激かメ人間伝 (original) (raw)

病気とか病院とかの話ばっかりします。年を取るってそういう事。ジジイは寄り合いで健康の話ばかりする。

そんでアタシもまたさ、数週間前くらいからなんか酷く頭痛がしましてさ。頭痛言いましてもただの頭痛と違います。特別な頭痛がする。なんというか普通と違う。特定の状態の時にズキンとなりだす。特定? しかしてその特定とは? 特定の状態とは? 何か、こう、良くない感じというか、脳が良くない感じの波動を受けて、肉体も追尾するシステムというか、とにかく、青少年から遠ざけたい種類の波動による影響を精神と肉体が受けると頭痛がする。いやこれたまたま頭が痛いだけだって思ってたのよ。でも、どうもなんか、そういう時にだけ頭痛がしてる気がすんのよ。試しにインターネットを利用して実験してみたんよ。そしたらやっぱり。ほら頭痛がするの。ズキンズキンだよ。マジだよこれは。どういう実験かってのは知らなくていいよ。お互い嫌な気持ちになるだけだよ。

ほんでついでにそのよからぬインターネットを利用して検索してみたら、マジでそういう頭痛あるんすよ。英語名セクシャルヘデイクって。まんまだな。あ、あ、アホかおめえ。なんだそれ。やましいこと考えたら頭が痛くなるとかおめえ。漫画の設定か。こんな罰受けるいわれある? 西遊記かよ。キンコジか。三蔵要らずのセルフかよ。つまりあれは予言の書だった? なるほどね。世界の果てにそそり立つお釈迦さまの指なんてのもフロイト的にはどうせ性の象徴だろうしなるほどそういう事? 如意棒なんつったらもうフロイト大喜びだろ。古典は現代に繋がっていた。俺こそが孫悟空だったのだ。

オッス。さらに検索してみたぞ。セクシャルヘデイク、それは血管の収縮やら血圧によって引き起こされる頭痛であって? 数日で治ったりもする。OK。しかしなんか普通に脳出血とかしてる可能性もあるから注意らしいぞ。オッス? え、それって怖くない?

というわけで脳神経の病院にイン。頭に輪を嵌められた俺は意外にフットワークが軽い。思考の一部を封印されているのでやる事がないのだ。それでは初診ですお願いします。問診票を書く。書く? え。書くの。症状とか書くの? 正直に書かねば誤診を誘発して死ぬ感じ? 書くかー。「やましい波動を受けると頭痛がします」。こんな屈辱って無いでしょ。診察でも聞かれんの? 「どんな波動ですか?」「動画とか? 何系の?」「年齢的に、もうそういうの良いんじゃない?」とか言われんの? 殺すしかないのか?

しかし医は仁術なり。やましさに関しては特に深掘りされなかった。そしてCTスキャンを受ける。ウイーン。結果は。「特に問題なさそうだねえ」。勝った。「ただ一応MRIも受けてください。紹介状出します」。負けた。

数日後、フットワークの軽い男はMRI検査を受けに来ていた。MRIなあ。これ昔も受けた事あるんだけど、結構な長時間かなり狭い機械に入れられて轟音聴かせられんだよ。寝た体勢ですぐ目の前が塞がってるから、下手したら「ウワー!」ってなりそうな感じがある。仰天ニュースとかで見た「土葬された棺桶を掘り返してみたら蓋の内側に引っ掻き傷が沢山付いていた」的なイメージが鎌首をもたげる。パニックを防ぐためにずっと目を閉じて、何か楽しい事でも空想していよう。そしてウイーン。ドコドコドコ(轟音)。MRI始まった。目を閉じて空想。楽しい事。じゃああのさ、例えば何でも好きな能力が一つだけ選べるとするじゃん。俺は時間をズキン。痛い。なるほどこう来ますか…。じゃあさ、ある日突然俺が寮の管理人を任せズキン。じゃあ蔵の中に亡くなった祖父の遺品がズキン。ある日突然空からズキン。痛い。無かった。痛みを伴わない楽しい空想などこの世には存在しないのだ。考えるべきは無である。無。

