第28話「ネモトマン 涙の兄妹愛」(1985年10月20日放送 脚本:浦沢義雄 監督:大井利夫) (original) (raw)
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【ストーリー】
穏やかな朝。パパ(石井喧一)、ママ(大橋恵里子)、マリ(林美穂)、カミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)が朝食をとっていると、伸介(岩瀬威司)とモスガ(声:矢尾一樹 スーツアクター:高木政人)が来る。
パパ「こら伸介、遅刻だぞ」
伸介「だいじょぶだいじょぶ。な、マリ?」
マリ「ふん。ごちそうさま」
マリは伸介にどんとぶつかって行ってしまう。
ママ「なんとなくマリが伸介避けてるような」
ちょっと考える伸介。
伸介「判った。あいつおれのこと惚れてんだ!」
パパとママは鍋で伸介を殴る。驚くカミタマンとモスガ。
多くの児童が登校する小学校の正門前。横山(末松芳隆)がひとりで仲間を募っている。
横山「登校拒否する者、この指とまれ」
みなに「何よあの子」「おかしな子ね」「何だあいつ」「バーカ」などと言われる。
横山「きょうも孤独か。誰もとまらない」
横山は、自分の指を自分でつかむ。
横山「いや、ひとりいた。へへ、ぼく! 暗いなあ」
カミタマンはモスガにロープをつけ、走って引っ張る。やがてモスガは飛び上がり、カミタマンめがけて直撃。カミタマンは下敷きに。
カミタマン「モスガの凧って発想はよかったんだが…」
下校のチャイムが鳴り、校門前に立っている伸介。マリを見つけて追いかける。逃げるマリ。ふたりは公園にたどり着く。
伸介「マリ、何怒ってんだよ」
マリ「ふん」
つんつんしたマリ。
マリ「お兄ちゃん、二度と私の教室に給食の揚げちくわもらいに来ないで」
伸介「しょうがないだろ。マリ揚げちくわ嫌いなんだし、お兄ちゃん、あの学校給食だけじゃもたないんだよ」
マリ「そんなこと私知らないわ。本当に二度と来ないで!」
食卓ではカミタマンが「しみるー」と傷の治療中。伸介とマリが帰宅。
伸介「マリ、お前おれのことバカに」
マリ「当たり前でしょ」
2階で駆け上がるふたり。
カミタマン「また兄妹げんかか。よく飽きないな」
「いい加減にして!」とマリの声が。
2階ではマリがドアを閉めて、伸介に襲いかかる。
階下にも乱闘の音が。伸介は逃亡。
カミタマンをつれて、外を走る伸介。
カミタマン「何があったか知らないけど、ここは落ち着いてゆっくりとだな」
坂の上で伸介は立ち止まる。ネモトマンにしてくれと言い出す伸介。
カミタマン「伸介、お前ネモトマンになってマリと戦うつもりか?」
伸介「ああ」
カミタマン「ダーメダメダメ。兄妹げんかにネモトマンは使わせない。ネモトマンは正義のために働くんだ」
伸介「聞いてくれカミタマン。おれがこれまでマリのために、どれだけ苦労してきたか」
ベビーベッドにいる伸介とマリ。ママが「おっぱいの時間よ」と来るが、伸介を押しくって「よしよし」とマリにおっぱいを飲ませる。
パパ「おっぱい」
パパが「はい伸ちゃん」と伸介に自分のおっぱいを飲ませる。「げえ」と厭がる伸介。
伸介「そう、マリはママのおっぱいで育てられ、おれはパパのおっぱいで育てられたんだ」
カミタマン「嘘ぉ」
伸介「嘘じゃない! それが証拠にときどきパパのおっぱいの夢を見る」
カミタマン「ええ?」
伸介「そんな朝、何となく体がだるくて」
カミタマンは落涙。
伸介「泣いてくれるのか、カミタマン?」
カミタマン「ああ、同情した。久々に同情した。郷ひろみが松田聖子にふられたとき以来の同情の涙だ。なめてみるか?」
涙をなめた伸介は「しょっぺー」。カミタマンは伸介をネモトマンに変身させる。
居間で、マリはため息をついていた。そしてやきいもをかじっていると、庭からネモトマン(岩瀬威司)が登場して「ザ・ネモトマン!」と名乗る。
マリ「静かにしてよ」
マリは、食べかけのやきいもをネモトマンの口に押し込む。
