「ちょうどいいデザイン」ってなんだろう?個性を活かして本質を掴む、デザイン会社KNAPの哲学 | JOB:クリエイティブ業界の求人情報 | CINRA (original) (raw)

WEBサイトをはじめ、グラフィックやアプリUI、デジタルサイネージ、ブランディングなど、さまざまな領域を手がけるデザイン会社・KNAP。デザイナーとして入社したメンバーが、企画や写真、イラストの腕を磨いて実績を積んだり、果てはエンジニアに転向したりと、とことんまでに社員一人ひとりの個性や興味を大切にしてきた。

本記事では、「一人の個性によって会社が変わっていくことが楽しい」と語る代表の河田慎さんと、彼のもとで長らくアートディレクター・デザイナーとして働いてきた粂川繭子さん、後藤優佳さんを取材。それぞれが自分の「光るもの」を大切にできるKNAPの文化や、モットーとしている「ちょうどいいデザイン」について聞いた。

デザイナーを取り巻く環境が変わりつづけるこの時代に、領域にとらわれずみずからのスキルや発想力を磨き、課題の本質に向き合い自分の頭で考えることの大切さが見えてきた。

「やりたい」と「得意」を伸ばすKNAPの環境づくりとは

KNAPには現在、代表の河田さんのほか12名の社員が在籍しており、デザイナー、フロントエンドエンジニア、ディレクターから構成されている。デザインだけではなく、企画やイラスト、写真など、「プラスアルファ」を持ったメンバーたちが在籍していることが強みだ。

粂川:私は河田がKNAPを立ち上げる前からフリーランスのデザイナー同士として交流があり、立ち上げのときに参画しました。イラストを描くのが好きで、 WEBサイトや印刷物などのデザインとあわせて、イラストレーション制作を担当することもあります。

後藤:私は2013年に新卒で入社しました。最初はアシスタントからスタートし、徐々にスキルアップして、いまは例えばWEBデザインならどういうサイトをつくっていくか、企画面からクライアントに提案して一緒にものづくりしていくことを得意としています。

デザイナー・粂川繭子さん。WEBサイトから印刷物のデザインを担当する。イラストを取り入れたやわらかいデザインを得意としている

スタッフの興味ややる気にとことん向き合うことを大切にしているKNAP。現在、フロントエンドエンジニアとして在籍しているメンバーも、もともとデザイナーとして入社したが、業務のなかでエンジニアリングへの興味が高まり、徐々に働き方をシフトしていったという。現在は企画力で活躍する後藤さんも、入社してからその力を伸ばしたのだとか。

後藤:私が入社した当時、社員は4名ほどしかおらず、全員デザイナーだったんです。そのなかでも、エディトリアルが得意な人、撮影ができる人、イラストが描ける人……みんなそれぞれ何か光るものを持っていたけれど、私にはこれといったものがなくて。結構焦って、河田に相談していたときもありましたね。

アートディレクター / プランナー・後藤優佳さん。新卒で2013年にKNAP入社。その後10年勤務し、産休・育休を経て復帰。デザインだけでなく、企画提案から撮影ディレクション、コピーワークまで行なう

後藤:そこで自分の好きなことをあらためて考えたときに、大学の課題などで「企画が面白いね」と言ってもらうことが多かったと思い出したんです。河田からも参考になる講座を紹介してもらうなど後押しを受け、最初は既存のクライアントとのお仕事のなかで、企画費をいただくわけではなくプラスアルファとしてご提案するところからスタートしました。そこから少しずつ規模を大きくして、いまでは1,000万円規模のコンペに出られるようにまでなりました。

自分自身のなかから「光るもの」を発掘し、それを着実に伸ばしてこられたのは、代表である河田さんの後押しが大きかったという。そうした河田さんのスタンスの裏には、クライアントの課題にどこまでも寄り添える会社でありたいという思いがある。

後藤:河田は「失敗しても、俺が責任取るから」とか「もしこのコンペが取れなくても、会社は潰れないから」と言ってくれるので、もちろんプレッシャーはありますが、安心して挑戦できました。

特にコロナ前は社員旅行や飲み会などカジュアルなコミュニケーションの場もよくあったので、「じつはこれが好きなんですよ」「じゃあ、仕事でやったら?」みたいな何気ない会話から、メンバーの才能が開花していった様子はたくさん見てきました。興味を口に出しやすい雰囲気や、気軽に挑戦できる環境が揃っているのかなと思います。

河田:クライアントから僕たちのような制作会社に依頼がくるときって、「WEBサイトリニューアル」とか「採用動画をつくる」とか、「何をつくるか」をベースに話が始まることが多いですよね。でも、じつはもっと本質的な課題が別にあって、依頼されたものをそのとおりつくることが必ずしも最善策ではない場合が往々にしてあります。

