ミステリを読む 専門書を語るブログ (original) (raw)
クレイヴンの新作で第5作目の作品。ボタニストとは植物学者のこと。ボタニストと名乗る犯人が予告連続殺人事件を起こすというもの。
予告型連続殺人事件は、アガサ・クリスティをはじめ、多くのミステリ作家がモチーフに使っているけど、本作品は新しい方法を提示していて、結構驚きました。密室殺人事件も2つ扱っていて、作者が興奮して書いたことをあとがきで述べている。
モチーフ的には謎解きミステリなんだけれど、解決するとそんな伏線があったかなと感じてしまう。僕の読み方が悪かったからかもしれないが。
しかしスリラーと考えれば、読みごたえはあり、☆☆☆★というところ。本シリーズは謎解きミステリがしっかりしているところが長所なのだから、僕にとっては魅力が半減なんです。
また文句ばかりなのですが、主人公たちが専門職のようなふるまいをしていないのが不満。専門職は、特別なアセスメント技術をもっていて、普通の人とは、事件に対するとらえ方や論理の展開の仕方が異なるはずなのに、それが感じられない。
加えて早川書房は、本書のような医療や医学系の専門用語を扱う作品が多いのだから、いい加減きちんと専門家に医学用語ぐらい校正してほしい。または専門書の辞書をきちんと使用してほしい。もう10年以上前に変わっている用語を使うのは勘弁してほしい。それが専門職らしさを消しているように思える。
白井氏の新作。「最初の事件」「大きな手の悪魔」「奈々子の中で死んだ男」「モーティリアンの手首」「天使と怪物」の5つの短編をまとめた短編集。私としては『名探偵のいけにえ』『エレファントヘッド』に続いて3作目。気になる作家になったというところでしょうか。
全般的に内容がいまいちわからなかったにもかかわらず、本作を読んだあとは、さらに気になる作家になりました。少なくとも「地雷グリコ」よりはよかったかな。両作の共通点は、あまりにも展開が早すぎて、これってフェアなのかなといぶかしげな気分にさせるところ。
好みを挙げるとすれば「奈々子の中で死んだ男」「天使と怪物」。「奈々子」は山本周五郎の世界のキワモノミステリですね。「天使と怪物」はフリークショーを舞台にした切ないお話。というわけで、☆☆☆★といったところです。
陸秋槎氏の第5作目の作品。今まで手に取りませんでしたが、ハードボイルドミステリと聞いて手に取った次第。
ロス・マクドナルドに捧げられた本作ですが、だいたいロス・マクドナルドの作法に則っていれば傑作になるはずであり、その難しい作業を見事に仕上げた傑作といえるでしょう。まさか、このようなところからハードボイルドミステリの傑作が産まれるとは思いませんでした。
1934年の中華民国の架空の都市で女性私立探偵の劉雅弦の探偵社に、地元の大物の15歳ぐらいの女学生の令嬢の葛令儀は、2週間学校に来ていない同級生を探してほしいと依頼してきた。関係者に調査していくうち、その同級生の父親が映画館などの経営破綻で莫大な借金をして、そのため誘拐されたのではないかと探っていくのだが……。
失踪人捜査から始まり、表象からは見えない意外な事実が見つかり、捜査を妨害する者が現れる。現代ではほとんどない正統派私立探偵です。職業としての私立探偵であり、調査を始めて、事務所に戻る一日を繰り返します。探偵は『私が殺した少女』のように、誘拐された娘のために犯人に指名を受けて身代金を運びます。そして最後には、もう一人の主人公ともいえる喪服の似合う少女の選択を読者はかみしめるのです。
というわけで、☆☆☆☆★といったところです。ハードボイルドミステリ形式をきちんと踏んでるだけでなく、トリックも伝統を踏んでいてなかなかよいのです。
本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞、山本周五郎賞受賞で手にとりましたが、最初の40頁ぐらい読んだところで、マンガ化の第一話がアップされました。
マンガを読む前は小説はキャラクターの描写はまったくな かったので、シンプルな線画のマンガタッチでイメージしていましたが、マンガ読後はイメージがマンガに引きずられましたね。
特徴があるものといえば、キャラクターの口調で、あまりにもライトノベルのようなタッチなので、マンガが正しいのでしょう。おそらく複数のマンガ家でコンペをして、原作者のチェックも入っているのでしょうから。