マリ「どうしてお兄ちゃんの前に出るとかわいくなくなっちゃうんだろう? お兄ちゃんだって頭にくるわよね。こらマリ、本当はお兄ちゃんのこと好きなくせに」
「マリ」と嬉しげなネモトマン。マリは、ん?と怪訝な顔をする。ネモトマンはやきいもをほおばる。
マリ「お兄ちゃんの前でもかわいい妹になりたい」
さっきの坂に戻っているネモトマン。
ネモトマン「お兄ちゃんの前でもかわいい妹になりたい」
カミタマンは号泣。
カミタマン「感動だよ、伸介を思うマリの心に感動した涙。なめてみるか?」
なめるネモトマン。
ネモトマン「同情の涙より塩辛いなあ」
カミタマン「それで、悩む少女マリは?」
ネモトマン「公園で物思いに耽る少女やってる」
井上陽水「恋の予感」が流れ、橋の上でたたずむマリ。公園の野外ステージの上で男女(家中宏、野田実香)が芝居の練習?をしている。
女性「おお、ロミオ、ロミオ。何故あなたはロミオなの」
見ているマリ。
マリ「お兄ちゃん。お兄ちゃんは何故お兄ちゃんなの」
池で笹舟を流すマリ。やがてボートにひとり乗る。
そこへカミタマンが。
カミタマン「何悩んでんの」
マリ「いや何も」
カミタマン「当ててみようか」
マリ「え」
カミタマン「伸介のこと。カミタマンには判る。伸介を慕うマリの心が」
マリ「どうしてそれが」
カミタマン「何故ならカミタマンは神さまだから。マリ、ここは素直になって」
マリ「素直?」
カミタマンが伸介を呼ぶ。伸介が走ってくる。
伸介「さあ、飛び込んでおいで。お兄ちゃんのこの広い胸に」
マリは歩み寄ると「冗談じゃないわよ。えい」と伸介の足を踏みつける。悶絶する伸介。
伸介「カミタマン。だから女って奴はー」
カミタマン「伸介、静かに。ひとりにさせてくれ。ひとりで考えたいことがあるんだ」
伸介はうなずき、そして痛がる。
陽水の「いっそセレナーデ」が流れ、先ほどと同じ橋、野外ステージが映される。橋の上でたたずむカミタマン。公園の野外ステージの上で男女(加門良、野田実香)が練習中。
男性「生きるべきか死ぬべきか。それが問題だ」
見ているマリ。
カミタマン「伸介が兄であること。それが問題だ」
池で笹舟を流すカミタマン。やがてボートにひとり乗る。
そこへ伸介が。
伸介「こんな手はどうだ?」
居間にいるマリと横山、カミタマン。
マリ「え、横山さんで妹の練習すんの?」
カミタマン「そう、そうすれば伸介の前でも素直な妹になれるんじゃないかと思って」
へらへら笑う横山。
坂の上にいる伸介。
伸介「マリが横山で、妹の練習をすればおれに優しくなる。そうすれば学校給食に出る揚げちくわをもらいに行っても叱られないで済む」
伸介もへらへら。歩いてくるカミタマン。
カミタマン「ひとつだけ心配ごとが」
伸介「なあに」
カミタマン「横山の、ほれ…」
髪をなでつける横山。マリと横山は庭で練習を始める。
マリ「お兄ちゃん」
横山「何だい、マリ」
横山がマリに顔を近づけると、マリは突き飛ばす。横山がひっくり返るとマリは横山のあごをつかみ「もうちょっと笑顔があったほうがいいのよねえ」と引っ張り起こす。
マリ「お兄ちゃん」
横山「何だい、マリ」
横山はマリのおしりを触り、マリは横山の手をつねる。見ている伸介とカミタマン。
伸介「ったく、横山の野郎」
カミタマン「何だよ、何だよ」
伸介「カミタマン、ぼくをネモトマンに」
カミタマン「また?」
伸介「早くしないと、マリが横山のスケベ根性に」
マリ「お兄ちゃん」
横山「何だい、マリ」
横山が今度はマリのスカートをめくろうとして、マリが強く払いのける。横山が痛がっていると、ネモトマンが現れる。ネモトマンは横山を抱えると無理につれて行くが、マリはその背中に伸介を幻視する。
空き地で対峙するネモトマンと横山。
ネモトマン「こら横山。お前よくもマリのおしりなでたり、スカートめくったりしたな」
横山「何だネモトマン。お前もやりたいんだろ」
ネモトマン「違う、私はただ」
横山「さっきから聞いていれば、ネモトマンお前、マリちゃんの親戚みたいな言い方するじゃないか」
