除く)
⑤ 常に就床を要し、複雑な介護を要する者のうち①又は③に準ずる精神又は身体の障害を持つと市町村長又は特別区の区長の認定を受けている者
⑥ 精神又は身体に障害のある年齢65歳以上の者で①又は③に準ずる精神又は身体の障害を持つと市町村長又は特別区の区長の認定を受けている者

次に、特別障害者の定義です。

<特別障害者の範囲>
児童相談所知的障害者更生施設などで重度であるとされた知的障害者
精神障害者保健福祉手帳で障害等級が1級とされている者
身体障害者手帳で身体上の障害等級が1級又は2級であるとされている者
④ 戦傷病者手帳に記載されている精神上又は身体上の障害の程度が恩給法別表第1号表の2の特別項症から第3項症までである者
⑤ ③又は④に該当しない者で原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の規定による厚生労働大臣の認定を受けている者
⑥ 常に就床を要し、複雑な介護を要する者のうち①又は③に準ずる精神又は身体の障害を持つと市町村長又は特別区の区長の認定を受けている者
⑦ 精神又は身体に障害のある年齢65歳以上の者で①又は③に準ずる精神又は身体の障害を持つと市町村長又は特別区の区長の認定を受けている者

こうして書き出したものを読んでも、これはちょっと分かりにくいなと感じられるかと思います。
一般論としてですが、実務的には障害者手帳に記載された等級や、市町村長等の認定の有無で判定をすることになる、と覚えていただければいいでしょう。

なお、精神障害者保健福祉手帳身体障害者手帳に記載される等級がどのように判断されるのかも調べたのですが、そこまで書くのはさすがに今回の本題から外れるので、ここでは割愛させていただきます。

興味のある方は、精神障害者保健福祉手帳については**精神保健及び精神障害者福祉に関する法律精神保健法)の第45条同法施行令の第6条を、身体障害者手帳については身体障害者福祉法第4条同条の別表及び身体障害者福祉法施行規則第5条同条第3項の別表第5号**を、それぞれ e-GOV 等で確認してみてください。

4)その他の注意事項

障害者控除についても未成年者控除同様、以下の適用制限があります。

(この規定の適用がある)障害者である法定相続人の税額から控除額を差し引いて、なお引ききれない金額があった場合は、その金額を、その者の扶養義務者の税額から差し引くことができます。

また、過去に他の被相続人からの相続等に関して障害者控除の適用を受けたことがある場合は、本人及び扶養義務者の税額から既に差し引かれた部分について、税額控除の制限を受けることになります(前回の相続の時点で控除しきれなかった残高があった場合に、その残高が控除されます)。

なお、前回の適用から相続発生時までの間に、障害等級の変更があり、一般障害者だった相続人が特別障害者に、又は特別障害者だった相続人が一般障害者になった場合は、それぞれの時点での等級に応じて控除可能額の計算をしていくことになります。

ここでは、等級に変動が無く、1回目の相続時も2回目の相続時も一般障害者だった場合と、2回目の時には特別障害者に該当することになっていた場合を例にして、計算式を表示してみます。

<障害の程度に変化が無い場合>
(1) 10万円×(85歳-今回の年齢)
(2) 10万円×(85歳-前回の年齢)-既控除額
(3) 控除可能額:(1)と(2)のうち、小さい方の金額

<障害の程度に変化がある場合>
(1) 20万円×(85歳-今回の年齢)
(2) (1)+(10万円×前回から今回までの期間)-既控除額
(3) 控除可能額:(1)と(2)のうち、小さい方の金額

後者の計算においては、障害の程度の変更は、相続が開始した時に起きたものとみなすのがポイントです。

次回第4回は、残る2つの税額控除、「相似相続控除」と「外国税額控除」について説明をいたします。

高齢化社会に日本が突入しつつある現状において、大きな注目を集めることになる税目である、相続税

ただし、その計算過程はなかなか難しくて、一般の人が「ちょっと自分で申告書を作成してみようか」と簡単に手を出せるものではないかもしれません。
それでも、基本的な知識として、相続税がどういう税金で、どういう財産が課税対象になり、どのような計算で税額が算出されるのか、その概要を知っておくのは、意味があることでしょう。

