舞台『僕のヒーローアカデミア The “Ultra” Stage 平和の象徴』観劇備忘録 (original) (raw)

舞台『僕のヒーローアカデミア The “Ultra” Stage 平和の象徴』観劇備忘録

大阪公演初日を観劇させていただきました。
2022年4月22日(金)17:30公演 メルパルクホール大阪
(書き上げたことに安心して投稿するのを忘れていました)

【ヒロステの魅力】

環境雑音から入る導入がとても良かったです。
客席と舞台。物語と現実。その境界が曖昧になり前作のショッピングモールでの場面から今作に繋がっていく演出が実に上手いと思いました。

ヒロステはあの世界の住人になれるところに醍醐味があって。前作ではステインの信念たる叫びに登場人物たちが一歩も動けなくなるほど全てを圧倒する静寂。ここにある種の共感と支配力を直に体感しました。

そして今作では「オールマイトの背中」。
・舞台の奥に立ちはだかるオールフォーワン
・客席に背中を向け巨悪と対峙するオールマイト
この構図により、観客である私たちは確かに“オールマイトの背中”に守られていました。あの背中を目の当たりにしたとき。ぐっと拳を握り彼の勝利を願っていました。
「負けないで!オールマイト!!」と。
あの瞬間。声はもちろん出せないながらも私の気持ちは確かにあの世界の住人たちと共にありました。これそこがヒロステの魅力だと思います。

【オールラウンダーの皆さん/木内海美さん、福井将太さん、田邊謙さん、辻村晃慶さん、大原万由子さん、師富永奈さん、掛川僚太さん、河島樹来さん】

私は大阪公演初日に観劇していました。そして今回のアクシデントの件に関係なく、本公演でもっとも感情が高まったのがカーテンコールでオールラウンダーの皆さんが一堂に並ばれた瞬間でした。
一人で何役もの殺陣、芝居、歌にダンスを演じ、舞台転換、衣装替え、大道具小道具の操作。舞台上で見てとれるだけでもこれだけの仕事量があり。計算された動線にダイナミックでありながらミスの許されない動き。集中力を要する動きは体力も奪われるのにスタミナどうなっているの!?と驚かされました。

そんなオールラウンダーさん一人一人の担う責任感と緊張感、何よりも熱量が痛いほどにが伝わってきたからこそ。カーテンコールで一堂に並ぶオールラウンダーの皆様のお姿を見たとき「ありがとう」の気持ちが溢れ自然と涙がこぼれていたのです。
お一人お一人の存在が「日々の一つ一つの仕事を大切にして私も頑張ろう!」そう思わせてくれたヒーローでした!

本当に比喩表現ではなく誰一人として欠けては物理的に成り立たない公演だと思っていましたし。敬意の念を込めて、オールラウンダーさん一人一人の仕事と存在は簡単に代役が立てられるようなものではないと思っていました。
しかしそんな心配も代役がお二人という対応になるほど!と納得。演出変更によるリスクもあるなか千穐楽まで駆け抜けられたことに安堵いたしました。

近頃観劇予定だった公演だけでも役者さんの怪我による演出変更や公演中止をよく目にしてきました。ヒロステはコロナ禍による公演中止という苦い経験から、特に感染対策など役者さんへの配慮の尽されたカンパニーだと思っています。それでも起きるアクシデント。
演劇界全体がコロナ禍を機に役者さんをより大切にしてくれるようになったのだと思いたいです。期待と共に求められるハードルも高くなる部分もあるかもしれませんが、無理なく安全第一の公演を願っています。

アキレス腱断裂という大怪我のなか公演中の仕事を果たされた辻村晃慶さん。手術も無事成功されたとのことで、一日も早い完全回復と今後のご活躍を願っています!