ドコドコドコ(轟音)ピーピーガガー(轟音)シュンッ、シュシュンッ(轟音)。うるせえ。なんだこれ。無であるはずがこの轟音。プラトーンの撃たれるシーンとか、インターネットモデムとか、シューティングゲームとか、それらのイメージへと無が強制的に上書きされる。すると俺の意識はそこから連想された戦場や電子の世界、あるいは古のゲームセンターに飛んでしまう。そうして自然と浮かびあがってくる登場人物たちが物語を紡ぎ出した結果、何がしかの波動が発生して頭痛がする。ズキンズキン。俺は悪くない。誰も悪くない。それも戦場の習い、あの哀れな量子ビットダークエルフ(ハイエルフとしての彼女と存在が重なりあっている)とて部族の掟に従っただけなのだ。彼女に残された道は俺を殺すか、夫とするかズキン。痛い。

しゃあないからもう目ぇ開けますわ。開けた。目の前になんかある。脳のMRIって、鉄仮面みたいなの被って頭を固定するから普通のMRI以上に目の前になんかある。そして俺は老眼なので上手くピントが合わない。なんだかよく見えなすぎて特にパニックにはならなかった。ドコドコドコ(轟音)。ウイーン。終わった。

数日後、検査の結果が出た。「特に問題ないね」。勝った。「強いて言えばほんの少しこの血管が…」。それは多分検査中のダークエルフの所為ですね。「とりあえず偏頭痛の薬でも出しときますね」。はい。

というわけで脳出血は否定され無事に生還したんですが、頭痛自体が解決したわけではないので俺はまだズキンズキンのズキンチョネムリンであろう。なのでもし、これを見ている妙齢の婦人が居たなら。そしてもし、どこかの道端で俺と出会ったなら、ペロンと何かを見せたりする方法で俺に頭痛を引き起こす事も可能だという事になる。しかしくれぐれもやめて欲しい。手も触れず簡単に他人を倒す事が出来る。まるでテーマパークのアトラクションのようで楽しそうかもしれないが良心があるならそんな真似をするべきではない。俺はコミカルな感じで苦しむだろうが面白半分に人を傷付けてはいけない。ほんのちょっとの勇気で簡単に苦しむ。多分面白い顔して倒れる。魚みたいにピクピクする。ほんとやめて。そういうのやめて。熱いお茶が一杯怖い? あ? これ書いてて思ったけどなんかもう頭痛しないわ。治ってないですかこれ。偏頭痛の薬が効いてんのか? やったね。しかし何故なのか。頭痛が治ったと何故今判断できたのか。そういうのどうでも良いよ。カッ! 内心の自由憲法違反だろそれ。

そんな深刻なやつでもないんですが子どもが入院する事になりまして。そんで小児の入院には何やら付き添い入院という物があって、保護者が病室で一緒に寝泊まりして面倒を見るらしいですよ。ははあ、そうなんですか。大変そうですねえ、付き添い入院。付き添い。誰だ? 俺か? 俺だ!

というわけで俺も入院した。付き合いでゴルフならぬ、付き添いで入院である。まずはネットで検索して入院グッズを準備する。タオル、歯ブラシ、洗面…しないので要らない、あとは上履き…って、フォーマル用の黒いスリッパくらいしか持ってないんだけど? 病院に黒いスリッパってダメじゃない? そういうのって『葬』じゃない? 怒られない?

インターネットは全てを解決する。検索したところスリッパ自体がダメらしい。引っ掛けたりして危ないから踵がある上履きじゃないとダメらしい。なんだ馬鹿野郎。鉢植えダメとか踵守れとか、細けえ事グチグチ言いやがって。踵なんか守ってどうすんだよ。お前アレか。踵が弱点気取りか。あのな。矢で射抜かれたら踵じゃなくても死ぬからな。ああいうのはフィクション。お話なの。いつまでも夢みたいな事ばかり言ってんじゃねえぞ。現実見ろバーカ。この時、俺の前で唇を噛みながら俯いていた少年こそが、幼き日のシュリーマンであった。

