養育費の契約書と言われる「離婚協議書・公正証書・念書」はどう違う!?それぞれの効力と書き方を分かりやすく解説!! (original) (raw)

未だ養育費の取り決めを口約束ですます人がいるようですが、これは絶対にNGです。

後で言った言わないと揉めないためにも、必ず書面として残すことをおすすめします。

そこで重要になってくるのが、どんな書面として残すかです。

養育費の取り決めを書面化する際、その書式となれば下記の3つが挙げられます。

養育費の取り決めを書面で作成しておけば、養育費が不払いになった時、優位な立場を取ることができるようになります。

しかし、どの書面で作成するかによって、その効力は全く異なるので注意が必要です。

絶対的な効力を求めるのであれば、公正証書として作成しておくべきでしょう。

今回はこれら3つの書面効力の違いを理解してもらい、その作成方法と注意点について分かりやすく解説します。

目次

  1. 離婚協議書を作成して養育費不払いを防ぐ方法
    1. 離婚協議書とは何か、その効力を知ろう!
      1. 契約成立と契約意思の確認効力
      2. 履行内容の手引書としての効力
      3. 契約トラブルの防止効力
      4. 証拠能力
    2. 万全を期するならば離婚協議書を公正証書で作成しよう!
      1. 公正証書はとは何か、その効力を知ろう!
        1. 証明力
        2. 安全性
        3. 執行力
      2. 強制執行できる公正証書に必要な条件
      3. 公正証書の作成方法と作成費用
  2. 離婚協議書の書き方
    1. 離婚協議書は手書き・自作もOK!
  3. 念書だけで養育費の不払いは防げる!?
    1. 念書の効力
    2. 念書の正しい書き方
  4. まとめ

離婚協議書を作成して養育費不払いを防ぐ方法

離婚時に話し合って決めた、養育費の取り決め事項を書面化する際、一般的に用いられるのがこの離婚協議書です。

書面化するのであれば、この離婚協議書がおすすめでしょう。

そこでまずは、この離婚協議書とはどんなものなのか、そしてどのような効力があるのかを解説します。

離婚協議書とは何か、その効力を知ろう!

離婚協議書は契約書の一種で、離婚時、または離婚後の下記取り決め事項をまとめた書面を指します。

離婚時に養育費の取り決めをした場合は、この離婚協議書が用いられますが、離婚後に養育費を取り決める場合には、養育費の取り決め事項だけが記載された養育費協議書となります。

この離婚協議書の効力は、契約書であることによって得られる下記の4点です。

それでは順追って1ずつ確認していきましょう。

契約成立と契約意思の確認効力

養育費の支払いについての契約が成立したこと。

そして、支払い義務者がそれに同意して支払う意思があることを確認できます。

契約とは2人以上の意思が合致したことによって成立する法律行為です。

そのため離婚協議書は、法的に養育費支払に対する両者の意思が、合意に至っている事実を証明する効力を発揮します。

履行内容の手引書としての効力

離婚協議書には、養育費支払いに関する下記条件が記載されています。

そのため、離婚協議書を確認することで、支払い義務者は確実な履行を、受け取る側も確実な履行を受けやすくなります。

契約トラブルの防止効力

離婚協議書を作成することによって、下記の契約トラブルを未然に防ぐことができます。

言った言わないというトラブルを未然に防ぐことができるのは、離婚協議書の作成によって得られる主要な効力と言えるでしょう。

証拠能力

養育費が不払いとなり、裁判になった時に明確な証拠能力を発揮します。

裁判官は証人の証言よりも、契約書の存在と記載内容の方が信頼性が高いと判断するため、裁判を優位に進めることができるのです。

また、相手が裁判にされることを回避しようという意思が働くため、養育費支払いを促す効果も期待できます。

万全を期するならば離婚協議書を公正証書で作成しよう!

「離婚協議書には何の効果もない!」

「離婚協議書はただの紙切れだ!」

といった声も聞かれます。

こう言われると、離婚協議書を作成しても意味がないと考える人も出てくるでしょう。

しかし、これはかなり誤解を招く表現のため、そのまま受け取ってしまうと必ず後悔することになります。

こういった声が出るのは、離婚協議書が強制執行による差し押さえを申し立てられる債権名義でないことを指してのことでしょう。

債権名義とは裁判所に強制執行による差し押さえを申し立てる権利があることを、公文書として証明した書類です。

よって、この債権名義が取得できていれば、審判を経ずに強制執行による差し押さえを申し立てられます。

ですが、離婚協議者はこの債権名義には当たりません。

そのため、不払いの養育費を差し押さえで回収する為には、裁判所で手続きを得て債権名義を取得しなければならないのです。

離婚協議書は審判時には最大の証拠能力を発揮しますが、債権名義には当たりません。

しかし、安心してください。

離婚協議書を公正証書として作成しておけば、立派な債権名義とすることができます。

養育費が不払い時に面倒な手続きを経ず、すぐ差し押さえを申し立てたいなら、離婚協議書を公正証書で作成する必要があるというわけです。

公正証書はとは何か、その効力を知ろう!

