夏目アラタの結婚@TOHOシネマズ錦糸町オリナス 2024年9月8日(日) (original) (raw)

封切り三日目。

席数114の【SCREEN6】の入りは七割ほど。

原作は全12巻が既刊。
うち、自分は3巻までを読了。

既にして120分尺に収まるボリュームではなく、
また原作ありモノの悪しき轍を踏むかと思っていたら、
意外なほど映像化の出来は良い。

原作との合致度はどれくらいかは分からぬが
ミステリー×サスペンスの映画作品として
(あ、プラスしてラブロマンスも)十分に成立している。

三件の連続殺人の犯人として
一審では死刑判決が出された『品川ピエロ/品川真珠(黒島結菜)』。

が、法廷でも黙秘を貫いたため、
三人の遺体の欠損部分の行方は分かっていない。

まだ見つかっていない父親の首の隠し場所を聞き出すため
名前を偽り『真珠』と文通を始めた遺児のため
児相の職員『夏目アラタ(柳楽優弥)』は拘置所に面会に向かい
成り行きから「俺と、結婚しよーぜ」と言い放つ。

そこから始まる心理戦。
『アラタ』は一挙手一投足や言葉から
彼女の心情を読もうとする。

一方の『真珠』は弁護士の『宮前(中川大志)』、
『アラタ』の先輩の『桃山香(丸山礼)』をも篭絡し
何かを企んでいるよう。

幾つかの謎は提示される。

遺体の一部を意図的に隠し、その場所を黙秘する理由。
子供の頃に低かったIQが、長ずるにつれ跳ね上がった理由。
初対面の時から『アラタ』に固執する理由。
一審では黙秘を貫いたのに、控訴審では突如として饒舌になった理由。

一方、『アラタ』の心情も次第に変化する。

勿論、最初の目的は行方の分からぬ首の在りかを突き止めるため。
やがて『真珠』の薄幸な子供時代に憐憫を感じ、
「可哀想だ、たあ、惚れたってことよ」を地で行く愛情に。

最初は「殺人者」との見立ても、彼女の言動により
次第にその確信は
揺らいで行く。

謎を解く鍵となるパズルのピースは
緻密に配置されている。

とりわけ、ネグレクトかと思われた
幼少期の母親からの扱いさえ
理由があってのことと判った時の衝撃。

冒頭から幾度となく提示される幾何学模様が意味するところには
呆気に取られたけど。

評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。

もともと『黒島結菜』は良い女優さんで、
〔明け方の若者たち(2021年1)〕
鋼の錬金術師 完結編(2022年)〕
での、特に前者の演技は特筆モノ。

撮影時は役柄とほぼ同年齢と思われるが、
心の揺らぎを過不足なく演じて見せた。

「NHK」の朝ドラ〔ちむどんどん(2022年)〕では叩かれたけど、
彼女の責にはあらず、メタメタな脚本のせいだろう
(ホントに〔パッチギ!(2005年〕〔フラガール(2006年)〕の共同脚本かと、
疑ってしまったほど)。

本作でも、その技量は遺憾なく発揮。
殺人鬼で被害者で、
人を操る狡猾さと
純愛に夢見る無垢な心を併せ持つ複雑な女性の表現は終盤まで秀逸。