国語辞典比較:「~にさわる」のか「~をさわる」のか (original) (raw)
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「~をさわる」という言い方を、最近耳にすることが多いけれど、耳ざわりで仕方がない。「~にさわる」じゃないのか?
で、辞書くんたちに訊いてみた。
▶岩波国語辞典5版(1994)
さわる【触る・障る】①(体の一部、特に指や手のひらや足先などが)物に(軽く)くっつく。【触】「手が―」「何かが足先に―」…▷「手で―」は意図的な場合を言い、「手が―」は意図の有無にかかわらず状態を言う。
近ごろ、「その問題には―らずにおこう」のように、触れる②の意に使う人が出てきたが、避けて済ませたい気持ちからの比ゆでなければ、本来の用法とは言えない。「触れる」との混同から、「壁を―」のような他動詞的用法も現れ始めた。
「岩国」は、1990年代前半にしてすでに、「さわる」の新たな使い方に目を向けていた(とはいえ、2019年の8版も説明は変わっていない)。かたや「三国」はといえば、
▶**三省堂国語辞典**4版(1992)〜6版(2008)
さわる【触る】①近づいて軽く当たる。固体にふれるときにいう。〔「ふれる」よりも話しことば的〕「手に―・寄ると―と」…
と、「さわる」の変化にはほとんど意識が向いていない。ところが、
▶**三省堂国語辞典**7版(2013)
さわる【触る】①手のひら・指などを表面に当て(て、様子をたしかめ)る。「かべに触ってみる・手でかべを―・からだを―」
用例に「を」の例が、注釈なしに出ている。そして
▶**三省堂国語辞典**8版(2021)
[区別]「触る」は意図的な感じ。「触(ふ)れる」は意図せずに、またはちょっとだけ当てる感じがある。「かべを触る」は意図的だが、「かべに触る」はうっかり触った場合を含む。
という説明が加わった。なるほど。
で、「新明国」。最初は
▶**新明解国語辞典**2版(1974)
さわる【触る】①近づいて、その物に軽く当たる。〔「触れる」よりも話し言葉的〕「これに―な」
と、あっさりだったのが、
▶**新明解国語辞典**3版(1981)・4版(1989)
さわる【触る】①何か・に手が(が手に)接して、そのものの存在を確かめたりある種の刺激を受けたりする。〔多く、意図的な動作について言う〕「触ってはいけない・軽く―」
と、山田節増強の後、5版では
▶**新明解国語辞典**5版(1997)・6版(2005)
さわる【触る】〈なに・だれニ―〉
「~に」というコロケーションが追加された。「に」が正統か。ところが第7版では
▶**新明解国語辞典**7版(2011)・8版(2020)
[文法]「ペンキを塗ったばかりの壁に触ってしまった」「ポケットに手を入れると指先に触るものがあった」などと(必ずしも)意図的でない行為である場合には多く「…に触る」となるが、「感触を確かめようとバラの花びらを触る」などと意図的な行為として行う場合には「…を触る」の形を用いる傾向がある。
という説明がついた。なるほどそうなのか。なんか説得力ある気がする。
もひとつ、「明鏡」は、
▶**明鏡国語辞典**2版(2010)・3版(2020)
さわる【触る】①あるものに手などをふれる。「そっと手で触ってみる」「額に触ると熱がある」「展示品には触らない」
〔使い方〕(1)近年他動詞としても使う。動作の積極性が増強される趣がある。「子どもらがウサギやヤギを触ってはしゃぎ回る」「横綱のまわしを触ることもできないで突き出される」
って書いてあって「積極性が増強される」という説明にはなるほどと思うけれど、「を」がつくのが他動詞だというのはわかるとして、「に」がつくと他動詞じゃない、と明言していいのか?
(ちなみに大辞林は、『日本語では、目的語の表示が必ずしも明らかでなく、また、目的語をとらない「泣く」が「子どもに泣かれる」のように受け身に使われたりして、自動詞と他動詞の区別を明確にしにくい面がある』と書いている)
――「岩国」が「他動詞的」としているのに対し、「他動詞として」と断定。こういう生半可な(根拠不明確な)断定が多いから、明鏡は好きになれんのだわ。
ともあれ、最後はこれ。
▶てにをは辞典(2010)
「を」の用例が20個。「に」の用例が22個。ほぼ互角。うーん、最近そうだったんだ。
――それにしても、触る場所のヤバい例がいくつも…(笑)