その話こそがフィクションである。そして適当な準備が完了し病院に到着。入院に際して何やら説明を受ける。何か、入院のシステムとか、症状とか、治療とか、一度にたくさん、たくさんの説明をされた。「何か質問はありませんか?」。全てにおいてよく分からなかったので質問などない。むつかしい事をいっぺんにたくさん言われても困る。それが全て理解できるような人間であれば今頃こうしていない。子どもは特別病棟に入院させ、付き添い入院は執事に任せているはずだ。しかし何も分からない。食事を下げる時はどこに持っていくと言っていたか? 都度聞いていくしか無い。無能ですみません。俺の弱点は踵ではなく頭だったのだ。 冥府の川に頭を浸け忘れた。よって頭を矢で射抜かれると死ぬ。

僕は死にません。頭を射抜かれてないから。なので食事を下げるのは同室入院メンバーのムーブに耳をすませて真似する事で解決した。それぞれのベッドはカーテンで完全に仕切られているので様子を伺うには音だけが頼りだ。耳をすませば海がきこえる。聞こえない。海ではなく、小児科病棟では小さい子の泣き声が、そこかしこから聞こえてくる。ここではそれほど深刻な症状の子は居ない筈だが、単なる痰や鼻水の吸引でも幼い子はまるで地獄に落ちてしまったかのように泣いて親に助けを求めるのだ。それを聞き続けるのはなかなかに心にキツい。

そして夜がくる。夜と共に疑問が生まれた。俺これどこで寝れば良いんだ? 床か? 丁度そこに看護師様がいらっしゃった。「お困りの事ありませんか?」。現代の病院は親切なので早速聞いてみる。 素人質問で恐縮なのですが、僕どこで寝たら良いんすかね? 「同じベッドで添い寝するか、有料の簡易ベッドになります」。そっすか。簡易ベッドは有料なんだって。じゃあ添い寝にすっか。狭いけどよろしく〜。「え、やだよ」。おっ、分かる分かる。そうだよね。なれば簡易ベッド一丁、お願いしまーす! ガハハ! (ナレーション『この時、俺は確かに傷付いていた』)。

そしてトイレに連れていったり薬飲ませたり、もろもろしたのでそろそろ寝かせまーす。消灯。その後、子どもが寝たら特にする事はありません。特にというか何もする事がありません。しかし大人は1時過ぎくらいまで眠くならないのでインターネットマンです。なんかWi-Fiのパスワードとか貰ったし。最近の病院は進化してんのな。でもこれ繋いでも大丈夫? パケット監視とかされない? いきなり病室に看護師さんが突入してきて「病院でそういうのは観ないで下さい!」とか怒られない? そういうのってどういうの。言わないよ。知りたがるなよ。憲法違反だろそれ。

頭が浸かっていないせいか、必要以上に怯えた私はWi-Fiに繋がず携帯回線を消費して自力インターネットマンと化した。スワイプスワイプ。0時を超え。やがて。そろそろ。腹が減ってきた。子どもに付き合って晩飯早く食い過ぎた。午後6時とか。しかもインターネットの持ち物リストに書いてあったから持っていった冷たいおにぎりしか食ってないし。でも安心。この病院って24時間営業のコンビニが併設されてんのよ。すごいね。じゃあちょっと行ってくるね。念の為ナースステーションに声かけしてから院内コンビニに。よっしゃ何食うか。肉だな。冷えたおにぎりやパン食っても腹に溜まんないんすよ。温かい肉を食ってこそ『食』って感じだな。肉食うわ。生姜焼き弁当をレジにドン。温めお願いしまーす。アチアチで!

