竜馬暗殺 (original) (raw)

竜馬暗殺

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

竜馬暗殺
監督 黒木和雄
脚本 清水邦夫田辺泰志
製作 宮川孝至
出演者 原田芳雄石橋蓮司桃井かおり松田優作中川梨絵
音楽 松村禎三
撮影 田村正毅
編集 浅井宏
配給 ATG
公開 日本の旗 1974年8月3日
上映時間 118分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
テンプレートを表示

竜馬暗殺』(りょうまあんさつ)は、坂本龍馬が暗殺されるまでの3日間を描いた時代劇映画。ATG映画同人社提携作品。主演は原田芳雄、監督は黒木和雄。映像は16ミリモノクロ幕末をニュース映画のように撮るという狙いからあえて16ミリで撮影してエンラージュ(拡大)し画調をザラつかせるという手法が採られた[1]

黒木和雄にとっては1970年の『日本の悪霊』以来、4年ぶりの新作で、初の時代劇となる。主題が坂本龍馬(本作では坂本竜馬)となったのはちょうどNHK大河ドラマ勝海舟』で幕末ブームが起きており、ATGがそれに乗ったためという(『勝海舟』の放送開始は1月6日。『竜馬暗殺』がATGの企画会議を通ったのは2月10日[2])。ただし、黒木和雄の真意は現代劇をやるということにあったとされる[3]。事実、作中では刀をゲバ棒のように振りかざした乱闘シーンにつづいて「侍たちの内ゲバ日常茶飯事ナリ」と表示されるなど、当時の学生運動に重ね合わせた描写もある。こうした描写も含め、全編に漲る破天荒なエネルギーが本作の特徴と言え、企画段階では「幕末の殺気、殺意」を作品に込めることも話し合われた[2]。また脚本の田辺泰志はこの映画製作に「竜馬と同時代の、パリコンミューンを経験し、世界を変えようと発した詩人のA・ランボオを携えて、加わった」と回顧しており、本編に迸る熱い息吹を今に伝えている。なお、田辺は「幕府を倒したあと、薩長をたゝく」という竜馬の台詞を引いた上で「この映画は今こそ正当に評価されるべし」と述べている[4]

本編の製作は新宿ゴールデン街のバー「まえだ」の飲み仲間だった夏文彦(本名・富田幹雄)が黒木和雄に「あんたの映画をプロデュースしたい」と持ちかけたことに端を発する。その後、企画がATGを通った時点で黒田征太郎の応援を仰ぐこととなり、夏文彦と黒田征太郎の企画製作で製作されることになった[5]。製作費を調達したのも夏と黒田で、京都のロケ途中で軍資金(製作費)が底を突き、急遽、新幹線で上京して「まえだ」のママ・前田孝子をはじめゴールデン街のなみじの店3軒で計150万円を調達してなんとか撮影続行に漕ぎ着けたというエピソードも伝えられている[6]。こうしたことから本編は、当時、「ゴールデン街が作った映画」とも呼ばれたという。なお、夏文彦は本編のために作った借金を5年かけて返済したことを主演の原田芳雄が明かしている[7]

時は慶応3年(1867年)11月13日。坂本竜馬は雨の中、密偵、刺客から身を隠すために近江屋の土蔵に身を隠す。土蔵から外を見てみると、隣家の娘、幡を見て、急接近する。しかし竜馬は、幡の許に通っている男が、新撰組隊士・富田三郎であることは全く知らなかった。

14日。その中、久しぶりに弟の右太が幡の家に現れる。竜馬は、ええじゃないかに紛れ、刺客の目をごまかすために化粧をし、友人であり自分の命を狙う中岡慎太郎に会うために出かける。右太も竜馬の後を追う。しかし右太は、鐘や太鼓を鳴らす町民のお祭り騒ぎの中で、竜馬につかまる。そのまま2人は近江屋の妙のもとへ行く。慎太郎は竜馬を殺すつもりはない。その慎太郎は近江屋の奥で陸援隊に監禁されていた。ええじゃないかに紛れ、川岸まで逃げる3人。そこで慎太郎が小声で竜馬に、右太を薩摩藩邸で見たことがあると言う。右太の正体は、竜馬を狙う薩摩藩士・中村半次郎配下の一人だった。慎太郎は、こっそりと右太を襲おうとするが失敗、竜馬に止められる。一方、幡は痴話喧嘩から富田を殺害。

15日。竜馬と慎太郎は、妙のことでもめ、竜馬が調達したはずのライフル5千丁の代わりに写真機がとどく。その写真撮影も失敗し、竜馬はライフルの調達、海援隊の再組織のために長崎に行く、薩長を叩く、奇襲すると言う。逆に慎太郎は薩長につくと言う。最後の杯をくみかわす二人は、逃げ出す機会を待つ。右太は幡に一緒に逃げようという。しかし右太はためらう。その右太は何者かに殺され、竜馬と慎太郎も、外で町民がええじゃないかと騒いでいる頃、暗殺される。幡は竜馬と慎太郎を殺した人間を目撃し、竜馬たちの居場所を教え、ええじゃないかの騒ぎに紛れ込むのだった。

坂本竜馬 - 原田芳雄

質屋のせがれ。常に刺客に狙われている。近視でのぞきが得意。

中岡慎太郎 - 石橋蓮司

竜馬の親友で庄屋のせがれ。革命を起こそうとしている竜馬を殺そうとするが、監禁されているところを竜馬にたすけられる。竜馬に2日遅れの男と言われている。

妙 - 桃井かおり

近江屋の娘。かつての竜馬の恋人で、現在は慎太郎の恋人。

右太 - 松田優作

幡の弟で、竜馬らとも親しくなるが、実は薩摩藩士、中村半次郎の配下の一人で、竜馬の暗殺を企んでいた。

幡 - 中川梨絵

竜馬と出会い、関係を持つが、その前に富田三郎と関係を持っていた。しかし痴話喧嘩から、富田を二階から突き落として殺し、竜馬、慎太郎、右太を殺した男を目撃しておきながら、ええじゃないかの騒ぎに紛れ、姿を消す。

当初、幡の役は、別の女優(山川レイカ)が演じることになっていたが、病気のために降板、代わって中川梨絵が演じた。

  1. ^ 黒木和雄「雨降りだからATGでも思い出してみよう」『キネマ旬報』第708号、1977年5月。
  2. ^ a b 夏文彦『映画・挑発と遊撃』白川書院、1978年、『竜馬暗殺』製作日誌。
  3. ^ 田山力哉『日本の映画作家たち 創作の秘密』ダヴィッド社、1975年、黒木和雄 酒と借金とゴダールと。
  4. ^ 田辺泰志「永遠のアンチヒーロー」『映画芸術』第61巻第4号、2011年10月、32-33頁。
  5. ^ 黒木和雄「夏文彦追悼 薔薇のトミイここに遊ぶ」『映画芸術』第42巻第1号、1993年4月、180-181頁。
  6. ^ 外波山文明 (2021年7月4日). “【新宿ゴールデン街交友録 裏50年史】この街が作った映画「竜馬暗殺」中村半次郎役で松田優作を斬った!”. 東スポWeb. 2021年12月11日閲覧。
  7. ^ 原田芳雄、井家上隆幸、荒井晴彦「対談・夏文彦追悼 映画のタイトルが、遺言だった」『映画芸術』第42巻第1号、1993年4月、172-177頁。

カテゴリ: