第11話「戦え!思いブラザーズ」(1985年6月16日放送 脚本:浦沢義雄 監督:大井利夫) (original) (raw)
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【ストーリー】
掃除機を使って、家電の手入れをしているママ(大橋恵里子)。カミタマン(声:田中真弓 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)は「新しいの買ったほうがいいんじゃないの?」。
ママ「まだ使えます!」
「そうかなあ」と懐疑的なカミタマンに、ママは「うちのクーラーになんか文句でも!?」。
カミタマン「今年の夏も暑くなりそうっち。そのクーラーじゃ」
ママ「大丈夫、あと10年は使ってみせるわ」
電話がかかってくるが、ママは手入れをつづけて無視するので、カミタマンが出る。
カミタマン「もしもし、根本だっち。おお、横山」
カミタマン「話って何だ?」
横山は「ネモトマンのことなんだけど」と切り出す。
横山「ほら、何か事件があると」
「正義のスーパーヒーロー、爆発、ザ・ネモトマン」とポーズを真似してみせる横山。
横山「なんちゃって出てくるあのバカ」
カミタマン「バカ?」
横山「ネモトマンの正体、伸介じゃないの?」
「ちゃうちゃう」とカミタマンは慌てる。
横山「あんなバカなことできるの、この町内じゃ伸介ぐらいしかいない」
カミタマンは「ちゃう、絶対違うっち」と必死で否定。
横山「あの無教養な肉づき、どう考えても伸介だと思うんだけど」
横山の頭の上に伸介(岩瀬威司)の写真が。
カミタマン「ネモトマンは伸介じゃないっち」
横山「じゃ誰なんだ?」
カミタマンが「それは」と口ごもると、横山は「やっぱり伸介なんだ」と駆け出し、カミタマンはこける。
横山はタバコ屋の公衆電話をかける。
横山「カワダ小学校ですか。5年の根本伸介が先生に無断でネモトマンやってました」
驚くカミタマン。
横山「処分してください」
カミタマンはブーメランを放ち、横山が「ぼくですか。ぼくは5年の」と言いかけたところでブーメランが直撃。横山はひっくり返り、受話器からは「もしもし、もしもし」と声が聞こえる。
カミタマン「カメよ、カメさんよー」
やがて「唄ってる場合じゃないっち」と行く。
別の公園で釣りをしていた伸介は、カミタマンから話を聞いた。
伸介「そう、やっぱり」
カミタマン「やっぱりってお前」
伸介「そりゃいつかはばれると思ったよ」
カミタマン「伸介…」
伸介「こうやって釣り糸を垂らして浮きを見ていると、なんかわかんないけど人生を感じるんだよね」
アスレチックで、横山から話を聞いたマリ(林美穂)。
マリ「ええ、お兄ちゃんがネモトマン?」
マリは「そういえば」と思い当たる節がある様子。
伸介が噴水の前で何か食べていると、マリが「お兄ちゃん助けて!」と駆け寄る。
マリ「悪い奴に!」
伸介「何ぃ?」
自転車に乗った連中が来るのが見える。いつの間にか伸介の姿がない。
マリ「お兄ちゃんのバカ!」
悪い奴が3人、自転車でマリを取り囲む。
マリの声「あのときはてっきりお兄ちゃんが逃げたもんだと思ったけど」
そこへネモトマンが「おばさんちの子が女の子いじめてる」と母親を連れてくる。母親は悪い奴のおしりを叩き、他のふたりは逃走。
ネモトマン「よかったですね、マリさん。はっはっはっはっは」
情けない顔でうつむくマリ。
マリ「おばさんを連れてくるところなんか、お兄ちゃんらしい」
アスレチックにぶら下がった横山。
横山「でしょう?」
まだ釣りをしている伸介。
伸介「ぼくって何回も何回も言うようだけど、性格が正義のスーパーヒーローには向いていないような気がするんだ。こうやって日がな一日釣り糸を垂らして」
カミタマン「伸介! そんなこといまさら言われたって、お前が正義のスーパーヒーローやりたいって言うから、ネモトマンにさせてやったんだぞ」
伸介「正義のスーパーヒーローって思ったより大変なんだもん」
カミタマン「この軟弱者!」
庭で洗濯しているママ。パパ(石井愃一)は景品を抱えて誇らしげ。
ママ「あなたって最高」