そして深夜の病院を一人行く。薄暗い病棟。何か、嫌な予感がする。特別な場面で人間に働く独特の嗅覚っていうのかな。病室に戻り予感は当たる。あっ、嗅覚。めちゃくちゃ肉の匂いするわ。大部屋の病室にすごい肉の匂いする。道理でな。みんなパンとかおにぎり食ってる筈だよなー。どうすんだこれ。明らかに他の人にもバレてる。匂いパケット監視されてる。何食ってるかまで知られてる。廊下に出て食うか? でもさ。他の付き添いや病院スタッフに見られたらよろしくなくない? 真っ暗な病院の廊下で弁当を立ち食いしてる男が居たらそれは多分妖怪じゃない? ならばこのカーテン内で一気に食うしかない。モグモグ、ゴボ、ゴボ。急いで食った。アツアツの生姜焼き弁当を飲むように食い、急いで捨ててきた。食の楽しみなど無い。あとは音もなく歯を磨くスニーキングミッション。そろ、そろ、ジョロ、シャコッ。痛い。口の中を軽く火傷している気がする。口の中も浸かっていなかった。なので口内を射抜かれると死ぬ。

枕の話なんですけどお。男児たるもの枕を洗ってはいけないというような教育を受けてきたもんですから滅多に枕カバーとか洗わないんですけどお、何かこう、最近は枕が黄ばんで、というより茶色というか、もっとすごく黒っぽいというか、年齢的に頭の臭も華麗ですし、枕にこう臭気が、なんというか。

大体、今時はもう男児だからどうこう、という時代でもないのではないでしょうか。思考をアップデートしていく必要があると思います。というかそもそも枕を洗ってはいけないという教育など、誰からも受けていないです。親から言われた事と言えば、夜中に口笛を吹いてはいけないとかギズモに餌を与えてはいけないとか、その辺です。

だもんで洗った。俺は枕を洗った。カバーも中身も洗った。洗ったんだ…なのに…。まだ黒いしくせえし。一体こうなるまで何年…気が遠くなるほどの…。いやダメだろこれ。

というわけでニトリさんで新しい枕を買ってきました。早速開封していきたいと思います。開封ペロリンちょ。あどねえ、こでねえ、付属のウレタンシートを何枚か出し入れする事で枕の高さが調節できるんですよ。そいつはハイテクだ。なるほどね。まあこんなもん使わないシートが出たら損した気分になるから基本は全部入れで良いだろ。ズボズボ。すなわち新品枕生活開始。おやすみ。

高いだろ枕これ。だれがこんな高さで寝んだよ。武士かよ。枕高すぎだろ。慣用句かよ。首痛えわ。シート抜くわ。ズボズボ。おやすみ。

いやこれはなんかちょっと低い気がする。というか低いわ。やっぱもう少しシート入れよう。ズボ。おやすみ。

合わない。その後も調整を繰り返した。しかし微妙に高さが合わない気がする。寝れなくはない。ただ正解の高さでは無い。全くすっきりしない。俺は自動車のシートポジションも延々と調整し続けるタイプの変質者である。

大体高さの調整できる機能とかいる? んなもんがあるから「ピッタリ合わせないといけない」みたいに考えちゃうんでしょう? 客に正解を決めさせんなよ。お前がズバリ正解の品を売れよ。なんなら正解でなくても良いくらいだよ。「これがズバリ、素晴らしい高さの枕でございます」みたいなツラして売れよ。そしたら「なんか低い気もするけどまあ良いか」でお終いだよ。愚民に選択権を与えんなよ。 数ある選択肢の中から「本当にこれで良いですね?」って問われたら『他にもっと正解があるような気がする』としか思わないんだよ。大体決断力が無いような人間だからニトリの枕買ってんだろ。バシバシ決められる人間なら今頃タワマンの膝猫でワイン飲んでもっと良い枕使ってるわ。良い枕つったらおめえ、なんかほら、オーダーメイドとかの、あるでしょ? フ、フランス? テンピュール

知らないわよ。もうあたしに聞かないでよ。アナタが決めてよ。アナタが全てを決めて全てをちょうど良くしてよ。力強いリーダーシップであたしを引っ張りなさいよ。自信に満ち溢れたツラしてさあ。「お前に合う高さの枕はこれだ」だよ。「ん?まちがったかな…」それはアミバだよ。

