『舟 北方領土で起きた日本人とロシア人の物語』 by マイケル・ヤング (original) (raw)
舟
北方領土で起きた日本人とロシア人の物語
マイケル・ヤング
樫本真奈美 編・訳
皓星社
2024年6月30日 初版 第1刷発行
図書館の新着本の棚に見つけた。前書きを読むと、どうやら実際の出来事に基づいた、物語、ということの様子。借りて読んでみた。
まえがきにあったのは、著者のマイケル・ヤングが知り合ったアンンドレイ・ラクーノフ(ウラジオストック出身)のお母さんが、子どものときに海岸沖で遭難した時、日本に強制送還されるはずの日本人に助けられた、という史実。アンドレイは、母に、この日本人を探すと誓い、何度も北海道を訪れたけれど、実際には会うことはできなかったという。そして、話をきいたマイケルは、この物語を、「領土」の話ではなく、ひとりの人間の運命と人生における決断の物語ととらえ、脚本を書いて、映画にしようと考えた。しかし、2024年1月の時点でもつづいていた北方領土に関する微妙な政治状況から、まずは本にした、ということ。
著者のマイケル・ヤングは、 2008年までのノヴォシビルスク( ロシア)のテレビ局で番組のプロデューサー、 ディレクター 、編集者として勤務。 2009年から 脚本家 映画 プロデューサーとして活躍。
編・訳の樫本真奈美さんは、 神戸市外国語大学ロシア学科博士課程満期終了、 現在は 同志社大学講師。
目次
まえがき
舟 北方領土で起きた日本人とロシア人の物語
1992年 極東ロシア
志発島(しぼつとう)(歯舞群島)にて
北海道 根室、現代
元島民たちの記憶とその子孫の声
ガリーナ・ニキーチチナ・ラーピナさん(1938年生まれ)の体験
志発島 元島民の木村芳勝さん(1934年生まれ)の体験
曾祖母、祖父の島、「シボツトウ」をと私の血をめぐる旅 山田淳子
解説 樫本真奈美
北方四島関連年表
訳者あとがき
感想。
うるるるるる・・・・。
涙無くしては読めない・・・・。
物語は、史実に基づきつつも、登場人物名や、周辺での出来事はフィクションなのだろう。ロシア人の子どもたちのために、命をかけて海に出た日本人。なぜなら、そのロシア人の女の子を、自分の息子が好きなことを知っていたから。。。
物語の舞台は、**歯舞群島の志発島**。1947年のこと。当時、歯舞群島には日本人が大勢住んでいた。本書のうしろにある解説に江戸時代から戦後にかけての日本とロシアとの間の出来事が書かれている。終戦後も、日本に戻ることができず、あるいは、自分たちの土地である北方四島を離れることなく、暮らし続けた日本人たちがいた。が、そこに、ロシア人たちがやってくる。シベリア送りになった日本人もいれば、ロシア人と共生するようになった地域もあった。その一つが、志発島だった。
以下、ネタバレあり。
物語の登場人物、内山勇夫は、おそらく8歳とか9歳くらい。小学校低学年くらいの想定だと思われる。そして、ロシア人同級生カーチャと仲良し。勇夫は、日本の侍の話をカーチャにきかせ、手作りの人形をカーチャにあげた。日本人は、設備のととのった舟をロシア人に採られてしまったので、簡易な船体にエンジンを乗せたポンポン船をつかって、漁をしていた。勇夫の父、浩は、かつてスナイパーだったというロシア人ステパンを舟に乗せ、舟のこぎ方や釣りをおしえてやっていた。
そうして、島ではロシア人と日本人が平和に共生していたのだが、ある時、ロシアの舟が沖に表れ、即刻日本人は荷物をまとめよ、という。日本への帰還だといいつつ、強制的に島から追い出す計画だった。
そして、その強制帰国の日、海は荒れ始める。子どもたちも大人たちも、それぞれにロシア人と日本人との間で別れを惜しむ。勇夫もカーチャとの別れを惜しむ。
そして、カーチャとロシア人の友人たちは、勇夫と別れた後、陸を歩いて家に帰るのではなく、浜で見つけた箱舟で楽して帰ることを思いつく。ところが、その舟は、陸を離れて、どんどん嵐の気配の海に流されていってしまう。
帰宅しないカーチャたちを心配した親たちは、子どもを探す。日本人にも尋ねる。みんな、日本語とロシア語と、片言ながら賢明に情報を交換する。カーチャたちと別れた場所にもどった勇夫と浩は、カーチャの飼い犬が箱舟があったあたりで吠えるのをみて、子どもたちが舟にのったことを悟る。
だれかが、子どもたちを助けに行かねば!