パパ「なーに、こんなもの。今度な、あのパチンコ屋全台打ち止めにして、パチンコ屋ごと景品替えしてお前に持ってきてやる」
ママ「頼もしい!」
抱き合うパパとママ。そこへ「大変大変!」とマリと横山が。横山は疲れた様子。
横山「すいません、お水くれませんか」
パパ「いいよ」
パパは平然と洗濯機のホースを外して、横山めがけて放水。
横山「うわっ」
マリ「パパもママも驚いちゃダメよ」
パパ「何なんだ」
マリ「ほら、ときどきうちに来るネモトマンとかいう変な子」
パパ「ああ、伸介のことか」
マリ「え?」
ずぶ濡れの横山は「知ってたんですか?」。
ママ「当たり前よ。これでも私たち伸介の親なんですから」
うなずくパパ。
横山「さすが大人だなあ」
マリ「じゃあいままでどうして?」
「うわ」と逃げる横山に、笑顔で水をかけつづけるパパ。
パパ「あそこまでバカやられちゃあ、つきあわざるを得んだろう」
ママも笑顔で水をかける。
ママ「正体ばらして伸介傷つけて非行にでも走られちゃ」
マリ「知らなかった知らなかった。パパとママがそこまで人間的にできているなんて」
パパ「マリ、親というものは見ていないようで、必ずどこかで子どもを見ている。親というものはそういうものなんだ。結論を先に言うならば、人生は金だ」
愉しげに笑うパパとママだが、マリは気鬱な顔。
マリの声「お兄ちゃんがネモトマンなんて、私信じられない」
水をかけられつづける横山。
マリ「よし!」
公園で伸介は何か決心した様子。
伸介「正義のスーパーヒーロー、爆発ザ・ネモトマンをやるくらいなら、いっそこの池に飛び込んで、魚になって」
驚くカミタマン。
伸介「活き造りにされたほうがましだ。 活き造り、活き造りにしろ!」
公園のテーブルに横になって、自分に花をかける伸介。マリが走ってくる。
マリ「大変なの! パパとママが横山さんにホースの水を」
マリはカミタマンに「早くネモトマンを出して。ネモトマンの力が必要なの」と頼む。
カミタマン「あら、そう。ネモトマンの力ねえ」
じろりと伸介を見やるマリとカミタマン。
カミタマン「どうする、伸介?」
伸介は苦悶。
マリ「どうしてお兄ちゃんが悩むの?」
伸介「いや、悩むなんて」
マリ「カミタマン、早くネモトマンを」
カミタマン「いやあ、それが」
マリの声「カミタマン困ってる。お兄ちゃんも困ってる」
マリは「じゃあいいわ。ふたりにも事情があるだろうから、ネモトマンがうちに来る前に電話入れて。それから来て。約束よ」と行ってしまう。
カミタマン「どうする、伸介?」
伸介「なるしかないだろ」
伸介が「ぼくにはこれっぽっちの好きな時間も持てないのか」と愚痴ると、カミタマンは笑う。
庭に戻ってきたマリ。
パパ「え、ネモトマンがうちに来るって?」
マリ「そう、そこをつかまえて正体を見破るの」
ママ「マリ、いけません。あたしたちが伸介だって知ってることをないしょにすんのよ」
横山「どうしてですか?」
ママは横山の顔にタオルをかぶせて、頭をつかむ。
ママ「ばれて伸介傷ついて非行に走ったら、あんた責任とってくれんの!?」
横山「判りましたよ」
パパ「いいねマリ、伸介を傷つけないように」
うなずくマリ。電話がかかってくる。「ネモトマンからよ」とマリ。
公園の電話ボックスで伸介がかけていた。
伸介「じゃあ行かさせてもらいます」
カミタマン「どうだったっち?」
伸介「待ってるって」
カミタマン「がんばれよ!」
「自信ないなあ」とぼやく伸介。
伸介「できれば誰かに代わってもらえないかなあ」
カミタマンは「横山がネモトマンの正体を見破ろうとしたのもお前のその軟弱な態度っち! 疑うのはネモトマンになっても軟弱だからだぞ」と一喝して変身させる。ネモトマンはへらへらと飛ぶが木の幹に激突して転落。「へへへ」と笑ってまた飛んでいく。
庭ではパパとママが、横山を折檻する芝居をしていた。マリは「もう少し痛そうに」「ママも笑ってないで」と演技指導。
マリ「あ、来た」
ネモトマンが植木鉢に突っ込んでくる。また折檻が始まりマリは「ママやめて」。ネモトマンはのんびりと鉢を元に戻す。
マリはこれみよがしにポーズをとりながら、棒読みで「パパやめて。誰か助けて。ママやめて。かわいそうでしょ」。