そのように自ら決断する事を厭い、他人に運命を委ねる。一般民衆のそうした姿勢が権力の独裁を招き、先の時代でも大きな悲劇を迎えたのではないでしょうか。でも違うのよ。それもなの。それもひっくるめてよ。大いなる力をもって全て解決して。誰かがあたしたちを導いて。過ちや悲劇も全部含めて一生面倒見てくれや。偉大な人間ならできるでしょ。例えばアレクサンダー大王に「枕の高さどうすりゃ良いですかね」って聞いても「いや自分で決めろよ」とは言われないでしょ多分。ズバッと解決してくれますよ。ズバッと。ズバッ。「ほら、これで枕に悩む必要も無くなったぞ」的な。古代の偉人ムーブやめて。そういう力強さは求めてないの。お願いよ。もっと優しく、蜜のように甘く支配して。そして良い加減に枕の高さを決めて。まだ少し高い気がする。

この間の話↓の続きなんだけど〜。

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そして健康診査当日の朝。小さきベンも採取したので3つのベンが揃いし時来たれり。灰色の衣を纏いし者、健診に出立する。俺の服は大体灰色である。黒では無い所に僅かな矜持を感じ取って欲しい。でもでも〜、なのに〜、はたから見たら黒も灰色も大して変わらんの〜? ホゲェ〜。

本日の健診は市民会館のような場所で行われるので自転車で向かう。知らん人たちと一緒にベルトコンベア式の流れ作業で健診を受ける。これはエリートほど効率的な扱いを受けるということかもしれない。エリートほど規格化されている。自転車で健診に行くところもエリートっぽい。西海岸のエリートは自転車に乗っているイメージがある。良く考えられている。

着いた。その日、市民会館では音楽の発表会のような催しも開かれており、入り口は着飾った連中で溢れていた。輝いている。そうした青春と隣り合わせに、灰色のエリートは便を入れたリュックを背負い市民会館の門をくぐった。そして青春たちは華やかな大ホールへと向かい、ベン・リュックマンは薄暗い地下にある健診受付に向かう。言うまでもなくリュックも灰色である。

受付に到着し、受診券や記入済みの問診票などを差し出す。いや、大事な物を忘れていた。大変な思いをして保管しておいたベンらもお渡しせねばなるまい。ごそごそ。はい。お届け物です! 「私このベン嫌いなのよね」。突き返された。受付に出すものではなかったらしい。

ベルトコンベアで流れていった先でベンは受け取ってもらえた。ベルトは更に流れていく。まずは血圧を測る。ブーン。あ? 見たことない数字出た。なんか高くね? 「もう一回測りますね」。ブーン。変わっていない。「リラックスしてください。もう一回測りますね」。ブーン。んっ…。大体よお、リラックスしろって言われてリラックス出来るやつそうそう居るか? 就寝中にベットの下から俺がズリズリと這い出てきて耳元で「リラックスしろ…」って囁いたらお前はリラックスすんのかってな。

しかしベルトコンベアの流れは絶えずして、身長体重を測ったり採血するのごとし。俺は採血の時、刺される部分を凝視する。マッチョイズムによるビビってないぞアピールである。というかどこを見れば良いのか分かんない。あれ目を瞑ったりすれば良いのか。それとも虚空を見るのか。あ、痛い。いつの間にか刺されていた。泣きそう。

更に流れるベルトコンベア。流されて問診島。問診スペースでお医者様が待っておられた。「血圧高いね〜」「もう一度測ってみますね」。また測んの。まあ採血後だし下がってんだろ。「ちょっと高いね」。あら。「もう一回」。測りすぎだろ。「あらら」。あらら。「こういう場では緊張で高くなったりしますからね」「まあ普段から血圧も気にするようにしてね」「お帰りあちらでーす」。なんか問題無い扱いされた。これはこれでどうなんだ。普段の血圧って言ってもどうやって気にすんだよ。これ医療系漫画の新エピソード導入の数ページだろ。医者にスルーされて安心して帰った定食屋のオッサンが数ヶ月後の厨房で朝の仕込み中に倒れてるところ見つかるやつだろこれ。町工場のオッサンの場合もある。