これまでにも何回か、相続税については解説をしてきましたが、今回は納付税額の計算過程のほぼ最後に位置する、6つの税額控除項目について書かせていただいております。
第2回は、税額控除項目の2つ目、配偶者控除についてご説明いたします。

<1> 規定の背景

配偶者控除は正確には、「配偶者に対する相続税額の軽減」といいますが、亡くなった被相続人の配偶者が相続または遺贈により取得した財産に対し、その課せられる税額の一部または全額を控除する規定になります。
この規定が生まれた背景は、概ね3つあると言われています。

1)財産形成への寄与

まず、**被相続人の財産は配偶者と夫婦協力して形成してきたものだ**という考えです。

法律上の婚姻関係があったとしても、夫婦はあくまで別人ですので、夫が所有する財産は夫のみに、妻が所有する財産は妻のみに帰属します。

このことは、民法に明確に定められています。

<夫婦間における財産の帰属>
1 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

民法第762条)

しかし、家事・育児の負担その他の協力関係を踏まえれば夫や妻の財産はお互いに協力し合い、形成されたものと考えられるのに、その寄与を無視するのか、という批判や不満が、ここから生じます。
そこで、夫婦間で生じる相続等による財産の移転については、特別な手当てをすることで、それに対処しようというのです。

2)生活保障

2つ目に、**被相続人の遺した財産は、配偶者のその後の生活にとって、必要性が高いと思われる**ことが挙げられます。

例えば夫婦が住んでいた住宅、生活費に使っていた預金など、配偶者が死亡した後の、残された配偶者が安定した生活を送る為には、一定の財産が引き継がれることが必要だと考えられます。

そのような観点から、被相続人の配偶者には、特別な控除が設けられた、というわけです。

3)同一世代間

年齢差の大きなケースも存在しますから一概には言えませんが、一般論としては、夫婦であれば、その年齢はそんなに変わらない、つまり夫と妻が同一世代もしくは近似世代であることが想定されます。
ということは、例えば夫が亡くなったことで相続が発生し、相続税が課税されてから、妻も亡くなって次の相続が発生するまで、そんなに年数がかからないこともあるでしょう。

最初の相続(一次相続)において相続等で財産を取得した者が、それから短い期間で亡くなって相続(二次相続)が発生した場合には、第4回で説明する予定の「相似相続控除」という規定が別に存在しています。

しかし、配偶者間の相続に関しては、それだけではカバーしきれない部分もあると考えられ、そこに配慮する必要もあるだろうということで、相似相続とは別に配偶者控除が設けられたというものです。

人によってはこれら3つの背景のうち、最後の「同一世代間の財産移動であること」を含めないで説明をされていたりもしますが、ここでは「配偶者に対する相続税額の軽減」の背景とされているものの全てを簡単にご説明させていただきました。

<2> 配偶者控除の内容

相続税における6つの税額控除の中で、配偶者控除だけは他とは少し異なった既定の立て付けとなっています。
まずは、少し長いのですが、その条文を確認してみましょう。

(配偶者に対する相続税額の軽減)
被相続人の配偶者が当該被相続人からの相続又は遺贈により財産を取得した場合には、当該配偶者については、第一号に掲げる金額から第二号に掲げる金額を控除した残額があるときは、当該残額をもつてその納付すべき相続税額とし、第一号に掲げる金額が第二号に掲げる金額以下であるときは、その納付すべき相続税額は、ないものとする。
一 当該配偶者につき第十五条から第十七条まで及び前条の規定により算出した金額
二 当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の総額に、次に掲げる金額のうちいずれか少ない金額が当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額のうちに占める割合を乗じて算出した金額
イ 当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額に民法第九百条(法定相続分)の規定による当該配偶者の相続分(中略)を乗じて算出した金額(中略)に相当する金額(当該金額が一億六千万円に満たない場合には、一億六千万円)
ロ 当該相続又は遺贈により財産を取得した配偶者に係る相続税の課税価格に相当する金額

相続税法第19条の2第1項)

