アメリカはなぜ日本より豊かなのか?(野口悠紀雄) (original) (raw)

アメリカはなぜ日本より豊かなのか?』(野口悠紀雄)(◯)

国民の能力に差がないのに、国の豊かさとなると、なぜこれほどの違いが生じてしまうのか?本書は、アメリカとの比較によって、日本の現在と将来を考える一冊。報酬格差、新しい産業、円安の影響、賃金と物価問題、多様性の容認など気になるテーマが満載です。著者の文章はとても理解しやすく読みやすいので、毎回ストレスなく読めています。また、各章の最後に、章のまとめがあるのも理解が進み助かっています。

(印象に残ったところ・・本書の各章まとめより)

◯第1章より

アメリカは日本より2倍程度豊かと言われるが、専門家の給与格差で見ると、金融専門家の初任給の格差は7.5倍。

◯第2章より

アメリカは、IT産業やAIなど、先端分野になるほど強くなる。これを支えるのは、大学の水準の高さ。これに対して日本は、専門教育をOJTに頼る仕組みから脱却していない。高度人材教育という最も重要な分野において、日本は間違った資源配分を行なっている。

・日本のサービス収支のうち「デジタル赤字」は5兆円を超え、原油輸入量の半分程度。「通信・コンピュータ・情報サービス」で、日本は世界最大の赤字国。

◯第3章より

・2024年の購買力平価は1ドル=90円程度なので、市場レートは、これより大幅に円安。これほど差が開いたのは、1980年代前半以来のこと。円安が日本経済に与える弊害を直視し、長期金利を市場の実践に委ねる必要がある。

◯第4章より

・「賃金と物価の好循環」が日本でも実現しつつあるとの見方が広まっている。しかし、2023年以降の高い賃上げ率は、物価上昇によりもたらされたものであり、労働に対する需要増の結果ではない。

・2024年春闘で、高額回答が続いた。しかし、賃金上昇分が販売価格に転嫁されると、スタグフレーションを誘発する危険性がある。

・実質家計消費支出が減少している。これを補うために、財政支出が膨張している。

◯第5章より

アメリカは他国からの移民を受け入れ、有能な人々が活躍する機会を与えてきた。それらの人々が新しい技術を開発し、新しい経済活動を興してきた。

・覇権国の条件は「寛容」。

◯第6章より

・中国の不動産バブル崩壊が、さまざまな問題を引き起こしている。それだけでなく、物価動向や経済成長率鈍化に見られるように、中国経済全体が落ち込んでいる。

◯第7章より

アメリカへの移民の急増は、社会的な混乱をもたらしているが、同時に、労働力の供給を増やし、インフレを緩和させる効果を持っている。これは、FRBの利下げタイミングに大きな影響を与える。

・第一次トランプ政権は、関税率引き上げなどによって中国に対する貿易戦争を始めた。トランプ政権の対中強硬策の大部分は、バイデン政権によって引き継がれた。

アメリカの強さの源泉は、異質なものに対する寛容なのだが、アメリカは自らそれを放棄しようとしている。

今回のテーマは、アメリカとの差を知ることにより、日本の理解を深めること。金融政策や経済政策、政治のことなど、多岐にわたる要素が絡み合っていると思いますが、それぞれのテーマについて「なぜ?」を考える大切さを感じます。マクロ的なところは、問題意識を持っても、自分が日々できることはミクロ的なことなので、歯痒さを感じる方も多いと思いますが、問題意識は行動を変え、行動は結果を変えるわけで、こうした書籍で考えることで、何かがさらに良い方向へ動き出すきっかけになればと思います。

アメリカはなぜ日本より豊かなのか? (幻冬舎新書)