しかしお帰りこちらでーす。不安になってきた…。血圧計買わなきゃ…。あとスーパーで血圧下がるヨーグルト買ってきた…。あとはありがたい壺とか買うべきか…。運動とかはしたくない。なんか魔法のような解決を望みたい。真っ当な努力をして得られる良い結果などに何の価値があろうか。もっとこう、飲むだけで5キロ痩せたり、塗るだけで毛穴が綺麗になったり、ブロック消すだけで溺れそうな王様を助けたりしたい。急がば回れとか要らねえから。俺は急いでいる時には急ぎたい。楽して結果を得たい。なんかギャバで血圧下がるチョコとかも売ってるし、こういうの食いまくりゃよくない? もうこれで解決でしょ。急ギャバ回れとか言っても良い? 血圧計で毎日測ってチョコ食ってヨーグルト飲んで壺眺めてりゃOKなんだろ。まったく簡単だ。

この前健康診査があったんで、最近は色々食事に気を付けたりしてたんですわ。脂質を抑えたり野菜を摂ったりよ。ほら血液検査で何がしかの異常な数値出たら、いやでしょう。

健診がある時だけ気を付けて数値を良くする意味はあるのか?と聞かれればそりゃそうなんですけども、人はそう理屈通りに生きちゃいない。人間の身体の中身って数値くらいでしか分からんだろ。ならその数値さえ良くしてしまえば解決する気がしない? 俺にとって認識出来ない物は存在しない物と同義である。残酷な神がする支配と同じような理不尽さを以って、俺がするのは尿酸値の操作である。

ほんでほら、事前に健診センターから何やらセットが届いた。問診票と検便の採取セット。やっぱ健診と言えば検便よ。検尿と検便は健診の華ってな、てやんでい。取るのは小の便と大の便。つまりべんべん。小は当日の朝に取る。大は1週間前から健診日までの間に2回取ればよい。小は1回大は2回である。つまりべん、べんべん。郵便配達は二度ベルを鳴らし俺は三度便を取る。

そして健診の1週間前になった。早速作業に取り掛かる。「そんなに早くから取る意味はあるの?」「当日と前日にやれば良いんじゃ無いの?」と聞かれれば片眉を上げて答える。お前には便がいつでも出る保証があるのか? 100パーセントの保証、そんな物はこの宇宙に無い。もし次の日も、そしてその次の日も出なかったらどうすんだよ。健診の会場で「それでは検便の提出お願いします」って言われた時に手ぶらのお前はどうするんだよ。下を向きながら「何の便意も! 得られませんでした!」って叫ぶのか。良い年してそういうパロディすりゃ許されるとでも思ってんのか。出る保証がないなら取れる時に取れよ。だろうだろう、明日もウンコが出るだろうってか。まっこと楽天的。おめえみたいな楽天ゴールデン野郎を「だろう検便」と言う。それは俺のようなきちんと生きている「かもしれない検便(明日は便秘で出ないかもしれない)」な人間の対極にありお前は今すぐ免許返納しろ。

そして善良な私は詳しく描写しないがべんべんしたのです。オッケー。オッケー? いや、取ったけど。これ1週間どうすんだ。どこに置いとくんだよ。冷暗所に保管して下さいって書いてあるけどどこだよ。冷暗所っていったら例の生活家電か? 頭おかしいか? 一番置いちゃいけない場所だろそこ。というかそんなの置いて良い場所って家の中にあります? 収納でも生活家電でもどこでも、その場所のメーカーに「便を置いても良いですか」って問い合わせしたら「ダメです」って言われると思うよ。つまりどこに置いてもダメじゃない? そして家族に見つかったらアウトじゃない? 例えば子どもが家の中で探索しててさ、目新しい袋見つけて何コレ秘密のお菓子かな?って開けると中から父親の便が出てきたらトラウマだろ。成人してから訴えられるやつだろそれ。そして見つからなきゃ良いってもんでもなくない? みんなに黙って生活スペースにべんべんを隠しておいたというトゲは死ぬまで俺の胸に刺さり続けない?

