独学で心理学を学びたい人のためのガイド〜中級編その1 各論の内容を学ぶ (original) (raw)

久々のこのシリーズ。
前回は初級編として、心理学を浅く広く学ぶ方法を書いた。
今回は中級編。
教養の心理学ではなく、専門の心理学を学ぶにはまずどうしたらいいか、について書く。
学部で学ぶような心理学の専門性を身につけたい、といった人向け。
専門として心理学を極めるのの最終段階は上級編に譲ることにする。

なお。
中級レベルで学ぶことは大きく2つあると思っている。
1つ目は、専門分野の網羅的である程度の深さの知識。
「〇〇心理学」という名前の各論の内容を学ぶようなイメージ。
おそらく、独学で心理学を学びたいと思っている人の多くが思い浮かべているのがこれではないだろうか。
2つ目は、心理学分野の研究や実践のための知識・技能。
どの学問分野にも方法論というものがあり、心理学はわりあいこれがしっかりと体系だって整理されている。
教養レベルの心理学や各論心理学の内容を学ぶにあたり、その知識がどのように作られてきたか、を知ることは知識に深みを与える。
また、上級レベルの専門性を身につけるにあったって、土台となるのがこれ。
このシリーズでは、今回で1つ目の各論心理学の知識てな部分の学び方を、次回に2つ目の部分について扱う。

というわけで、専門領域として専門的に各分野の心理学の内容を学ぶことについて見ていこう。
心理学を教養で学ぶことと、専門領域として学ぶこと、何が違うのか。
教養の心理学の場合、心理学を広く浅く学ぶ、というのが基本。
さらに、その広さは心理学の全分野を網羅しておらず、断片的で不完全であることが多い。
大学の教養の授業で心理学の全分野を網羅するには時間が少なすぎるし、そもそも担当教員が1人で全分野をカバーするのも難しい。
独学で学ぶ場合も同様で、どんなに分厚い心理学の概論本でも、全分野をもれなく扱うのは紙数の都合で難しい。

一方で、専門としての心理学の場合。
心理学の各分野を網羅的に深く学ぶことになる。
どのくらい深いかといえば、教養心理学の1章が専門各論心理学の1冊になる。
授業でも教養だと90分1回で終わる範囲について専門各論心理学全15回(もしくはそれ以上の時間)の内容になる。
深さが全く違う。
また、心理学の各論だけではなく、重要な関連分野の知識を身につけることも要求される。
これらの知識は体系的に構成され、ある分野を学ぶのに別の分野の知識が基礎になっていたり、それぞれに関連があったりする。
専門教育においてはカリキュラムが構成されており、必修、選択必修、選択科目のように優先順位と、分野間の関連を考えた理想的な学び方が順序として定められている。
そういうわけであるから、ある程度の深さの知識について、もれなく共通して身につけている専門領域の知と、心理学の中で人によって専門特化する領域の知とがあり、専門的に学んだ人はそれぞれを身につけている。
専門として心理学を学ぶということは、このあたりをしっかりと身につけるということでもある。
独学の際は頭に置いておきたいポイント。

さて。
今回はその中でも、心理学を専攻している学生が共通して身につけているであろう心理学の各論的な知識について扱う。
これらをどうやって身につけるか。
これは、初級編で紹介した教養系の書籍に加えて、各論の教科書を読むことで身につけていく。
どんな領域があるかについては、公認心理師養成校や大学の心理学部や心理学科の各カリキュラムが役にたつ。
ここでは、ざっくりと領域を紹介していく。
公認心理師のカリキュラムを参考にしているものの、公認心理師養成ではなく、あくまで「心理学を独学で学ぶ」という視点で書く。
なお、原典の資料を示しておくので、参考にしてほしい。
公認心理師大学カリキュラム 標準シラバス(日本心理学会2018)
公認心理師に関する通知(厚生労働省2024改正ver)

各論各分野の学び方

下の方に、各論各分野の簡単な解説がある。
これについてざっと目を通した上で、おもしろそうな分野から学んでみよう。
心理学を専攻している学部生並みの知識がほしいのであれば、なるべく分野の偏りがないように全分野を学ぶ。
一方で、一部分野だけでいいのであれば、その分野のみ深く学ぶというのでもいい。
ただ、「各論各分野に触れる前に」にもあるように、心理学の各分野はゆるく繋がっている。
ある分野のみ深く学ぶと、どうやっても隣接分野の知識とのリンクが薄くなり深みが犠牲になることは意識しておきたい。
また、中級編その2に書く予定の「知の作り方」に関する知識・技能があると、各論の理解が深くなるので出来ればそちらについても並行して学びたい。