「ギャンブル漫画を青春小説のフォーマットでやってみたかった」と著者がいうようなもので、なんでこんなメンドクサイゲームをしているのかな、その理由がきちんと書かれていないのでは、いぶかしげな気分で読んでいました。
読後アマゾンレビューにアクセスしたら、評価が高くて驚きましたけど、☆☆☆★というところですね。
以前、誰だかにおすすめの日本ミステリ作品をお願いされたとき、ぼんやりと日本の戦後ベストミステリ作家は誰だろうかと考えたことがあります。結論としては、連城三紀彦ではないかとなりました。
「変調二人羽織」はミステリとしては、ブレット・ハリデイの「死刑前夜」のテイストで、超複雑な構成は短編ミステリの最高傑作と思っています。実は連城作品のキャラクターは自分には全く合わないのですが。
本作は、そのような連城三紀彦の長編全33作中7作目の作品。今回読んだのは、2007年発行の文春文庫版でその解説に長編・短編集含めた作品リスト(最後が『流れ星と遊んだころ』)が掲載されており、それによると全61作中25作目の作品。中期前半の作品といったところでしょうか。
本作が発表されたときは、すでにベテラン作家のような位置づけだったと思います。以前の島田荘司のところでも言及しましたが、社会派推理小説・トラベルミステリ全盛期から国際謀略小説・新本格の作品が出版されるようになり、その流れの中で、本作が国際謀略小説として出てきたものと感じました。
私は、ずいぶん前に購入していたのですが、長そうで、かつ文字組がぎっしりだったことから積読状態でした。今回は気まぐれで手に取ったわけです。
読んで驚いたのは、冷戦時代の西ベルリン・東ベルリンの描写です。あの時代の緊迫した雰囲気がきちんと出ています。それも大げさな描写ではなく、気づく人には気づくようなものになっています。おそらく冷戦時代をまったく経験したことのない若い人には気づかないのではないでしょうか。
本作の肝となるネタも、いままで聞いたことがないネタで驚きました。ヒットラーがユダヤ人の血をひいているのは幾つもフィクションで取り上げれていますが。これは今から見ますと、荒唐無稽の感がありますが、当時はそのようなネタが多く出されていた時代ですから、少々のリアリティをもっていたかもしれません。
逆に今の視点で言うと、偽の目的であった、第2のアンネを探すという謀略のほうがリアリティありますよね。というわけで、☆☆☆★です。
エラリイ・クイーンの全長編33作中17番目の作品。丁度、中間地点である。『災厄の町』に引き続いて架空の町ライツヴィルを舞台にした作品の第2作目。
クイーンが12年前に起きた友人の父による妻殺害事件を推理するという話。トリックはクイーンらしく凝っている。12年前の事件というのがミソとなっている。というもののほかのクイーンの作品よりは質が落ちて、☆☆☆★といったところ。
僕は、現代にも同様の事件が起こって、2つの事件がつながるというような作品かなと思って、このまま終わってしまって驚いた。
でもクイーンは謎解きを期待すると裏切れることが全くないのがすごいと思う。
また、このクラッシックな独特な世界観というか、独特の時間の流れが、クイーンは唯一無二だと感じる。探偵クイーンの殺人事件への取り組み方も、真剣であって、この感じなんだよねえ。これは肯定的に分析する必要があるのではないだろうか。
1933年に発表されたジョン・ディクスン・カーの長編推理小説。ギデオン・フェル博士の初登場作品。
カーを読むたびに、クリスティやクイーンと違って、ノリが日本の小説とは異なっているため読みづらく、人気がないのも仕方ないと嘆息する。実写でどのような演技をしているのか想像しづらい。加えてストーリーも把握しづらい。本作も同様に感じる。
舞台はイギリスのちょっとした田舎のリンカーンシャーの小さな町で、チャターハム監獄。この監獄の所有者はスターバース家が代々所長を務めている。そこで起きた殺人を捜査するというもの。
このようなクラシックなミステリは、トリックが披露されると、現代ではありえないようなことのため、たいてい外れてしまう。だいたいそのような方法で人を殺せるのだろうかと感じるのだ。本作品も今からみると定番のトリックであるが、まったくわからなかった。というわけで☆☆☆★といったところです。