消滅求む指示厨オヤジ (original) (raw)

物騒なタイトルだけど、まぁのほほんとした平和な部類にあたるお話です。

よその家にはあまり見ない設備らしいが、よそと大きく違うスタイルで生きる我が家の先祖が作った家には、あっちとこっちのブロックを繋ぐ渡り廊下がある。

これには屋根があるが壁がない。自然の力とは思った以上にパワフルで、屋根オンリーでは防げないものがある。それは自然の汚れだ。

屋根で真上からの攻撃は防御出来るが、横風で小さい自然のゴミがどうしても入り込んでくる。そして気づいた時には砂というか、もっと酷い泥まみれ廊下になってしまっている。その景色たるや当然の如く汚い。

その他には夏の落とし物ということでセミの死骸が転がっていたり、カマキリの卵が産み付けられていたりもする。自然世界の墓地と産院を兼ねる景色も見ることが出来る。そういうのがダメなシティギャルが見れば阿鼻叫喚の世界にも成り得るわけだ。

こうも汚いと「掃除しなきゃ」となるのが家の管理人の務め。といっても私はその立場にはないのだが、大人から指示があれば重い腰をあげてやることもやぶさかでない。

フットワーク軽く腰は重く。人材としてそのくらいの実用性とありがたみがあった方が良い。私もそうそう簡単には動いてやらないが、動き出したらからには全部が早いんだから。

で、人生の遺産として第1にこの私の名を上げる他ないあのオヤジからお声がかかった。それが誰って?私の父である。

汚いからちょっと掃除してきてと腰の悪いおじんから頼まれれば「嫌じゃ!お前でやれ!」とは言えないじゃないか。そうも口汚く親不孝な言動に出れるような人でなしの要素がまるでないのが、私という育ちの良い人間じゃないか。じゃあ良かったな。

腰痛ゼロで元気な私がやってやるしかない。簡単に出来る親孝行なら数打ってやっとけの方針なのでやります。

廊下が真っ黒だ。本来なら自然を感じる茶色い木材カラーの床が「えっ、炭?」てなるくらいに真っ黒だ。可哀想に。

洗剤で洗い流して綺麗にワックス掛けしてやりたいところだが、そこまでやると面倒過ぎるので雑巾で拭くくらいかな。

マジで数センチ拭いただけで雑巾が真っ黒だ。バケツの中の水がどんどん黒くなる。汚水天国メーカーだな。

綺麗なバケツの水の透明度が一瞬で死んで汚れていくの見るとなんとも切ない想いになる。こうして綺麗にするには面倒、だが汚すのは簡単のリズムが成り立つわけだ。悲しいことです。

ここでオヤジの指示が飛んでくる。汚いから自分は廊下に出ず、遠くに見えるドアの所から指示を飛ばしてくる。

我が一族はだいたい声がデカいで共通しているため、私も父もやっぱり声がデカい。遭難とか被災した際に何かと便利に使えるかもしれないので、活躍の場に控えて喉は大事にしておこう。

そんなのだから距離を置いての会話も得意。あの距離でも指示の声が良く通る通る。

「すぐに真っ黒になるからこまめに雑巾の面を変えろ」

「もっと端っこの汚れを狙え」

「そこに鳥の糞があるから擦って落として」

などなど、ちょっと休憩が少なすぎないか?ってなレベルでめっちゃ指示厨モードなんだけど。

最近Youtubeでゲーム実況動画を見て知った言葉なんだけど、リスナーがやかましく指示するのを指示厨とか言うらしい。それを配信者からもやっぱり喧しいと注意を受ける場面もあり、あっちもこっちも注意のしあいでしっかり喧しい現象となるのだ。

我がおとっさんも指示厨だったのかぁ。めちゃくちゃ攻撃的な言葉使いと態度でもなく普通に言ってるのだけど、普通の指示も溜まれば殺意へと変換が完了するらしく、だんだんムカつくぞ。

あれ?こいつこんなに指示出しオヤジだったのか。クラス一穏やかだけど武力は人並み以上に持っていた私は「穏やかなる核弾頭」と呼ばれていたくらい両極端な要素持ちである。その穏やかな私の中にある怒りの魔神がウェイクアップしそうになる。

「ちょっと指示多いよ。そろそろムカつくよ~」と多分引きつった笑顔でまだまだ角の丸い言葉の槍を飛ばしておいた。もっとやばくなると言葉ですら尖って殺傷能力が高くなるからね。

ムカついたけど、育ての親にあまりキレてやるものではない。これが会社をサボってパチスロ漬けの借金親父なら首にラリアットで片付けて良い案件なのだが、ウチの親は労働に対して私より真面目だからな。お陰でこっちも不自由なく伸び伸びと育ちましたわ。

そこは私が幼い頃、忙しい合間を縫ってたった一度だけ遊園地に連れて行ってくれたことや、自分は並盛りなのにめっちゃ食う私には大盛りラーメンを頼んでくれたこと、数多のレトロゲームやとっくに平成なのに昭和の漫画や特撮ビデオを与えてくれたことなどなど、私の青春を楽しくしてくれた彼の人生アシストへの感謝を思い出しながら怒りを抑えた。

あとウチの父は、観覧車があるようなテーマパークのこともデパート屋上の遊べる広場のことも近所の公園さえも全部まとめて「遊園地」と呼びます。

苦労して育ててくれた事を思えば、10、20の指示出しでキレるのが罪深く、そしてアホらしく思えて来るじゃないか。

いつしかそうして自分を律するコツを覚えた私は、キレにくくなったのだ。それを会得するまでは、ブレーキ無しの特急列車の如く何かあれば相手の顎に一直線でガツンと入れるヤバヤバストリートファイターだった。一体いくつ顎を割ってきたことか。

ふぅー。耐えきったぜ。指示厨オヤジ乙にして没にせねばな。

しかし喧しかったな。よその大人にだってそんなに言われたこと無いぞ。親のちょっと恥ずかしい部分です。ていうか作業者は掃除に慣れた私一人だったのだから、そもそもおっさんが出てくる必要ないんだけどね。

久しぶりに怒りを含んでの親とのやり取りだった。キレやすい若者と呼ばれないよう、今後も更に己を律するべく精進していこう。人生なんて結局は自分との戦いの連続だものな。

キレやすいヤツもそうだけど、簡単に人にキレられるような対人スキルの下手くそなヤツはもっと嫌われるんですよ。

というわけで世の中のオヤジよ、遠くの方からやかましく言ってくるな。近くで相手をムカつかせないよう穏やかに話せ。

でもうちの父のあの遠くから言ってくるのがムカつくけどちょっと面白かったんだよな。振り返ったこちら側が見る分には間抜けな絵面だったし。

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