書籍で学ぶ

1番オーソドックスな方法。
書籍は詳しい分野であれば紹介できるが、網羅的に紹介するだけの知識を有しない。
そこで、ここでは探し方のヒントを書く。

各論の教科書、どれがいいのか全くわからない場合は、公認心理師のテキストシリーズからはじめるのがいい。
国家資格化してから、各出版社、シリーズとしてテキストを出している。
この辺りから手を出し、1分野2冊くらい、読む。
おもしろければ読書案内や参考文献欄にある専門書や論文を読んでみるのもあり。

教養心理学や心理学概論の本を用意し、そこの読書案内からたぐり寄せるという手もある。
こちらの方が、公認心理師テキストのシリーズを持ってくるよりも当たりを引きやすい。
この場合は、本屋か図書館の心理学コーナへ行き、読書案内のある教養系・概論系心理学の本を探すことになる。
各論のテキストを探すための本であるので、出版年は新しい方がいい。

分野で有名な各論を展開しているシリーズをあたるのもいい。
これについては初級編の「各論の教科書系」項で紹介しているので、こちらも参考になる。
もちろん、初級編で紹介した新書系も役にたつ。

大学の授業で学ぶ

大学の授業は、所属学生以外にも開いていることがある。
大学生であれば他学部履修、社会人であれば近くの大学の科目履修生になる方法がある。
1科目あたりのお金、時間的制約など、ハードルは高いものの、対面授業では書籍とは異なった学びがある。
学部名に関係なく、心理学系の科目が用意されていることは意外と多い。
社会学系で社会心理学教育学部教育心理学発達心理学情報工学系で認知心理学、生理心理学が用意されていることはある。
専門科目は在籍する教員の専門性で用意されることが多いので、なぜこの大学・学科でこの科目が、みたいなことは多い。
僕の所属学部は地域学部だが、心理学科目はかなり多い。
各大学・学部のHPでカリキュラムが公開されているので、それを確認して、開講されている心理学科目を探す。
内容についてもシラバスが公表されているので、それを読むことで学びたい内容か知ることができる。
なお、その大学のシラバスデータベースで科目名に「心理学」と入れて検索かけるのもあり。
Googleあたりで「〇〇大学 シラバス」で検索かけるとだいたい各大学のシラバスデータベースにたどりつくことができる。

大学で学ぶのは難しい場合。
放送大学という手がある。
各地域に学習センターが用意されており、映像授業、音声授業など、かなり豊富に授業が用意されている。
1科目あたりの授業料も安く、自分の時間のある時に自分のペースで学ぶことができる。
授業はかなり高名な一流の研究者が務めており、それも魅力の1つ。
土日を中心に、地域の大学教員を非常勤講師とした対面集中授業も用意されており、大学の科目履修よりお手軽に学ぶことが可能。
なお、放送大学の対面授業は、定員に余裕がある場合は地域の人に開かれている場合もある。
放送大学以外の通信制大学の科目履修という方法もある。

各論各分野の情報

以下は、各論各分野についての資料。
必要な人のみ読んでいただければ。

各論各分野に触れる前に

それぞれの分野の境界は曖昧で、ある分野が別の分野にまたぐ場合や重なる場合はある。
また、心理学者によって○○心理学の範囲が異なることが多い。
例えば、言語についてだと、言語心理学を中心として、認知心理学で扱われることも多い。
言語を発達や学習の視点から理解しようとすれば、発達心理学教育心理学で扱うこともある。
さらに、脳機能まで迫るということになると生理心理学、神経心理学でも扱う。
もちろん、言語機能について「できない」に注目すれば障害児心理学の範疇でもある。
精神医学や神経学あたりで「できない」について扱うこともあるし、言語学情報科学にも言語機能についての知の蓄積はある。

各論各分野を学ぶときは、このあたりのことを踏まえておくことが肝要。

基礎心理学分野

心理学には基礎と言われる分野がある。
実験や質問紙、面接や観察等の調査をもとに、理論的に心を理解しようという分野。
それぞれ歴史があり、知見の積み上げがある。

公認心理師の標準シラバスを見ると、以下の分野が基礎心理学の分野として挙げられている。
知覚・認知心理学
学習・言語心理学
感情・人格心理学
神経・生理心理学
社会・集団・家族心理学
発達心理学
障害者(児)心理学
心理的アセスメント
心理学的支援法

これらに加えて、「臨床心理学概論」あたりが中級レベルの各論と考えればいいか。
なお、何を「基礎」と考えるかについても心理学者によってばらつきがある。
ここで挙げられている、基礎心理学も大きく「基礎系基礎心理学」と「臨床系基礎心理学」に分けて理解することができると思う。
ここでいう臨床系とは、心理的に困っている人がいて、そういう人を対象とする心理学分野。
基礎系は、心とは何か、その基礎メカニズム関する学問分野と考えていただいたらいい。

以下に、簡単に分野の紹介を。

知覚・認知心理学

心の機能のうち、視覚・聴覚等、感覚についての機能を知覚という。
知覚心理学では身体のセンサーから入ってきた各感覚について、心はどのように処理しているのかについて扱う。
生理学とも親和性が近い。

