リアルとバーチャルを行き来する同人音楽 ーLa prièreのこれまでとこれからー (original) (raw)

羽ばたく君へ 見守っているから

あの日に捧げた祈りを胸に

君たちは翔けてく

――La prière、「羽ばたく君へ」

はじめに

この文章は「真剣な遊びをテーマにした文集 第3号 (音楽号)」に寄稿させていただいていた本論(2023/11/11執筆)を再編集し公開したものです。

同人音楽系バーチャルアーティスト*1「La prière(らぷりえーる)」の話がしたい。最近ハマっており、YouTubeで楽曲を聴いたり、ライブに参加したりしている。本稿では、音楽におけるVTuber*2の位置づけを手掛かりに、La prièreの魅力に迫りたい。まずはVTuberについて簡単におさらいする。

VTuberの広がり

昨今、情報技術の爆発的な進歩により、現実空間に存在する様々な製品がインターネットに繋がるようになった。集められた情報を元に、リアルタイムで仮想空間上に現実世界を再現するデジタルツインが進められている。現実世界を超える体験やコミュニケーションができるメタバースの世界が、すぐそこまで来ている。

メタバースの世界に最も近いコンテンツの一つが、バーチャルアーティストの一つであるVTuber(バーチャルユーチューバー)だろう。VTuberは、主にYouTube上で活動するコンテンツクリエーターの一種である。リアルな顔や姿を公開せず、代わりにデジタルなアバターやキャラクターを使用して動画や生配信をするのが特徴である。アバターは、2Dの静止画を立体的に動かす映像表現であるLive2Dや、3Dのモデリング技術を駆使して作成されており、クリエーターの動きや表情をリアルタイムで確認することができる。

VTuberの流行は、2017年12月にバーチャルYouTuberであるキズナアイの切り抜き動画が、ニコニコ動画で話題になったことが始まりだ*3。その後、同じスタイルで配信するバーチャルYouTuberが次々に発掘されることで、バーチャルYouTuberブームが起こった。当時は3Dでモデリングされたキャラクターのみを指していたが、Live2Dによる生配信で人気となった、にじさんじやホロライブの所属事務所が運営するキャラクターグループがVTuberとみなされるようになり、参入障壁が減少し、爆発的に広まった。昨今の日本ブームと相まって日本語を学ぶ海外のファンが増えており、現在では日本だけでなく海外でもVTuberの人気が高まっている。

VTuberは、主にゲーム実況や雑談をメインに、歌枠やダンス、料理配信やバラエティ企画など、幅広いジャンルのコンテンツを提供している。一部のVTuberは、プロダクションに所属しており、複数のキャラクターとグループで活動することもある。一人ではできない大掛かりな企画に挑戦することができるだけではなく、インターネット上でファン同士の新しい文化やコミュニティも広がり続けている。VTuberは自分の想像力や創造力を発揮できる表現者であり、視聴者にも多様な感動や楽しみを提供できる存在である。一過性のブームを越えて、今後もさらに進化し続けていくだろう。

VSingerの台頭

続いて、バーチャルシンガーについて説明する。バーチャルシンガーという言葉は、元々初音ミクのような歌声合成ソフトのキャラクターを指すことが多かった。初音ミクは、クリプトン・フューチャー・メディアが開発した歌声合成ソフトに付帯されているキャラクターだ。ソフトウェアを使用して歌声を生成し、さまざまな楽曲を歌唱させることができる。初音ミク鏡音リン・レンなど、様々なキャラクターや声質の音源があり、「ボカロ」楽曲として親しまれている。2020年にはプロジェクトセカイがリリースされ、中高生を中心に人気が再燃した。

