Hooney Got His Pen (original) (raw)

在日コリアンが韓国に留学したら (ワニブックスPLUS新書)

本はどのように出版されるのかーー。案外知られていないことだと思います。おかげさまで、10月9日に初めての単著『在日コリアンが韓国に留学したら』を出すことになりました。JBpressでの連載に大幅加筆したものです。今回は出版に至った経験を書いてみたいと思います。

僕は幼少期から本が好きで、小学生の頃には『ハリー・ポッター』、中学生ではヘルマン・ヘッセ車輪の下』、司馬遼太郎竜馬がゆく』が愛読書でした。高校生の時は村上春樹をよく読みました。ジャンルは問わず、家にある本をとにかく片っ端から読んでいました。マンガもよく読みました。

「いつかは本を出したい」と、具体的に考え始めたのは大学生の頃でした。大学で学ぶうち、大学の先生たちはけっこう本を出していることが分かり、「本を出す」という行為が身近になりました。小さな頃から本が好きだったので、「自分も出したい」と思うまでに時間はかかりませんでした。

「本を出したい」といっても、「何の本を出すのか」が重要です。この辺りから、本を読む時には、著者のプロフィール、出版に至る経緯、本の構成や目次に注意を払って読むように変わりました。「本の研究」が始まったと言ってもいいかもしれません。「本を出すにはどうすればよいか」を念頭に本を読むようになりました。

小説は書けないので、「書くならノンフィクションだ」と思いました。ノンフィクションには専門書と一般書があります。専門書を読んでいくと、書くには数年とか10年とかの時間がかかることが分かりました。「とりあえず書けそうなのは一般向けに書かれた本、とりわけ新書だろうか」と考えました。

一つ気づいたのが、本を出版する人は、すでに過去に出版の経験を持っている人が多いということです。デビュー作というのは稀です。デビューできる人はどういう人かというと、やはり「文章を書ける人」になります。「文章を書ける人」というのは大学の先生だったり、あるいはジャーナリストだったりします。大学の先生になるのは難しいので、「それならジャーナリストになろう」と思い、マスコミへの就職を目指しました。

就職活動では朝日、読売、日経、毎日新聞を受け、運良く毎日新聞で働けることになりました。そこから3年間、新聞記者として働きました。

でも、新聞記者として働く中で、もう一つ重要なことに気づきました。本を出版している新聞記者というのは少数派なのです。体感では1割にも満たないくらいです。しかも、「かなりベテランの人しか本を出版していないらしい」ということにも気づきました。

以前書いたように、僕は新聞社の激務についていけず、新聞記者を辞めました。出版の夢は遠のいたかに見えました。

辞めたあとでも、「文章を書きたい」という気持ちは残っていました。かといって、個人のブログやSNSに書く気にはなれません。新聞記者をやってみて、「編集者」という存在が決定的に重要であることを知ったからです。

間に誰か入ってもらい、原稿をチェックしてもらわないと、世の中に文章なんて発表できません。編集者を想定読者にすることで、初めて何かものが書けるという事情もあります。「あの編集者さんはどう読んでくれるかな」という想定があるからこそ、文章を書けるのです。

新聞社を辞めたあと、企画書を作り、いろんなウェブメディアに送りました。10件くらいは送ったと思います。幸運なことに、2つのウェブメディアから返信がありました。その一つがJBpressでした。僕は韓国に留学する予定があったので、「在日コリアンが見た韓国」というテーマで書きたいと企画書を送ったところ、興味を持ってくれたのでした。

韓国への留学は1年間でした。月に1本のペースで、JBpressで連載をさせてもらいました。その時々に自分の感じたこと、経験したことを綴りました。韓国人に言われて傷ついた言葉、日韓の学生が時事問題について語り合ったイベント、僕のファミリーヒストリーなどを書くと、読者がポジティブな反応をくれました。よく読んでくださったのです。

これは心から嬉しかった。僕の個人的な問題意識に基づいた記事を読んでくださる読者がいることを発見できました。これは密かな自信になりました。当初は恐る恐る書いていたのですが、「思ったことはどんどん書いていこう」と開き直ることができました。

1本の記事を1日で書ける日もあれば、1ヶ月かけて書く場合もありました。留学記最後の記事は1ヶ月かけました。推敲に推敲を重ね、自分の思っていることを率直に綴りました。

その中で、「北朝鮮は安全保障上の脅威である。日韓は安全保障協力を推し進め、日米韓の枠組みで北朝鮮を抑止するべきだ」という趣旨のことを書きました。実は、この記述はけっこうなハレーションを生みました。

私の知人、友人には朝鮮総連に所属している人もいます。言うまでもなく、朝鮮総連北朝鮮を支持する組織です。朝鮮総連に所属する人にとっては、僕のような意見は受け入れ難いものでしょう。「超タカ派」に見えると思います。

