立憲民主党代表選に見る野党共闘の行方、〝保守中道大連合〟は形成されるか、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その38)、岸田内閣と野党共闘(103) (original) (raw)

9月23日投開票の立憲民主党代表選がいよいよ最終盤に差しかかった。先日の拙ブログでは、枝野氏が〝保守中道路線〟に転換した結果、野田氏との間には基本政策上の違いがなくなり、立憲民主党の立ち位置が全体として「右寄り」に移動したと書いた。その後、両氏の政策をより詳しく比較してみたがさしたる変化はなく、両氏の政策の共通項が次期衆院選のマニフェスト(政権公約)に集約される公算が大きい。

毎日新聞(9月14日)は、立憲代表選の主要政策を「政治とカネ」「原発」「安保法制」「消費税」の4点に亘って取り上げ、各候補者の主張を比較している。それぞれの見出しは「政治とカネ=自民と差別化強調」「原発=公約に『ゼロ』1人のみ」「消費税=民主下野招いた鬼門」「安保法制=『継続』と『見直し』二分」というものだが、ここでは野田・枝野両氏の主張に絞って考えてみたい。

まず「政治とカネ」の問題については、両氏とも「政治改革」の最大課題として位置づけ、自民党との対決点に据える点では一致している。企業・団体献金の禁止や政策活動費の廃止などを基本にして、政治資金パーティーに関しても厳しい姿勢を打ち出している。なかでも野田氏は「政治とカネ」の問題が生じる根源に「国会議員の世襲制」があることを指摘し、世襲議員が跋扈する自民党批判に繋げようとしている点が注目される。

「原発」については、立憲民主党の綱領に「原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会を一日も早く実現する」とあるにもかかわらず、両氏とも「原発ゼロ」という表現を注意深く避けているのが特徴的だ。毎日新聞はその背景について詳しい分析をしていないが、日経新聞(9月17日)はこの点「立民、原発巡り現実路線、『即ゼロ』印象払拭狙う」とズバリ指摘している。政権担当能力を示すために「原発ゼロ」を強調するのではなく、再生可能エネルギーを増やして徐々に原発への依存を減らしていくと言う「現実路線」への転換である。また電力総連の組織内議員を抱える国民民主党と共闘するには、大っぴらに「原発ゼロ」を打ち出せないという事情もある。

消費税を巡っては、両氏とも「現状維持」で足並みを揃えている。何しろ野田氏は民主党政権時代にマニフェストにもなかった消費税率の値上げ(5%から10%)を自公民3党で合意した元凶であり、今さら口が裂けても「税率引き下げ」など言えるはずがない。枝野氏も立憲代表として臨んだ2021年衆院選で「時限的減税」を公約に掲げて敗北したことから、その後は慎重になっている。つまり、「政治とカネ」「原発」「消費税」の3点については野田・枝野両氏の間には政策上の大きな違いはないのであり、残るは「安保法制」の継続か、見直しかの1点になる。

野田氏は「安保法制をすぐに変えるのは現実的でない」「政権を取って百八十度政策転換なんてことをやったら、国際社会から相手にされない」との立場で、集団的自衛権の行使を認めた安保法制の「継続」の立場だ。これに対して枝野氏は、安保法制の内容は憲法上認められる個別的自衛権で対応できるとし、安倍政権の閣議決定を見直すことを主張する。しかし、中国や北朝鮮などによる日本周辺での軍事活動が活発化する中、日米同盟を重視する点では完全に一致している。

問題は意図的かどうか別にして、毎日新聞がこの特集で「野党共闘」を主要政策の中に取り上げていないことである。一方、朝日新聞(9月18日)はこの点に絞った特集記事「共産、選挙協力に黄信号? 安保法制の立場めぐり 立憲と距離間」を掲載した。この中で野田氏は「共産とも対話のチャンネルは作っておくべきだ。ただ、同じ政権を担うことはできない。というか、すべきでない」、枝野氏は「党対党で包括的に選挙協力するのは誤解を招く。地域の中での積み重ねに基づいた部分的な連携にとどめるべきだ」との立場を明確にしている。要するに、2021年衆院選で共産と結んだ「限定的な閣外からの協力」といった包括的政策協定に基づく選挙協力はやらないということなのである。

