令和4年の民法(親子法)改正を解説(嫡出推定・嫡出否認の訴えの見直し、再婚禁止期間の廃止など) (original) (raw)

令和4年の民法改正は、子の権利を保護するための親族法の中の親子に関する規定を大きく見直しました。無戸籍問題を解消するため嫡出推定の規定などを見直し、子の虐待防止のために懲戒権に関する規定を削除しました。

今回はこの親子法制に関連する改正を解説します。

法律番号:令和4年法律第102号

公布日:令和4年12月16日

施行日:令和6年4月1日

改正のポイントは以下の通り

1.嫡出推定に関する規定の見直し(772条)

2.女性の再婚禁止期間の廃止(733条)

3.嫡出否認に関する規定の見直し(774条、777条)

4.認知無効の訴えの規定の見直し(786条)

5.親権者の懲戒権に関する規定の廃止(822条)

以下具体的に解説していきます。

嫡出推定に関する規定の見直し

婚姻成立後200日以内に子が出生した場合

父子関係の早期安定を目的として、婚姻成立後200日以内に生まれた子であっても、婚姻前に懐胎したもの推定して(婚姻後に生まれた場合は)、夫の子と推定するとしました(772条1・2項)。

改正前の問題点(推定されない嫡出子)

改正前においては、婚姻成立から200日以内は又は婚姻解消・取消しから300日以内に生まれた子については(婚姻中に懐胎したものと推定して*1)、夫の子と推定するとしていました。これを「推定される嫡出子」といいます。

推定される嫡出子に関しては、夫が子との嫡出関係を否定するためには嫡出否認の訴えによる必要があります。この訴えは、子の出生を知ってから1年以内にする必要がありました。この1年という期間制限を設けることにより、父子関係を速やかに安定させ、子の養育環境を整える事ができるとされています。

一方、婚姻から200日以内に生まれた子は嫡出推定がされません。これを「推定されない嫡出子」と呼んでいました。推定されない嫡出子は、嫡出子として出生届を出すと嫡出子として戸籍に記載されるという戸籍実務の扱いがされていました。しかしながら、民法上は嫡出推定はされませんので、父子関係を争う場合は親子関係不存在確認の訴えによることができるとされていました。この訴えは、嫡出否認の訴えのような期間制限がなく、いつでも訴えを起こすことが可能なので、推定されない嫡出子(つまり婚姻後に200日以内に生まれた子)は非常に不安定な地位に置かれるということが問題とされていました。

また、近年においては「授かり婚」の増加もあり、嫡出推定の規定の見直しの必要性がより一層高まっていました。

改正後は(772条1・2項)

そこで改正法は、婚姻成立から200日以内は又は婚姻解消・取消しから300日以内に生まれた子については夫の子と推定する規定は維持しつつ(772条1項前段・2項後段)、婚姻から200日以内に生まれた子についても(婚姻前に出生したものと推定して)夫の子と推定するとしました(772条1項後段・2項前段)。これにより200日以内に生まれた子も「推定される嫡出子」となるので、父子関係を否定する場合は嫡出否認の訴えによる必要があるので、早期に父子関係を定めて、子の地位の安定に図ることができます。

なお、改正後は「推定されない嫡出子」という概念はなくなりますので、親子関係不存在確認の訴えの提起する場合は「推定の及ばない嫡出子」*2との関係を否定する場合となります。

再婚後に子が出生した場合

改正前の問題(無戸籍問題)

婚姻の解消(離婚)後300日以内に生まれた子は夫の子と推定されますので、夫(A男)と妻の婚姻関係が破綻し別居中に妻が別の男性(B男)との間で子を授かっても、離婚後出生した場合は離婚した夫(A男)の子と推定されてしまいます。この場合に出生届を出す場合は離婚した夫の嫡出子として提出しないと受理されない扱いになっていました。仮に、A男と子の嫡出関係を否定する場合は嫡出否認の訴えによる必要があり、訴えを提起することができるのは夫(A男)だけという問題があり、A男の協力がないと訴えを提起することができないという問題があります。さらにA男が妻にDVをしていた場合はさらに深刻です。結局妻は出生届を提出せず、子が無戸籍になってしまうという問題が生じます。無戸籍になると住民票が作成されないので、公共サービスが受けることができず、子にとって著しい不利益が生じます。

改正後は(772条3項)

そこで改正法は、子を懐胎した時から子の出生の時までの間に複数の婚姻をしていたときは、子の出生の直近の婚姻における夫の子と推定する規定を設けました(772条3項)。これにより離婚後に再婚し、再婚後に出生した場合は再婚後の夫の子と推定されることになるので無戸籍問題の解消につながります。

ただし、離婚後に再婚しない場合や再婚しても再婚前に出生した場合は、離婚した夫の子と推定されるので無戸籍問題は依然として残る可能性はあります。

再婚禁止期間の廃止

改正前の733条では、女性の再婚禁止期間を定めていました。女性は離婚後100日間は再婚することができないとされていました。これは、離婚直後に女性が再婚して子が出生すると嫡出推定が重複するため、離婚した夫の子か再婚した夫の子か定めることができなくなることを防ぐ趣旨でした。

前述の通り、改正後772条3項で嫡出推定が重複した場合は直近の婚姻における夫の子と推定するという規定を置いたことにより再婚禁止期間を設ける必要がなくなったので、733条は削除されました。

嫡出否認の訴えの見直し

否認権者の拡大・出訴期間の伸長

改正前は嫡出否認の訴えの原告は夫に限定されていました。子や母が訴えることができないことが、無戸籍問題の一因とされていました。また、出訴期間は夫が子の出生を知った時から1年以内とされていましたが、期間として不十分と指摘されていました。

改正法は否認権者に関して、夫以外に子・母も加えました(774条1~3項)。

また、772条3項の規定により再婚後の夫の子と推定された場合には前の夫も訴えを提起できるとしました(774条4項)。仮に、再婚後の夫と子との嫡出関係が否認された場合は、離婚した前の夫の子と推定されます(772条4項)。

出訴期間に関しては3年に伸長しました(777条)。また、子の出訴機関については、子が父と同居した期間が3年を下回るときは21歳に達するまで訴えを提起可能としました(778条の2第2項)。

子の看護に要した費用の償還の制限

嫡出否認の訴えにより嫡出であることが否定された場合、それまでに父であったものが子のために養育費などの出費をしていたとしても、子は父であったものにその費用を償還する必要がない旨を定めました(778条の3)。

認知無効の訴えの見直し

非嫡出子との親子関係を創出する認知を後に否定する認知無効の訴えについても改正しています。

改正前の認知無効の訴えは利害関係人であれば誰でも訴えを提起でき、出訴期間の制限もありませんでした。嫡出子と比較して、非嫡出子の地位が著しく不安定になると指摘されていました。

改正法は、認知権者を子・認知した者・母に限定しました。

出訴期間を7年と定めました(767条1項)。子の出訴機関については、例外的に子と認知した者が認知後に同居した期間が3年を下回るときは21歳に達するまで訴えを提起可能としました(767条2項)

懲戒権の削除

改正前822条は、親権を行う者は監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒できるとしていました。この規定は児童虐待の口実に使われると指摘されていました。

改正法は、懲戒権の規定を削除しました。*3

また、親権を行う者は子の人格を尊重し、年齢・発達の程度に配慮し、体罰その他の子に心身の健全な発達に悪影響を及ぼす言動をしてはならないとする規定を新設しました(821条)。