だから、どーもくんじゃないってば!『箱男』 (original) (raw)

感想

■嫌な予感はあった。でも、永瀬正敏浅野忠信佐藤浩市という平均年齢が高い(?)ベテラン俳優が揃っているうえに、安部公房の有名小説だから、なんとなく刺激的で面白かろうと踏んだのだが、残念ながら珍作どまりだった。公開初日の第1回上映に駆けつけるなんて、よっぽどの好事家みたいだけど、そうでもない。

■どこまで原作小説に忠実なのか知らないが、だいぶん違うんだろうな。『第四間氷期』はあんなに面白かったからね。石井岳龍(昔の石井聰亙)の作品は、それこそ『ネオ・ウルトラQ』以来で、本作の制作もおなじコギトワークスだ。ある意味、『ネオ・ウルトラQ』のスピンアウトかもしれない。

■端的に言ってお話が面白くならないので、猛烈に眠くなる。真夏のシネコンは死ぬほど寒いので、凍死するレベルだ。寝たら死ぬ。箱男の寓意が像を結ばず、いっこうにお話にサスペンスが駆動しない。最終的に、箱男はなにものかという結論も、まあ意外性がないし、批評性もあるのかこれ?確かに、スコープサイズで始まるのにはビックリしたけど。

■いちばんの見所は箱男のアクションで、日本映画の名優たちが段ボール箱を被って、走ったり、戦ったり。何を見せられているのか、クラクラする。どう見ても、どーもんくんにしか見えないからだ。可愛いけど。だから、一番の見所は、本当は別にある。

■ニセ看護師を演じる白本彩奈が、名優たちを完全に食っているところが、一番の見所で、白本彩奈浅野忠信のシーンだけは、眠気が吹っ飛ぶし、諧謔味も冴えてくる。『燕は戻ってこない』の中村優子がいつものあの調子で普通の刑事を演じていて、その違和感が良いのだが、どことなく白本彩奈と顔立ち(とか肢体)が似てないこともないのは狙いだろうか。白本彩奈はモデル出身なので、当然ながらスタイル抜群で、ヌードも映える。いわゆる人間的な喜怒哀楽を演じるのではないから、オブジェとして演じるわけだけど、映画においては素材の持つ生身の存在感とかが、演技の質を容易に凌駕するメディアなので、佐藤浩市の変態演技を完全に食っている。それが狙いでもあろうけど。ちょっと『濹東綺譚』の墨田ユキを想起したなあ(古い)。げんざい、出演依頼が殺到していることは間違いないだろう。

永瀬正敏に罪はないけど、良いところがないので気に毒になるなあ。でも、そのかわりに(?)白本彩奈を発見することになるので、ベテラン俳優としては、新世代を守り立てることに成功しているとみるべきか。そのため(だけ)に観る価値はある。実際、白本彩奈の”映画映え”は、大したものです。