ネモトマン「黙れ横山。ネモトマンはお前を許さない」
横山「こっちだって、せっかくいいところを」
両者はキックするが、ネモトマンはこけてしまう。
坂の上で「兄妹ってやつは、まったく難しいもんだ」ともらしているカミタマン。そこへマリが駆けてくる。
マリ「マリ、予感がするの」
カミタマン「予感」
マリ「少女の予感」
カミタマン「ん?」
マリ「マリ、ネモトマンをお兄ちゃんだと思って妹の練習すれば、きっと素直で優しい妹になれると思うの」
空き地であくびする横山。ネモトマンはマントを頭からかぶって「えい」などとひとりで戦っていた。挙げ句にこけて自滅。
横山「これ以上、おれのマリに手を出すな。文句があるならいつでも相手になってやる」
横山はネモトマンをこづいたり、けったりする。
横山「仲間を呼んできたっていいんだぜ。こっちにだって根本伸介っていう強い味方がいるんだからな。はっはっはっは」
意気揚々と行ってしまう横山。
ネモトマン「あのバカ、根本伸介がネモトマンだってことも知らないでさ」
「ネモトマーン」とカミタマンの声が。カミタマンはネモトマンに「あのな」と一部始終をささやいて説明する。驚くネモトマン。マリも茂みから現れる。
マリ「よろしくお願いします」
ネモトマン「よろしくって、ネモトマンは本当はマリの」
カミタマンはネモトマンの口をふさぎ「さあ、マリ。ネモトマンで十分練習してくれ」と告げる。
マリ「お兄ちゃん」
カミタマン「そうその調子」
マリ「お兄ちゃん」
ネモトマン「判った、やってやろうじゃない。さあマリ、お兄ちゃんのこの胸に」
「うん」と抱きつくマリ。
ネモトマン「よしよしよしよし」
うなずくカミタマン。
「恋の予感」のインストが流れて、手をつないでスキップするふたり
マリ「マリ、お兄ちゃんのこと大好き」
ネモトマン「お兄ちゃんだってマリのこと大好き」
マリが石垣の上から落ちそうになると、ネモトマンは「あぶない」と支えてあげる。マリはハンカチを敷いて「さあどうぞ」。「ありがとう」とすわるネモトマン。
カミタマンは黙って見ている。マリはバスケットからパックを出す。
マリ「お兄ちゃんの大好きな、学校給食に出る揚げちくわ。ほらこんなに青のりがかかって」
ネモトマンは感動。
マリ「あら。どうしたんですか、ネモトマンさん」
ネモトマン「いや、何でも」
マリマリ驚いちゃった。突然ネモトマンさん涙を」
ネモトマン「マリ、実はね。ネモトマンは…」
カミタマンは慌ててネモトマンの口に揚げちくわを押し込む。
カミタマン「さあさあ食べて食べて食べて。せっかくマリが用意してくれたんだ。さあ食べてよ」
やがて食べ過ぎでダウンしているネモトマン。
マリ「じゃあカミタマン、ネモトマンさんによろしくね」
カミタマン「ああ」
マリ「おかげで素直で優しい妹になれそうだって」
カミタマン「言っておく」
カミタマンはネモトマンに「伸介、お前いい妹持って幸せだな」とつぶやく。ネモトマンの口にはまだ揚げちくわが突っ込まれている。
木の回りをくるりと一周して、走り去るマリ。
暗くなって自宅の前に来るカミタマンと伸介。玄関の前でカミタマンは念を押す。
カミタマン「マリがせっかく努力して素直で優しい妹になったんだ。ここはお前も兄らしい兄にならないと」
伸介「うん、判ってる!」
食卓ではママとマリが夕食の準備中で、パパとモスガが将棋を指している。ピンポーンとベルが鳴って、マリが「もしかしてお兄ちゃんかもしれないから」と出る。
戸の前ですわって向かい合う伸介とカミタマン。
伸介「兄らしい兄」
カミタマン「兄らしい兄」
マリ「お兄ちゃん、お帰んなさい」
思わず口ごもる伸介
カミタマン「落ち着いて、伸介!」
伸介「ただいま!」
マリ「どこ行ってたの? パパもママも心配してたのよ。もちろんマリだって」
伸介「ごめんごめん、でも大丈夫。お兄ちゃん、こんな元気な姿で帰ってきたから!」
マリは「嬉しい」と伸介の手を自分のほほに当てる。
ママ「ふたりしてバカなことやってないで」
後ろでじゃれ合っていたパパとモスガは、自分たちが言われたのかと思って「はい!」。