公正証書とは公証人法に基づいて、法務大臣に任命された公証人が作成する公文書です。

公正証書と契約書である離婚協議書の違いは、なんと言ってもその文書に法的執行がある点でしょう。

離婚協議書には明確な証明力はありますが、法的な執行力はありません。

しかも、下記の2つにおいても、公正証書は離婚協議書よりも高い効力を発揮します。

それでは簡単に、これら効力を見ていくことにしましょう。

証明力

公正証書は法律のプロである交渉人が法定違反がないか、作成当事者の身元に間違いがないかを印鑑証明書で確認した上で作成した公文書です。

そのため、裁判等で記載内容が否認されたり、無効とされることはほぼありません。

私文書である離婚協議書よりも、さらに高い証明力を発揮します。

安全性

離婚協議書は互いに同じ書面を保管しますが、紛失・破損時の心配は否めません。

しかし、公正証書は作成後、当事者には正本または謄本が交付され、その原本は公証役場で20年間保管されます。

20年ならば、養育費の支払い期間にも十分対応できるでしょう。

また、作成後の改ざんを心配する必要はありませんし、交付された正本や謄本が紛失・破損しても、再交付を受けることが可能です。

これも離婚協議書とは大きく異なる点ですね。

執行力

公正証書は公文書であることから、高い信頼性が認められています。

そのため、「強制執行認諾条項」を定めることによって、直ぐに強制執行による差し押さえを申し立てることができます。

先に説明した債権名義としての効果を発揮するというわけです。

また、強制執行による差し押さえを受けると、周囲の人に養育費を支払っていないことが知られる可能性も出てきます。

特に給与が差し替えられると会社に知られることは必至です。

社内評価にも影響が出るでしょう。

そのため、給与の差し押さえを避けようと、不払いを回避する抑止力を発揮することになるのです。

離婚協議書にもこの抑止力はあります。

しかし、公正証書には、それをも上回る不払い防止の抑止力があるというわけです。

強制執行できる公正証書に必要な条件

今話したように公正証書には法的執行力があります。

離婚協議書を公正証書として作成するのは、この効力を求めてのことです。

しかし、公正証書を作成しておけば、強制執行できるという考えは誤っています。

単に公正証書を作成しただけでは、強制執行は伴いません。

民事執行法第22条1項では「強制執行は、次に揚げるもの(以下「債務名義」)により行う。」として、公正証書に法的執行力を伴わせる条件を下記のように規定しています。

「金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)」

つまり、公正証書で強制執行による差し押さえを申し立てるには、「強制執行認諾文言」の表記が記載されていなければならないのです。

強制執行認諾文言とは、下記の様に不払いとなった時は強制執行となってもかまわないと認めた文言を指します。

「甲は本契約に規定する金銭債務の支払を履行しないときは直ちに強制執行に服する旨陳述した。」

この強制執行認諾文言を記載した公正証書を、執行認諾文言付き公正証書と呼びます。

強制執行による差し押さえの申し立てを目的に公正証書を作成するならば、執行認諾文言付き公正証書でなければなりません。

この点は勘違いしないよう、よく覚えておきましょう。

公正証書の作成方法と作成費用

それでは公正証書の作成方法と作成費用について紹介します。

公正証書は必要書類を集めて、公証役場に行けば作成可能です。

これについては、下記記事の「公正証書を作成する為に必要な書類と費用と注意点」で分かりやすく解説しています。

この記事に目を通して、お近くの公証役場で作成するようにしてください。

公証役場一覧

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離婚協議書の書き方

それでは引き続き、離婚協議書の書き方について解説していくことにしましょう。

離婚協議書に記載する主な内容には、下記のものが挙げられます。

離婚協議書は離婚時と離婚後の取り決めを記載するため、上記のように多くの取り決め事項が記載されてまとめられます。

基本的な記載方法としては、下記の流れが一般的です。

  1. 表題:タイトル
  2. 前文:契約の当事者と契約内容の特定
  3. 本文:取り決め事項
  4. 後文:離婚協議書の作成枚数・原本・写しについて
  5. 契約書作成期日
  6. 当事者の住所・氏名・捺印

今回は養育費支払がテーマですから、他の取り決め事項は省き、養育費支払いについての書き方を紹介していきましょう。

離婚協議書は手書き・自作もOK!