代表取締役・河田慎さん。明治大学卒業後、印刷会社や制作プロダクションで印刷物のデザイナーとして従事。独立と同時にAdobe FlashでのWEBサイト制作を中心に活動開始。2011年に法人化し、現在に至る

河田:一つの専門性を突き詰めていくのも素晴らしいことだとは思うのですが、本質的な課題にアプローチするためには、「WEBサイト制作専門」ではなくて、クライアントの課題に応じてなんでもできるほうが、会社として強いのではないかと思います。また、一つのことだけやっていると、発想できることに限りが出てきてしまうのではという思いもあります。

だからこそ、いまの僕たちのなかにないスキルを持っている方が加わってくださるのは喜ばしいですし、まだ実績はないけれどこれから広げていきたい領域があるという方も歓迎したいなと思います。

粂川さんがトップのイラストを制作した、生活クラブ風の村の法人サイト。人生のあらゆるステージの人がつながり尊重し合いながら生活できるコミュニティという、風の村が描くビジョンをイラストで表現した

会社のバリューも社員が自主的に決めた。自主性を大切にする空気が、メンバーの相互作用を生む

KNAPが社員の自主性を重んじているのは、制作シーンのみにとどまらない。社員同士のチーム活動のなかで広報活動などに取り組むほか、会社としてのバリュー(行動指針)も社長以外の社員たちによるディスカッションで決めたという。

河田:コロナ禍で完全リモートワークになり、コミュニケーションが希薄になってしまったことから、チームを組んでそれぞれ課題に取り組もうという活動をスタートしたんです。

粂川:例えば、会社のブログとか。検索からの流入は比較的多いコンテンツだったのですが、見にくいデザインや使いにくいUIなど改善の余地がたくさんありました。そこで、あらためて解析や競合調査を行なうところから始まり、ブログによって達成したいゴールやそのためのコンセプトなどを設定して、UIやデザインを完全リニューアルしました。

デザイナーやエンジニアにとって役立つ情報を発信している「ナップブログ」。メンバーが自ら執筆している

後藤:取引先の方々に送るオンラインの年賀状もつくりましたね。あとは、社内でイラストを制作できるということをもっとPRしようと、SNSで定期的にイラストをアップしているチームがあったり。それぞれチームで、会社をどうしていきたいか、どうしたらもっとよりよくなるかを自分ごと化して取り組んでいると思います。

粂川:あとは、3か月に1度くらいのペースで、社長以外のみんなが集まる社員会議もやっています。そこでは時間をかけてバリュー(行動指針)についても話し合い、最終的に「ともに歩もう」「心をこめよう」「前へすすもう」「期待を越えよう」という4つの言葉にまとめました。

河田:会社としてみんなで同じ方向を向くためには、僕ではなくてみんなに決めてもらったほうがいいだろうと思ったんです。会社のことを全部自分一人で決めてワンマンでやってきた時代も、それはそれでよかったのですが、さまざまな経験を持つメンバーが入ってきてくれると、メンバー同士の相互作用もありこうしていろんなことが起きてきました。自分だけではできないことがどんどん増えて、会社が大きくなる意味が出てきたなとうれしく思っています。

目指すのは「ちょうどいいデザイン」。いま求められる「ちょうどいい」とは?

KNAPがものづくりにおいて大切にしているのは、「ちょうどいいデザイン」であるということ。技術やトレンドがめまぐるしく変化する時代のなかで、クライアントから「ちょうどよさ」を求められる機会も増えているように感じるという。

河田:「ちょうどいい」っていちばん難しいことだと思うのですが、だからこそそれを極めたいと考えています。自分自身のエゴイズムを極限まで打ち出すのがアーティストだとしたら、デザイナーはクライアントの思いや考えを汲み取りながら、自分自身の情熱をそこに掛け合わせて、「ちょうどいい」を突き詰めていくべき職業なのではないかと。

後藤:WEBデザインの世界でいうと、「ちょうどいい」ことが時代的にもより求められるようになってきている気がします。これまでは、派手なアニメーションを効かせた尖ったWEBサイトが注目されがちでした。でもいまはそこからの揺り戻しがあり、やっぱりきちんと情報が伝わる、見やすいデザインであることのほうが大切なのではないかと、さまざまな企業の担当者さんも感じはじめているように思います。

粂川:派手なことをやろうとすると、そのぶん予算もかかりますからね。それが本当にクライアントにとっていいのか、という視点もあると思います。それよりも機能や使い勝手がよいことのほうが、エンドユーザーのためになるのではないかと。

河田:SNSで、一般ユーザーによるコンテンツが広く出回るようになったことも大きいかもしれません。そうしたコンテンツにはエンタメ性があるけれど、正確性や、企業が本当に伝えたいブランドの魅力はやっぱりWEBサイトにあるのではないでしょうか。また、アクセシビリティへの配慮が義務化され、あらゆる人にとって使いやすいことが名実ともに重要になってきたという背景もありますね。

生成AI、ノーコード……技術が発達するなかで、デザイナーに求められる本質とは?

