渋滞の夜 (original) (raw)

金曜日の夜、国道一号線横浜市戸塚区付近ではひどい渋滞が起きていました。三連休前の金曜の夜だから、伊豆や箱根やもっと西へと旅に出る人たちの車と、会社から帰宅する車と、業務で商品などを運搬している大型中型に軽も混じったトラックで、渋滞が起きているんだなと思いながら、Spotifyポッドキャスト番組オーバー・ザ・サンを聞き、それも聞き終えてしまったので、そのあとはチック・コリアを選んで流していました。あのカモメのジャケットのリターン・トゥ・フォーエバーにラ・フィエスタというとても美しいメロディの明るい有名曲がありますが、リターン・トゥ・フォーエバー以外にも、いろんな年代に、いろんな方と組んだ、ラ・フィエスタの演奏があるのですねえ。編曲はもしかすると色あせても、人の心に訴える力があるメロディって、いつ聞いても色あせないのがいいですね。国道沿いの上には住宅地がある切通しの崖の、細い歩道でずっと立ち止まってスマホを操作している男、その横を夜のウォーキングで早い足取りで通り過ぎる人。夜になっても運転席のメインパネルに表示されている外気温は32℃です。動かないカーエアコンで涼しく居心地の良い車の中からそんな外の様子を見ていると、ガラス一枚向こうの外のことが映画の中のように見えました。残暑の夜に車が激しく行き交う国道沿いの崖の下の歩道で、人が交差して、なにかの物語が生まれるかもしれない。その予兆をはらんだ感じがするのでした。

このあと、たまにノロノロと進んで一キロほど行くと、左車線に車線を塞ぐように真横に向いてノーズを車道と歩道を分けるガードにぶつけた外車のSUVが停まっていて、ミニパトでやって来た二人の警察官がなにやら調べていました。すなわち渋滞の原因は三連休前の人の移動の重なりではなく、事故渋滞だったのですね。事故渋滞を通り抜けてサーっと前が開けて車が走り始めるときの運転って、赤信号の先頭で停められて、青になり走り出したときにしばらく前方が遠くまで空いているときの運転と、なんだか微妙に気分が違うのは私だけでしょうか?なんだろう、やっと課題をやり終えたとかテスト期間が終わったという解放感に似た気持ちを覚えるのです。そういうもん?

昨日9/21の土曜の夜に、NHKのBSだったのかな、小津安二郎の番組をやっていました。ETV特集だったかな、再放送かもしれません。山田洋次監督とヴィム・ベンダース監督の話が面白かった。山田監督は小津映画が描いている日本の50-60年代の家族の在り方は極めて日本的なことで世界には通用しないと思っていたのだが80年代に世界で注目され始めて驚いた、あそこで描かれるような家族の在り方は世界でも同様の悩みがあり共感を呼んだんだ、というようなことを言っていましたね。ベンダースも世界共通の家族愛が描かれている、もしいまの時代に小津がいたら、60年代の世の中ではなくなった現代を背景にして、2020年代同時代の家族を描くだろう、と。

また、小津が定宿にしていた茅ヶ崎館を訪ねて、小津が長期滞在の際に使った部屋で話をした周防監督は、小津のどの一本が好きかというような話からは程遠い感じで、全ての作品が一緒になってどれであっても小津なんだ、と話していました。私は観た回数でいえば、早春と浮草が多くて、これはなんのことはない、録画してあったDVDのこの二枚が、部屋のなかで整理のたびにどこ行ったかなあ?あの東京物語は・・・とならずに、たまたますぐ手に取るところにあったというだけです。でも浮草のラストの旅に出て行く感じはとくに好きだけど。お早うはこれは録画したのではなく購入したDVDを持っています、カラー映画ですが、色の使い方がすごく美しい。小津はすべての場面を脚本完成と同時に頭のなかで作り上げていて、その通りに頭の中から作品へと移していくそうで、例えば繁華街のネオンサインなども全部自分でデザインしているのですねえ。だからお早うの子どもたちの着ているセーターの色から家の中に置かれている電化製品や家具の形も色もみな小津の頭の中に描かれたスケッチを再現しているんでしょう。