【小説】『文庫旅館で待つ本は』名取佐和子さん ~本好きにはたまらない旅館~ (original) (raw)
『金曜日の本屋さん』シリーズ、『図書室のはこぶね』など、
本にまつわる小説を多く書かれている名取佐和子さん。
そんな名取さんが描く「文庫を併設する旅館」のお話。面白くないわけがない!
というわけで読んでみたら、案の定、本好きの心を揺さぶられまくりました。
今回は『文庫旅館で待つ本は』のあらすじとおすすめポイントをご紹介します。
こんな人におすすめ
「文庫旅館」という言葉にわくわくする方
古書にロマンを感じる方
自分の性格や行動に嫌気がさしている方
あらすじ
「凧屋旅館」には、昭和初期(戦前)の古書を豊富に揃えた文庫が併設されている。
旅館の若女将・円(まどか)は、特別な嗅覚で、宿泊客と同じ”匂い”のする本を選び出し、
「本が読めないわたしの代わりに読んでほしい。そしてその内容を教えてほしい」とお願いする。
宿を訪れるのは、
・プロポーズを控えた友人カップルと一緒にやってきた男性
・すっかり関係が冷え切ってしまった夫婦
・目に見えないものが見える息子と、その母
・塾講師のアルバイトをしている大学生と、その教え子(中学生)4人組
円は、彼らにどんな本をすすめるのか?
本を読んだ彼らは、どんなことを感じるのか?
全5章で構成される連作短編。
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おすすめポイント
紹介された本を読んで、文庫旅館に行った気になれる
「古書を豊富に携えた旅館」というワードだけでロマンを感じます。
そしてその旅館には、自分にぴったりの本を選んでくれる若女将がいる!
行ってみたい!!
紹介される本は実在するものばかりで、青空文庫で無料で読めるものもあります。
一緒に読めば、登場人物の気持ちを追体験できるかもしれません。
円の言葉に救われる
円が本を手渡す相手は、みんな表に出せない思いを抱えている人。
彼らは本を読むことで自分の内面と向きあい、
円に感想を話すことで、自分の気持ちを吐き出していきます。
それは必ずしも良い感情とは限らず、嫌な感情や世間の”常識”とされている価値観からは外れるものだったりもします。
けれど、彼らに対して円がかける言葉は、読み手である私たちの気持ちも浄化してくれる救いの言葉。
登場人物にリンクする部分が多い人ほど、気持ちが楽になれると思います。
「本を読む」ことの喜びを感じられる
人はなぜ本を読むのか?その答えの一つが、この本の中に書かれている気がします。
「祖母は小説が好きでした。元気な頃は、本が読めないわたしのために、よく読み聞かせてくれました。一度どうして小説を読むのか尋ねたら、祖母はこう答えたんです」
―作り話のなかにときどき覗く"本当"を探してるの。
名取佐和子 『文庫旅館で待つ本は』 筑摩書房, 2023, 134ページ
この祖母の言葉に、「まさにその通りだ!」と膝を打ちました。
小説は、実際にはない空想の世界のお話だけど、
そこには同時に、色んな人の気持ちや心の動きが書かれています。
そして、登場人物に共感したり、あるいは反感を持ったりする自分の気持ちは、
間違いなく本物です。
日常では表出しない自分の気持ちに気付けることって、小説を読む醍醐味ですよね。
まとめ
本好きにはたまらない旅館のお話を紹介しました。
第1章から第4章までは、一話完結の短編ですが、
第5章では、それまでの全ての章のお話が、厚みを増して迫ってきます。
ぜひその感動を体験してください!
この本もおすすめ!
◆こころ(夏目漱石)
『文庫旅館で待つ本は』の主軸となるのが、このお話。
『こころ』のあらすじだけでも知っておくと、ますます『文庫旅館~』が楽しめると思います。
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◆本を守ろうとする猫の話(夏川草介)
高校生の林太郎は、祖父の営む古書店の奥で、人間の言葉を話す猫と出会う。
猫は、本を守るために林太郎の力を借りたいという。
人は何のために本を読むのかを考えさせられるお話。
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鎌倉にある古本屋「ビブリア古書堂」で働く店主・栞子。
人付き合いが苦手な彼女だが、古書のことになると様子は一変。
喜々として、膨大な量の知識を披露する。
古書のロマンを感じるミステリーシリーズ。
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