バーチャルYouTuber界隈においては、バーチャルシンガーという言葉はまた違った使われ方をされている。2018年6月に活動を開始したYuNiが、音楽に特化したVTuberを指す言葉として、初めてバーチャルシンガー(VSinger)を自称し、使われ始めた。それ以降、メジャーデビューするVSingerが増えており、YuNi、 花譜、富士葵、ときのそら、AZKi、 朝ノ瑠璃などのVSingerが活躍している。VSingerに限らず、VTuberに特化した大小様々な音楽フェスの開催も活発化しており、今日では企業所属VTuber、個人VTuber問わず、様々なVTuberの音楽を聴くことができる。このVSingerの潮流は同人音楽にも影響を及ぼしている。

VTuberの音楽におけるファンが参加できる物語

精力的に音楽活動をするVTuberの音楽には、どのような特色があるのだろうか。 草野虹は「「VTuber」と「音楽」という体験」*4において、VTuberと音楽のかかわりを考察し、VTuberは「アニメキャラクタールックな外見といくつかの設定を置くことで神秘性を生み出すことができても、生配信・動画を通じて発信することで[略]滲み出る本人性によってむしろ現実的な部分を剥き出しにしていくことになる」(p.179)と指摘している(「滲み出る本人性」とは、「VTuberというフィルターを通す[略]前の活動者自身」(p.176)を指す)。

この草野の議論は、VTuberの特徴の一端を明確にしているが、VTuberの音楽活動のあり方については詳しく論じられていない。VTuberは配信者だけではなく、声優や舞台俳優、アイドルやミュージシャン、歌手など様々なジャンルから参入しており、生配信や動画におけるスタイルも、雑談やゲーム実況だけではなく、ASMR*5や朗読、ダンスや歌枠など多岐に渡る。こうした多様な活動があるなかで、とりわけ音楽活動において、VTuberとファンはどのようなかかわり方をしているのだろうか。

この問いに示唆を与えているのが、「ラブライブ!」ファンの目線からVTuberに不満を見せている、サボテンの『VTuberにハマらないラブライバーの話――バーチャルスクールアイドルの登場とVTuberから見る』*6における議論である。サボテンによれば、ラブライブ!の魅力は、女子高生がスクールアイドルとして活動するという物語に、「みんなで叶える物語」というキャッチコピーのもと、キャラクターを演じる声優や運営、原作者だけではなく、ファンも一緒にコミットすることができる点にある。だからこそ、ファンは「ラブライブ!」の楽曲から物語や想いを感じ取れるし、ライブ会場でラブライブ!の音楽を浴びる瞬間にカタルシスを得られるのである(p.134)。一方、VTuberは公式からこの種の物語が供給されないので、単純な楽曲勝負になってしまい、カタルシスを得られないという(p.135)*7

しかしながら、VTuberの音楽活動においても、ファンが参加できる物語を表現することは十分可能である。そのヒントは、soitan『声優楽曲を推す――楽曲解釈が切り拓く人生』*8にある。声優アーティストによる楽曲の魅力は、卓越した演技力によって多種多様な物語を演じられることにある。ファンがその物語を味わうには、声優アーティストのアルバムに収録された様々な楽曲を解釈し、その声優アーティストのメディア上で共有されているイメージをこえて、本人の人となりや、音楽的な技能、アーティストとしての活動歴、等を見て取ることが重要だった*9

以上の議論をVTuberに当てはめてみると、楽曲において、そのVTuberのメディア上で共有されているイメージ(草野のいう「アニメキャラクタールックな外見と設定」)だけでなく、ファンなら知っている本人に関する情報――本人の人となり(「滲み出る本人性」)、アーティストとしての活動歴、等――が盛り込まれることで、ファンがそのVTuberの物語を感じ取り、心に残る楽曲として受容されていくと考えられる。

VTuberの音楽とは

ここまでの議論をまとめよう。情報技術の発展により、VTuberによる音楽が人気を博している。パッケージ化されたコンテンツと比較して、VTuberはファンが参加できるような物語を伝えることが難しい。しかしながら、そのVTuberのメディア上で共有されているイメージだけでなく、本人の人となりやアーティストとしての活動歴などを上手に音楽の中に盛り込むことができれば、声優アーティストと同様にVTuberの物語を人々に広く知ってもらうことができると考えている。