なればべんべん置くのが許されるのはおトイレしか無いのでした。なんかトイレの棚の上の、普通に使ってたら視線が届かない枠みたいなとこに置いた。ギリOKだろここ。トイレにウンコあって悪いのかってな。もしこれで訴えられたら反訴するわ。骨肉の争いだよ。骨肉というか便だけど。それでは1週間そこで待機しててね。そして明日も取らねばなるまい。べべんべん。

お陰さんで48歳に到達したんですけども、いや、特に誰からもなんのお陰も頂いていないけども。というよりむしろ俺が陰。俺が陰そのものであった。日本妖怪お陰さん。夜道を歩いていると後ろから何やら音がする。ぺとり。ぺとり。まあそれはアレで。48歳おめでとうございます。ありがとうございます。

でもなんかあと2年で50歳みたいな噂も聞いて? いやいや。あと2年で50歳? それはちょっと計算おかしくないですか。おかしいですよお陰ジナさん。普通に考えておかしいだろ。50なんてのは明らかにまだまだ先の話でしょう。そんなあと数年でなるわけがない。一体どういう計算をしているのか。ゆで理論かよ。「今の年齢48に、2年後の2を足して、48+2の、死んだ親父の年齢を上回る50歳だー(キュルルル)」ってか。アホか。草も生えんし角も折れんわ。計算おかしいだろ。年齢増えすぎだろ。リボ払いかよ。

ついこないだまで若かったからね。最近ようやく「まあおっさんかな」くらいでしょ。なのに48+2が50になるわけがない。アホかその計算。1+2=パラダイスかよってな。知らないんすか。そういうタイトルの漫画が80年代にあったんすよ。男が1で女が2でさ、まあ足したらパラダイスなんですわ。どういうパラダイスかってのは、そりゃあ、まあ、そういうパラダイスだよ。ならばついでに聞いていけ、俺の80年代、パラダイスのメモリーを。

昔は田舎に住んでたもんで遊び場なんて山とか森でな。ある日そこで一人で遊んでいると大量の漫画雑誌が捨ててあったわけよ。捨てて間もない感じでまだ綺麗でな。そら持って帰りますわ。だって漫画いっぱい落ちてんだで。ジャンプとかもあるけど週刊じゃねえし。週刊ジャンプじゃない漫画雑誌なんてサブカルなもんオラ読む時ねえだよ。拾うだで。何往復もして家に全て運んだ。

ほんで自分の部屋にドカーンと拾った漫画積み上げてな。読みまくり人生のスタート。家族も疑問に思って尋ねてくるが、拾ってきたと言うと怒られそうなので「頼んで譲ってもらった」とお茶を濁す。漫画を読み耽るワタクシの横で家族もそれを手に取り、パラパラとページを捲り、手を止め、沈黙、「フーン」と去っていく。その所作に違和感。まあ良い。俺は漫画を読みたい。そしたらなんか、あらら、ちょっとなんというか、気のせいなのか分かりませんが、月刊漫画誌なんかはある種の漫画が多くてらっしゃいますね。あらら。ふむふむ。ほうほう。なるほどー。あらら、やるっきゃないなー。パラダイスだなー。おやおや。楽しい楽しい。そして隠された事実に気付くのに数ヶ月掛かった。

全ての雑誌の巻末、目次のページ。エッチな漫画だけタイトルに印が付けてある。あ、なるほど。そういうアレでしたか。一応一般漫画誌ばかりだったんで気付かなかった。しかもなんかそれぞれ数字が書いてある。なんの数字だよこれ。山の中に暗号置いとくみたいなジュブナイルか。それともあたまおかしいのか。そしてもしかして家族の者らはこれに気付いていたのか? 聞くか? 聞けるか?

30年以上の時が経ち、今はもうその答えを聞くことも出来なくなってしまった。父さんあの本覚えていますか。あの数字はなんだったんでしょうね。いや、知っています。分かります。明らかにエロい順番で数字がふってあったと思います。僕の感想とも大体一致しましたので間違いありません。あれはエロい順です。どなたかのエロコミレビューです。

エロに貴賎無し。評価や順番付けてんじゃねえぞ。ジェームス三木かよ。というかそれ俺の仕業だと思われてない? 頼み込んで譲ってもらった本からエロの香りを嗅ぎ分け、次々にレビューをしていく怪物(ハイパーエッチクリエイター)が我が家にいると思われていた?

