キノコの菌糸体を頭脳にして動く「バイオハイブリッドロボット」が誕生 (original) (raw)

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生物の組織と機械を組み合わせたバイオハイブリッドロボットは続々と開発されているが、今回「脳」として機能させているのはキノコだ。

コーネル大学の研究チームは、キノコの一種、エリンギの菌糸体を用い、ロボットを動かすことに成功した。

生きている菌糸体は、周囲の環境を感知して、さまざまな電気信号を生じさせる。

これをセンサーとして利用することで、光や化学物質のような外部の刺激から、事前にはわからない未知の信号にも、柔軟に反応するロボットができるという。

なぜキノコなのか?菌糸体の優れたメリット

新しいバイオハイブリッドロボットを設計するにあたり、研究者は生き物からたくさんのインスピレーションを受けてきた。

動物の動き、環境を感知するシステム、汗で温度を調整する仕組みなど、どれもすばらしいヒントだ。

中には筋肉組織やカエルの心臓細胞のような生体素材を利用したロボットもある。

こうした生きた素材は性能は優れていながらも、それが機能するよう健康なまま生かしておくのが難しいという課題もある。

その点、キノコの「菌糸体」にはいくつものメリットがある。

菌糸体とは、キノコの地下に根っこのように伸びている糸状の部分のことだ。

じつはキノコ自体は胞子を飛ばすために地上に作り出される花のようなもの(子実体という)で、キノコのいわば本体はこちらの菌糸体だ。

その菌糸体のメリットはまず、とてもタフで過酷な環境でも成長できることだ。

さらに外部からの化学的・生物学的シグナルをいくつも感知し、それらに反応することができる。

しかもそうしたシグナルは、接触・光・熱といった想定内のものに限られない。人間にとっては想定外の未知のシグナルにも対しても、菌糸体は反応するはずだ。

この性質を利用すれば、事前に予測できない環境であっても、柔軟に対応するロボットを作り出すことができる。

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Photo by:iStock

さまざまな分野の専門家が結集

とはいえ、キノコとロボットを融合させるには、ロボット工学の専門知識だけでなく、キノコなど幅広い分野にわたる専門知識も必要になる。

そうしたわけで、今回の研究チームには、機械工学や電子工学の専門家だけでなく、菌学や神経生物学の専門家など幅広い人材が集まっている。

神経生物学の専門家は、菌糸体の膜に備わったまるで神経細胞のようなイオンチャネルで伝達される電気信号を記録する方法を考案する。

菌学の専門家は、菌糸体に電極を差し込む際に汚染を防ぐ方法を考える。

ロボットの専門家は、生の電気信号を読み取って、菌糸体のリズミカルなスパイクを特定し、これをデジタル制御信号に変換してアクチュエーターに送信するシステムを開発する。

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菌糸信号制御の車輪付きロボットのリアルタイムデモンストレーション image credit:Robert Shepherd

こいつ、動くぞ!光に反応してロボットの行動が変化

こうした具合にさまざまな専門知識を結集して作られたのが、「蜘蛛型のソフトロボット」と「車輪付きのロボット」の2体だ。

その性能を確かめるために行われた3つの実験では、菌糸体が感じた光の変化がロボットの行動に反映されることが実証されている。

最初の実験ではまず、菌糸体で常に生じている自然な信号に合わせて、ロボットを歩かせてみた。これがうまくいったところで、今度はロボットに紫外線を浴びせてみる。

すると、菌糸体の光の反応がきちんとロボットに反映され、歩行パターンが変化したのだ。最後の実験では、菌糸体の信号を完全に上書きすることも成功した。

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image credit:Robert Shepherd

キノコのロボットが農業で活躍する未来

論文の筆頭著者アナンド・ミシュラ氏はプレスリリースで、この研究はただキノコを利用してロボットを制御するだけにとどまらず、ロボット工学や菌学の分野を超えて広がる可能性があると説明する。

その真価は「生体システムと真の接続を確立すること」なのだという。

シグナルに耳をすませば、何が起こっているのか理解できます。そのシグナルはストレスに起因するかもしれません

私たちが目にしているのは、その物理的な反応です。シグナルそのものは目に見えませんが、ロボットがそれを可視化しているのです(ミシュラ氏)

なお今回は、光に対する菌糸体の反応が利用されたが、将来的には化学物質への反応も試してみる予定だとのこと。

これを応用すれば、例えば、畑の化学成分を検出して、肥料をまく適切なタイミングを調べたり、そうした肥料によって下流に繁殖する有害な藻類を防いだりと、さまざまな便利なことができるようになるそうだ。

Fungus-controlled biohybrid robots

この研究は『Science Robotics』(2024年8月24日付)に掲載された。

References: Biohybrid robots controlled by electrical impulses — in mushrooms | Cornell Chronicle / Fungus learns to drive in "biohybrid" robots