本稿はそんなVTuberの音楽における魅力を踏まえて、同人音楽のLa prière(らぷりえーる、以下らぷり)を取り上げる。らぷりは、物語性のある音楽を得意とする、棗いつき、藍月なくる、nayutaで構成されているユニットで、実施中の東名阪ツアーのチケットは既に完売するほど人気を博しているアーティストだ。まず2章では、La prièreの活動と楽曲が、La prièreのメッセージや物語を伝えていることを考察する。3章では、私の推し活動と題して、私が好きな楽曲群のオタク語りと実際に参戦したライブ感想を綴る。

La prière

La prièreの活動

2.1節では、まずLa prière(以下、略称の「らぷり」も使用する)の活動自体について取り上げよう。らぷりはバーチャル活動とリアル活動を駆使して人気を博している。生身の身体でリアルライブを行う一方、立ち絵を使った配信を行うことで、「棗いつき」「藍月なくる」「nayuta」は、バーチャルなキャラクターとしても認識されている。

バーチャル活動は主にYouTubeを中心に行われている。棗いつき、藍月なくる、nayutaは元々各自で音楽活動を行っており、YouTubeに歌ってみた動画やオリジナル動画を投稿していたようだ。2019年12月31日に特別なコラボアルバムとしてらぷりを結成し、1stアルバム『Gemini Syndrome』をリリースしたことが、らぷりの始まりだ。この頃はユニットとして音楽活動を続けるつもりはなかったようで、nayutaのYouTubeチャンネルにて告知を行っている。予想以上に反響があったことから、らぷりのX(旧Twitter)やYouTubeチャンネルを開設し、2ndアルバム『Galaxy Triangle』をリリースした。その後、らぷりのイメージソングを作るために、YouTube配信にて、3人のイメージを視聴者に考えてもらう企画を行い、この配信で得たキーワードを元に、「進め!ラブリーアイドル☆ラプリエール」を配信する。コロナ禍では、2021年度には12ヶ月連続での新曲リリース企画を実施したり、2022年3月には1stワンマンライブ実現のためにクラウドファンディングを実施したが、いずれもYouTubeの配信上で発表している。

YouTubeの配信は立ち絵*10を使っている。左上に写真や告知などのメイン画面、左下に配信内容、右上にコメント、右下に立ち絵というスタイルは、VTuberの配信で一般的に見られる配信スタイルの一つである。例えば、VTuber因幡はねるの麻雀配信では、メイン画面に雀魂の麻雀画面を映した全く同じスタイルで配信を行っている*11。同様にして、視聴者はVTuberの配信者としてらぷりのコンテンツを楽しむことができる。

リアル活動には、同人活動とライブ活動がある。同人活動では、らぷりの1stアルバム、2ndアルバムはコミックマーケットにて頒布を行っている。また、3人は音系・メディアミックス同人即売会であるM3にて個人サークルでの活動も行っており、M3でもCDを購入することが可能だ。ライブ活動では、ライブ実現のためにクラウドファンディングを実施し、目標金額の700%となる3,600万円を超える支援を集めた*12。2022年8月には、念願の1stワンマンライブ『Three piece!!!』を開催し、2023年3月には、Zepp Divercityにて追加公演を開催した*13。2023年7月から東名阪ツアー『SPLASH the TONE』が開催中だ。このように新曲の作成やライブ活動などを精力的に行っている。

La prièreの音楽と物語

2.2節では、La prièreの音楽と物語について考察しよう。La prièreはアイドルである*14。らぷりは、ロック・ポップス・EDMなどさまざまなジャンルの音楽を歌っているが、物語性のある音楽を得意とする点で一貫している。2ndアルバムまではアルバム単位で物語を表現しており、1stアルバム『Gemini Syndrome』ではふたご座神話をテーマにした二次創作、2ndアルバム『Galaxy Triangle』では少女たちの“願い”を巡る物語を歌っている。3rdアルバム以降は、12ヶ月連続での新曲リリース企画で公開された楽曲を中心に『Chronologue』、『Glowings』を発売している。これらに収録されている楽曲は、楽曲ごとにテーマが異なっており、テーマに沿って歌い分けている。