一方で認知とは、知覚した後に心が行う判断したり理解したり解釈したりといった知的機能のことをいう。
記憶や言語、注意、学習などが具体例。
加えて、運動系もこの分野で扱うことがある。
基礎系。

学習・言語心理学

広義の認知心理学で扱う内容をより深掘りしたような分野。
他の心理学分野の内容も含め、学習と言語を中心に構成。
学習では、条件づけを中心とした学習理論を、言語は言語学の内容や言語発達も含めて様々な理論を扱う。
基礎系。

感情・人格心理学

心の担う機能のうち、無視できないのが感情。
これの基礎や理論を扱う。

人格は別名をパーソナリティの和訳単語。
個人・個体というのは、それぞれ、各行動の出やすさに傾向がある。
この傾向について扱うのこの分野。
理論的にどうとらえるのか、どうやって計測するのか、そのあたりを中心に扱う。
基礎系。

神経・生理心理学

脳や生体反応から心を理解する分野。
認知心理学や医学とも親和性が高い。
生理心理学では、生体から生理信号を計測し心について考える。
脳波や皮膚の反応を使って心を理解したり、MRI動物実験なので脳の活動を研究したりする。
一方神経心理学は、脳の傷から心の理解を行う、といったことも行う。

基礎系。
神経心理学は患者さんがいるため、臨床系としてカウントする人もいるかもしれない。

社会・集団・家族心理学

ここまでの心理学は、個で完結する内容だった。
しかし、心というのは個で完結しない場合がある。
他者やグループ、家族の中での心の働きというものがある。
また、他者の存在によって心の働きが変わることもある。
こういう事柄について扱う分野。

本質を扱う基礎系がメインだが、問題を扱う臨床系の知見もふくまれる。

発達心理学

大人と子どもでは、心のありようも異なる。
そんな心の発達を扱う分野。
胎児のころから、乳児、幼児、児童、青年と、幅広い。
成長とは異なり、年齢による心の変化ととらえるのが現代では一般的で、成人してから結婚後、中年、老年まで、幅広く年齢特有の心の特性について扱う。
心の発達を見ることで心の本質が見えてくることもあり、他の基礎系基礎心理学分野の理論の土台になることも。
ここまでの内容は基礎系。

発達期は心が不安定になることがあり、そのあたりの心について扱うこともある。
この部分は臨床系ということもできるか。

障害者(児)心理学

知的障害、発達障害精神障害など。
平均的な心の働きとは異なることから生じる各種障害がある。
また、肢体不自由や病気がちな子どもといった、心以外の障害であっても、心に問題が生じることがある。
こういった障害のある人たちの心にスポットを当てて理解する分野。
臨床系がメインだが、障害のある人の心を基礎的に理解する部分は基礎系といってもいい。

心理的アセスメント

個人個人の心の状態を知るために行う各種検査がある。
これらを用いて、個の心について検査する方法・理論を扱う。
知能検査や性格検査、発達検査など、様々な検査が存在するが、それらを用いてどのように個の心を知るのか、についての分野。
臨床系。

心理学的支援法

カウンセリング手法や支援の方法など、臨床の現場で用いる心理学的な支援法について扱う分野。
臨床系。

応用・実践系心理学分野

臨床系の応用・実践の場はいくつかある。
代表的な場に分けて、その内容を学ぶのがこのくくり。
公認心理師のカリキュラムでは、以下の5つの分野がある。

健康・医療心理学
福祉心理学
教育・学校心理学
司法・犯罪心理学
産業・組織心理学

○○心理学の部分に、場の名前が書いてあるので、それぞれについて詳しくは説明しない。
各分野はその場で扱う臨床系の心理学の内容を中心に構成されている。

関連分野

心理学の関連分野としては、いろいろなものがある。
情報科学や脳・神経科学、神経系・精神系も含めた医学全体なんかがこれに当たる。
心を理解するうえで役に立つ知識を提供する分野と、臨床場面で役に立つ知識を提供する2種類がある。

公認心理師の資格に関係なく、医学や生物学の知識は心の理解に役に立つ。
臨床系では、臨床医学系、特に精神医学系の知識は知っておきたい。
また、臨床系の場によっては、関連する行政の仕組みや法的な知識も必要。
これらについても知っておく必要がある。

公認心理師のカリキュラムとしては以下の4つがそれにあたる。

人体の構造と機能及び疾病
精神疾患とその治療
関係行政論
公認心理師の職責

さて。
超絶長くなった。
今回はこの辺で。
次回は中級編のもう1つ、方法論について書く。

冬が、はじまりますなぁ。
鳥取市内にて。

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2024/11/18 18:36
仕事後だよ。
鳥駅スタバにて。

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Update 2024/11/18
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