ぱせりの本の森 (original) (raw)

木

著者は木を見に行く。北は北海道、南は屋久島まで、えぞ松、藤、ひのき、杉、ポプラ……野生のものから人の手で植樹されたものまで、そして、生きた木から、挽いて材となった木まで。

読んでいるうちに、木に人格があるような気がしてくる。著者は、木を見に行くのではなくて、木に会いに行くのだ。
大切に保護されている松の木のことは、「かしずかれている」といい、杉の大樹には、「悠久泰然」「貫禄」という言葉を使う。

曲がって育ったひのきには、「生涯の傾斜を背負って」忍耐を重ねて生きていくことを思い、「かしいで生きていても、なにもいわない。立派だと思った。が、せつなかった」と書かれていて、いとおしく思えてくる。同時に我が身の居ずまいを振り返ってしまう。

それぞれが生まれ育った境涯や、その種類によって、性格も生き方も違う木々。
木肌の模様や色から、それぞれが似合った「きもの」を着ていたり、葉についた水滴が光っている様を「ダイヤの装身具」と呼んだり、木々は、身近な人々のようだ。
しんとした森林でも、聞く耳をもって聞いたら賑やかな語らいが聞こえてきそうだ。

ほぼ声(音)がないはずの木々に賑やかさを感じる一方で、音を聞くことを通して静けさを感じることもある。
蓮の花が咲く音を聞こうと耳を傾ける時間。廃屋の藤棚の下で、虻の羽音や落下の音を聞いている時間。
まるで時計がとまったような時間。

普段の生活を少し離れて、豊かな時間を過ごした。本の中から、森の匂いがしてくるようだ。