【踊る大捜査線】事件は後編にほぼ丸投げ、警察を辞めて被害者・加害者家族と暮らす『室井慎次 敗れざる者』ネタバレ感想 (original) (raw)

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『室井慎次 敗れざる者』を観た。

本作は『踊る大捜査線』シリーズ12年ぶりのスピンオフ作品。正直、今年の3月に『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』の公式アカウントに謎のカウントダウンが投稿された際には「ついに青島復活か!」と期待を高めた反面、『室井慎次』最新作だったと判明した時のガッカリ感は凄まじかった。おそらく余程の熱心なシリーズファンか室井さんファンでない限り、この感情は多かれ少なかれ共有されているものだと感じる。しかも「スピンオフ」なのに「二部作」という謎に強気な公開スタイルにも若干困惑した。公開前にはテレビドラマの再放送や劇場版の地上波放送など、フジテレビがかなり力を入れてることもあって、『踊る』への熱は再燃し始めてもいたが、それでも「室井さんか…」感は否めなかった。

佐野 象徴的なのは、TVシリーズ初期における柏木雪乃(水野美紀)のエピソード。意外と忘れられがちなんだけれど、「踊る」の初期をあらためて観直してみると、青島の存在以上に、父親を殺されて心に深い傷を負った柏木雪乃をいかに救済するかということが、物語上の大きな推進力になっているんですね。そして、これは「踊る」に限らず、君塚さんの作品にずっと通底しているテーマなんですよ。

速水 『THE FINAL』の犯人の動機は、まさにそこでしたよね。

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ただ本作の「警察を退職した室井さんが秋田に帰って、被害者・加害者家族の里親をしている」という設定が『踊る』の根底に流れるテーマと一致していることに気づいた時は「もしかしたら」みたいな期待もあった。というのも、『踊る』の青島と室井の最初の対立は父親を殺されて傷ついていた柏木を巡っての対応だった。そしてシリーズのラストの警察の腐敗を告発する事件を起こした犯人の動機も「被害者家族」故だった。こうなると室井さんが警察退職後に被害者家族の里親をしていることはシリーズの根底に流れるテーマの中の必然性があるし、シリーズ最大のヴィランでもある日向真奈美の娘・杏とも同居するとなると、「被害者家族だけでなく加害者家族とはどう向き合うのか」という「根底にあるテーマのその先」まで見据える設定で「なるほど、そう来たか」感があった。

ただ実際に作品を観てみると、これらのテーマの描き方も、一本の映画としても何とも言えない微妙な感じだった。まず被害者家族の話としては、室井さんは母親をヤクザに殺された男子高校生・タカの面倒を見ている設定だが、殺人容疑で逮捕されたヤクザは暴行は認めるも殺意は否認していて、新人の女性弁護士を通じて謝罪の手紙が送られてきているものの、タカは封すら開けていない状況。この謝罪の手紙は罪を少しでも軽くして自分の実績にしたい新人女性弁護士による被害者家族であるタカから同情の証言を得るための作戦だったが、それを見抜いた室井さんはタカとヤクザの容疑者の面会の際の女性弁護士の同席を拒否。室井さんとタカは2人で母親を殺したヤクザと面会するのだが、このヤクザが「本当に新人女性弁護士と被害者家族から同情を得よう作戦を敢行しようと謝罪の手紙を書いたヤツなのか?」と疑問に思うほど最初から舐めた態度で登場。「一体、新人女性弁護士はこのヤクザにどういう説明していたのか、そしてこのヤクザは少しでも罪を軽くしようという気持ちはないのか」とモヤモヤして観ていると、タカは「自分はヤクザと一緒に住んでいたこともあるけど、そいつは母親に暴力を振るう癖にお酒を飲むと弱音ばかり吐いていた!お前らの正体を自分は知ってるんだ!」と啖呵を切って、良い感じの音楽を流れ出すことで「タカの成長」を描いているつもりのようだが、物凄いレッテル貼でしかない。せめて容疑者のヤクザももうちょっと最初は「反省している感」を演出するとかしないと、それまでの流れとの繋がり的に変だし、タクが成長のために乗り越える悪としてもハリボテ過ぎて雑に感じた。

また「杏の登場によって、それまで信頼関係のあった室井さん一家に不協和音が生じる」という展開自体は「母親と同じで他人の心理を操る力があるのか!?」と繋がりを感じられるの込みで面白かったし、杏を演じる福本莉子の演技は表面上は「純粋で前向きな可愛い女の子」の顔をしていながら、小泉今日子が演じた日向真奈美の不気味さもシッカリとトレースしていて、とても魅惑的で見応えもあった。上映時間中の大半はかなりスローペースに感じたが、杏が登場しているシーンでは緊張感を持って楽しく観ることが出来た。ただ杏の登場によって室井さんに不信感を抱いていく小学生のリクが、ラスト手前の秘密基地の会話の前から、いつの間にか室井さんへの信頼を取り戻していて、普通にスキンシップとか取っていたりしたのは「?」という感じだった。

『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』を想起させる「洋ナシ」の事件に関しては後編にほぼ丸投げで、前編はテレビドラマの第1話を見せられている感じで、一本の映画の満足度としてはかなり低い。過去映像を引用しまくるのも最初はテンション上がったけど、殆ど物語が前に進まない状態でエンドロールまで来ると「なんだかなあ…」と萎え要素になってしまっていた。後編も一応観に行くつもりだが、かなり腰は重くなっている。

「レインボーブリッジを封鎖したあの…」「封鎖できなかったが…」みたいなやり取り何回もあったけど、室井さん的には現場の判断で強引に封鎖しただけで、自分のリーダーシップで犯人確保前に封鎖出来なかった、という認識なのだろうか… ただ「現場の判断に任せる」みたいな命令を出してたし、封鎖した責任の所在の話もしてたし、そこら辺どういう認識を持っているのかよく分からない

「社会から用無しだから洋ナシって当時から滑ってたの?」「まあまあな」「何の話してるの?」は自虐ネタなのだろうか…

何だかんだで青島の話をしているところは楽しかったので、やっぱり青島に帰ってきて欲しい

青島の現在の所属場所の警視庁捜査支援分析センターは防犯カメラの映像分析とかをするところらしいので、劇場版2作目との繋がりもあるし、前編で設置されてた防犯カメラが後編で…、的な期待もしてしまう

過去作の映像の挟み込み方は『マトリックス レザレクションズ』を思い出す ただ中盤の過去作映像の引用が冒頭と違って黒縁になってないのは統一感がなくてちょっとだけ気になった

『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』の地上波放送と最新作の重要シーンを見て思ったけど、杏は母親と同じくオムライスとかで子供たちの心を掴もうとしてたんだね…

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