「起」-3 ~検診でのザワワ~ (original) (raw)

マイホームにきてからもう半年が経った。

父、母、姉との4人暮らしにもすっかり慣れ、私は日に日に目覚ましい成長を遂げている。

すくすく育つ私と姉を、父と母は相変わらず温かく、見つめてくれている。

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さて、この世界に降り立ち、半年もたつと、私と同じくらいの「赤ちゃん」が集まる「検診」を受けなければならないらしい。

この世界に適応し、丈夫な体が作られているかをチェックするためのものだ。

あ、そうだ、「ちいさいの」は子供もしくは赤ちゃん、「おおきいの」は大人というらしい。

この半年で学んだ。自分の理解力の良さが恐ろしい。

今までも何度か「検診」というのには参加したことがあり、私はそれらを難なくクリアしてきた。寧ろ私の腕や足を見て大人は、ちぎりぱんだのボンレスハムだの言って、そのたくましさをうらやましがるのだ。

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すくすくいい子に育っているのだから、今日の健診も問題なくクリアするだろう。

母に抱かれて私は検診に向かう。

以前よりも母は私を抱き上げるのに力を要するようだ。

健康に育っている証拠であるが、若干すまない気持ちになる。

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会場に着くと、いつもの大人たちが我々を出迎え、丁寧に私の顔を覗き込んで挨拶をしてくれる。

今後も付き合っていくだろうから、ひとつ、笑顔をサービスしておく。

大人たちは私の笑顔に頬を緩め落とす。

私は天性の世渡り上手かもしれない。

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検診が始まった。

大抵は以前と変わらない内容。

しかし、今回から「超音波」という検査が追加されたらしい。私はよくわからないが、赤ちゃんに拒否権はないので、されるがままに体の隅々まで観察してもらう。

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ひんやりとするジェルを塗りたくられ、ヌメヌメスルスルと超音波の検査を受ける。

黙って検査を受けているだけなのに、「いい子だねぇ」と褒められる。こそばゆい。

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検査も終盤に差し掛かったころ、「超音波」を操作していた大人が「ん?あれれ?」と、こちらの不安を煽る声を上げる。

なんだ、私のパーフェクトベイビーボディになにかあるのか、と心配になる。

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「うーん、ここにあるはずの腎臓が見えませんね…。」

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何を言っているのか、さっぱりわからない。

しかし、その大人の表情と母の顔つきを見る限り、あまりよくないことらしい。

母は大人が指さす白黒の画面を見て、目を泳がせている。動揺しているのだろう。

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今まで完璧に乗り超えてきた「検診」でついに脱落か…と悔しさにふけっていると、

「紹介状を書きますから、一度設備が整ったところでしっかり見てもらってください。」と大人が言い、何やらペンで文字を書き込み、その紙を封筒に入れて渡してくる。

母は動揺しながらも「わかりました」と受け取る。

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しばらく真剣な面持ちで大人と母がやり取りを交わした後、母に抱かれて「超音波」の部屋を出る。

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私を抱く母の腕が少し震え、いつものドクンドクンのテンポが少し早い。

きっとなにか心配をかけてしまっているのだな、と察する私。

それでも私に「よく頑張ったね、いい子だったね」と笑顔で語りかけてくれる

なぜだかわからないが、その表情に胸がぎゅっと締まるような感じがして、私は思わず涙を浮かべてしまう。

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そんな私を笑顔であやしながら、母と私はゆっくりマイホームへと戻っていく。

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ザワワ…。

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当時のこと、明るく話してくれる母だけど、きっとたくさんの心配をかけてしまったんだろうな、とふと思います。

生後半年にして、早くも試練が訪れたのかもしれません。

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続く