第1号に書かれている「第15条から第17条まで及び前条の規定」ですが、第15条は「遺産に関わる基礎控除」、第16条は「相続税の総額」、第17条は「各相続人等の相続税額」を規定しています。

つまり、これは配偶者が負担すべき相続税額を一旦算出するまで、第1回で書いた「税額計算の流れ」における、④税額控除 の前段階部分の規定のことを示しています。

「前条の規定」は、第1回で説明した「贈与税額控除」であり、これは税額控除の各規定を適用させていく順番を定めているものになります。

その「贈与税額控除」までの規定を適用させた金額から差し引く額を定めた第2号が、この規定のキモになる部分です。
ここを理解するには、まず、法定相続分について説明をしなければなりません。上記条文中にも上がっている、民法の規定を確認してみましょう。

法定相続分
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

民法第900条)

ここに定められているように、相続財産に対して被相続人の配偶者が持つ権利は、他の法定相続人が被相続人の子(と、その代襲相続人)の場合は1/2、両親や祖父母などの直系尊属である場合は2/3、兄弟姉妹(と甥・姪)の場合は3/4になります。

そのうえで、配偶者控除で差し引けるのは、被相続人の所有財産に対して課せられる相続税の総額に、課税価額の合計額のうちに次の2つのうちいずれか小さい金額が占める割合を乗じた金額であるとされています。

(1) 相続税の課税価格の総額に、その配偶者の法定相続分を乗じた金額
(その金額が1億6千万円以下であるときは、1億6千万円)
(2) 相続人である配偶者が相続等により取得する財産の課税価格

条文の立て付けに応じて書いたので分かりにくいところもあるでしょうから、分かりやすく言い換えましょう。

要するに、配偶者が相続または遺贈により取得することになった財産に対しては……

① 1億6千万円に達するまでであれば相続税はかからない

② 1億6千万を超えた部分についても、それが「相続税の課税価格の合計額×配偶者の法定相続分」である金額を超えるまでは、相続税はかからない

ということになるのです。

ケースバイケースなので絶対とは言い切れませんが、1億6千万円までは税がかからないというのは、かなりの特典であると言えるでしょう。
ですので、相続税の資産や検討においては、税務面から言えば、これを最大限生かすことを考えることになります。

その一方で、相続等により財産を取得した配偶者が亡くなって、子供達がその財産を相続するという二次相続の段階では「配偶者控除」の適用は無くなります。

ですので、その点も十分に考えて、総合的に税負担が少なくなる形を選ぶのが望ましいと言えるでしょう(つまり、場合によっては最初の相続時に「配偶者控除」の利用を抑える選択肢も出てきます)。

ここの判断はなかなか難しいので、皆さんは、できれば一人で考えずに、税理士などの専門家に相談されることをお勧めいたします。

<3> 適用要件

なお、それはそうだろうなと感じていただけるかと思いますが、このような大きな税額控除を受けるには、当然ですが、いくつかの要件を満たす必要があります。

第2回の最後は、その点について触れておきましょう。

1)法律上の配偶者であること

本規定の適用対象となる「配偶者」は、法的な「配偶者」、つまり正式な婚姻関係にある者でなければなりません

内縁関係などの場合には、適用を受けることはできないのです。

ただし、その婚姻期間には、特に制限が設けられていません。1年前に結婚した者でも、20年前に結婚した者でも、等しく適用を受けられます。
これを悪用して、例えば亡くなる前日に籍を入れればいいのではないかとおっしゃる人もいるかもしれませんが、明らかに税逃れの目的で亡くなる直前に行われた入籍については仮装隠蔽による脱税行為と認定されるでしょうから、そのようなおかしな抜け道は考えてはいけません。

2)申告書を提出すること

本規定の適用を受けようとする納税者は、**相続税の申告書を提出しなければなりません**。

相続税法の規定上、相続財産の総額が、相続税基礎控除額以下である等で最初から申告書の提出が不要とされていますが、仮に「配偶者控除」の適用をした結果、納税額が0円になるような場合には申告不要には該当しません。
これは、特例を使って納付税額が0円になるのであれば、「その特例の適用を受けることを選択した」ことを税務署に対して申告しなければいけない、ということだと理解していただければいいでしょう。