チョップの真似をするパパに、にやにや笑うママ。マリはくるくる回って「誰か助けてー」と呼びながらネモトマンの様子を伺うが、ついにしびれをきらす。
マリ「あんたいったい何しに来たの?」
ようやくポーズをとるネモトマン。拍手をするパパとママ、横山。ネモトマンがきょとんとすると、マリは咳払い。3人はまた折檻芝居を始める。
マリ「さあ早く横山さんを、パパとママの手から」
ネモトマン「は、はい」
マリ「どうしたの?」
ネモトマンはカミタマンに「軟弱者」と言われたのを思い出していた。
ネモトマン「ガオー」
思わず茫然とする一同。
マリ「パパママ横山さん!」
我に返った3人はダメージを受けたふりをして倒れる。
マリ「さすが正義のスーパーヒーロー、ネモトマン。渋い」
へらへら笑うネモトマン。
公園のベンチで横になっているカミタマン。
カミタマン「助けてくれだの事件解決しろだのの仕事、全部ネモトマンに押しつけるっち。ネモトマンいないとカミタマン仕事増えるっち」
カミタマンは寝入ってしまう。
ネモトマンはサインしていた。
マリ「近所の友だちにあげようかと思って」
ネモトマン「いえいえ、これくらい」
「ああ、喉が渇いた」と繰り返すネモトマン。マリはひっくり返っているママに「ネモトマンがお茶だって」。
ネモトマン「正義のスーパーヒーローはお茶よりジュースだ」
マリ「だって」
公園で「心配だ」とカミタマンは目ざめる。
庭ではネモトマンが椅子にふんぞり返り、パパたちは「いかがなもんでしょうかね」とマッサージしていた。マリはあきれ顔。
マリ「これじゃあちょっとやりすぎよ」
やがて横山が「あの娘とスキャンダル」を唄い、パパとママは踊る。帰宅したカミタマンは、みなの浮かれた姿に絶句。
カミタマン「正義のスーパーヒーローが1度は必ずかかると言われる大病、思い上がりだっち。このままいけば、ネモトマンはうぬぼれ、のぼせた予約制の正義のスーパーヒーローに」
壁に貼られたスケジュールはぎっしり。秘書役のカミタマンが靴を磨く。ネモトマンが電話に出る。
ネモトマン「もしもし、正義のスーパーヒーロー。え、2丁目で美しい少女がやくざにからまれてる? おい、スケジュールは?」
カミタマン「あ、はい。少々お待ちくださいませ。えーと、あいにくきょうはいっぱいでございますが」
ネモトマン「じゃあ、いつならいいんだ?」
来月の3日過ぎでないと空いていないという。
ネモトマン「じゃあ来月の3日にね」
電話が切られる。
カミタマンは「正義のスーパーヒーローレントゲン」を出して目を当てる。ネモトマンの体内では顔に“上”と書かれた怪人・思い上がり(山崎清)が大笑いしていた。
カミタマン「やっぱりネモトマンは思い上がりに罹っている」
マリ「どうすればいいの?」
カミタマン「とりあえずうぬぼれ、のぼせを冷ますっち」
カミタマンは踵を返して、どこかへ行こうとする。
カミタマン「思い下がりをさがしてくるっち」
カミタマンはラーメン屋へ向かう。
庭ではみなが「いかがでございましょうか」とネモトマンをうちわであおぐ。「まあまあだね」とネモトマン。
ママ「よろしゅうございますか」
ネモトマン「蒲焼き焼いてんじゃないんだから」
うんざり顔のマリがお菓子を差し出す。
ネモトマン「はっはっはっはっは」
ラーメン屋にいるカミタマン。おばさんがラーメンを持ってくる。
カミタマン「確かここのラーメンの中に思い下がりが入っている」
カミタマンは、なるとをレントゲンで見る。するとなるとの下から怪人が這うように出てくる。顔に“下”と書かれた怪人・思い下がり(高木政人)は「おれなんて、おれなんて」となるとに潜り込む。
カミタマン「よーし」
カミタマンがなるとに注射すると「やめて、出たくないよー」との声が。
庭ではネモトマンがひとりで紙吹雪をまき散らし「ネモトマーン、悪人どもかかってこい」とひとりではしゃいでした。マリのみならず、パパとママ、横山もうんざり。
横山「マリちゃん、ぼくもうつき合いきれませんから帰ります」
ママは夕飯の支度、パパは久しぶりに銭湯に行くという。
マリ「私も、あしたの学校の予習でもやろう」
取り残されたネモトマンのもとへ、カミタマンがとことこと歩いてくる。カミタマンはネモトマンに注射。
