自民党による18歳選挙権の啓発パンフレット『国に届け』の、薄っぺらく男尊女卑な漫画について (original) (raw)

雑なパンフレットをどのように読むかという問題

薄い漫画なのに無駄な描写が多すぎる

漫画の内容はというと、遅刻して職員室に呼び出されるような「バカ」な少女の安田アスカが、生徒会長をつとめる「イケメン」な少年の浅倉と共通の話題をさがして、選挙について学ぶというもの*2

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ややラフな絵柄だが、同年代でも体型と顔立ちを描きわけているところはいい。コマ割りの技術も悪くない。
しかし高校生なのに「さんいんナントカって私も行けるんだっけ!?」*3と浅倉に問いかける場面など、とにかく主人公の無知っぷりが強調されている。

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背景の少女ふたりは内心でツッコミを入れているが、正確な情報を指摘しているわけではない。ふたりも選挙についてよく知らないという読みもできてしまう台詞だ。
こうして無知な少女が知的な少年に導かれるという構図のまま漫画が終わる。いかにも自民党らしい男尊女卑な漫画と評されるゆえんである*4

表紙や座談会などの後半をのぞけば実質8頁と短い漫画だが、男女比を整えることは難しくない。たとえば浅倉と会話している佐藤を、優等生の少女にでも設定するだけでいい。
佐藤というキャラクターは、浅倉につきはなされた主人公の疑問に答えたり、優しくフォローする立場だ。しかし結末に3人で選挙へ行くことになっても、主人公が佐藤を見直すこともなければ、邪魔者に思うことすらない*5

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最後まで教え導く立場を分担するだけの無色透明なキャラクターで、ただでさえ薄い頁数を無駄に使ってしまっている。安田が目うつりしたり、三角関係になったりすることはない。
ここで佐藤を少女に設定すれば、主人公がふたりの関係を疑うという発端から、会話に聞き耳をたてて共通の話題を持とうとする動機につなげやすいだろう。そして優しくフォローしてくれる少女に好感度が反転すれば、同じように3人で選挙へ行っても、主人公が男女関係にとらわれたままという結末にはならない。発端が何であれ、知見を広げて選挙そのものへ興味をもつという物語になるはずだ。
設定だけして物語において機能していないのは浅倉もそうだ。生徒会長という立場どころか、母親が議員をしている*6という情報も台詞で語られただけで終わる。ただでさえ頁数が少ないのだから、ここは佐藤も生徒会役員にするべきだろうし、選挙の描写に浅倉の母親もからめるべきところだろう。たとえば浅倉母の政党に投票すると主人公が軽く考えて、そのような判断で投票するべきではないと浅倉に批判される描写くらいはほしい。

さらにいえば、主人公が遅刻する導入から、物語における必然性が足りない。いかにも少女漫画らしいパターンとして深く考えずに描いただけのよう。
一応、結末で浅倉や佐藤より早くきており、主人公の成長を演出していると読むことができる。しかし頁数に余裕がないので、すぐ次のコマで別の話題にうつってしまった*7

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そこで語られる判断が「私なりに理念とか志とか調べたもん!」という漠然とした台詞だけなので、「へぇ、えらいね!」などと賞賛されても、あまり成長したように感じられないのであった*8。ここは投票期間に間にあわなくなるという会話を1コマはさんでほしい。

宣伝するべきものが違うから、進研ゼミのような漫画にしても効果がない

そもそも、この漫画において主人公が「バカ」である意味はない。あまりに無知すぎて教えられたり学んだりする情報量が少ないし、さすがに自民党をそのまま推すような具体的な政策論は描かれない。

これが教材宣伝漫画であれば、低かった成績が良くなり、恋愛や趣味などの生活と両立するという展開にこそ意味がある。
つまり選挙啓発漫画として意味のある展開というと、学校という閉じられた空間に生きていた主人公が、開かれた社会に興味を持つといった物語になる。
いっそ学校の成績にしか興味のない優等生を主人公にしてもいいくらいだ。