「進め!ラブリーアイドル☆ラプリエール」は、キーワードやイメージカラーを使って3人の属性を端的に説明することで、らぷりの分かりやすい自己紹介ソングとなっている。キーワードやイメージカラーは、3人のイメージを視聴者に考えてもらう配信企画にて決定している。nayutaは社畜/真面目/La prièreの常識人、なくるは天然/癒し/突然のヤンデレ、いつきは元気系/エンターテイナー/厨二病などのキーワードが挙げられた。そのキーワードを元に、イメージカラーはそれぞれ、nayutaがキュート(以下、Cu)で赤、なくるがクール(以下、Co)で青、いつきがパッション(以下、Pa)で黄色と決定された*15

イメージカラーとらぷり3人の属性のつながりは、アイドルマスターシンデレラガールズにおける、アイドルの3属性と一致している。詩か処氏は、3属性の分類について、Cu(赤)は「受容」、Co(青)は「信念」、Pa(黄色)は「先導」と考察している*16。nayutaの「社畜」というキーワードは、境遇を受け入れ地道に物事を続ける姿勢を表す単語であり、境遇を「受容」するCu属性に相応しい。なくるの「天然」というキーワードは、「ライブが得意ではなかったが、らぷりの活動で楽しさを知り、ワンマンライブ開催を決意した」というエピソードと併せて、自分の意思を主体に物事を決めていく彼女のCo属性としての信念の強さを見せる。いつきの「元気系」というキーワードは、「らぷりの企画はいつきが先導した」エピソードと併せて、彼女のPa属性としての行動力を表している。このように、アイドルマスターシンデレラガールズにおけるアイドルの3属性と似たような形で、らぷり3人の属性をイメージカラーによって示されている。

3人のモチーフと思しきキャラクターが群像劇を繰り広げる楽曲も存在する。「禁断の愛と魔剣」は、棗いつきが考える「最強のLa prière」を具現化した性癖小説である。――nayutaの演じる聖女は、なくるの演じる悪魔に惹かれていくが、悪魔は迷惑をかけまいと身を引いてしまう。そこにいつきの演じる商人が聖女の元に現れ、銀の短剣を渡す。聖女は「自分のものにならないならばいっそ」と、悪魔を殺めてしまう。実は、商人は悪魔祓いであり、自身の家族は悪魔によって無理心中したために、悪魔を殺そうと企てていた。絶望に打ちひしがれる聖女の隣で、商人はほくそ笑むのだった。――「禁断の愛と魔剣」は、そんな物語をミュージカル調に歌い上げる壮大な楽曲で、「nayutaさんには闇落ちしてほしいし、なくちゃ(なくる)には酷い目に遭ってほしいし、棗いつきには高笑いしてほしい」*17(!?!?)と解釈する棗いつき大先生の世界観を存分に味わうことができる。

La prièreの活動そのものが物語として盛り込まれている楽曲もある。12ヶ月連続での新曲リリース企画以降に発表された楽曲は、今後のLa prièreの活動を意識している。「Flyby Anomaly」はリリース企画一発目の楽曲に相当する。らぷりの活動が本格化し、期待や不安の気持ちが混じりながらも、未来に歩みを進めていく楽曲である。「Chronologue」は12番目の楽曲で、今までの思いを振り返り、リリース企画を一緒に見届けたファンと感動を共有する楽曲になっている。「羽ばたく君へ」は24番目(リリース企画最後)の楽曲にあたり、未来に歩みを進めた“君”にエールを送る楽曲になっている。

