わんだふるぷりきゅあ!:第25話『夏だ! 海だ! 宿題だ!』感想 (original) (raw)

夏だ! 海だ! プリキュアだッ!
ハッピーなバカンスから感動の成長絵巻まで、これぞわんぷりという要素を贅沢にてんこ盛りにした、多幸感溢れる第25話である。
前半戦の『こんなの同人誌じゃんッ!』と思わず叫ぶ濃いめの掛け合いから、すっかり仲良くなった五人の交流、猫屋敷姉妹の現状をバトルに絡めて描く後半まで、美味しい要素たっぷりでメチャクチャ良かった。
定番の名前呼びイベントまで25話、スゲ~じっくりコトコト煮込むわんぷりの歩調が、一体少女たちをどんな存在にしたのか。
深海の恐怖に怯えつつも手を離さず戦うキュアリリアンと、眼の前のたった一人だけでなくその人が大事にするなにかのために戦えるようになったキュアニャミーの勇姿が、夏の太陽よりも眩しいエピソードでした。
やっぱ猫屋敷姉妹の変化は、時間使ったからこそのコクがあって良いなぁ……。

というわけでメチャクチャいろんな面白さがある回ですが、まず溢れんばかりのバカンス感が良かった!
夏に浮かれ心からはしゃぎ騒ぐ、底抜けの明るさが犬飼姉妹の仲良しからバリバリ溢れていて、その温度感においていかれている……ようでいて、かなり絆されてきてるユキ、その手を『怖くない』と引くまゆちゃんと、プリキュアチームが2クールかけて作り上げた間合いが心地よく描かれていた。
すっかりカプ厨としての本性に目覚め、ゴリゴリウザ絡みに邁進する猫屋敷まゆを間に立てつつ、想い人の水着姿に恥じらいつつもときめき、落ち着いた知恵で夏の日に実りをもたらす悟くんの描写も、大変グッド。

クールさを残したまま怯えとかワクワクを取り繕ってるユキに対し、こむぎが常時エンジン全開で、何の説明も前触れもなくいろはちゃんにギュギューっと抱きついているところとか、マジ最高だった。
こむぎの幼くも素直で純粋な愛の表出には、毎回心あらわれる思いで見る度両手を合わせ、この得難い尊さがずっと続くよう祈ってる(マジのガチ)。
とにかく真夏の気温に当てられ、最高の皆と最高の時間を過ごすトロピカるな時間の眩しさが元気に弾んでて、とても夏らしい空気感だったのが良かったです。
やっぱこの元気でハッピーな感じ、見てていい気分になれて好きだぁ……。

ユキが犬組のハイテンションに乗り切れておらず、しかしはじめて体験する真夏のバカンスに確かに心揺れている様子が、可愛らしくて良かった。
原体験が極寒の寂しさにあるせいか、ユキは『自分はこういう人間なんだ!』と強く思い込んで柔らかなものを守っている感じなんだが、その思い込みが変化していく自分を、時折取りこぼす時がある。
水は怖いものと思い込んで、きれいな貝殻に触りたい自分を閉じ込めてしまったり、まゆだけが特別だった過去に縛られて、友達をその他大勢に位置づけてしまったり。

そういう”姉”の頑なさに、『怖くない』と手を差し伸べて新しい体験へ道を開く、猫屋敷まゆの靭やかな強さ。
何かと何かを繋ぐ”糸”を己の象徴とするキュアリリアンが補うことで、狭くて危うくて、切実で純粋な場所でまゆちゃんを守ってきたユキが、もう少し自分に自由に、可能性に怯えず生きられる場所へと進める様子も、とても眩しかった。
新生活でいろはちゃんに出会って手を引かれて、新しい体験に飛び込んだり、プリキュアとしてガルガルを救い危機に向き合う経験を通して、まゆちゃんは何かが出来る新しい自分を、信じ好きになっている。
その自己肯定感が、あんがい臆病なところがある家族がもっと幸せになれるよう、自分が前へと進み出す決断を後ろから支えている。
もはや守られるばかりの”妹”ではなくなったけど、だからこそ新しく輝く特別な尊さを手に入れてもいる、猫屋敷家の末っ子の”今”がしっかり書かれていて、めちゃくちゃ良かった。

この距離感はウミガメガルガルとのバトルでも生きていて、『深海に引っ張られていっての溺死』という、生々しい脅威のヒリツキを活かす形で、戦士としての二人の”今”も良く描かれていた。
自分が怯え震える弱い存在だからこそ、その弱さとちゃんと向き合えているからこそ、リリアンは闇雲に暗い場所へと走っていくガルガルの辛さに共感し、たった一つ獣を支える己の手を、けして離さないという勇気を振り絞る。
高圧のハイドロジェットに圧される中で、自分の痛みより新しい命が絶たれてしまうことを気にかけるのも、凄くリリアンらしい優しい強さだった。

