ハロウィンとロブスター (original) (raw)

ハロウィンまであと1週間。

10月に入ると街角にはかぼちゃの飾りが増え始め、31日のハロウィン当日に向けて盛り上がりを見せる。さまざまな催しがあるが、やはりトリック オア トリートがいちばんハロウィンらしい光景だな、と思う。

子どもたちが近所の家々を訪れてお菓子をもらうトリック オア トリートは、私が暮らすニューハンプシャー州では町ごとに日時が設定される。31日のハロウィン当日に行う町もあれば、直前の週末に行う町もある。時間は夜6時から8時など、子どもたちが暗い夜歩きを楽しめる、ただし遅くなりすぎない時間帯に2時間ほど設定される。トリック オア トリートを行う家は玄関にランプを灯したり、庭にテーブルを出して子どもたちを待つ。玄関先にお菓子を入れたカゴを出しておく家もある。

私の住むアパートの近くに、ハロウィンに全力で取り組む家の集まった一画がある。その静かな住宅街には、無数のカボチャと共に、墓石や骸骨、宙に浮く魔女が出現し、トリック オア トリートの時間になると、住人は玄関先にランプを灯して、お菓子を準備する。そして、普段はほとんど人のいない道路に、子どもたちと付き添いの大人たちがグループになってやってきて、懐中電灯やおもちゃのランプを揺らしながら、あちらこちらと巡っていく。

トリック オア トリートの夜、骸骨や魔女が覗く家々を横目に、夫と私は、いつもの散歩コースをいつもより少しゆっくり歩く。途中、住人たちとあいさつを交わす。子どもたちの訪れを待ちながら、たき火の側でビール片手に隣人と談笑する、大人には大人の楽しみがあるようだ。ときどき、フェアリー、ルーク・スカイウォーカーダース・ベイダー、炭治郎、ミスター・インクレディブル、ヨッシー、レディ・バグ、スパイダーマンティラノサウルスたちとすれ違う。夜の闇、揺れ動く灯り、子どもたちの声。これが私にとってのハロウィンだ。

そして私は、2年前のトリック オア トリートで見かけたある一家のことを思い出す。

最初に目についたのは母親だった。白いコックコートとコック帽を身につけ、全身シェフの格好で、大きな寸胴鍋を抱えている。ここのトリック オア トリートで大人の仮装を見るのは少し珍しい。トリック オア トリートはあくまでも子どもたちのもので、大人が仮装を楽しむのは、パブやレストランが開催するハロウィンパーティや個人が企画するホームパーティだ。

さて、シェフの仮装をした母親の隣を歩くのが父親なのだが、ゴム長靴に撥水加工の作業着という出立ちだ。仮装というには地味だし、普段着にも見えない。なんとも微妙な装いで、小さなカートを引いている。そしてそのカートの中で、辺りを見回し、笑い声を上げているのは、赤いロブスターの仮装をした男の子。

そのとき夫と私は、母親が抱える寸胴鍋の中で、もぞもぞしている何かに気付いた。

ロブスターの格好をした、さらに小さな男の子。寸胴鍋の中の赤いロブスター。

獲ってきて茹でたのか!!!

私たちは、この4人家族が作り上げたストーリーを理解した。

ロブスターはエビと同じで、茹でると暗褐色の体が鮮やかな赤に変わる。父親の仮装はロブスター漁師なのだ。シェフの母親が茹で上げた、真っ赤なロブスターこそ子どもたち。それぞれ父親が引くカート、母親が抱く寸胴鍋の中ではしゃいでいる。

ゆらゆら揺れるハロウィンの灯りの中で、一際輝くロブスター一家は、いろんな人に話しかけられていた。それはそうだろう。なんていったって漁師にシェフにロブスターだ。ロブスターの仮装は珍しくないが、茹でられるまでの過程を見たのは初めてだ。

今年のトリック オア トリートは31日に行われるらしい。ロブスターを超える仮装はあるのだろうか。望み薄とは思いつつ、年に一度の夜を楽しみにしている。

ちなみにお隣のメイン州はロブスターの名産地。

ボストンの観光地でも見かける「ロブスターロール」は、ロブスターの身をこれでもかとパンにはさんだこの地域の名物だ。我が家では年に一度、贅沢をして食べる夏の味。

我が家の茹でロブスター(と神経細胞

Happy Halloween!