マリ「お兄ちゃん喜んで。きょうのおかずはお兄ちゃんが大好きな、学校給食によく出る」
伸介「まさか」
マリ「そのまさかの揚げちくわ」
伸介「あ!」
マリ「何よその「あ」は。せっかく私がつくるの手伝ったのに」
逃げ出す伸介と揚げちくわを持って追いかけるマリ。パパも箸を持って追いかける。ママが持った拍子に、揚げちくわはこぼれてしまう。
【感想】
マリの伸介に対する虐待は度々出てきたけれども、今回はふたりがメインの兄妹編。マリが実は伸介を慕っていたことが明かされ、伸介とマリの決定編的エピソードとなった。準レギュラーやゲストが中心となる話が増えてきている中で珍しくレギュラーのみで回され、シリーズ中盤のクライマックスとも言えよう。
大井利夫監督はデビューの『ペットントン』(1983)から長回しを好んでいる節があるが、いまひとつ特徴的なのがヒット曲の多用である。もちろん他の監督も同様にさまざまな曲を流しているけれども、大井演出の『どきんちょ!ネムリン』の第9話「マコの㊙スキャンダル」では「セーラー服と機関銃」が印象的で、本作でも第12話の松任谷由実や吉幾三、第23話の布施明、今回の井上陽水「恋の予感」「いっそセレナーデ」と際立って自由な選曲ぶりには驚かされる(「いっそセレナーデ」は『ネムリン』の坂本太郎監督回でも使われていた)。
公園でマリが「物思いに耽る少女やってる」シーンとカミタマンが考えているそれとは同様の構図・カット割りで、手前をボートが横切るのも同じ。終盤にママが伸介とマリに突っ込みを入れる場面では、直前に後方に笑っているママが映っており突っ込みが唐突にならないような気配りがあるなど、さりげなく凝った演出が施されている。
過去の浦沢義雄脚本では『ロボット8ちゃん』(1981)や『ネムリン』にて兄と妹が登場したが、特に情愛が強調して描かれることはなかった(『ネムリン』での兄妹愛編は寺田憲史脚本)。兄を慕う妹は今回が初?かもしれないけれども、『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第44話「タクトの甘え」や第48話「タクトの恋人」でも兄をかまったり慮ったりする妹が登場する。浦沢脚本は人間像や心情を描くことに関心がなく、あくまでアイディアの面白さを追求していると本人も言明しているが、そんなドライな作家でも創作するうちにどこかで理想像を作品に刻んでしまう瞬間があるものだろう。本話のマリや『ポワトリン』には、浦沢義雄先生のあこがれが託されているように思われる。不コメでの少年少女の恋は概ね悲恋に終わるのに対して、兄と妹は仲むつまじくできるというのも浦沢先生らしいと言えばらしい。
一方で伸介が「ぼくはパパのおっぱいで育てられた」と衝撃の告白をするシーン(赤ちゃんも伸介とマリがそのまま演じている)や前回と同一人物とは思えないほどの横山の悪役ぶりはおぞましくて素晴らしい。
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シェイクスピアの台詞が引用される先述の公園のシーンでは、ステージの上で男女が芝居をしており、演じる三氏は当時青年座所属。
1回目の男性役の家中宏氏はテレビ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(1996)や『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(2019)など多数のアニメ・吹き替えの声優を務めているけれども、今回は何故か台詞なし。
2回目の加門良氏はドナルド・マクドナルドの声で知られるほかに『星雲仮面マシンマン』(1984)や『ウルトラマンメビウス』(2006)、『仮面ライダーフォーゼ』(2011)など特撮ドラマに頻繁に出演している。
女性役の野田実香氏は第7話にも出演。
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