そこに至った瞬間、少年の心の闇が一層濃くなり、お陰さんが誕生した。あなたが夜道を歩いていると、背後からぺとりぺとりと音がする。振り向くとそこには。漫画雑誌を拾い集める異形の物。目次にエロい順で番号を付けていく。悲しきソムリエ。日本妖怪お陰さん。

というのが80年代の思い出ですので逆算すると? もうすぐ50ってのもあり得る? あるわ。あり得てしまうのか。でも50ってもっとこう、アレじゃないの。あの頃思い描いていた50の大人となんか違わない? まだ間に合うか? どうすんだ? 選挙とか出ればいいのか? それともその逆か? 大人だから、こう、エロなんじゃないか? エロは大人のものなんだからそれに関わる事で大人足り得るんじゃないか? じゃあ俺も漫画雑誌にレビュー付けちゃうか。下着がチラリしてるのでプラス1点です。でも点数付けてどうすんだ。そんなレビュー付けて何しろってんだ。レビューさえ付ければ大人なのか。

分かるだろ。山に捨てるんだよ。そして他人に拾わせる。己の価値観、レビューを誰かに見せつける事で暗い悦びを得る。人の人生を歪める。心に闇を植え付ける。しかしそれが大人なのだとしたら、そんなものになりたくは無かった。

先週の話なんだけど、なんか腹を壊した。壊したといっても修理は出来ず(既に保証期間が切れている)、ウンウンと唸りながらトイレに通っていただけなんだけども恐らくこれは豆の所為。豆は消化に悪い。食いすぎると良くない。

しかしスーパーでは2月にもなると、ワタクシ節分でございますみたいな淫婦の顔をしてレジ横に豆が売ってるわけよ。何のために季節商品がレジ横に置いてあると思っているのか。アホな消費者の衝動買いを誘っているのだ。消費者よ。君はアホだと思われている。しかしそんな簡単に行くだろうか。普段豆など食わない人間が、節分だからといって急に豆を食い始めるだろうか? 消費者というのはそこまで愚かだろうか。鏡の中の男に向かって問い掛け続けていると気が触れた。豆ボリボリ。

大体ちゃんと恵方巻きも食いましたわ。なんか特設コーナーで売ってたから。売ってるの見たら食いたくなった。まあ折角買ったんだし? ちゃんと恵がある方を向きながらガブガブ食った。ジジイの世間では恵方巻きの話などするとヒネた奴らが「恵方巻きなどという風習は一部の〜」「商業主義に踊らされて〜」などと言ってきますけどもうるせえ。俺は食いたいから食いたい物を食った。これがマッチョイズム。

そもそもそれで言うなら恵方巻きどころか豆まきも許されないだろ。「恵方巻きは無しで豆まきは有り」みたいなツラしてんじゃねえぞ。なんなんだ豆を投げて鬼を退治するって。食い物投げてモンスター退治って。一部の風習どころか完全に蛮族の風習だろ。世界オモシロ祭りみたいなのでトマト投げ合う祭りを笑ってる場合か。豆を投げて鬼やっつけてる方がクレイジーだろ。ゲーム感覚か。FPSか。豆投げたくらいで相手が死ぬみたいなのをさ、ガキの頃からやってっとさ、命の重みが分かんなくなっちゃうんじゃないの。手に血の付かない方法で簡単に命を奪えてしまう。良くないと思います。更に魚の頭を串刺しにして玄関に飾る? それはお前…流石にダメでしょ…。言い訳できないよ…。悪霊追い払うためにそれするって、まんまデビルマンの民衆かよ。

というのはあなたに付けたケチであって、ワタクシは豆も恵方巻きも食う人間ですので許されるのです。スーパーに特設コーナーがあれば大体覗きます。踊らされているのでありません。自ら踊っているのです。踊るビーンイーターです。なおかつ腹を下しています。腹を押さえながら、食らい踊る。そして悪臭を放つ。昔の人間はそのような存在を目にした時、鬼や悪霊と考えたのでは無いだろうか。俺も魚の頭持って追いかけられたら多分逃げるし。豆当てられたら痛いし。そういう事か。(因果の歪むエフェクト)