ネモトマンの体内には、思い下がりが飛び込んでくる。だがほどなく、思い上がりに叩きのめされる。
庭に出てきた両者。
カミタマン「がんばれ、思い下がり。立て、立つんだ。思い下がり!」
思い上がりは思い下がりを持ち上げる。思い上がりは圧倒的に強い。カミタマンがブーメランを放つと、思い下がりに直撃。飛び上がった思い下がりは、思い上がりに直撃し、ふたりはのびた。
カミタマン「ワン、ツー、スリー。勝った。思い下がりの勝ち!」
ばんざーいと喜ぶ思い下がり。
思い下がり「ピース!」
夜になって夕食をとるパパとママ、マリ。
パパ「まったくネモトマンの世界も難しいもんだな」
ママ「ほんと、思い上がりだとか思い下がりだとかね」
マリ「お兄ちゃんも大変ね」
伸介が帰宅。3人は慌ててしらんぷり。
パパ「伸介、カミタマンは?」
伸介「ネモトマンと星空見物だって」
え?、と驚く3人。パパが窓を開けると、空には飛ぶネモトマンとカミタマンが。
マリ「じゃあネモトマンはいったい誰?」
飛んでいるネモトマンは案山子。
カミタマン「こうしておけば、また当分ばれない」
「ゆけ、ネモトマン」とはしゃぐカミタマンだった。
【感想】
概ねいつもやられていたネモトマンが、今回は調子づく。スーパーヒーローの慢心というのも古来繰り返されていた定番だが、何と“思い上がり”という怪人による病であるというのが今回のアイディア。この数か月前の不思議コメディーシリーズの『どきんちょ!ネムリン』(1984)の第23話でも頭の中に怪人が棲みついたせいでバカになってしまうというエピソードがあり、焼き直し的ではあるけれども(怪人を演じたのも同じ山崎清氏)ヒーローにからめたのは面白い。
全編に渡って家族と横山のコントがつづき、茫洋としてぬるま湯のようなゆるさにつつまれているが、のんきな休暇じみた雰囲気に呆れつつも笑ってしまう。切れ味の鋭い笑いを放つのでない、バカンス的雰囲気も80年代らしさと言えようか。
不コメでスーパーヒーローを笑いのめすのは第1作『ロボット8ちゃん』(1981)に既に萌芽的にあり、『ペットントン』(1983)の第44話「ナイターか!?正義の味方か」では「山田さんの商売は正義の味方なの」「正義の味方なんてのは、ただかっこつけてりゃいいんですから」「正義の味方の営業時間が10時から6時まで」などと台詞で言われていた(監督も、今回と同じ大井利夫氏が務めている)。
正義と悪との相対化というのは、このさらに20年くらい前から追求されていたテーマで、悪側にも事情や言い分があって正義側と同じだという捉え方があったのだけれども、不コメの場合は正義の味方も普通の仕事も変わらないという意味での “相対化” が行われているのだった。
『ペットントン』の時点でヒーロー揶揄はかなりのところまで到達しており、その意味では本作で新たに独創された視座ではないのだが、ネモトマンのスケジュールが埋まっていたり、パパがネモトマンの正体に気づいていながら「あそこまでバカやられちゃあ、つきあわざるを得んだろう」と達観したように口にしたりするあたりは、スーパーヒーローねたの臨界点まで来た感がある。過去のアイディアを再利用しながらも、完成形に磨き上げるというのが本作の集大成たるゆえんであろう。
少年の活き造りは『ペットントン』の第42話「エッ?ガン太が乙姫様」でもあり、実際に服を脱いでいた。
「思い下がり」というのも随分な言葉だが20年後の浦沢義雄脚本の映画『オペレッタ狸御殿』(2005)でも「思い上がりませ 思い下りますな」というフレーズの挿入歌が流れる。
怪人を演じる山崎清・高木政人両氏は大野剣友会のメンバーで、『8ちゃん』以来の常連。
山崎氏は『ネムリン』のビビアンのスーツアクターのほか、1985年は先述のバーカ役や『TVオバケてれもんじゃ』(1985)の第6話、そして今回と立てつづけに同様の怪人役を演じている。後年は、遊園地の仮面ライダーショーやCMの仕事などをされているという。
高木政人氏は『8ちゃん』や『バッテンロボ丸』(1982)、『ペットントン』、『てれもんじゃ』などでタイトルロールの8ちゃんやロボ丸などのスーツアクターを多数担当。本作でも、この後に登場するモスガ役を好演している(翌1986年に急逝)。