らぷりの活動の歴史と楽曲との関係性に即して、「羽ばたく君へ」についてもう少し掘り下げる。この楽曲は2023年3月にリリースされた楽曲である。“羽ばたく君へ 空を見上げて 可能性を 未来を掴むため”とあるように、一聴すると新学期になり新しい環境で頑張る君(=ファン)を応援する楽曲に聞こえる。ところが、“「本当は嫌いだった」 そんな気持ちを押し込めていたね そばにいるからこそ苦しい”という歌詞が2番にあり、単なる応援ソングではないことがわかる。実は、いつきがなくるを一方的に嫌っていた時期があり(現在は和解している)、この歌詞はそのエピソードを踏まえたものとなっている。「羽ばたく君へ」で歌われている“君”とは、君(=ファン)であると同時に、君(=らぷり)でもある。つまり、「羽ばたく君へ」は、らぷりがらぷり自身を鼓舞する音楽でもあるのだ。冒頭で取り上げた「羽ばたく君へ」の歌詞は、らぷりがファンを応援しているだけではなく、らぷりがらぷりを応援している、ファンがらぷりを応援しているとも解釈でき、この解釈の幅が楽曲の深さに繋がっている。

La prièreの魅力

ここまでの議論とLa prièreの関係をまとめよう。VTuberのメディア上で共有されているイメージだけでなく、本人の人となりやアーティストとしての活動歴がVTuberの音楽上に盛り込まれると、ファンがそのVTuberの物語を感じ取り、心に残る楽曲として受容されていくと考えられる。La prièreの音楽は、La prièreの物語やメッセージを感じ取ることができるものとなっている。

「進め!ラブリーアイドル☆ラプリエール」は、視聴者から募集した3人のイメージをイメージカラーに落とし込み「アニメキャラクタールックな設定」として引き受けることで、ファンは、アイドルとしてのLa prièreを楽しむことができる。

「禁断の愛と魔剣」は、棗いつきが考える3人のイメージから派生した妄想を群像劇として物語化し、同人声優として活動経験のある3人が役柄になりきることで、ファンはよりリアルな生々しさを伴って、棗いつきの目線からLa prièreの世界観を体験することができる。

「羽ばたく君へ」は、12ヶ月連続での新曲リリース企画が楽曲のテーマであると共に、未来に歩みを進めた“君”(=ファン&らぷり)へ相互にエールを送る楽曲となっていることで、ファンはらぷりからエールを貰うだけではなく、引き続きらぷりを応援したいと感じることができる。

このように、La prièreの楽曲は、バーチャルアーティストの利点を生かしつつ、ファンなら知っている本人に関する情報が楽曲に盛り込まれているために、楽曲を聴くだけで自然と彼女たちの物語を感じることができる。La prièreの物語が多くの方に共有され、活動が益々発展していくことを願う。

推し活動

ここからは私の推し活動と題して、私が好きな楽曲や実際に参戦したライブの感想などをオタ語りしたい。紹介した楽曲は脚注にURLを載せているので、興味を持った楽曲があれば一度聴いてもらえると嬉しい。

個人的に推したいLa prièreやソロ活動の楽曲

まずはLa prièreから、1stアルバム『Gemini Syndrome』より「永訣のGemini」を推したい。この曲はAメロから思わずクラップしたくなるようなメロディに始まり、サビの直前の歌詞“哀憐の少女(おとめ)たちよ ダンダンダン”まで一気に盛り上がる構成になっている。サビ前の無音*18の後、気持ちよくなれるかと思いきや、“響かせ”とボーカルだけ続き、焦らされる。刹那、“もっと”で一気に演奏が始まり、爆発力が生まれている*19。「永訣のGemini」は、この“もっと”の為にあるような楽曲だと思っていて、Bメロまでがサビの盛大なフリになっている。焦らしプレイからの“もっと”が特に気持ち良いオススメな楽曲だ!!!