たとえば、優等生な主人公は、不良が政治パンフレットを真面目な顔で読んでいる姿を見かけて、好奇心から追いかけるという導入はどうだろう。
不良というのは思いこみで、家族をささえるため学業よりアルバイトを優先して、大学進学をあきらめていることを主人公は知る。不良の家庭で夕食をごちそうになりながら、政治が生活に直結する世界を主人公は実感する。そして見下していた不良が先に大人になっていることを痛感して、意味がないと思っていた選挙にも興味をもっていく……という物語はどうだろうか。
この優等生と不良のように対等の関係ならば、男と女、女と男、男同士、女同士、どのような性別でもなりたつだろう。パンフレットに使えるような漫画にできるかはともかく。

漫画の外で、実際の自民党は何をいっているのか

それはさておき、パンフレット後半の、未成年を呼んでの座談会も読んでみた
「核心をつく質問にタジタジの場面も」といいつつ、そこは政党パンフレットなので自民党をフォローする内容なのはしかたないところか。
しかし、牧原秀樹青年局長の発言がなかなか味わいぶかい。たとえばアベノミクスを手放しで賞賛しているのだが*9

消費拡大という点から見ると三重苦の時代です。
にもかかわらず、現状はアベノミクスが功を奏して、景気は以前より好転してきています。とくに雇用の面では、失業率は大幅に低下、有効求人倍率は過去最高水準。

後戻りせずにこの勢いを維持し、今後どうやって地方に景気の波を波及させていくか、いま抜本的な対策を練っています。

しかしどのような候補者を選ぶべきかという質問に対しては、財源問題を持ちだす。アベノミクスはリフレ政策ではなかったのか*10

日本はいま時代の曲がり角にあります。少子化の一方で、高齢化が加速し、財政の赤字はふくらむ一方です。

わかりやすい主張をすることは大事だけど、面白いことを言ったり、甘いことを言うだけでは無責任ですね。財源の裏付けもないのにあれをやります、これもやりますという政党は注意したほうがいい。それと、むしろ厳しいことを正直に言う候補者に注目してもらいたいですね。

さらに牧原秀樹facebookを見ると、18歳選挙権にからめて教育現場の情報を求めていた。
牧原 秀樹 - 私の甥が行っている小学校で、絵画の演題が「戦争反対」だったそうです。もちろん法案審議中の頃で政治的意図... | Facebook

私の甥が行っている小学校で、絵画の演題が「戦争反対」だったそうです。もちろん法案審議中の頃で政治的意図が明らかな状況でした。偏向的な文言入りの文具を配ったと北海道で問題になっていますが、偏った公立での教育は大問題です。もし、その他の実態をご存知の方がいらっしゃれば教えて下さい。18歳選挙権前に公的な教育現場における偏った政治思想の子どもたちへの押し付けは無くすようにしないといけないと思います。

パンフレットのQ&Aに「有権者が増えることが最大のメリット、課題はありますがデメリットはありません」*11という記述があるが、これが自民党の考える「課題」の正体だろうか。
牧原秀樹facebookは、台湾で交流した時のポストも味わいぶかい。教育や若者から遠ざけるべきと思うしかない歴史観だ。
牧原 秀樹 - 感動しましたし、考えさせられました。台湾の2日目、戦前生まれの多くの方にお会いしました。日本人として生... | Facebook

戦前生まれの多くの方にお会いしました。日本人として生まれ、素晴らしい教育を受けたのに、228事件ではひどい虐殺もあり、いつの間にか中華民国人にさせられ、独立もできない。未だに日本人の恩師には感謝し、日本で出会った地域の皆様に感謝し、お子様たちと交流もある、とのことでした。慰安婦のことも、あの時代を生きていた私たちからすれば、みんなが必死で、一途で、強制とかではなく、それで生き、家族も養うしかなかった。自分たちのところにも社会団体が来て強制労働と証言させようとしたが、私たちは断固自らの意志だったと否定した、ということを仰っていました。戦争のことはそれを本当に経験した当事者でなければ本当のことは分かりません。フィルターを通さない生のお話を伺う大切さを感じ、日本人としての誇りを感じた日となりました。

あえて事実関係は問わないが、228事件があったというなら、せめて霧社事件*12にもふれるべきだろう。
それに「日本人として生まれ」の後に「独立もできない」と主張したり、「日本人として生まれ、素晴らしい教育を受けた」の後に「慰安婦のことも、あの時代を生きていた私たちからすれば、みんなが必死」と主張するのは、はたして両立するのだろうか。