『ジュラシック・パーク』はなぜ最高に面白いのか?【成長についてのおはなし】 (original) (raw)
こんにちは。くましね薫です。
今回は、私が一番好きな映画である『ジュラシック・パーク』について解説します。
私が映画好きになるきっかけが、小学4年生の頃にレンタルビデオで観た『ジュラシック・パーク』です。
それまで、『ゴジラ』シリーズの「子供でも作り物ってわかる特撮」しか観たことがない私にとって、衝撃の何物でもありませんでした。本気で「本物の恐竜がいる」と思ってしまいました。
その後私は成人すると、ヌーベルバーグやらフェリーにやらデヴィッド・リンチやらにハマったりしますが、いま40歳を目前にして改めて『ジュラシック・パーク』を観ると、やっぱり一番面白い映画だと気づきます。
ただ、改めて観て驚くのが、恐竜が登場するシーンが意外と少ないのです。私の記憶だと、恐竜盛り沢山な印象でしたが、全然違いました。
恐竜の登場シーンはジュラシックシリーズでいちばん少ないですが、面白さは1作目の『ジュラシック・パーク』がダントツなのです。
それは逆をいうと、純粋に映画の物語に感動している証拠です。
では、私たちは『ジュラシック・パーク』の何に感動しているのでしょうか?
それは、主人公グラントの成長する姿を丁寧に描いているからです。
主人公の考古学者グラントは、恐竜を愛する男です。愛するあまり、**ヴェロキラプトルの爪の化石**を持ち歩くほどです。しかし彼は、子供が苦手です。恐竜について質問攻めしてくる男の子から逃げ惑います。
なぜ彼は子供が嫌いなのか。それは彼も子供だからです。同族嫌悪しているのです。
いつまでも恐竜を追い続ける子供でいたいからです。
しかし、彼にとって価値観を揺るがすことが起きます。
実業家の**ハモンド**の依頼で、彼らは「ジュラシック・パーク」を訪れます。
そこで目にしたのは、現代に甦った恐竜の姿です。
初めは恐竜の姿に感動していた彼ですが、次第に「ジュラシック・パーク」への疑念が湧いてきます。
「滅んだ恐竜を甦らせることは、果たして正しいのか?」
そして彼らは**ハモンドの孫**と一緒にパークツアーに同行します。
しかし企業スパイの仕業によりパーク内は停電し、自動車は停止。電気柵の電流も止まります。
そこへ巨大なティラノサウルスがやってきて、子供たちに襲いかかります。
そのときグラントは、本当に大事なものに気づくのです。
彼は子供の頃からずっと恐竜を追い求めていました。そして夢にまでみた恐竜が、いま目の前にいます。しかしその恐竜は、子供たちを殺そうとしています。
そこで彼は決断します。「子供たちを助ける」と。
危機一髪で子供たちを助けたグラントは、いままで肌身離さず持ち歩いていた**ヴェロキラプトルの爪の化石を投げ捨てます**。
彼はいつまでも子供でいたいという願望を捨て、大人になる覚悟したのです。
そしてグラントは子供たちを守ることに命をかけ、最後、あんなに憧れていたヴェロキラプトルに命を狙われます。
『ジュラシック・パーク』とは何を描いた作品なのか?
それはひとりの男の「通過儀礼」を描いた作品なのです。
通過儀礼とは、大人になるための儀式です。
『ジュラシック・パーク』は、通過儀礼のプロセスをシンプルかつ丁寧に描いているので、観客の心を揺さぶるのです。娯楽作品の装いをしていますが、この作品には人生に必要なことが詰まっています。
そして、この主人公グラントは、監督のスピルバーグ自身でもあります。
29歳で監督した『ジョーズ』が世界興収の記録を塗り替え、その後も『未知との遭遇』、『レイダース』、『E.T.』と大ヒット作品を世に送り出します。しかし評論家からは「B級超大作」と揶揄され評価されません。そこでスピルバーグは85年に黒人女性を描いた『カラーパープル』というヒューマン映画を監督します。しかし、あまりにもアカデミー賞を狙いすぎた作風に、評論家から完全に無視されます(良い映画なのに!)。
その後スピルバーグの迷走は続き、挙げ句の果てに91年には大人になったピーターパンを描く『フック』を監督してしまいます。ヒットメイカーのスピルバーグにも、暗黒時代があったのです。
しかし、彼は変わります。
93年。彼は2本の名作を世に送り出します。
まず1本目は『ジュラシック・パーク』です。この作品で、夢見る男の通過儀礼を描きました。
そして2本目は、『シンドラーのリスト』です。
スピルバーグはありえないことに、『ジュラシック・パーク』の編集をしながら『シンドラーのリスト』を撮影します。彼は早撮りで有名の監督ですが、それにしてもありえない!
『シンドラーのリスト』は、ナチスドイツによるユダヤ人大虐殺を描いた作品です。その描写は、いままでの彼の演出とは違い、ドキュメンタリータッチで、容赦ない虐殺シーンが続く、強烈な作品でした。この作品で**スピルバーグは自分の殻を破ります**。
そして自身もユダヤ人であるということから、ナチスの蛮行を真正面から描き、ユダヤ人を救ったシンドラーの偉業を描きます。
93年とは、スピルバーグもグラントと同じ、大人になる覚悟を決め、『シンドラーのリスト』でアカデミー賞を受賞した記念すべき年なのです。
このような物語が何重にも絡み合って生まれたのが『ジュラシック・パーク』なのです。
このスピルバーグ自身の物語も知ると、さらに楽しめると思います。
<参考文献>
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ありがとうございます。