春風亭一之輔真打昇進披露公演 国立演芸場 5月中席 5月19日 (original) (raw)

春風亭一之輔真打昇進披露公演 国立演芸場 5月中席 5月19日

2012年 05月 19日

末広亭で一日だけ行けた一之輔の披露興行、なんとか国立演芸場の楽日前日にも駆けつけることができた。本人のブログでは、喉の調子が今ひとつのようだったので、そのあたりも含めどんな高座になるか、そしてネタは何なのか、大いに楽しみにして隼町に参上。 春風亭一之輔真打昇進披露公演 国立演芸場 5月中席 5月19日_e0337777_11083943.jpg
満員御礼。終演まで立ち見のお客さんも数人いらっしゃった。

さて、緞帳が上がった。
最初の後ろ幕は、「日本橋女学館 中学校・高等学校同窓会同志」寄贈のもの。
(師匠一朝のお内儀さんの母校)

構成は次の通り。

春風亭朝呂久『新聞記事』 (12:45-12:59)
開口一番は朝呂久。着実に成長している印象。兄弟子二ツ目の朝也、一左も聞いたことはあるが、私はこの人のほうに高い潜在力を感じる。兄弟子にも良い刺激になっているだろう。見た目も落語家として得をしているし、柳朝、一之輔とも異なるキャラクターで、一朝一門としても将来は貴重な位置を占めそうな気がする。

古今亭駒次『飛行機怖い』 (13:00-13:14)
師匠志ん駒ネタなどのマクラの後、この人ならではの“乗り物”の新作。格安航空会社で東京から大阪に行く騒動なのだが、私はこの人の新作は嫌いではない。と言うか、古典を聞いたことがないなぁ。古今亭志ん生一門では貴重な存在。基本も結構できているし、小三治会長の判断次第だが、抜擢真打昇進が期待できる逸材である。

春風亭柳朝『真田小僧』 (13:15-13:35)
今日のお目当てのもう一人がこの人だった。入院、手術を経て、ようやくこの国立演芸場での弟弟子の披露に間に合った。少し痩せたとは思うが、血色もよく元気な高座。口上の司会役も務めたが、この人の端正な高座や仕草は、師匠一朝をもっとも継承しているように思う。とにかく健在で、良かった。

マギー隆司 奇術 (13:36-13:50)
初めてである。話芸もなかなか楽しい奇術。いいんだなぁ、こういう安心できる芸って。

春風亭勢朝 漫談&『紀州』 (13:51-14:10)
前半15分は定番の漫談と、本編の誘導部分混在。いつものこの人の高座。それでも会場をあれだけ沸かす技量は高い。

三遊亭円歌『御前落語』 (14:11-14:30)
今日の協会幹部からの出演はこの人。口上の時に分かったが、四日間出演の最終日らしい。何度も聞くのだが、何度も笑える。八十三歳にして、この高座、これが「長生きも芸のうち」ということなのだろうか。途中で、舞台の上にかかっている額の「喜色是人生」の書が入江相政によるものだと説明するあたりが、流石だ。

真打昇進披露口上 (14:45-14:57)
後ろ幕は「日本大学芸術学部 芸術学部落語研究会」寄贈に替わった。

下手から司会の柳朝、勢朝、一之輔、一朝、円歌の五人が並ぶ。柳朝の思い入れを込めた話も良かった。勢朝のギャグも結構受けた。最後に円歌に三本締めを柳朝がお願いしたのだが、円歌が、「締めの前に一言。この披露興行、一日も休まなかった師匠一朝は偉い!」で、私は、なぜか目頭が熱くなった。円歌は弟子の披露興行で十日位は出るこができなかった、と振り返る。もちろん、当時の円歌の人気からはあり得ることだが、一朝の健気さに、この長老も感じるものがあったのではないだろうか。締めの前の句「手を取って 共に登らん 花の山」は円歌の定番だが、その言葉までもが強く私の胸に響いた。

春風亭一朝『家見舞い』 (14:58-15:18)
後ろ幕は一之輔後援会寄贈に替わっていた。

自分の弟子の人数を忘れて楽屋に向かって聞くなど、ちょっと落ち着かなかったのは、間違いなく円歌の口上の影響だろう。しかし、本編は大変結構でした。
江戸っ子の会話のリズム、不思議に可愛く可笑しい仕草など、私はこの人の高座が好きだ。真打昇進披露興行四十九日にして、師匠は健在。だからこその、一之輔の高座なのだろう。
この五十日間の興行は、一之輔と師匠一朝の新たな一歩になった、そんな気がする。

大瀬ゆめじ・うたじ 漫才 (15:19-15:30)
こういう色物さんがいてくれるから、寄席は成り立っているのだろう。笑いを取り、その時間管理を含め、プロの芸だった。

春風亭一之輔『五人廻し』 (15:31-16:07)
本人のフブログで喉の調子が良くないことは分かっていた。たしかに、少し鼻声だ。
これまでのネタは一昨日が『茶の湯』だったのは判明していたが、前日八日目は確認できずに電車に乗っていた。
高座に上がり、この人らしい話とアクション(?)が続く。
「円歌師匠の口上は、何を言っているか分からない時がある」「先ほどお帰りになりました」「言葉ならいいけど、文章にしたら意味不明でしょうね」。
この人の図太さが最初にドーンと伝わる。少し鼻声で決して体調は万全ではないのだろう。
そして、マクラの途中で、「えっ、子供?」と会場を見て叫ぶ。「子供だよね」。考えていたネタについて、計算が狂った状況のようだ。
いきなり立ち上がって、下手から歩き、上手からも歩き、子供さんが座っている場所が“死角”だと説明。
「試練と思ってやります」と始めたネタ。
「その昔、吉原という・・・・・・」で、会場から笑いと拍手。
これだ。私が浅草でかけると予想していたが、とうとう今日まで登場しなかった噺。
最初が江戸っ子の若い衆。三つの頃から大門をくぐっている経験と知識(?)を披露し、吉原の法と歴史を牛太郎の喜助に、まくし立てる。それを聞いていた“気障(きざ)”な若旦那、「せつは・・・・・・」の科白が、あの『酢豆腐』を彷彿とさせる。三人目が、病で伏せている妻に吉原に送り出された侍風の男。「女郎買いの本分は、何と心得るかぁ!」と喜助を責める。四人目が、あの(?)田舎大尽。そして、五人目は力士。
最後の五人目を田舎大尽にする場合のほうが、今では多いように思うが、実は力士の創作は、廓噺の名人、初代小せんによるもの。一之輔のこの噺を横浜にぎわい座の地下、のげシャーレで最初に聞いた時の驚きを、今でも忘れない。
2010年8月20日のブログ

今日は、鼻声で体調は絶好調とは言えなかったと思う。しかし、披露興行の最後の最後という状況で、このネタに決めて高座に上がり、子供さんを見かけて逡巡する中、「これも試練」と演じきった高座、堪能した。
本人は体調を含め不満もあるだろうが、私はあえて今年のマイベスト十席の候補にしたい。

まさか『五人廻し』に出会えるとは思わなかった。長丁場の真打昇進披露興行、国立演芸場は定席とはグレード的に違う扱いを受けているようだが、私は定席の延長として考えたいし、十分にそれだけの内容だったと思う。

円歌の気配り、師匠一朝の律儀さ、そして、そろそろ喉や体調に異変があって然るべく一之輔の粘り。隼町での興行は定席と負けない盛り上がりだった。

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。

by 小言幸兵衛

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