不屈と博愛で戦いに挑むリリアントしての強さは、ワーワー楽しく騒ぎメソメソ自分の弱さになく、猫屋敷まゆの日常が育んだものであり、今回示されたセンシの成長がしっかり、明るく楽しく、そればっかりじゃないけど確かに前に進めている、日々の積み重ねに支えられているのはとても良い。
怖さや痛みに身をかがめ、『自分には何も出来ない』と諦めていた少女が、いろはちゃんに手を引かれて新しい街で、新しい喜びと出会って生まれた、新しい自分。
それこそが、戦士としてのリリアンの凛々しさを支え、生み出しているのだ。

この”妹”の変化に引っ張られる形……であると同時に、歪んだ愛情で彼女一人に視線を囚われつつ、ずっとどっかで新しい自分を求めていた気持ちに、だんだん素直になっていくことで、ニャミーは『守る強さ』を己のものにしていく。
かつて苦しむガルガルに拳を叩き込み、最愛の家族以外は傷つけても良いのだと、愛の危うい側面にどっぷり使っていたキュアニャミー。
大好きなまゆがかつてそうしてくれたような、苦しみに共感を示し思いを繋げる靭やかな強さを、”今”のニャミーが戦いの中体現できているのは、凄く良かった。
傷つけない戦い方が社会的に『正しい』から良いって話ではなく、ユキがずーっと大好きで憧れてきた、愛を諦めないまゆちゃんの勇気、なりたい自分に近づいている所が、オレは本当に良いなと思う。

それは同じ姓を持つ特別な身内と、どーでも良いはずの他人を同じように大事に出来る、すごく身近な徳目にも繋がっている。
身内大事の狭い防衛本能は、動物としての人間の本能だと思うが、それが簡単に他者の排除に繋がり、暴力行使のストッパーを外す危うさは、猫屋敷サーガを通してどっしり描かれている。
そういう場所に囚われかけたニャミーが、自覚していない心の声をワンダフルとフレンディがしっかり聞き届けて、自分たちの考えを届けたからこそ、無自覚なれどユキの生き方も変わってきた。
そうやって固く閉ざしていたものを開き、新しい体験と変化に飛び込める自分になっていくことで、ユキはどんどん本来の彼女に……ずっとなりたいと願っていた、優しいからこそ強い人間になっていく。
その確かな一歩として、こむぎといろはちゃん個別の名前を、大事で愛しいものとして呼べるようになっていたのは、本当に良かった。
こういう変化が簡単には訪れず、いろんな出会いと触れ合いが結晶して生まれる奇跡なんだと描く上で、わんぷりが選んだどっしりした語り口は、とてもいい仕事してると思います。

ウミガメガルガルはなかなかの強敵で、久々にバトル強度の高い展開にもなったわけですが、駆り立てられた獣が振るう暴力に圧されつつも、自分たちからは愛しか差し出さないわんぷりの戦い方も、それ故色濃く削り出せてた印象。
マジヤバい状況でもガルガルの苦しみに寄り添い、救いを諦めずにしがみつくリリアンの強さも、そこで手っ取り早い解決策を選ばず、守ることで道を開いていく戦い方を選べたニャミーも、めちゃくちゃ良かった。
『主役サイドが交戦意思を放棄して、非暴力でやってても、敵側がガチンコで来ると作劇に必要な緊迫感はちゃんと確保できる』つうのは、わんぷりが掴み取った自分だけの表現で好きだ。
どう考えてもヤベー時、結構あるからな……ライオンガルガル相手にした時とか。

あと今回、ウミガメの生態を実地に研究する”宿題”の話としても、凄く良かった。
無論大賢人・兎山悟大先生のご教授あって成り立っているものだが、美しい自然が残る楽土・アニマルタウンがどういう土地なのか、そこに息づく命はどんな営みを育むのか、楽しみながらもしっかり学び、真実実のある”研究”していたのが大変良かった。
プリキュアとして命がけ、何かを守る体験がただ座って見てるだけだと解んない体温を、”研究”に宿してたのも良いんだよな……。
超速攻で親バレしてたのが、真夜中の自然観察を親公認保護者同伴でやれるマトモさに繋がってるのも、わんぷりらしくて良かったです。
日焼けケアの重要性といい、ワーワー楽しく騒がしい要素を元気に転がしつつも、キッチリ描くべき勘所を外さないバランス感覚は、やっぱり良いわな。

というわけで、わんぷりが持っているいろんな善さが、ぎゅぎゅっと詰まった素晴らしいお話でした。
楽しいこと、難しいこと、大事なこと。
色んなことをみんなで分け合って、変わっていく自分たちを全部愛しく抱きしめながら、あの子達は自分の未来を切り開いていく。
その仲良しと大好きのダンスを見届けるのが、オレは本当に嬉しいのだと改めて感じさせてくれる、笑顔と尊さに満ちたエピソードでした。
猫屋敷姉妹、ずいぶん遠いところまで自分たちを運んできたけど、もっともーっと善い人たちになっていくんだろう……眩しいよ、本当に。

次回はだいぶカオスな匂いもしますが、それもまたわんぷり!
酷暑のリアリズムを余すことなく写し取った、渾身のトンチキ放送が楽しみです!