ジム・トンプスン『ポップ1280』(扶桑社) (original) (raw)

ポップ1280

ポッツヴィル、人口(ポップ)1280。保安官ニック・コーリーは、心配事が多すぎて、食事も睡眠も満足に取れない。考えに考えた結果、自分はどうすればいいか皆目見当がつかない、という結論を得た。口うるさい妻、うすばかのその弟、秘密の愛人、昔の婚約者、保安官選挙……だが目下の問題は、町の売春宿の悪党どもだ。何か思い切った手を打って、今の地位を安泰なものにしなければならない。なにしろ彼には、保安官というしごとしかできないのだから……。
アメリカ南部の小さな町に爆発する、殺人と巧緻な罠の圧倒的ドラマ! キューブリックが、S・キングが敬愛するジム・トンプスンの代表作。饒舌な文体が暴走する、暗黒小説の伝統的作品、登場!(粗筋紹介より引用)
1964年8月、ゴールド・メダル・ブックからペーパーバック・オリジナルで刊行。作者の第22長編。『ミステリマガジン』(早川書房)1998年11月号~1999年1月号にて邦訳連載。2000年2月、扶桑社より単行本刊行。

例によってダンボールの底から取り出した、今頃読むのかという一冊。
伝説のカルト作家、鬼才トンプスンの代表作である暗黒小説。舞台は第一次世界大戦末期、アメリカ南部にある人口1280人の小さな町、ポッツヴィル。主人公であり、語り手でもある保安官のニック・コーリーは、恐妻家で女にだらしなく、仕事は怠けて何もせず、下品な冗談を連発する。“保安官しかできない”気弱な愚か者のように見えるが、自分の地位を守るためなら何でもやる男。たとえそれが、保安官の倫理とは相反することであろうとも。
とにかくこのニック・コーリーという人物に、腹が立って仕方がない。なんでこんな男がモテるんだ、なんでこんな男が保安官なんかやれるんだと突っ込みたくなる。しかし、強か。だらしなく、弱音ばかり吐いていようと、下品なユーモアで身をかわし、いつの間にか自分の立ち位置を確保しているのだから、やってられない。
それでいて、社会風刺の要素がしっかり込められていることに驚き。吉野仁の解説を読んでそのことを知って改めて読み返し、黒人の扱い方などで納得した。そもそも、舞台が第一次世界大戦末期ということも気付かなかったよ。
軽そうに見えて重そうなテーマを挟みつつ、だけど主人公には何一つ共感を持てない。なのに面白い。凄い作品だった。