日本人は、あと数時間で出航する船に乗らなければ、二度と日本に戻ることはできない。勇夫の家族も、母と妹と全員荷造りをして舟に乗る準備をしていた。とうぜん、父の浩も。
だが、子どもたちを助け出すのに必要な船を漕げるのは、浩しかいなかった。ステパンは、まだ上手に波に乗ることができない。しかも、この嵐の海。このままでは子どもたちの乗った船は、岩礁へ流され、木っ端みじんになることは避けられない。なんとか、追わなくては。なんとか、助けなければ。
浩は、決心する。
「男には、決心しなくてはいけないときがある。」
妻の喜美子も、浩の決心を理解する。勇夫が好きになった少女の命が危ない。勇夫にはそうは説明しなかったが、母もそれを理解していた。
息子の大事なものを、父が守る。
そして、浩はステパン、そしてカーチャの父ニコライらとともに舟にのり、子どもたちの箱舟を探しに海に出る。
日本人たちをのせた舟は、浩を待たずに出航していく。
箱舟の上で子どもたちは、必死に、転覆しまいとみんなで助け合っていた。波にもまれ、どんどん入ってくる水を、一生懸命かき出し、きっと、父さんたちが助けに来てくれると信じて、、、。
暗く厚い雲のなか、元スナイパーのステパンが、白い点を見つける。子どもの服かもしれない!必死に、その白い点を追うステパン。
そして、浩はステパンの示す方向へ舟を進める。
いた!子どもたちの姿が!!
子どもたちは、波と必死に戦っていた。
「カーチャ!」ニコライが叫ぶ。
「パパ!パパ!助けに来てくれると思っていたわ!」
と、子どもたちは全員、無事に助けられ、大人たちの船に救出される。そして、浩たちの船は、なんと、日本人たちを乗せ、北海道にむかっていたはずの貨物船も発見。
浩は、無事に、勇夫たちのいる貨物船に合流し、家族の再会を果たす。
物語は、最後に、ロシア人の男が老人となった勇夫を釧路に訪ねてくる場面でおわる。
と、この勇夫とカーチャ、浩と喜美子、ステパンたちだけでなく、他にも日本人とロシア人の愛、そして別れの話が入り混じる。
助け合った人たち。
人生で大事なことは、何なのか。
ふと手にした本だけれど、感動の物語だった。
最後、浩は勇夫たちと二度と会えないのか、、、とおもったけれど、日本人家族も再会を果たし、一応、ハッピーエンド。
嵐の中で、ステパンが目にした「白」は、実は勇夫たちがよく観察していた真っ白カモメだったのだ。子供達も、嵐の中で、その白いカモメを目にしていた。スナイパーとして鍛えていたステパンの人並外れた視力が、子供たちを救った。
本のうしろの、人びとの証言禄も、興味深い。北方四島が、いかにしてロシア人が占拠したのか、、、、。歴史の証言者の言葉は、重い。
物語として、感動の物語であり、背景にある暗い過去を忘れてはいけない、ということも思い起こさせてくれる一冊。翻訳も読みやすく、なかなか、読み応えのある一冊だった。
読書は、楽しい。