3)申告期限までに遺産分割が完了していること

配偶者が確かに取得するということが決まっていない財産については、この規定の適用は受けられません。

では、申告書の提出期限において、まだ遺産分割協議がまとまっていない場合はどうするのかというと、いったん、法定相続分で分割が行われた形での仮申告を行うと同時に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出することになります。
この書類を出しておくことで、申告書の提出期限から3年以内であれば、分割協議が固まった時点で再度申告書を提出することで、本規定の適用を受けることが可能です(ただし、この場合、最初の仮申告の時点では「配偶者控除」を未適用としておかなければなりません)。

以上、少し駆け足ですが、「配偶者に対する相続税額の軽減」に関する概要説明でした。
次回は税額控除の3番目と4番目、「未成年者控除」と「障害者控除」について、説明をさせていただきます。

高齢化社会に日本が突入しつつある現状において、大きな注目を集めることになる税目である、相続税

相続税については、これまでに、そもそもどういう税目なのか、どういう時に課せられるのか、何が課税対象になるのかといったようなこと、そして非上場企業の株価や様々な土地の評価額等について、どのようにその価値を算定するのかといったようなことを書いてきました。
今回からは数回に分けて、相続税の税額計算に関するさらに先の項目、「税額控除」についてご説明をしていきます。

<1> 税額計算の流れ

最初に、税額算出の大まかな流れを確認します。
全ての税目が必ずしもその通りだというわけではありませんが、税額の計算というのは、概ね次のような流れで行われます。

① 課税される対象となるものを特定します
法人税所得税などの利益課税の税目であれば、その課税期間の課税所得を計算しますし、固定資産税や相続税贈与税といった資産課税の税目であれば、課税対象となる資産を特定し、評価を行って課税対象となる金額を算出することになります。

② 課税される金額を決定します
①で算出した金額について、その金額を引き下げることができるような様々な規定を検討し、適用できる特例等があれば適用をさせて、税率を乗じることになる金額である「課税標準額」(相続税の場合は「課税価格」と言います)を確定します。
例えば、所得税でいえば「生命保険料控除」や「医療費控除」「基礎控除」等の所得控除項目、相続税でいえば「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(「小規模宅地等の特例」)や「基礎控除」が、ここで反映させるべき計算項目ということになります。

③ 税率を乗じ、税額を計算します

②の「課税標準額」「課税価格」に、各税法で規定されている税率を乗じて、税額を計算します。この段階で、納税者が納付すべき金額が一旦算出されるわけですが、状況に応じ、ここに更に調整を加えることがあります。

④ 税額控除を加味して、最終的な納税額を確定します

税法には、種々の理由により、一度算定された税額を直接控除できる特例が定められていることがあります。

そのうち、皆さんにとって一番身近であり「それなら聞いたことがある」と言っていただけるものは、所得税の「住宅借入金等特別税額控除」、いわゆる「住宅ローン控除」でしょう。
今回は所得税の話が本題ではないので敢えて細部を端折って簡単に説明しますが、「住宅ローン控除」とは、一定の要件を満たす住宅を取得した人が、その取得資金を金融機関からの一定の住宅ローンでまかなっていた時に、その年末時点での残高に応じて一定額、税金が減額される制度になります。

なお、相続税の場合は、上記の③と④の間に、亡くなった者(被相続人)が所有していた財産に係わる相続税の総額を算出したのちに、その財産を取得した相続人、受贈者に対し、(簡単に言えば)それぞれの者が取得した財産の価格の比率で案分を行って、個々の負担すべき相続税額を計算するという作業が入ります。

そういった細かい部分での違いはありますが、おおむね、この①から④への流れが、税額計算の一般的な手順だとお考え下さい。

<2> 相続税の税額控除

さて、そのうえで、今回のテーマである、相続税の税額控除です。

<1>の流れで言えば、④の部分ですね。

相続税法では第19条から第20条の2にかけて、全部で6つの税額控除を規定しています。

これ等は「2重課税の排除」「政策的な配慮」という2つの目的から定められているとされています。

具体的な説明に入る前に、まず、各控除の一般的な名称を列記してみましょう(各名称の後ろの括弧は、相続税法の条文番号です)。

  1. 贈与税額控除(第19条)
  2. 配偶者控除(第19条の2)
  3. 未成年者控除(第19条の3)
  4. 障害者控除(第19条の4)
  5. 相次相続控除(第20条)
  6. 国税額控除(第20条の2)

