『黄昏のベルリン』連城三紀彦、文春文庫、1988、2007ーー冷戦時代の謀略ゲーム (original) (raw)

以前、誰だかにおすすめの日本ミステリ作品をお願いされたとき、ぼんやりと日本の戦後ベストミステリ作家は誰だろうかと考えたことがあります。結論としては、連城三紀彦ではないかとなりました。

「変調二人羽織」はミステリとしては、ブレット・ハリデイの「死刑前夜」のテイストで、超複雑な構成は短編ミステリの最高傑作と思っています。実は連城作品のキャラクターは自分には全く合わないのですが。

本作は、そのような連城三紀彦の長編全33作中7作目の作品。今回読んだのは、2007年発行の文春文庫版でその解説に長編・短編集含めた作品リスト(最後が『流れ星と遊んだころ』)が掲載されており、それによると全61作中25作目の作品。中期前半の作品といったところでしょうか。

本作が発表されたときは、すでにベテラン作家のような位置づけだったと思います。以前の島田荘司のところでも言及しましたが、社会派推理小説・トラベルミステリ全盛期から国際謀略小説・新本格の作品が出版されるようになり、その流れの中で、本作が国際謀略小説として出てきたものと感じました。

私は、ずいぶん前に購入していたのですが、長そうで、かつ文字組がぎっしりだったことから積読状態でした。今回は気まぐれで手に取ったわけです。

読んで驚いたのは、冷戦時代の西ベルリン・東ベルリンの描写です。あの時代の緊迫した雰囲気がきちんと出ています。それも大げさな描写ではなく、気づく人には気づくようなものになっています。おそらく冷戦時代をまったく経験したことのない若い人には気づかないのではないでしょうか。

本作の肝となるネタも、いままで聞いたことがないネタで驚きました。ヒットラーユダヤ人の血をひいているのは幾つもフィクションで取り上げれていますが。これは今から見ますと、荒唐無稽の感がありますが、当時はそのようなネタが多く出されていた時代ですから、少々のリアリティをもっていたかもしれません。

逆に今の視点で言うと、偽の目的であった、第2のアンネを探すという謀略のほうがリアリティありますよね。というわけで、☆☆☆★です。

黄昏のベルリン (創元推理文庫 M れ 1-5)