二酸化炭素を減らすと部屋が寒い (冬なので) (original) (raw)
扉の反対側にある窓を「全開」にした。
生まれた「流れ」は二酸化炭素濃度を低下させる。
まあ、ちょっぴり寒くなるが。
「換気」と「寒気」
部屋が寒い。
2021年12月26日の室温
1日の大半が15℃以下。朝起きる時だけは暖房を入れているのでそれなりに上がるが*1、日中は基本的に暖房を入れていない。だから寒いのである。
なぜ日中に暖房を入れないのかというと、二酸化炭素濃度の上昇を抑えるためだ。もちろん地球全体の話ではない。俺の部屋の中の話である。室内の二酸化炭素濃度の上昇を抑えるために、部屋のドアは開けっ放しがデフォとなっている。だから暖房を入れる気にならないのだ。
部屋のドア
こんな生活を送るようになったきっかけは、今年の4月に**二酸化炭素濃度測定器 (CO2センサ)**を買ったからである。
導入してみると、思っていた以上に二酸化炭素濃度は簡単に高まることが分かった。よく「こまめに換気しろ」と言うが、これはなかなか面倒だ。いろいろ試すうちに、部屋のドアを開けっ放しにしていれば、じっとしている分には基準値以下を維持できることが判明した。だから暖房を入れずに過ごしているのである。
ということで今回は、部屋の二酸化炭素濃度に関する知見を共有する。
部屋では「1,000 ppm以下」を保て
室内の二酸化炭素濃度を管理したければ、以下の「3つの数値」を覚えておくと良い。
基本的には1,000 ppm以下を目指すように管理し、1,500 ppm以上になったら早急に換気を行う。400 ppm付近になったら、ほぼ下限であると考えれば良い。
これらの基準値は生産性や健康の観点から出されたものである。二酸化炭素濃度の人体への影響については、無料で読めるものだと以下の論文がいい感じにまとめてある。
この論文によれば、二酸化炭素濃度が500 ppm以上になった時点で心拍数や血圧に変化が生じるという。さらに700 ppm以上 でシックビルディング症候群*5の症状が増加し*6、1,000 ppm以上では認識能力の低下が生じるとされている。
こういった影響を考慮して建築物環境衛生管理基準では二酸化炭素濃度を1,000 ppm以下と定めているわけだが、この基準値は他国でも同様である。上の論文で紹介されたものでは、カナダ、シンガポール、ノルウェー、中国、韓国、ドイツ、台湾が例として挙げられている*7。
とりあえず1,000 ppm以下が基準値であることは分かった。ではどうしたら1,000 ppm以下を維持でき、何をしたら超えてしまうのか。以降で俺の部屋の実測値を紹介しよう。
『CO2センサ』は部屋の二酸化炭素濃度を「可視化」する
上で貼ったように、俺の住居は1Kであり、二酸化炭素濃度を計測している部屋は8帖である。
二酸化炭素濃度の測定場所
寝たり運動したりするのは上の図のアイコンのあたり、デスクワークはCO2センサの近くである。
【2021/12/27 追記】
俺のアパートは2000年に建てられた。つまり24時間換気システムの設置が義務付けられた2003年の改正建築基準法より前であるため、部屋に24時間換気システムが無い。それを踏まえた上で読んでもらいたい。
人は寝ている時も「呼吸」で二酸化炭素を排出する
部屋の中で過ごす場合、最も二酸化炭素の排出量が少ないのは睡眠時である。そこで部屋を閉め切った状態で寝た時の二酸化炭素濃度の変化を以下に示す。
閉め切った状態で寝た時の二酸化炭素濃度の変化
部屋の扉を閉めた途端に二酸化炭素濃度はみるみる上昇し、早々に1,000 ppmを超えた。開始時点で800 ppm以上あったとはいえ、1時間も経たずに超えるとは思わなかった。なお、布団に入ってから眠りに落ちるまで時間があるのは、本を読んでいたからである。
眠りに落ちた後もしばらくは二酸化炭素濃度の上昇は続き、朝には1,200 ppmにまで達した。二酸化炭素濃度に無頓着でいると、睡眠時の大半を基準値を上回る空間で過ごすことになる。
続いて、部屋の扉を30 cmだけ開いて寝た時の二酸化炭素濃度の変化を以下に示す。
扉を30 cm開いた状態で寝た時の二酸化炭素濃度の変化
まだ目が覚めている時こそ上昇したが、眠りに落ちた後は低下し、700 ppm付近で安定した状態が朝まで続いた。たった30 cmの隙間があるだけでも、二酸化炭素濃度を低く保つことができるのである。
とはいえこの方法だと、室温が下がってしまう。寝ている時に室温が低すぎると肺が冷えるため、眠りの質が悪くなるという*8。なので「睡眠の質」の観点から言えば、冬は扉を開けっ放しにして寝るのは避けたほうがいい。
寝ている間も1,000 ppm以下を維持するもう一つの方法は、寝る直前に換気をしっかりしておくことである。
換気をしてから扉を閉めた状態で寝た時の二酸化炭素濃度の変化