続いて3人のソロ活動に注目したい。nayutaのソロ活動はエレクトロニカやバラードを特徴とする。カバー楽曲では、「明日への扉 / I WiSH」「アクアテラリウム / やなぎなぎ」がオススメだ。オリジナル楽曲の「蒼のキャンバス」は、nayuta 15th Anniversary Memorial Album『Portray Blue』に収録されている楽曲で、私の人生で5本の指に入るほど大好きな楽曲である。夢をキャンバスに喩え、幼い頃は好きな色を使って自由に描けるほど夢を見ることができたが、大人になった今は夢のキャンバスを描けていない現状を憂う。「蒼のキャンバス」の蒼は、そんな情景を表しており、蒼→青を取り戻すために今から変わろうと決意する。nayutaの楽曲に通底するのは、「終わりの世界から夢を見ること」であり、nayutaがLa prièreの楽曲を作詞・作曲した「Triptych Symphony」のテーマが「終わりの世界から協奏曲を」なのも偶然ではないだろう。これらの楽曲が発表された当時、nayutaは会社員・同人音楽活動・La prière・VTuber活動の四足の草鞋を履いており、多忙な日々を送っていた。しかし、音楽活動に専念することを決意し、2023年7月31日に退職することを発表した*20。新曲「ハルハコブネ」では、暗がりの海の中で取り残された船で凍える“ぼく”が、光を掴んで進みだした姿を描いている。会社員として敷かれたレールの上を歩むことを辞め、夢見るだけではなく「進み始めた」nayutaを祝福したい。

棗いつきのソロ活動はロック(かっこよさ)とキュートな(かわいさ)音楽を特徴とする。カバー楽曲では、「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ / MAISONdes feat. 花譜, ツミキ」「可愛くてごめん / HoneyWorks」がオススメだ。私はいつきのかっこいい楽曲が好みだが、特に「ハッピーエンフォーサー」が好きだ。謎のウェブサイトとの出遭いをきっかけに、ありふれた退屈な日常が変貌していくテーマとなっている。こうした「抑圧からの解放」がテーマとなっている楽曲が、棗いつき楽曲で一番美味しいところ*21だと思っていて、8thアルバム『PERSONA』『ANAMNESIS』では、ポップでキュートな一面とロックな一面が対比されている。『ANAMNESIS』のジャケットに映るキャラクターは鎖で縛られており、その鍵は『PERSONA』のキャラクターが握っているが、『ANAMNESIS』のキャラクターは鎖を破ろうとしている。従って、棗いつきは『PERSONA』を抑圧として感じながらも『ANAMNESIS』な音楽活動を貫こうとしていると読み取れる。こうしたギャップを認識しながら、いつきがこの先どのような音楽活動を続けていくのか、とても楽しみだ。

藍月なくるのソロ活動は独自のキャラクター解釈を武器に多様な音楽を演じることを特徴とする。カバー楽曲では、「INTERNET YAMERO / Aiobahn feat. KOTOKO」「きゅうくらりん / いよわ feat.可不」がオススメだ。オリジナル楽曲「FAKE IDOL」は、演者がアイドル(偶像)を演じるあまり、本当の私を見失い、最終的にはアイドル(偶像)を演じ続けると演者が決意する楽曲となっている。演者がアイドルを表現する1サビ、本音が爆発して気持ちを全て吐露し投げ出してしまおうとする落ちサビ、それでも演者が偶像を演じ続けると決意する、少し狂気的な表現が光るラスサビ、と曲中で3回登場するサビの表現が印象的だ。演じる姿勢はアーティスト活動にも表れており、藍月なくるはファンが持つ“藍月なくる”像を楽曲で演じている。楽曲「Indigrotto」は、「月明りも届かないほど暗い深海の底で歌い続ける」藍月なくる概念を、作曲北川勝利の爽やかな楽曲でポジティブに表現している。自身のキャラクター解釈を楽曲に込めて歌い上げる卓越した技術を持ち、持ち前の透明感のある声で歌いあげてくれる、なくる楽曲が大好きだ。

La prière 1st ONEMAN LIVE 追加公演「Three piece!!! ∞」

最後に、Zepp Divercity Tokyo で行われた、らぷりのライブに両公演参加してきたので、そのライブの感想をまとめる。La prière 1st ONEMAN LIVEは、2022年8月に池袋のharevutaiで行われており、今回の感想は2023年1月に開催された追加公演のものだ。

