水は低いところに流れて集まり染み込む--この性質をもう一度把握して水害を考えるべき (original) (raw)

もう一度「水害」を整理したい--豪雨,土砂災害,津波だけじゃない,水道管漏水による陥没も視野に入れる必要 - jeyseni's diary (hatenablog.com) (2024/9/27)と書いて「水害」の恐さを再認識したのだが,そもそも水が高いところから低いところに流れることと,広い面積で少しずつでも集まる場所が同じになると恐ろしいこと,そして流れ去ったり染み込んだりするよりも速く深さが増加してしまうことを,再認識したいと思う。

そもそも川というものは,降った雨や積もった雪が地面に染み込み,斜面に沿って少しでも低いところに流れ,そこから地上に出て集まり,小川となり,さらに大きな川にまとまって海に注ぐ。水分が地面に染み込むことによって植物が育つので,雨や雪は必要な気象現象である。

山の開発が進むと,降った雨がうまく地面に染み込まなくなる。日本の場合,落葉樹である広葉樹林が中心で,その落ち葉が堆積したベッドのような層が地面近くを覆うことで,雨をいったん受け止めたり吸い込んだりしてゆっくりと地面に染み込ませる働きをしてきた。山の保水力はこうして作られてきた。保水力があることで,雨水が川に一気に流れ込むのを防ぎ,洪水になることを防ぎ,山崩れも防いできた。

しかし,材木を得るための杉などの針葉樹の植林は,落葉しても葉が細いために地面の保水力が弱い。近年,植林地のメンテナンスも疎かになりがちで,山全体が保水力を失ってきている。これが川の増水と大規模な土砂崩れの引き金になっている。

地球温暖化によって海水からの水分の蒸発量が増え,空中の水分量が増えていることも,大雨などの異常気象を招いているが,その雨を受け止める大地にも異変が起きており,人為的な原因が引き金になっているとも考えられる。さらに,線状降水帯のように1箇所で長時間にわたって大雨が集中して降るという新しい現象によって,被害が大きくなっている。

大昔も,川が氾濫することによる被害は起きただろう。「暴れ川」と呼ばれる川は日本各地にある。時の支配者はこの暴れ川を制することで支配者としての支持を受けてきた。堤防を築き,水路を掘って,流れをコントロールしてきた。

戦後は,コンクリートによる護岸工事によってさらに堅固な堤防が築かれてきた。しかし50年以上が経過して護岸の老朽化やひび割れなどの傷みが進行し,ここに昨今の異常な大雨による増水が重なって,堤防そのものが決壊するという想定外の災害につながっている。

いったん築いたインフラは「永久不滅」みたいに思い込み,メンテナンスでそれ以上のコストをかけることを怠ってきた。これは人が作ったあらゆるものに当てはまる。家の雨漏りもそうだし,原子力発電所の蒸気漏れなども,100%防ぐことはできない。あらゆるモノは劣化する。地球もさまざまな変化を繰り返しており,ある意味で劣化しているとも言える。人類の技術や文化が,どこまでこれに対抗するのか,あるいは対応するのか,あるいは自ら破滅の道を選ぶのか,ここ数年が分かれ道になるのかもしれない。

もし今できるとしたら,線状降水帯の発生地域の確率計算と,その影響を受ける地域の増水可能性計算である。たとえば,直径5kmの範囲に1時間あたり30mmの集中豪雨が6時間続く場合,その雨がどのように川に流れ込むのかを計算できれば,降り始めからどの程度の時間でどの地域で危険水位に達するのかの予想シミュレーションができるかもしれない。さらに細かいメッシュで,降った雨がどの方向に流れていくのか,土中水分量がどう増えるのか,などを徹底的にシミュレーションする手法の開発が急務である。

特に居住地は,家やビルが建ち,道路が舗装され,水路や下水道が整備されていて,水の流れを把握するのがさらに難しくなる。舗装された地域では水が土に染み込まず下水に流れ込み,これが集まって川に流れ込む。しかし,川が増水してくれば下水は水を川に流すことができず,逆に増水した川の水が町中に逆流して溢れる内水氾濫を起こす。このシミュレーションも重要である。ただ,仮に内水氾濫が予想されても,川に注ぐ下水の水門を閉じるべきかどうかの判断は難しい。水門を閉じることで逆流は防げても,町中では下水が溢れる現象は起きてしまうからである(それでも,川からの逆流の水量と水圧の方が大きいことを考えると,この場合は水門を閉じる,という判断が正しいと思うのだが,担当者の悩みどころだろう。下水の流れ込み口が複数ある場合,これをすべて管理することはさらに難しくなる)。

こういう計算にAIはまず何の役にも立たない。過去に起きた事例を集めても,その時の降水パターンまでは記録が残っていないからである。現在のハザードマップの精度をさらに上げる必要がある。計算機は,こういうところにもっと利用すべきだと考える。

雨量も,降水継続時間も長くなる傾向にある。インフラは信用できなくなっている。地震はある意味で一瞬で被害が確定するが,火災と水害はそのプロセスを目の当たりにして逃げ場を失う。どのタイミングでどのような行動を取るべきか,そのための準備がどの程度できるか,あるいは自分の命を守る行動にいつ転じて家財を捨てるか,そこまでの覚悟もしておく必要があるのかもしれない。

日本という小さな国でも,これまで何十年も災害が起きなかった地域で災害が起きている。アメリカという巨大な国でも,ハリケーンの巨大化,竜巻の巨大化で中部・南部を中心に毎年のように被害が出ている。個人の家はおろか,鉄筋コンクリート造りのビルまで崩壊するような事態になっている。避難所の学校が被害を受けたり,仮設住宅が被害を受けたりする時代になってしまった。下に逃げれば水,上に逃げれば土砂と,逃げ込めば安全という場所がなくなりつつある。水害を想定して,家の1階を完全防水にするとか,ミサイル攻撃を想定して地下にシェルターを作るとか,これまでもいくつも提案してきたが,かなり実用的な津波シェルター「ライフアーマー」 - jeyseni's diary (hatenablog.com) (2021/5/4)という球体のシェルターを庭先に置いておく,というソリューションがひょっとしたら最も「命を守る」方法かもしれない,と思い始めている。