このうち、①、⑤、⑥の3つが2重課税の排除②、③、④の3つが政策的配慮から設けられた規定と言えます。

これ等の税額控除のほとんどのものについて、名称を見ただけでもその内容を推し量ることができるかと思います。

ですが、例えば⑤の「相次相続控除」などは、相続税の知識のない人はこの名前だけではどういうものだか分からないのではないでしょうか。

<3> 贈与税額控除

第1回である今回は、贈与税額控除」について説明します。

1) 相続税贈与税の関係

所得税法法人税法消費税法その他、税法は基本的にどれも1つの法律が1つの税目(税金の種類)について規定している「1税法1税目」の内容となっています。

一方、相続税法の大きな特徴として、この税法が、「相続税」と「贈与税」の2つの税目について規定している、「1税法2税目」という他には見られない規定となっていることが挙げられます。

相続税贈与税も、どちらも財産の移転に対する課税というのは同じです。

税法の名前からもわかるように、この2つのうち、主となるのは財産の所有者が亡くなった際の移転に対して課税される**相続税**です。

そして、所有者が存命中に行われる財産の無償移転に対して課税する**贈与税**は、それを補完する税目という位置づけにあります。

相続税には「富の再分配」「格差の固定化防止」の機能があると言われています。

この点について財務省のホームページでは以下のように説明しています。

<Q&A ~身近な税について調べる~>
相続税があることにより)相続した財産の一部を国に納めていただき、広く社会のために使うことになるので、相続税には、資産を再分配する機能があります。また、相続した財産が大きいほど相続税額は大きくなるので、生まれた家庭の経済状況による差を縮小させ、格差の固定化を防止する機能もあります。(括弧内は筆者補足)

https://www.mof.go.jp/tax_information/qanda021.html

現実の相続税がそのような機能を充分に果たせているかは意見の割れるところではありますが、一般に、相続税の課税根拠はここにあるとされます(不労所得に対する課税という点も課税根拠に含まれることがあります)。

ここで、財産を所有する者が亡くなった時に、その財産を引き継いだ相続人等が課税されるのであれば、それ以前に(存命中に)財産を移転してしまえば税金を納めなくて済むのではないかと思われるかもしれません。
そのような抜け道を防ぐ為に、生前の財産移転に対して課税する贈与税が規定されています。
その為、贈与税相続税を補完する税目である、とされるのです。

2) 生前贈与加算

このことが顕著に表れているのが、相続の発生(被相続人の死亡)した日から7年前(令和5年12月31日以前の贈与に関しては3年前)に被相続人から相続人及び受贈者に対して行われた贈与については、その贈与時の価額でもって相続財産に加算するとする、**相続税法第19条第1項の規定です。
これを、
「生前贈与加算」**と言います。

条文を確認してみましょう。

<相続開始前七年以内に贈与があつた場合の相続税額>
相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前七年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産(略)の価額(加算対象贈与財産のうち当該相続の開始前三年以内に取得した財産以外の財産にあつては、当該財産の価額の合計額から百万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし、第十五条から前条までの規定を適用して算出した金額(当該贈与により取得した財産の取得につき課せられた贈与税があるときは、当該金額から当該財産に係る贈与税の税額(略)として政令の定めるところにより計算した金額を控除した金額)をもって、その納付すべき相続税額とする。

相続税法第19条第1項)

先に書いたように、令和6年1月1日以降の贈与については加算する期間が7年となっているのですが、同時に、3年から7年に延長されたことで増えた部分、つまり4年前以前7年前以降に行われた贈与のうち、総額で100万円に達するまでの金額は加算対象にならないことも規定されています。

贈与税には年間110万円の基礎控除があるので、これを活用する形で毎年贈与を行っていくことは相続税対策として定番ともいえるものでした。

ですが、令和6年の改正で加算される範囲が一気に増えたことで、従前のままの利用はできなくなったという見解もあります。

改正の影響がどの程度のものにせよ、毎年110万円以下の贈与を行っていくという相続税対策については、これまで以上に、慎重に、事前検討をするべきになったというのは、間違いないでしょう。

また、この生前贈与加算については、**相続税法第21条の6に規定されている贈与税配偶者控除」**の対象となる贈与については、その適用により控除されることになる金額(既にこの規定の適用を受けている場合のその金額と、まだ適用を受けたことのない者が相続の発生した年に規定の適用を受けようとした場合に控除されることとなる金額)を加算の対象としないことが、上記条文の( )書きで省略した部分と第2項に規定されています。

贈与税配偶者控除についての説明は今回の本題ではないので、詳細な解説は致しませんが、誤解を恐れずにごく簡単にいえば、婚姻期間が20年以上となる夫婦間で行われた居住用不動産の贈与に関しては2,000万円を上限として、課税価格を減額するという内容です。

さて、相続発生以前に贈与により移転されていた財産を相続財産に加算して、相続税の課税対象とするのはいいとして、既にそれ等の財産に対して贈与税が課税されていた場合はどうなるのでしょうか。
同一の移転に対して、贈与税相続税が両方とも課せられるのは、明らかなる2重課税ですよね。

そこで相続税法第19条第1項は、「当該贈与により取得した財産の取得につき課せられた贈与税」を控除した金額を「納付すべき相続税額とする」として、相続税の納税額に関し、「生前贈与加算」の対象となった贈与の時点で既に納付済みの贈与税は、その財産を取得した者の納付すべき相続税から控除すると規定しています。

つまり、贈与時に納めていた贈与税を、いわば相続税の前払であると捉え、相続税の納税額からマイナスすることで、2重課税状態になることを回避しているのです。

3) 相続時精算課税

生前贈与加算における相続税贈与税額控除に似ているものとして、「相続時精算課税分の贈与税額控除」があります。

相続時精算課税というのは、**相続税法第21条の9から第21条の18**において規定されている制度です。

一定の要件を満たす贈与については、最終的に相続財産として相続税の計算に含める(下記、110万円の基礎控除部分については相続財産への加算額から除外)ことを前提に、贈与税の計算上、累計で最大2,500万円までの非課税枠と、税額の簡便な計算(対象となる財産の価格にかかわらず、一律20%の税率で計算します)を行えるものとするというのが、その内容です。

また、令和6年1月1日以降に行われた贈与については、上記 2,500万円の非課税枠とは別に、それぞれの年の贈与額から、暦年贈与と同様の**110万円の基礎控除**が差し引かれます。

この説明だけでは何のことやらよく分からないかもしれません。

ただ、この制度についてもしっかりと説明を行おうとすると、それだけで3回くらいは使ってしまううえに、今回のテーマである「相続税の税額控除」とは異なる話題になってしまいますので、申し訳ありませんが、詳細な説明は、別の機会に回させていただきたいと思います。

相続時精算課税の対象となる贈与で納めた贈与税についても、当然ですけれども、相続税額からの控除項目になります。
しかし、これについては(どこかで相続税の申告書第1表の書式を見ていただければわかりやすいのですが)税額の計算方法上、<2>で列記した6つの税額控除項目の差し引きを行った後に、改めて控除を行うという流れになっています。

つまり、表面上は税額控除の「贈与税額控除」と同じことが行われているものの、両者は全く異なるものということになるのです。

一般の方はそこまで厳密に考える必要は無いとは思いますが、例えば現在相続税法の勉強をしている税理士試験受験者の皆様などは、この2つは明確に区別するようにしてください。

今回ご説明させていただくのは、いわゆる「倒産防止共済」、正式名称「中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティー共済)」の掛金に関する取扱いの、今年10月以降の改正点です。

この改正について解説をしている記事、動画はネット上に多々ありますが、内容的に不十分と感じるものもあり、私としても、ここで一度、簡潔にこの制度と改正について書いておかなければいけないかと思った次第です。