これに対して、共産党の小池書記局長は国会内の記者会見で激しく反論した(要旨)。

――日本共産党の小池晃書記局長は3日、国会内の記者会見で、立憲民主党の代表選を巡り、政権についても集団的自衛権の行使を認める安保法制=戦争法を変えないなどの議論が行われていることに関し、「安保法制の廃止は野党共闘の一丁目一番地だ。この原点を否定するのであれば共闘の基盤が失われる重大な問題だ」と述べました。また、前回総選挙での共闘が失敗であったかのような議論が一方的に行われていることについても、「これまで協力を重ねてきたことに対する誠意も敬意も感じられない議論だと思う」と語りました。小池氏は「市民と野党の共闘の再構築にために可能な努力は行っていくが、来る総選挙では日本共産党の躍進に向けて、脇目も振らず進んでいくことが大事だ」と語りました(赤旗9月4日)。

――日本共産党の小池晃書記は10日、国会内で記者会見し、立憲民主党の代表選の候補者から、日本共産党との共闘によって〝立民の目指す社会像が見えにくくなった〟などの発言が出されていることについて、「それを『共闘のせい』だというのはお門違いだ。共闘の中で自分たちのビジョンを示すのはそれぞれの党の責任だ」と指摘しました。さらに小池氏は、立民と国民民主党との距離が一番近いという代表候補者の発言にも言及。国民民主は憲法改定や原発再稼働を強く要求しているとして、この党と一番近いという距離感は「理解できない」と述べました(赤旗9月11日)。

そして9月17日、中央委員会常任幹部会としての「総選挙勝利を正面にすえた活動にきりかえることを心から訴えます」の声明においては、野党共闘には一言も触れずに総選挙への決起を呼びかけた(赤旗9月18日、要旨)。

――全党のみなさん。常任幹部会は、現在の情勢を分析し、早期に解散・総選挙が行われる可能性が高まったと判断しました。いま強く訴えたいのは、全有権者を対象にした総選挙勝利のための宣伝・組織活動を飛躍させることに総力をあげながら、その根本的土台となる党員と「赤旗」読者の拡大を進める――総選挙勝利を正面にすえた党活動に全党が一気にきりかえることです。

おそらくこの時点で、共産は野党共闘を断念し、単独で戦うことを決意したのだろう。その後、共産は立憲の立候補者予定者がいる衆院小選挙区で候補者の擁立を進めている。9月17日現在、次期衆院選で共産が公認を内定した小選挙区は150,少なくとも88選挙区で立憲と競合しているという(朝日新聞9月18日)。立憲の中には共産との連携で当選した議員もいるだけに、立憲がこのままで総選挙に臨むのか、それとも地域ごとに共産との選挙協力を進めるかは、現在のところまだ予測がつかない。

立憲代表選では野田氏の優勢が伝えられている。となると、次期衆院選では国民民主はもとより維新も含めた〝保守中道大連合〟が形成されるかどうかが次の焦点になる。当初、野田氏は維新との連携に楽観的だったようだが、兵庫県知事のパワハラ疑惑問題を機に情勢は劇的に変化している。日経新聞の世論調査(9月13~15日実施)によると、維新の9月の政党支持率は5%に過ぎず、直近の6月調査の9%から4ポイント急落した。維新が地盤とする関西圏(京都、大阪、兵庫、奈良の4府県)では、6月の22%から7月は13%に急落し、9月は12%だった。日経新聞は「対応遅れた維新、国政に飛び火」と見出しでこの変化を大きく伝えている(日経新聞9月20日)。

斎藤兵庫県知事の不信任決議が9月19日に全会一致で可決された。しかし、知事が失職を選ぶのか、県議会の解散に踏み切るかは予断を許さない。「鉄仮面知事」と称される斎藤氏の真意はその表情から読み取ることができないからである。(つづく)