離婚協議者は決まった書式があるわけではありません。

そのため、手書きであろうと、自作であろうと問題ありません。

重要なのは取り決めたことが、もれなく記載されているかです。

弁護士に依頼すれば作成を一任できる上、必要事項を漏れることなく記載できます。

しかし、個人で作成する場合には、必要事項を漏れなく話し合い、それがちゃんと記載されているかが重要です。

最低でも、下記4つの基本事項の記載は必要でしょう。

そして、これらに加えて、他に下記のような取り決め事項のがある場合、これらの記載も必要になります。

下記は離婚協議書のサンプルです。

取り決め事項を全て記入した上で、契約書の作成日、両者の住所・氏名、そして捺印をすれば完成です。

離婚協議書の書式はWEB上で無料のものが数多く公開されています。

弁護士事務所などの専門職が公開しているものを、ダウンロードして利用するようにしてください。

念書だけで養育費の不払いは防げる!?

あまり聞きませんが、養育費の支払いを念書で交わす人もいるようです。

念書も離婚協議書と同様に契約書の一種になりますが、念書はどちらか一方が作成して、それを相手に差し出す形になります。

そのため、念書に記載される住所・氏名と捺印は作成者のみです。

離婚協議書の様に両者が住所氏名を記入して捺印し、同じ書面を両者で所有することはありません。

念書に当たる主な書面としては、金銭貸借時に借主が貸主に差し出す借用書が挙げられます。

先ほどの離婚協議書のタイトルが「合意書」となっていましたが、「合意書」というタイトルであっても、当事者の一方だけが差し出す形をとっているならば、これは念書と判断されるでしょう。

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念書の効力

念書は離婚協議書と同様に、取り決め事項が履行されず、裁判となった場合には証拠能力を発揮します。

しかし、当事者双方が同じ内容の書面を所有していません。

そのため、改ざん等の恐れがあります。

その点から言えば、離婚協議書や公正証書と比べて、下記の点ではその効力はかなり劣ります。

裁判官から証拠として認められない可能性も出てくるでしょう。

もちろん、法的執行力もありません。

つまり、念書が養育費の不払い防止に効力を発揮するかと言われれば、怪しいというのが正直な感想です。

この念書の効力を考慮すれば、養育費の取り決めを念書でするのはおすすめできません。

やはり、執行認諾文言付き公正証書の方が、下記において最も実効性の高い効力が期待できます。

せっかく養育費の取り決めを書面化するのですから、上記の効果がある書面でなければ意味がありません。

養育費の取り決めを念書で交わすのは、止めた方が良いでしょう。

どうしても念書でというならば、これも公正証書として作成することをおすすめします。

念書の正しい書き方

あまりおすすめできませんが、念のために正しい念書の書き方を紹介しておきます。

養育費の取り決めを念書でする際、必ず記載して欲しいのは下記の7つです。

最低でも以上のことは必ず記載してください。

また、他の取り決め事項があれば、その記載も忘れないようにしましょう。

しかし、詳細な取り決めをした場合、まず念書で取り決めを交わすとは考えられません。

念書が用いられるとすれば、養育費支払いに必要な下記4つの取り決めのみの場合くらいです。

とにかく早く離婚したいと言った理由で、簡易的に養育費の取り決めを交わす時ぐらいでしょう。

念書に書面化したことで得られる効力は、ほとんど期待できません。

口約束よりはマシな程度くらいに考えておいてください。

まとめ

今回は3つの書面が持つ効力、そしてその作成方法と注意点について解説しました。

養育費の取り決めは離婚後にトラブルとならないように書面化する必要があります。

絶対に口約束に留めることだけは止めてください。

また、書面には不払いとなった時、直ぐに差し押さえによる回収ができる効力が求められます。

この点を考慮すれば、3つの中では公正証書が最もおすすめです。

これはあなたも納得してもらえたのではないでしょうか。

養育費の取り決めは執行認諾文言付き公正証書として作成するのがベストな判断です。

話し合いがまとまったら、必ず公正証書として作成するようにしてください。