『あひるのピンのぼうけん』 (original) (raw)

揚子江に暮らすあひるの子のお話

おっとりと伸びやかなあひるの冒険物語。

読み聞かせ目安 高学年 12分

あらすじ

あひるのピンは、お父さんとお母さん、3羽の兄さん、2羽の姉さん、7羽のおじさん、11羽のおばさんと一緒に、揚子江に浮かぶ舟でくらしていました。

毎日お日様が昇ってくると、みんなで1列になって岸に降り立ち、カタツムリや小さい魚を探しにいきます。

夕方になると、

「ラーラーラーラーリー!」

舟のご主人に呼ばれ、舟の家に戻ります。

戻るとき、いちばん最後になってしまうと、ご主人からお尻を鞭でピシッとぶたれます。

ある日の午後のことです。

ご主人の声が響きましたが、ピンはちょうど水の中の魚をとっていて、うっかり最後になってしまいます。

お尻をぶたれるのが嫌なピンは、草むらの中に隠れてしまいました!

ピンはそのまま、草むらで一晩を過ごします。

翌朝、家族のだれもいない川辺で、ピンはいろんなものに出会いました。

大きな舟、小さな船、魚を取る舟、物乞いの舟、人が住んでいる舟、いろんな舟。

金の首輪をした鵜が、魚を取っているところ。

おせんべいを持って川に飛び込んできた男の子。

ピンが、男の子のおせんべいを食べようとすると・・・男の子に捕まって引き上げられ、家族のご飯にされそうに!

すっかり悲しい気持ちでいると・・・男の子が川に放してくれました。

自由の身になったピンが、岸を見ると・・・お父さんやお母さん、おじさんたちが1列になって、とことこ橋を渡っていきます!

ピンは急いで泳ぎ、岸までたどり着きました。

いちばん最後になったけど、もう隠れません。

お尻をぶたれて、舟の家に帰りました。

読んでみて・・・

中国の揚子江(長江)を舞台にした、のどかでゆったりとしたお話です。

洋々と豊かに流れる、中国最長の川揚子江

人も水鳥も、自然の恵みを受けながら、悠々と水上生活を楽しんでいます。

透明感のある、明るいパステルカラーで描かれた絵は、どのページも大河の流れのように、とてもゆったりとしています。

揚子江河口の広々とした川面。

そこに浮かぶ、目の付いた舟船の帆影。

岸に広がるなだらかな山々。

遠景に臨む反り屋根の塔。

男の人の髪型が辮髪なので、清朝末期(19世紀末期~20世紀初頭)ごろなのでしょうか。

ごくあっさりとした、スケッチ風のタッチで描きながら、十分に風俗や風情が伝わってくる美しい絵です。

語り口も、おっとりとのどかです。

語り手は常に、ピンの目線に合わせて、ピンに寄り添ってお話を進めていくので、読む子どもたちはすっと、ピンの気持ちに心を寄せていくことができます。

お尻ぶたれるのを嫌さに、草むらに隠れてしまうピン。

遠ざかっていくお家の舟を見送る心細さ。

ひとりぼっちの寂しさを自覚しながらも、川にもぐったり、魚を捕まえたり、鵜飼を珍しく眺めたりと、好奇心旺盛に出会うもの出会うものひとつひとつに、新鮮な眼差しを向けるのは、幼い子どもそのものです。

川に飛び込んできた男の子との出会いは、びっくりの連続でしたが、どうにか食べられずw、無事帰宅します(結局、お尻はぶたれてしまいましたがww)。

このお話は、いわゆる瀬田貞二いうところの「行って帰る」系のお話で(『幼い子の文学』1980.1.25 中央公論社)、瀬田は「行って帰る」を説明するのに、この『あひるのピンのぼうけん』と同じ作者マージョリー・フラックの『アンガスとあひる』(1974.7.15 福音館書店)を例にあげていますが、

masapn.hatenablog.com

ピンもアンガスと同じで、行って帰るまでのあいだに、さまざまな冒険をして(たとえそれが大人からしてみるとちょっとした経験でも)、ひとつ大人になって、安心できるところへ帰ってくる物語です。

「行って帰る」お話は、同じようなことを日常の生活で、繰り返し経験している子どもたちの身体感覚にすっと馴染み、子ども心を満足させてくれます。

この絵本は、そのようなお話を、変に感情的になることなく淡々と、無駄なくすっきり語り、かつ美しくのどかな絵とともにみせてくれる、本当におっとりと悠々とした満足感のある絵本だなと思いました。

また、この絵本の主人公は「あひるのピン」ですが、その舞台である揚子江も、第二の主人公といっていいほど存在感があるように思います。

悠々と流れる広大な河、揚子江

おっとりとすべてを包み込むようにゆったりと、いつもピンとお話全体を見守っています。

広大で悠久の歴史を持つ中国の、文化や国の本質の一端に、この美しい絵本を通して触れるようです。

子どもたちには、異文化体験とか学習とか肩ひじ張らなくても、このような絵本を通して自然と、隣国の豊かさを、肌で感じて育っていって欲しいなと思います。そうして本質を見極める目を、養っていって欲しいなと感じました。

今回ご紹介した絵本は『あひるのピンのぼうけん』

マージョリー・フラック文 クルト・ヴィ―ゼ絵 間崎ルリ子訳

1994.11.25 瑞雲舎 でした。

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