【青山優雅役/橋本真一さん】

若干ネタバレになります。

青山優雅から目を離せない!(キラメキもありますけどね 笑)
原作の展開を知っているからということもありますが。場面の端々で見られる橋本さんの“原作の展開を踏まえた演技”から目が離せませんでした。

林間学校で彼が物陰に隠れてヴィランたちに怯える姿は原作やアニメでも描写されていましたが。
林間学校の場所が急遽変更になったと相澤先生が伝えたときの“青山くんらしからぬ表情を隠すような動揺”。彼の後ろめたさを繊細に表現するお芝居にぐっと引きつけられ、楽しいはずの場面すら彼の一挙手一投足に切なくなることが幾度もありました。
これは舞台だからこそ味わえる発見と登場人物への感情移入だと思います。

また、ライブパートでの「青山優雅による校歌独唱」は面白いシーンのはずなのにあまりに歌が上手すぎて途中から「う、歌が上手すぎる…!!」と思わずあんぐりと口を開けて真顔になっていました 笑

【トガヒミコ役/伊波杏樹さん】

今回の公演はトガヒミコという女の子にとってヴィラン連合という絆の始まりであり。この先ずっとトガちゃんの深い部分を刺激し続ける存在となる「麗日お茶子ちゃん」との関係性の始まりの回でもあったと思います。
伊波さんのお芝居からもトガちゃんの居場所と彼女の在り方の“始まり”を感じました。

特にトガちゃんが取り押さえられたまま、好きな人についてお茶子ちゃんに語る場面での“弾む声”や“パタパタと動く足”が「恋バナをする女の子そのもの」で彼女にとっての「普通」や「好き」を表現していらっしゃり。そこから「彼女の在りたい姿」と「世の中の在るべき姿」のズレを明確に感じ取れてとても好きな場面です。

ラジオ『伊波杏樹のradio curtain call』で語られた言葉。
「自分では狂気の表現をしようと一切していない」
「彼女の普通は普通ですからね。逆に狂気にしないようにっていうのはすごくあります」
「自分の普通で生きて、自分の理想だったりとか見ている世界っていうものが彼女なりにもあるので」
「もういかに普通に女子高生の立ち位置として、ヒーローたちと対峙するかみたいなところをすごく稽古から考えていたので。フラットに何も考えずにトガヒミコっていう人間をぱっと見てもらって。それぞれの印象、考え方、思い、伝わり方、ゾクゾク感みたいなのを感じてもらえたら嬉しいかななんて思っています」

前作からそうですけれども!ラジオでこれらの言葉を聴いてからさらに!!
「大好きなトガちゃんを演じてくれたのが伊波さんでよかった!!!」
という思いを深く強くしました。

また、今作では前作よりさらに口調だけでなく声質までアニメのお芝居に寄せてくださっている!と思っていたのですが。なんと伊波さんご自身としてはあまり意識はしていなかったとのことで逆に驚きました。
「意識をしてしまうと枠にはまって表現が制限されてるしまう」
という言葉になるほどなと思いました。
舞台『スーパーダンガンロンパ2』の澪田伊吹役の頃は小清水亜美さんの声をずっと聴いていたとのことなので。様々な役を通した経験があってこそ、上辺だけでない説得力を伴い“意識せずとも役として生きることで声質まで似る”という境地に至ったのだと感じました。

「誰よりも彼女の味方でいたい」と犯罪心理学系の本を読んだり動画を見たりしたとのことで、出逢えた役をとことん理解し尽くし大切にする誠実な役者さんだなと改めて思いました。
長く続く作品になるほど、ずっと同じキャストさんに演じてもらえることは難しくなることは分かっています。けれどトガヒミコという女の子だけは伊波杏樹さんに演じてほしい。
「役者」という枠組みだけでなく、「人間」としてこんなにも彼女の“ありのまま”を受け止めて表現してくれる人はそうはいないと思うのです。
伊波杏樹の在り方があってこそ、舞台上に立ち。ただ生き生きと生きるトガヒミコを顕在化させてくれた。そう思っています。