ヘイトは消えたか:それって「反日」? 韓流ブームと「嫌韓」ごちゃまぜのニッポン | 毎日新聞 (original) (raw)

ヘイトスピーチを繰り返してきた団体の街宣活動に抗議する市民たち=川崎市のJR川崎駅前で2020年9月20日、井田純撮影

ヘイトスピーチを繰り返してきた団体の街宣活動に抗議する市民たち=川崎市のJR川崎駅前で2020年9月20日、井田純撮影

大ヒットドラマ「冬のソナタ」が火付け役となった韓流ブームが日本で始まったのは、約20年前。その後も人気は下火になることなく、今や「K―POP」をはじめとする幅広い分野で韓流は文化として定着した感がある。その一方、日韓の政治的対立を背景に嫌韓的な空気も漂い、在日コリアンを標的にしたヘイトスピーチや「反日」というレッテル貼りも、ネットなどでやまない。この“チグハグさ”はなぜ生じ、どう向き合えばいいのか。専門家とともに考えた。【金志尚/デジタル報道センター】

第4次ブーム ノスタルジーから「憧れ」に

まずは韓流の歴史を簡単におさらいしておきたい。「冬ソナ」がNHKのBSで初めて放送されたのは2003年。翌年にはNHK総合でも放送され、ペ・ヨンジュンさんとチェ・ジウさんが主演を務めた純愛物語は爆発的にヒットした。04年の「ヨン様」の来日時には多くの女性ファンが空港に駆けつけるなど、まさに社会現象と呼ぶにふさわしい熱狂が生まれた。

「第1次韓流ブーム」と呼ばれるこの頃は中高年女性がファン層の中心だったが、10年前後から「少女時代」や「東方神起」といったK―POPアイドルが本格的に日本でデビューすると、若年層を取り込んだ「第2次」が巻き起こる。その流れは、今や世界的にも有名な「BTS(防弾少年団)」がけん引する「第3次」へと引き継がれ、コロナ禍による巣ごもり需要がもたらした現在の「第4次」へと至る。家にいる時間が長くなり、動画配信サービス「ネットフリックス」の「愛の不時着」「梨泰院(イテウォン)クラス」といった韓流ドラマを見る人が増えているのだ。

韓国のコスメ(化粧品)やグルメも親しまれ、東京・新大久保のコリアンタウンは土日を中心に多くの若者たちでにぎわいを見せる。もはや韓流人気を「第○次」などと数えることに意味がなくなってきているとも思える。

「冬ソナの頃は中高年女性の(青春時代を懐かしむ)ノスタルジックなまなざしが人気を支えていましたが、今は若者を中心に、『憧れ』や『かっこいい』といった同時代のトレンドとして韓流文化を楽しんでいる人が多い。欧米のトップスターに対する人気と同じように位置付けられると思います」

日韓の若者文化に詳しい社会学者で、常葉大学(静岡市)の福島みのり准教授はこう指摘する。特に着目するのが、若い男性も韓流の影響を受けていることだ。「以前は若者であっても男女間で温度差があって、男性は距離を置いている人が多かった。でも最近は私が勤める大学でも髪の毛を緑色とかピンク色に染めている男子学生がいて、「かっこいいね」と言うと、『K―POPアーティストの○○のファッションなんです』などと話してくれます。韓国に対する好感度はかなり高くなっていると感じます」

若者は「遅れた国」とは見ていない

内閣府の20年度の調査によると、韓国に「親しみを感じる」(どちらかと言えばを含む)と答えた人の割合は34・9%だった。全体的には低調だが、結果を細かく見ると異なる傾向も浮かぶ。

まず、男女別では男性の27・0%に対し、女性は42・5%で15ポイントも高い。世代別では60代と70歳以上はいずれも2割台だが、50代と40代ではそれぞれ3割台となり、30代では4割台に。20代以下では54・5%と半数超に達する。男性よりは女性の方が、そして年代が下がるほど韓国への抵抗感は和らいでいる。

これは福島さんの肌感覚ともおおむね一致する。韓国に留学したいと言うと、お父さんやおじいちゃんに反対された――そんな話を学生からよく聞くというのだ。

「年配の男性はやはり、過去の日本による植民地支配に基づき、韓国を見下す意識を内面化している部分があると思います。一方、韓国は(自国経済が大打撃を受けた1990年代後半の)アジア通貨危機を経て特に00年代以降、文化産業やIT産業の育成を通じて国力を高めていきました。結果として今のような韓流人気にもつながっています。国際的な地位が上昇した韓国との間である種の“逆転現象”が起きる中で、気に入らないというか、認めたくないという思いを、特に年配の男性は抱いているのではないかと思います」

その点、10~20代を中心とした若年層は、韓国を「遅れた国」というイメージでは捉えていない。それはドラマの見方にも表れているという。

「例えば『梨泰院クラス』は若者の間でとても人気があります。俳優がかっこいいからというのはもちろんありますが、それだけが理由ではありません。この作品には(心と体の性が一致しない)トランスジェンダーの登場人物が出てきます。今の若い人たちってジェンダーの問題や人権問題にすごく敏感で関心も高い。そういうテーマをドラマが内包していることにも感動しながら見ているんですね。多様な国籍や民族、そして個性を持った人たちが共に生きていく(ドラマの舞台の)ソウルという都市の描き方が良いという意見も多くみられます」

「韓国は地獄」? 見下して自尊心満たす欲求も

世代によって濃淡はあるものの、韓国の文化が広く受け入れられているのは紛れもない事実だろう。表立っては見えにくいが、年配男性だって韓国のドラマにはまっているという人は結構いる。「食」の浸透はより顕著だ。かつて在日コリアンに対する蔑視の象徴だったキムチは、今では多くの家庭で食卓に並ぶようになった。

在日3世である私(記者)も、こうした状況を歓迎している。だが、いや、だからこそ、残念でならない。なぜ、嫌韓的な空気はなくならないのか。

福島さんは言う。「今は日本と韓国が政治的に対立しているので、どうしても良い感情を持てない人がいるのは仕方がない部分もあります。文化がいくら親しまれているからといって、そこは切り分けて考える必要があります」。そう前置きした上で、嫌韓には二つの側面があると指摘する。一つは「劣っている」と見なした相手をたたいて自尊心を満たそうとする欲求。もう一つは、それがビジネスとしても成立しているということである。

「最近よく目にするのが、韓国の格差や生きづらさを過剰に強調した本です。『この国は地獄か』とか『行き過ぎた資本主義』とかの文言が、帯やタイトルに付いているのが特徴です。(『日本から出て行け』と言うような)一般的なヘイトスピーチだけではなく、ここにもヘイト的な要素があると思います。若者たちもこうした本を見ると『韓国って本当に大変なんだね。日本に生まれてよかった』などと言います」

確かに韓国では格差の広がりが指摘され、若者の雇用問題は政権の大きな課題でもある。ただし問題なのは、前述したような本が「本質的な韓国の理解につながらない」ことだと福島さんは指摘する。どういうことか。

日本の若者の方が将来を悲観か

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