この時は寝る直前に扉と窓を全開にし、17分間の換気を行った。これにより二酸化炭素濃度は980 ppmから535 ppmまで低下。初期をぐっと下げたことにより、扉と窓を閉め切った状態で寝ていても1,000 ppmに達することはなかった。これならば暖房も使える。
どうして『30分』だけなのか
次は起きてはいるが活動量は小さいデスクワーク時の二酸化炭素濃度についてである。
デスクワーク時の位置関係
デスクワークについてもまずは扉も窓も閉め切った状態での二酸化炭素濃度の変化を示す。
閉め切った状態でデスクワークした時の二酸化炭素濃度の変化
扉と窓を締めた直後である8:30の時点では600 ppmを下回っていた。しかし睡眠時と違って二酸化炭素濃度は一直線に上昇し続ける。その結果、開始から1時間が経過した9:30には1,000 ppmを超えてしまった。さらにゼンカイジャーを見ている間も上昇は続き、終わる頃には約1,200 ppmである。やはり起きていると二酸化炭素の排出ペースは高い。
それでは部屋の扉を全開にし続けたらどうなるか。
扉を全開でデスクワークした時の二酸化炭素濃度の変化
窓を閉めた直後こそ急激に上昇したが、変化はすぐに弱まり、800 ppm付近でおちついた。おそらく「俺の二酸化炭素排出量」と「扉全開による換気能力」がちょうど800 ppmあたりで釣り合うのだろう。このように座っているだけならば、部屋の扉を全開にしておけば1,000 ppm以下を維持できる。だからはじめに述べたように、俺は室温を犠牲にして扉を開けっ放しにしているのだ。
では『室温は維持する』『二酸化炭素濃度も下げる』「両方」やりたい人はどうするべきか。ならば一定間隔で短時間の換気をするのが良い。
厚生労働省の「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法では適切な換気方法として「窓の開放による方法」と「機械換気を使用する方法」が挙げられている。このうち一般家庭でも簡単にできる「窓の開放による方法」のポイントは2点だ。
- 換気回数*9を毎時2回以上(30分に一回以上、数分間程度、窓を全開する。)とすること。
- 空気の流れを作るため、複数の窓がある場合、二方向の壁の窓を開放すること。窓が一つしかない場合は、ドアを開けること。
既に記事の中で「扉と窓を全開」と書いていたのはこのためである。
オレが作った空気の「流れ」なんだよッ!
おそらく多くの人は「何を今更」と思うだろう。だがしかし、その効果が「可視化」されると説得力が違ってくる。
「30分間隔」で「3分間」扉と窓を全開にする。他は扉も窓も閉め切る。これでデスクワークをおこなった。
30分間隔の換気でデスクワークした時の二酸化炭素濃度の変化
二酸化炭素濃度が700〜900 ppmの間で推移する結果となった。換気能力は間取りや気候によって異なるため一概には言えないが、今の俺の部屋だと「30分間隔」で「3分間」の換気は良い配分だと言える。この時間配分ならポモドーロ・テクニック*10と合わせて行えば、より生産性が高まるのではないかと思う。
とはいえ実際にやって思ったが、この頻度はなかなか面倒だ。1時間以上座り続けていたいなら*11、やはり扉を開けっ放しにしておくのが楽でいい。
激しい運動は二酸化炭素を多く出す
ちょっと前の記事で俺はBeat Saber*12をやり続けていると書いた*13。Beat Saberはそれなりに体を動かすことを求める。この時、部屋の二酸化炭素濃度はどのように変化するのか。
閉め切った部屋でBeat Saber
まずは扉も窓も閉め切った状態でBeat Saberをプレイした時の二酸化炭素濃度の変化を示す。
閉め切った状態でBeat Saberした時の二酸化炭素濃度の変化
二酸化炭素濃度はひたすら上昇し続け、プレイし終えた時には1,800 ppmを超えていた。これは劣悪な環境である。
ヘッドマウントディスプレイを付けていると暑いので、夏は冷房が効いていないとやってられない。だが換気をせずにBeat Saberのようなフィットネスゲームをプレイし続けると、二酸化炭素濃度は非常に高くなる。タイマーなどをセットし、換気を忘れないようにしたい。
次はデスクワークで有効だった、扉だけ全開 (窓は閉まっている) の場合を確認する。
扉を開けてBeat Saber
扉だけ全開の状態でBeat Saberをプレイした時の二酸化炭素濃度の変化を示す。
扉を全開でBeatSaberした時の二酸化炭素濃度の変化
デスクワークとは違い、扉を全開にしていても二酸化炭素濃度は上昇した。Beat Saberならば30分程度で500 ppm以上も増加させるのだ。さすがに運動で多くの二酸化炭素を排出すると、扉を全開にするだけでは換気能力は不足してしまう。