1)倒産防止共済とは

まず、この制度を管轄している中小企業基盤整備機構のHPに掲載されている説明を、以下に引用してみます。

経営セーフティ共済中小企業倒産防止共済制度)は、取引先事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。 無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れでき、掛金は損金または必要経費に算入できます。

つまり、この共催で機構に掛金を積んでいる(上限800万円)事業者がいて、その事業者につき、例えば売上先が倒産して売掛金の回収ができなくなった場合に、連鎖倒産を防ぐという意味合いから、積み立てられている掛金の10倍までの借入を機構からすることが可能になるのです。

事業者は、その借入金を運転資金に用いることで、売上先の倒産の巻き添えで自身の事業も立ち行かなくなってしまうということを、一定部分回避できる、というわけですね。

一方で、この掛金は任意解約を行えば返金を受けることができます。

ただ、加入から40ヶ月未満で任意解約をした場合には、その支給額はそれまでに支払った掛金の総額を下回る……つまり、元本割れの状態となってしまいますので、そこは要注意です。

そして、この制度の大きな特徴として、全額が積立になるというような制度であるにも関わらず、この「倒産防止共済」に加入して支払った掛金は、損金(法人税法)または必要経費(所得税法)としての参入が認められています。

これにより、支払った掛金の分だけ、課税所得を減らせます。

一方で、解約などして支給額が発生した時には、その支給額が課税所得となりますから、この損金・必要経費への参入は「課税の繰り延べ」に過ぎないと言うこともできるでしょう。

とはいえ、掛金を支出することで手元のキャッシュが減っていることを考えれば、課税が繰り延べされることは確かに有難い話でもあります。

基本的には、資金的に余裕があるときに限度額までの積み立てを行い(その分の税金を圧縮し)、取引先の倒産があった際に借入を受ける又は解約を行うか、代表者交代で役位退職金が発生するなどの多額の支出が予定されている時に解約をする、というようなものが、この制度について想定される運用でした。

2)節税策としての利用の増加

中小企業庁が公開している資料(以下のリンク先を参照ください)にも書かれていることなのですが、この制度の、損金算入ができるというところと、掛金が800万円まで積めるというところに着目をした節税策としての利用事例が増えてきているということが、近年、問題視されるようになってきていました。

このことは、令和6年1月11日に中小企業基盤整備機構が開催した第22回共済小委員会の配布物(資料2:中小企業倒産防止共済制度の不適切な利用への対応について」)でも、確認することができます。

www.chusho.meti.go.jp

詳述は避けますが、例えば大きな経費が発生する年に任意解約をし、またすぐに加入しなおして、累計800万円までの損金算入枠を再度上限まで利用する、というような、任意解約と再加入を繰り返すような使い方が濫用されるようになっていることが、データからもうかがえるようになっています。

それは、冒頭に書いた制度の本来の趣旨とは異なるうえに、共済制度の財政基盤を危うくしかねないことであり、そのことから、任意解約後の再加入には、一定の制限を付さねばならないのではないかという議論が出てきました。

3)令和6年10月以降の改正

今回の改正により、令和6年10月1日以降、倒産防止共済を解約した直後の一定期間(2年)内の再加入があった場合に、解約から2年が経過するまでの間に支払った掛金については、法人税法上の損金/所得税法上の必要経費に算入できないこととなります。

「再加入ができない」のではありません。

再加入自体はできるのですが、解約後2年以内に支払った掛金は損金/必要経費としては認めない、ということです。

これは、2年が経過したら認められるという話では無く、そもそも該当する掛金については節税効果が認められないのです。

こうすることで、解約、即再加入、また解約、再加入、というような節税策感覚での利用に、一定の歯止めをかけようというわけですね。

この改正が、中小企業基盤整備機構の考える制度の濫用防止にどれほどの効果があるのか、加入する事業者側の制度利用はこれを受けて変化するか、それは、これからの状況推移を見ていかなければわかりません。

ただ、機構の狙い通りになっていくにせよ、なりはしないにせよ、制度改正自体は10月から開始されます。

ですので、現在倒産防止共済に加入している事業者、あるいはこれから加入しようかと思っている事業者は、再加入時の損金算入について「2年縛り」が規定されたということを、記憶にとどめておいていただければと思います。