在日コリアン関係の研究をしている人にはリベラルな人が多く、そういう方にとっても、僕のような意見は自民党や韓国の保守政権に追随する「超保守的な主張」に見えると思います。実際に、「君の意見には驚いたよ」と言ってこられた方もいました。失望させてしまったのかもしれません。
ただ、「当たり障りのないことを書いても面白くない」という信念がありました。「思っていることはちゃんと素直に書こう」という方針を最後まで貫こうと思ったのです。
そして、留学記の最後となる記事が意外な展開を生みました。出版社であるワニブックスの編集者の方が読んでくださり、書籍化を打診してくれたのです。
これには驚きました。「連載を本にできたらいいな」とおぼろげには考えていたのですが、まさか出版社の方からの依頼があるとは思ってもみませんでした。
編集者から連絡をもらってからすぐに直接会って話しました。お互いの構想をすり合わせ、そこから1ヶ月程度で原稿をまとめました。初稿の締め切りは2024年7月末と言われていたのですが、僕が提出したのは3月末。4ヶ月も早く初稿を出しました。
これには理由があります。僕は留学記の連載とは別に、毎日、日記を書いていました。その日記を見れば、留学中に何をしていたか、すぐに再現できたのです。
一冊の文字数は7万5000字でした。これで196ページになります。連載をまとめると4万字くらいあったので、半分程度を書き足しました。
ワニブックスの編集者の方からは、2箇所程度追記するように依頼がありました。それも問題なく追記し、おおむね今の原稿の形になったのは5月くらいだったと思います。そこから原稿を本の形に組んでもらい、ゲラを確認していきました。編集者の方とは4回ほど往復して修正を重ね、最終版を校了したのは9月初旬でした。
カバーデザインで使用されているイラストは、イラストレーターの方が描いてくれました。東大門の前でキョロキョロする様子は、まさに僕の韓国留学中の生活を象徴しています。このイラストはすごく気に入りました。
以上のような過程を経て、僕の初めての単著『在日コリアンが韓国に留学したら』が出版される運びとなりました。
JBpressの読者の皆さんには感謝してもしきれません。皆さんの反応があったからこそ、1年間の連載を続けられました。本当にありがとうございました。
本の読者からはどういう反応をもらえるのでしょうか。ポジティブなものばかりではないかもしれません。ただ、連載のタイトルにもあったように、あくまで「等身大」の自分を書いたつもりです。嘘偽りなく、自分の精一杯を表現しました。今は「これが等身大の自分なのだから、どんな反応をされても仕方がない」と開き直っています。
僕の本を読んでくださる方がいましたら、これ以上の喜びはありません。ぜひ手にとっていただけますと幸いです。

11月に出る学会誌に掲載される原稿のゲラが上がってきた。感慨深い。ようやくここまできた。昨年末から書き始めて、10ヶ月くらいかかった。
学会誌の査読論文は、本当に査読が厳しくて、プロの研究者というのはこういう水準が求められるのだとすごく勉強になった。学びがめちゃくちゃ多かった。
当たり前かもしれないが、「必要十分な記述」が求められるのである。論文として必要な要素はもちろん全部入れるし、ただ入れるだけではダメで、十分な記述をしないといけない。深い背景知識も要求されるし、いろんな研究への目配りも必要とされる。
プロの研究者から見た「必要十分な記述」というのは、すごくレベルが高いのだ。これはなかなかクリアできなかった。三回の査読を要した。根気強く査読してくれた査読者には感謝しかない。自分がいつか査読者になったら、こういう粘り強い対応をしたいと思った。
査読に対応する中で、自分で言うのもなんだが、論文は見違えるほど改善された。重要な指摘をいくつもしてもらったから、それに沿って記述を修正したら、すごくよくなったのだ。これは自分でも驚いた。査読というものは、学術的な水準を保つうえで必須なのだと理解した。学術的な活動をするうえで、査読という制度は最重要だと思った。
とはいえ、査読論文を一本出すのはかなり大変だとも分かった。1年に1本書けたらかなりいい方だし、というか、けっこう頑張っても2年に1本くらいが限度だと思う。いまは博士課程にいて、研究の時間が確保できるからもう少し頑張れるけど。
調査開始から1本の査読論文になるまでは2年くらいやはりかかっているので、そんなものだと思う。というか、2年で書けたのはかなりいい方だろう。よく頑張ったと思う。
これで査読論文は二本目。学会誌は初めて。すごくいい経験になった。
今年の目標は、あと1本投稿すること。9月末締切の社会学系雑誌に投稿したいと考えている。いま三分の二くらいは書けたので、引き続き頑張りたい。

研究関係の予定を確認しておこう。
8月5日は博士論文の中間報告。オンラインで。
8月23日は、韓国・大邱で研究発表。22日から25日まで韓国に行く。
8月31日から1週間、東京でフィールドワーク。ちょっと長丁場のフィールドワークになる。関東大震災関連のイベントがいくつかあり、それらに参加する。
9月28日、いまやっている研究会の1回目のシンポジウムがある。僕は発表しない。
だいたいこのあたりだな。無理せず頑張ろう。