では換気状態、つまり扉と窓も全開にしてならどうなるか。
扉と窓を全開でBeat Saber
扉と窓を全開の状態でBeat Saberをプレイした時の二酸化炭素濃度の変化を示す。
扉と窓を全開でBeat Saberした時の二酸化炭素濃度の変化
Beat Saberをプレイしている最中も二酸化炭素濃度は低下し続けている。換気能力が二酸化炭素排出量を上回ったのだ。これが「流れ」のパワーである。室内でフィットネスゲームや筋トレをする時は、なるべく換気状態でやりたい。もっと今の時期はそれだと寒すぎるが。
終わりに
このように閉め切った部屋では二酸化炭素濃度はいともたやすく上昇する。1,000 ppm程度の濃度でも、人の生産性は低下してしまう。そして厄介なことに、低下している理由が本人には分からない。これを回避するためにはこまめな換気が必要だ。そしてCO2センサは換気の必要性を教えてくれる。
CO2センサを手に入れてから、俺は二酸化炭素濃度と室温を天秤にかけている。今のところ二酸化炭素濃度を下げることが優先とし、こまめな換気が面倒なので扉全開で対処している。なぜなら低温は厚着でカバーできるが、二酸化炭素濃度は防げないためだ。だから今も扉を全開にし、脚部を「ぬいぐるみ」にして耐えている。
俺の脚部
ティッシュケース*14を乗せてみた
ちなみに室温の建築物環境衛生管理基準は17℃以上28℃以下である*15。
俺の使っているCO2センサ
この記事を読んで二酸化炭素濃度を測定したくなった人のために、簡単なアドバイスと俺が使っているCO2センサの紹介を書く。
Amazonで「二酸化炭素濃度計」と検索すると似たようなのがワラワラと出てくる。黒い背景にカラフルな文字が表示されるようなやつだと、だいたい4,000円くらいから買える。だがAmazon's Choiceとなっていても、サクラチェッカーでは危険表示。ではどれを買えばいいのか。ここで参考となるのが電気通信大学の調査結果である。
この調査では大手ECサイトで5,000円以下のCO2センサを12台購入し、精度検証を行った。その結果、ハズレを引く確率が高いことが判明した。
- 3機種 (全体の25%) は正しく校正すれば二酸化炭素濃度測定に利用できる
- 8機種 (全体の67%) は二酸化炭素に反応せず、アルコール等や総揮発性有機化合物(tVOC)等の雑ガスに反応する疑似センサである可能性が高い
- 1機種 (全体の8%) は故障している
基本的に5,000円以下の安いやつは買わないほうが正解のようである。
調査を行った研究チームは、購入したCO2センサが正しく測定できるかどうか簡単に確認する方法として以下を挙げている。
- 屋外の新鮮な空気の中で400 ppm前後 (目安は340〜460 ppm) となるか
- センサに息を吹きかけてCO2濃度が取扱説明書に示された測定限界値まで上がるか
- 消毒用アルコールを吹きかけた手をセンサに近づけ、CO2濃度が上昇しないか
これなら誰でも確認できる。一つ問題があるとすれば、試すためには買わないといけないということだが。
そこで俺はカスタムのCO2-miniを使っている。
CO2-mini
CO2-miniの仕様については、分解写真を載せている以下の記事が詳しい。
これによればセンサはデュアルビームNDIR方式であり、ちゃんと二酸化炭素そのものを計測する手法である。二酸化炭素には赤外線を吸収する性質があるため、赤外線がどれくらい減衰したかによって、濃度が分かるというわけだ*16。
また上で紹介したCO2センサの確認方法を試した人がAmazonでレビューを投稿しており、3つの確認方法ともパスしたと述べている*17。従って本機はそれなりに信頼できる計測器であると言っていいだろう。
そして俺が本機を購入を決定した理由は、PCと接続することでデータを取得できることである。
どうもこのCO2-miniはCO2Meter.comの製品のOEMらしく、そこで二酸化炭素濃度と温度のデータを取得するソフトが無料で提供されているのだ。
CO2-miniのPC用ソフト
このソフトは単純にデータをグラフ化するだけではなく、自動でCSVファイルにも出力し続けてくれる。だから技術の無い俺でも本記事を書くことができるのだ。ちなみにこのソフトの対応OSはWindows XP, Windows 7となっているが、俺はWindows 11でも使えた。
というわけで二酸化炭素濃度の変化をいろいろと分析してみたいという人には、このCO2-miniはお勧めである。
CO2センサを買ったきっかけの記事
このスマートホームの記事を書き、次は何を導入するかと考えた。どうせなら「生活の質」を高めるのが良い。ならば「空気の質」を高めよう。そこで二酸化炭素濃度を管理することにしたのである*18。
今週のお題「買ってよかった2021」