クライアントの課題にクリエイターの情熱を掛け合わせて「ちょうどいい」ものづくりをしていくためには、双方の対話や「一緒に考えよう」という関係づくりが欠かせない。KNAPのデザイナーたちはそれを突き詰めていった先に、生成AIやノーコード開発などが実用化され環境が変わりつづけるなかでデザイナーに求められる「本質」が何か、自分たちなりの答えを見出しているようだ。

後藤:長くお仕事をさせていただいているクライアントの一つに、株式会社オークネットさんがいます。最初にご一緒したWEBサイトのリニューアルプロジェクトが始まる際、社内に6つある事業部が、もともと別会社から一緒になったという経緯もあり、統一感に欠けるという課題があるとお聞きしました。そこで、会社全体のロゴの形状をベースにした、事業部ごとのアイコンをご提案したところ、すごく気に入ってくださって。WEBサイトを納品したあとも、「また一緒に考えてほしい」と言っていただいたんです。

後藤:いまはノーコードで簡単にWEBサイトがつくれて、費用も抑えられるし、更新も簡単です。ただ、いま依頼してくださっているクライアントは、私たちに「一緒になって課題と向き合って、考えてくれる」「要望した以上のプラスアルファを提案してくれる」など、AIや機械にはできないところを求めてくださっているのかなと感じます。私自身が今後、自分に依頼してもらったことに対して答えを出していけるのも、その領域なのではないかな、と。

河田:お客さんの課題に対してどういうものをつくるべきか、どういう仕掛けをするべきか、と考えることですよね。そのためには、領域にとらわれない柔軟な発想力が必要です。あとは、例えば印刷物やプロダクトなど、フィジカルな手触りを持つものはやはりまだAIだけではカバーしきれない部分ですし、今後力を入れていきたいという思いはあります。実際、イベントが得意なディレクターが入社してからは、イベントの事例も増えているんです。

2024年5月に開催された「nuna Picnic Park 2024」のスペシャルママトークステージ設営の様子

粂川:社員同士の会議でも、いろいろな便利なツールが出てきているなかで、今後デザイナーがどうしていくべきか、話し合ったことがありました。人によっていろいろな意見があったのですが、私はやっぱり、きちんと自分にしかつくれないものをつくらないと、求めてもらえなくなってしまうんじゃないかという思いがあります。例えば、イラスト制作の際はクライアントさんの情報をできるだけインプットして、イラストから伝えたいことが伝わるように描くことを心がけています。

時代の荒波のなか、決まりきった答えのないデザインという仕事に、チームで真摯に向き合うKNAP。最後に、どんな人に入社してほしいと考えているかをたずねてみた。

河田:経験豊富な方が一人入社してくれると、それだけでも会社ってすごく変わるんです。いろんな広がりを感じるといいますか。デザイナーという職種には、もちろんスキルは求めているのですが、それだけではなくて、いままで社内になかったセンスやものの考え方、個性によって、会社に新しい風を吹かせてくれる方が入社してくれたらうれしいなと思います。

後藤:積極的に社内でコミュニケーションを取ってくれる方だとうれしいです。メンバーによって出社する人もいれば、リモートの人もいて、コミュニケーションの機会はなるべく設けてはいるものの、やっぱりまだ弱い部分かなとも思っていて。一人が積極的になってくれると、会社全体にコミュニケーションが生まれやすくなるので期待しています。

粂川:私は昔、河田が「KNAPを『河田デザイン事務所』にはしたくない」と言っていたことが印象に残っています。一人ひとりがクリエイターとして活躍している会社にしたいと。そのためには、ただ与えられた仕事をこなすというスタンスではなく、自分なりの意思ややりたいことがある方が入ってくれたらいいなと思います。

一人ひとりの豊かな個性が集まり、さまざまな相互作用を起こしながら、無限に変化しつづける——それをいとわず、むしろ楽しむ河田さんという代表のもとで、それぞれのデザイナーがのびのびとものづくりに励む。KNAPから生まれるデザインには、だから、「つくるよろこび」があふれているのかもしれない。