大盛りの店と負けず嫌い (original) (raw)

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私の通っていた大学の周りには学生がたくさん住んでいました。大学も含めたその街全体が学生のために出来上がっているようなところでした。飲食店もほとんどが学生向けで、安くて大盛りであることがひとつの大きな価値になっていました。当時はちょっとした大食いブームだったこともあり、多くの店が盛りを売りにしたメニュー(〇kgカレー、極盛り丼、バケツビールなど)を出していました。

大学の寮でも部活でも、この大盛メニューの洗礼を新入生に浴びせるのが恒例行事になっていたようです。まだ大学に通い始める前、寮の共有スペースでゆっくりしていると、満面の笑みを浮かべた先輩たちに食事に誘われました。新入生数名を引き連れて向かった先の店には、目を疑う光景がありました。直径40㎝はあろうかという皿に縁いっぱいまでうず高く山盛りに盛られたカツ丼が、人数分テーブルいっぱいに並べられていたのです。さあ食うぞ、遅いと置いて帰るからな、という上級生とともに食べ始めましたが、食べても食べてもカツ丼は減る気がせず、むしろ汁を吸ってお米が膨れ、量が増えた錯覚までしてくるのでした。箸の動きが遅くなるとピッチャーに入った緑茶が隣に置かれ、好きに飲んでいいぞと声をかけられるのです。なぜか上級生は早々に食べ終わり、余裕の顔つきで新入生たちを眺めていました。

だますように連れてきた上級生にも、食べきれないだろうとばかりにこのメニューを作った店にも、私は心底腹が立ちました。そして絶対に食べきってやると心に決めました。そこからは無の境地で箸を進めました。時間をかけると良くないことは本能的に分かり、とにかく手を止めずにもくもくと食べ進め、とうとう最後の一口を食べきりました。頭にあるのは、舐められてはいけないという一心でした。

結局その場で食べきった新入生は私一人で、あとは持ち帰りにしてもらえたようです。そして、大食いという不名誉な称号を得た私は、その後も色々な大食いの店にだまし討ちのように連れていかれるようになりました。大盛だけでなく劇辛、劇甘などのラインナップも増え、時には大量のアルコールもそこに加わりました。私はそのたびに無駄な負けず嫌いを発動して挑戦をクリアしていくのでした。新入生のあの頃、よくあれで体を壊さず体形も崩さなかったものだと思います。今思っても本当にバカみたいでした。

あの頃は、舐められないように、負けないようにという気持ちを笑顔の下に隠して、ずっと戦っていたように思います。その気持ちは実のところ、小さいころから今に至るまで私の奥底で原動力になっていました。ただ、振り返ってみると、そんなに周りを敵視しなくても、またちょっとくらい負けても良かったのかもしれません。ちょっとくらい負ける方が愛嬌があったのかもしれない、とも思います。同期の新入生の一人は、「大盛だとうまいものがずっと食べられるからいいよね」とふくよかに笑っていました。あの時期の大食いの波をそんなに純粋に楽しめた彼を、少しうらやましくも思います。

今週のお題「盛り」