一度らぷりの話から離れるが、Zepp Divercity Tokyoに初めてライブを観に行ったのが、やなぎなぎさんの「ナッテ」という公演で、紗幕に映されたスノーグローブと歌声が幻想的だった。Zepp Divercity Tokyoは、あれから何度も訪れている場所だが、いつもこの場所に来ると懐かしい記憶が呼び覚まされる。ここの会場はフードコートが隣にあるのが良い。らぷりを教えてくれた友達とらぷりの話を延々としゃべって昼公演に参加して、またフードコートで感想を語り合いながら夜公演に参加するという一連のムーブが楽しくて。このライブ前後の時間もライブ体験の一つだなぁと感じる。当時は「やなぎなぎさんを好きな演者さんがいる」という情報に毛が生えた程度の知識しかなくて、(こんな私が参加してしまっても大丈夫なのか……?)と若干不安だったりもしたが、蓋を開けてみれば大学生くらいの若いファンが大半で、ライブ初めての人も多かったみたいでほっとしたのが正直なところ。ライブ現場は、治安の良い声優アイドル界隈の雰囲気に近く、むしろ私好みの現場でとてもテンションが上がった。

3人の歌の上手さに痺れつつ、今回一番驚いたのはセトリ。昼夜両公演で15曲も歌っている。昼公演は1stアルバムと2ndアルバムの楽曲を順番に歌いつつ、セトリ中盤ではアルバム未収録の楽曲を披露。幕間はその中の一つ、「進め!ラブリーアイドル☆ラプリエール」にちなんだイベントストーリーが流れた。夜公演は3rdアルバムの楽曲を順番に歌いつつ、セトリ中盤ではnayutaが作詞・作曲を担当している「Triptych Symphony」が披露された。幕間では、物語仕立ての楽曲「禁断の愛と魔剣」から前日譚が流れている。1stライブの時点でこれだけ歌を抱えていることも凄いことだが、両公演でほとんど歌の被りがない!!!合計30曲近い歌やダンス、映像の準備など含めて全て仕上げるのは本当に大変だったのでは?と思う。

今日一番の盛り上がりは、「來人具惨(RisingSun)」。なくるの掛け声に合わせて、ペンライトを赤に変える。音楽に合わせて身体やペンライトを振るのが本当に楽しかった!!!このライブでは声出しなしだったので少し物足りなかったが、棗いつきソロライブで披露された「來人具惨(RisingSun)」は声出しありでものすごく盛り上がった。次の東京公演でもぜひ浴びたいところだ。

いつきは、パフォーマンスに一杯一杯だった前回(harevutai)と異なり、今回(追加公演)はステージを見る余裕がある分、お客さんの反応やペンライトを振る姿に感動し感極まっていた。なくるは、メンバーやお客さんだけでなく、スタッフや照明さんなど、今回のライブに携わっていたすべての人に感謝していたのが印象的だった。nayutaは、アーティストの夢であるZeppのステージに立てた実感と感謝をし、これからもLa prièreが前進していくことをファンの前で誓い、ライブは終了した。

初めてのライブとのことだったが、30曲ものオリジナル楽曲を浴びることができて、とても満足したライブだった。(企業の協力があったとはいえ、)自分たちで楽曲を制作し、自分たちでライブを行うのは本当にすごい。そして、Zepp Divercity Tokyoを埋める集客力には期待感しかなく、これからのライブ活動も楽しみにしている。まずは来年の東京公演が楽しみだ。

本稿は、私にLa prièreを教えてくれた友人がいなければ寄稿することはなかっただろう。いつもありがとう。来年のライブも楽しみだね。竹内未生さん(@carta_pergamena)には前号に引き続き原稿の全体構成についてご意見をいただきました。誠にありがとうございました。センケイさん(@a33554432)には原稿の全体構成についてご意見をいただくだけでなく、声優系ライブの参加でもご一緒させていただいております。いつもお世話になっております。今後ともよろしくお願いいたします。

脚注